トピックス 「製薬協メディアフォーラム」を開催 ~薬剤耐性(AMR)の現状並びにこの課題に対処するための新規抗菌薬の必要性~

印刷用PDF

薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、AMR)菌に効果を有する新規抗菌薬の開発を促進するために、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会は、AMRにかかわる諸問題と対策について国民のみなさんに広くご理解をいただくための活動に取り組んでいます。2022年4月19日に「薬剤耐性(AMR)の現状並びにこの課題に対処するための新規抗菌薬の必要性」をテーマに、日本橋ライフサイエンスハブ(東京都中央区)にて「製薬協メディアフォーラム」を開催しました。当日は会場とオンラインのハイブリット形式で開催し、18社24名の記者の方々にご参加いただきました。

会場の様子

本フォーラムでは、感染症が専門の国立国際医療研究センター病院の大曲貴夫氏、血液悪性腫瘍および感染症が専門の国立がん研究センター東病院の冲中敬二氏から講演があり、加えて製薬協国際委員会から、AMRに関する医師への調査結果の取りまとめについて中野今日子委員、日本と欧米の抗菌薬開発状況の取りまとめについて湯淺晃委員より発表がありました。

講演後のQ&Aセッションでは活発な質疑応答が行われ、本フォーラムを通じてAMRの脅威と、その対策である新規抗菌薬の研究開発の必要性に関して、メディアの方々の理解を深めていただく機会となりました。

■講演1

薬剤耐性(AMR)問題の現状分析

国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 大曲 貴夫 氏                     

本講演では、世界と日本におけるAMRの動向に関する最新のデータが紹介されました。特に、2022年に公表された著名な医学雑誌Lancetの論文では、2019年に世界で127万人がAMRによって死亡していたことが示され、サイレントパンデミックとも呼ばれるAMRが着実に広がっているとの指摘がありました(図1)。

国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター 大曲 貴夫 氏

図1 2019年世界で127万人の死亡数と報告
図1 2019年世界で127万人の死亡数と報告

また、日本の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が発出されてから5年が経過しました。抗菌薬の使用量は経年的に減少しており、一定の成果は認められつつも、フルオロキノロン耐性や、第3世代セファロスポリンに耐性を有する大腸菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌等の状況は、依然として改善されていないことが示されました。

AMR問題の解決には、抗菌薬の不必要な使用の減少、新規作用機序の抗菌薬、ワクチン接種による予防、感染症の予防に全般的に有効な手段(例:マスクの着用)等、多面的な対応が求められると指摘がありました(図2)。

図2 大腸菌のフルオロキノロン耐性、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性への対応

昨今のCOVID-19の感染拡大は、医療のあり方そのものを揺さぶっています。AMRも同様に有効な対処方法が乏しく、医療に影響が生じる問題であることが指摘されています。講演を通じて、AMR問題は社会全体の課題であり、社会の認知度や理解を深める取り組みが必須であることが改めて認識できました。

■講演2

薬剤耐性(AMR)によって深刻な影響を受けるがん診療とその対策

国立がん研究センター東病院 感染症科、同中央病院 造血幹細胞移植科(併任) 冲中 敬二 氏          

がんは日本人の2人に1人が生涯のうちに罹患するとされる身近な病気であり、近年その診療は目覚ましい進歩を遂げています。一方で、治療中に感染症が問題となるがん患者さんも多く、がん医療において、細菌感染の予防や治療のための抗菌薬は不可欠であることが紹介されました。

国立がん研究センター東病院 感染症科、同中央病院 造血幹細胞移植科(併任) 冲中 敬二 氏

がんそのものや、抗がん剤治療による免疫力の低下等により、がん患者さんは重篤な感染症のリスクが高いことが指摘されています。AMRによる感染症は、抗菌薬治療の失敗につながり、感染症による死亡を増加させます。さらに、がん治療の中止や延期、医療費の増加等のさまざまな副次的問題を引き起こすことが示されました(図3)。

図3 がん患者と感染症

また、より安全な抗がん剤治療のために、これまで抗菌薬の予防投与が推奨されてきましたが、近年AMRによって、その効果が落ちているという報告がありました。これにより、抗菌薬の予防投与をやめざるを得ない症例も出ており、欧州では一律の予防投与は控える指導がされているとのことでした(図4)。

図4 抗菌薬予防投与推奨内容

がん診療に代表される現代の医療において、抗菌薬は不可欠です。本講演によって、AMRによるがん診療への影響は憂慮すべき段階にあり、がん診療の安全性が脅かされている現状が共有されました。

■講演3

薬剤耐性(AMR)に関する医師への調査結果

製薬協 国際委員会 中野 今日子 委員                                   

日常診療においてAMRが与える影響や、有効な抗菌薬が無いことにより実際に起きている影響を確認するため、製薬協は、医師を対象とした実態調査を行いました。本調査から、抗菌薬がさまざまな場面で使用されていることが再確認されるとともに、感染症の専門医のみならず、多くの診療科の医師がAMR問題に直面していること、また、そのAMRによる影響が、治療期間や入院期間の延長等、当該患者さんのみならずほかの患者さんへも多様に及ぶことが明らかとなりました(図5)。

製薬協 国際委員会 中野 今日子 委員

図5 AMRは様々な影響を及ぼしている

これらの情報が広く国民に適切に発信されることで、AMRの問題や抗菌薬の必要性が国民に我がこととして認識され、産学官によるAMR対策への取り組みを後押しする機運が、さらに高まることを期待しています。

■講演4

日本と欧米の抗菌薬開発の状況と課題

製薬協 国際委員会 湯淺 晃 委員                                    

本講演では、日本の新規抗菌薬の承認数は鈍化しており、かつ現在開発中の抗菌薬も、欧米より少ないことが示されました。また、日本と欧米の間には、他国では承認されているが「日本では未承認」、もしくは日本で承認されているが「承認されるまでの期間が他国より長い」という2種類のドラッグ・ラグが存在するとの指摘がありました(図6)。

製薬協 国際委員会 湯淺 晃 委員

図6 日本と欧米における新規抗菌薬の開発状況、日本で開発履歴が認められなかった51品の欧米における開発状況

新規抗菌薬の開発が困難な理由として、抗菌薬事業の予見性の低さに関する問題が提起され、収益性の乏しい抗菌薬開発に対する経済的な支援方法の一つして、「プル型インセンティブ」の紹介がありました。日本においてもプル型インセンティブの必要性に関する提言が公開されており、議論がさらに進展することが望まれています。また、新規抗菌薬の開発にかかる費用や経済的なインセンティブに必要な財源に対しては、「コストではなく、国の安全保障にかかわる投資として考える視点が求められる」と述べました。

最後に

今回のセミナーによって、世界と日本のAMRの現状、現代の医療を支える基盤である抗菌薬がAMRによって脅かされている点、問題解決の手段の一つとして、新規抗菌薬の創出が必要であるが創薬の難しさや事業予見性の課題を含む点等、AMRが有する諸問題に対する社会の理解が促進され、よりいっそう対策が進むことを期待しています。

AMRは、産学官が連携して取り組むべき課題であり、製薬協は、新たな知見も積極的に取り入れながら、今後もAMRの問題の解決に向けてさまざまな活動を進めていきます。

(国際委員会 グローバルヘルス部会 渡辺 剛史

このページをシェア

TOP