政策研のページ 介護系データから見た高齢者の健康状況 —健康寿命の補完的指標による分析—

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次世代ヘルスケアの重要目標の一つは「健康寿命の延伸」にあり、その主役の一人は高齢者です。健康寿命の延伸を考えるうえでは、高齢者の健康状況を把握することが重要です。政策研ニュースNo.65※1において、介護系データをもとに、高齢者の健康状況を経年的・年齢階級別に把握し、健康を損なう主な原因疾患を検討しました。また、原因疾患に対する薬剤の貢献を考察することを目的に研究を進めました。本稿ではその内容を抜粋して紹介いたします。

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    医薬産業政策研究所「介護系データから見た高齢者の健康状況 —健康寿命の補完的指標による分析—」政策研ニュース No.65(2022年3月)

1. 介護系データによる健康状態の把握と健康寿命の関係

介護系データをもとに高齢者の健康状況を把握することは、高齢者における健康寿命の状況を把握することと深く関係しています。健康寿命とは、「ある健康状態で生活することが期待される平均期間」を表す指標です。健康寿命には複数の種類があります※2が、算出するうえでの課題は、「健康・不健康」をいかに定義するかとの概念規定と健康寿命の算出方法にあります。我が国においては、「日常生活に制限がない・ある」で「健康・不健康」を定義し、3年ごとに厚生労働省により実施される国民生活基礎調査で得られたデータをもとに、サリバン法※3により算出されています。より具体的には、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対し、「ない」という回答を「健康」とし、「ある」という回答を「不健康」と定義しています。つまり、「日常生活に制限のない期間の平均」が健康寿命の主指標となっています※4。

「健康」とは非常に幅広い概念です。単に傷病の有無のみで判断することは不適切であり、身体的には良好であったとしても、精神的、社会的に良好でなければ、「健康」とは言い難いと思われます。この点で、現行指標である「日常生活に制限のない期間の平均」は、単に身体的要素にとどまらず、精神的要素・社会的要素も一定程度広く包括的に表しているとされ、現在活用可能な健康寿命の指標の中で最も妥当であると考えられています。しかしながら、国民生活基礎調査が3年ごとの実施である等の課題があるため、補完的指標が検討されており、介護保険データを活用した「日常生活動作が自立している期間の平均」が補完的指標として最も妥当と考えられています。より具体的には、要介護区分(表1)において「要介護1以下」を「健康」とし、「要介護2以上」を「不健康」と定義しています※5。

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    尾島俊之 健康寿命の算定方法と日本の健康寿命の現状 心臓 2015年47巻1号 p. 4-8
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    サリバン法:毎年必ず10万名が誕生する状況を仮定し、そこに年齢別の死亡率と、年齢別の「健康・不健康」の割合を与えることで、「健康状態にある生存期間の合計値(健康な人の定常人口)」を求め、これを10万で除して健康寿命を求める。

表1 要介護区分の目安
出典:公益財団法人長寿科学振興財団 介護保険の介護度とは※6
出所:上記データより医薬産業政策研究所にて作成

これらの知見をもとに、比較的アクセスが容易な介護系データを活用することで、高齢者等の健康状態の検討を進めました。つまり、別の意味では高齢者等の健康寿命の状況把握にも通じる部分があります。しかし、現行指標とは異なり、介護系データを活用した補完的指標は、主に身体的要素を反映していることには注意が必要です。

2. 健康寿命の補完的指標でみた高齢者の状況

健康寿命の補完的指標において「不健康」と定義される「要介護2以上」の認定数に基づいて高齢者の状況を検討しました。介護系データとしては介護保険事業状況報告(年報)※7を使用しています。同報告は市区町村(広域連合および一部事務組合を含む)を対象に毎年実施されており、2000年度から2019年度のデータにアクセス可能です(2022年1月現在)。図1に第1号被保険者(65歳以上の方)の「要介護2以上認定数」の年次推移をa.前期高齢者(65~74歳)とb.後期高齢者(75歳以上)の2群に区分して示します。結果として、前期高齢者(65~74歳)では、2014年度に最多(約36.70万名)となった後に横ばいもしくは緩やかに減少し、2019年度では約35.74万名となり、2014年度から3.4%減となりました。後期高齢者(75歳以上)では、ほぼ年次とともに増大し、2019年度に最多(約302.36万名)となりました。

図1 要介護2以上認定数の年次推移
a 第1号被保険者(前期高齢者:65~74歳)

b 第1号被保険者(後期高齢者:75歳以上)
画像(表・図用)下部中央に注釈
出典:介護保険事業状況報告(年報)※7
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

「要介護2以上認定数」はそれぞれ異なる傾向が見られましたが、年次ごとの人口数は変動しています。よって、人口数の変動を調整する目的で、各群の年齢に該当する年次推計人口で要介護2以上認定数を除した「要介護2以上の対人口認定割合」を検討しました。人口数のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)に掲載されている人口推計(各年10月1日現在人口)※8を用いました。結果を図2に示します。

図2 要介護2以上認定数・対人口認定割合の年次推移
a 第1号被保険者(前期高齢者:65~74歳)

b 第1号被保険者(後期高齢者:75歳以上)
出典:介護保険事業状況報告(年報)※7、人口推計※8
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

結果として、「要介護2以上対人口認定割合」の推移は、「要介護2以上認定数」の推移とは傾向が異なることが明らかになりました。第1号被保険者(前期高齢者)では、「要介護2以上対人口認定割合」は2007年度に最多(約2.415%)となった後に緩やかに減少し、2019年では約2.054%となり、2007年度から約14.9%減少していました。前期高齢者では、「要介護2以上認定数」の推移と比し減少傾向がより鮮明となりました。第1号被保険者(後期高齢者)では、「要介護2以上対人口認定割合」は、2014年度に最多(約17.115%)を示した後に横ばいもしくは緩やかに減少し、2019年では約16.352%となり、2014年度から約4.5%減少していました。後期高齢者では、「要介護2以上認定数」は年次とともに拡大していましたが、2014年度以降の「要介護2以上対人口認定割合」は横ばいもしくは緩やかな減少傾向を示しました。

近年、高齢化率(65歳以上人口割合)は上昇を続けており、「要介護2以上認定数」(つまり補完的指標で見た健康寿命の状況)については、該当人口数に起因するものと、健康状況に起因するものを区分して考察する必要があると思われます。今般の「要介護2以上対人口認定割合」に着目した検討では、前期高齢者の健康状況は良い方向に向かっており、後期高齢者の健康状況も維持もしくは改善の傾向にある可能性が示唆されました。少なくとも、高齢者を一律に捉えることなく、年齢階級別に区分して検討することの重要性を支持する結果となりました。

3. 介護が必要となった主な原因

介護が必要となった主な原因は、国民生活基礎調査※9のデータに基づいて検討しました。国民生活基礎調査は、厚生労働省により保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項の調査等を目的に、3年ごとに実施されており、直近では2019年度の調査結果が公開されています※10。本調査の介護票データには、「介護※11が必要となった主な原因」として、代表的疾患等※12が介護を要する者10万名当たりの数として年齢階級別に示されています。各原因の重みをより明確に把握するために構成比も検討しました。

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    「介護が必要になった主な原因」における介護は、要介護・要支援の全体を意味している。
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    介護票に掲載された代表的疾患は以下の通りである:脳血管疾患(脳卒中)、心疾患(心臓病)、悪性新生物(がん)、呼吸器疾患、認知症、関節疾患(リウマチ等)、パーキンソン病、糖尿病、視覚・聴覚障害、骨折・転倒、脊髄損傷、高齢による衰弱

第1号被保険者(前期高齢者)に該当する65~74歳において、介護が必要となった主な原因の状況を図3に示します。介護が必要となった主な原因の数(その他疾患を含む)は、2004年に最多(1万7545名)となった後は減少傾向を示し、2019年には1万383名となりました(図3-a)。また、構成比で見た場合、脳血管疾患(脳卒中)が約40%、関節疾患(リウマチ等)が約10%と割合が高く、以下、2019年では糖尿病、骨折・転倒、悪性新生物(がん)、認知症、パーキンソン病が約7~6%程度でほぼ並列的な割合を示しました(図3-b)。特に、脳血管疾患(脳卒中)の原因数は、経年的に減少傾向を示しましたが、近年は下げ止まり傾向が散見されました。構成比は40%前後で横ばい状況を示し、脳血管疾患(脳卒中)対策の重要性がうかがわれました。また、65~74歳の介護認定では幅広い疾病対策が求められることも示唆されました。代表的疾患以外の原因(その他疾患)による介護認定も一定数おり、この精査も重要と思われました。

図3 第1号被保険者(前期高齢者:65~74歳)において介護が必要となった主な原因
a 介護が必要となった主な原因の数
注:その他疾患を含み、わからない・不詳を含まない

b 介護が必要となった主な原因の構成比
注:その他疾患・わからない・不詳を含まない
出典:国民生活基礎調査(介護票)※9
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

第1号被保険者(後期高齢者)に該当する75歳以上において、介護が必要となった主な原因の状況を図4に示します。介護が必要となった主な原因の数(その他疾患を含む)は、2001年度以来、一貫して増加傾向を示し、2019年は8万2709名となりました(図4-a)。また、構成比で見た場合、前期高齢者とはかなりの相違が見られました。認知症が経年的に増加傾向を示し、近年では20%超と最も大きな割合を示していました。高齢者による衰弱、骨折・転倒が15%程度でそれに次いでいました。脳血管疾患(脳卒中)が占める割合はほぼ経年的に減少し、近年では10%台前半にまで低下していました。後期高齢者の介護認定ではこれら4疾病が重要と思われました。特に、認知症の原因数・構成比は一貫して増加傾向を示し、後期高齢者の介護認定では認知症対策が最重要であることが示唆されました。また、骨折・転倒の原因数・構成比も緩徐ながら増加傾向を示し、この対策も重要と思われました。高齢による衰弱の原因数・構成比は、ほぼ横ばいから微減傾向を示し、脳血管疾患(脳卒中)の原因数・構成比は減少傾向が明確でした。

図4 第1号被保険者(後期高齢者:75歳以上)において介護が必要となった主な原因
a 介護が必要となった主な原因の数
注:その他疾患を含み、わからない・不詳を含まない

b 介護が必要となった主な原因の構成比
注:その他疾患・わからない・不詳を含まない
出典:国民生活基礎調査(介護票)※9
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

4. 介護が必要となった主な原因疾患に対する薬剤貢献に関する考察

国民生活基礎調査では、介護が必要となった主な原因(代表的な疾患等。以下、主な原因疾患)については言及がありますが、主な原因疾患について深く検討したデータはなく薬剤の影響は不明です。そこで疾患に対する薬剤貢献度・治療満足度を検討した公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団(以下、HS財団)の「60 疾患に関する医療ニーズ調査(第6回)【分析編】」(以下、医療ニーズ調査)※13の結果を比較参照することで、主な原因疾患に対する薬剤の影響を推論することとしました。

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    公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 令和2年度(2020年度)国内基盤技術調査報告書「60疾患に関する医療ニーズ調査(第6回)【分析編】」
    https://u-lab.my-pharm.ac.jp/~soc-pharm/achievements/img/index/r02.pdf
    同財団は2021年3月末に解散し、医療ニーズ調査などの研究事業については、明治薬科大学社会薬学研究室において実施されている。

医療ニーズ調査は、1994年度から2019年度まで約5年ごとに、社会的に重要な60疾患に対する薬剤貢献度・治療満足度に関し、内科医等を対象としてアンケートを実施した定点的な医療ニーズの調査です。調査の性格上、年齢階級別の結果は示されていないため、やむを得ず介護が必要となった主な原因疾患も、40歳以上をまとめて提示したうえで推論を進めていくこととしました。40歳以上の介護が必要となった主な原因の状況を図5に示します。

図5 介護が必要となった主な原因(40歳以上)
a 介護が必要となった主な原因の数
注:その他疾患を含み、わからない・不詳を含まない

b 介護が必要となった主な原因の構成比
注:その他疾患・わからない・不詳を含まない

c 特に重要な原因の推移
出典:国民生活基礎調査(介護票)※9
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

結果として、介護が必要となった主な原因の数(図5-a)において、脳血管疾患(脳卒中)は2001年には2万7960名で原因の首位でしたが、経時的に減少し2019年には1万6095名となりました。2001年からの減少率は41.9%でした。一方、認知症は2001年の1万742名から増加傾向を示し、2019年には1万7578名となり、2016年以降は原因の首位となりました。2001年からの増加率は63.6%でした。介護が必要となった主な原因の構成比(図5-b)で見た場合、脳血管疾患(脳卒中)は、2001年には28.8%を占めていましたが、経年的に減少し2019年には18.4%まで減少しました。減少率は36.0%でした。一方、認知症は2001年の11.2%が、2019年には20.1%まで増加し、増加率は80.1%でした。特に重要な原因である2疾患の個別の推移(図5-c)は前述の通りでした。これら2つの特に重要な原因に対応するHS財団医療ニーズ調査の結果推移を図6に示します。

図6 HS財団医療ニーズ調査の推移(治療満足度・薬剤貢献度の推移)
a 脳血管疾患(脳卒中)関連

b 認知症関連
出典:公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 60疾患に関する医療ニーズ調査
(第6回)【分析編】※13
出所:上記データをもとに医薬産業政策研究所にて作成

脳血管疾患(脳卒中)については、HS財団医療ニーズ調査の脳出血(含くも膜下出血)※14(以下、脳出血)、脳梗塞が対応すると判断しました。これら2疾患では、薬剤貢献度・治療満足度は、ほぼ右肩上がりの傾向を示しました。薬剤貢献度は、2000年度には脳出血が36.9%、脳梗塞は34.0%でしたが、2014年度にはそれぞれ63.5%、76.5%まで上昇しました。しかし、2019年度には47.4%、63.1%に下降しています。治療満足度は、2000年度には脳出血が24.1%、脳梗塞は20.2%でしたが、2019年度にはそれぞれ63.6%、66.1%まで上昇しました(図6-a)。介護が必要となった主な原因としての脳血管疾患(脳卒中)は、前述の通り減少傾向にあります(図5-c)。もちろん、手術等の治療介入やリハビリテーション等による予後の改善も大きく関係していると思われますが、ほぼ同時期のHS財団医療ニーズ調査で見られた脳出血、脳梗塞の薬剤貢献度・治療満足度の向上が介護認定の減少に寄与している可能性が推察されました。つまり、補完的指標で見た健康寿命に、脳出血、脳梗塞における薬剤貢献度の向上が寄与している可能性が推察されました。

  • 14
    脳出血(含くも膜下出血)との疾患名は2000年度以降に使用されており、1994年度時点では脳出血、くも膜下出血に分けて記載されている。本検討ではこれら3表記を1つにまとめて扱った。

認知症については、HS財団医療ニーズ調査のアルツハイマー病、血管性認知症が対応すると判断しました。これら2疾患では薬剤貢献度・治療満足度は右肩上がりではあるものの、その程度は低値でした。薬剤貢献度は、2000年度にはアルツハイマー病は9.9%、血管性認知症が10.0%と低値であり、2014年にはそれぞれ43.8%、42.9%となりましたが、2019年度には25.5%、27.5%まで下落しました。治療満足度は、2000年度には2疾患とも3.9%と極めて低く、経時的に上昇しましたが、2019年度に21.1%、30.2%と低いレベルにとどまりました(図6-b)。介護が必要となった主な原因としての認知症は、前述の通り増加傾向にあります(図5-c)。ほぼ同時期のHS財団医療ニーズ調査で見られたアルツハイマー病、血管性認知症の薬剤貢献度の停滞が、介護認定数に寄与できていない可能性が推察されました。つまり、アルツハイマー病、血管性認知症における薬剤貢献度の停滞により、補完的指標で見た健康寿命に良い影響を与えられていない可能性が推察されました。

5. まとめ

健康寿命の補完的指標として最も妥当とされる介護系データをもとに、「要介護2以上」の認定状況を通じて、高齢者の健康状況を経年的・年齢階級別に検討しました。結果として、65~74歳の前期高齢者の健康状況は良い方向に向かっており、75歳以上の後期高齢者の健康状況も維持もしくは改善の傾向にある可能性が示唆されました。少なくとも、高齢者を一律に捉えることなく年齢階級別に区分して検討することの重要性を提示できたと思います。

また、国民生活基礎調査データを活用し、介護が必要となった主な原因について検討しました。前期高齢者では、脳血管疾患(脳卒中)が40%程度を占め、関節疾患(リウマチ等)、骨折・転倒、認知症が10~10%未満でそれに次いでいました。一方、後期高齢者では、認知症が20%超と最も大きな割合を示し、高齢者による衰弱、骨折・転倒が15%程度でそれに次いでいました。脳血管疾患(脳卒中)が占める割合は10%台前半にまで低下していました。本検討でも高齢者を年齢階級別に区分して検討することの重要性を提示できたと思います。

さらに、HS財団医療ニーズ調査の薬剤貢献度の年次推移と比較参照することで、介護が必要となった主な原因に対する薬剤貢献を考察しました。脳血管疾患(脳卒中)や認知症では、調査結果が比較的同調しましたが、異なるデータによる結果を年代によって単純比較した推論に過ぎず、年齢階級別の検討は困難であり、介護系データを通じた高齢者健康状況と薬剤貢献の関係を考察するうえでの限界を感じました。

昨今では、ナショナルデータベース(NDB)の疾患レセプトデータと介護データベースの要介護認定情報・介護レセプト等の情報に加え、DPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースの連結解析が視野に入りつつあります※15。これらのデータベースより得た傷病名、投薬、検査等の情報や要介護認定情報、介護費等の年度別・年齢階級別データを検討することで、高齢者健康状況をより科学的に分析し、医療費への影響に加え、介護費への影響や薬剤貢献もより精密に検討できる可能性があると思われます。これが早期に実現し、健康寿命の延伸に資するより有効な対策や薬剤開発につながることに期待したいと思います。

(医薬産業政策研究所 統括研究員 伊藤 稔

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