トピックス 「第8回 日本-タイ合同シンポジウム」開催される

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2022年1月25日および26日、「第8回 日本-タイ合同シンポジウム」がThai Food and Drug Administration(タイFDA)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の主催にて開催されました。2021年同様、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大状況を鑑みてオンラインでの開催となりました。本シンポジウムは、2018年4月にタイFDAと厚生労働省間で締結された「医薬品医療機器規制協力に関する覚書」に則り、日本とタイの薬事関係者間の相互理解を深め、両国の医薬品・医療機器規制や開発のための協力体制の基盤形成を目的としています。今回のシンポジウムでは、新薬審査および医療機器審査に関するセッションが設けられ、日本およびタイの規制アップデート、COVID-19ワクチンおよび治療薬への薬事的サポート、海外製造医薬品のGMPクリアランスの実際等、両国の医薬品・医療機器の規制に関する最新の情報の共有および討論が行われました。

今回のシンポジウムは、オンラインで行われることを考慮し、1月25日第1部:総合セッション、第2部:医薬品セッション、1月26日午前:医療機器セッションというプログラムで開催されました。日本から独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)国際部長の佐藤淳子氏をはじめPMDA、厚生労働省、製薬協会員会社、一般社団法人日本医療機器産業連合会(JFMDA)加盟企業、タイからは、タイFDA Secretary-GeneralのPaisarn Dunkum氏をはじめ、タイFDA、タイ産業界から合計339名が本シンポジウムに参加しました。最初に、タイFDAのPaisarn Dunkum氏、PMDA理事長の藤原康弘氏による開会の挨拶がありました。

タイFDA Secretary-General Paisarn Dunkum 氏 タイFDA Secretary-General
Paisarn Dunkum 氏

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長 藤原 康弘 氏 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
理事長 藤原 康弘 氏

第1部の総合セッションでは、現在の両国における医薬品・医療機器に関する規制、医薬品・医療機器産業に関する最新の規制状況について、第2部の医薬品セッションでは、COVID-19ワクチンおよび治療薬への薬事的サポート、海外製造医薬品のGMPクリアランスの実際を共有しました。本稿では、タイ側の発表を中心に紹介します。
 

■Regulatory Update
 

タイFDA Deputy Secretary-General Surachoke Tangwiwat 氏                                    

2021年度も医薬品に関連する法令、省令、政府の告示や、タイFDAの告示等が出され、医薬品部からの告示も発出されています。2021年は医薬品のみでなく、ワクチンに関係する告示や命令、また緊急使用許可などが発出され、以下の3点が共有されました。

  1. (1)
    緊急使用許可や条件付き承認などにより、パンデミック時に使用されるもの
  2. (2)
    医薬品の流通に関するルール、手続き、条件等
  3. (3)
    海外における医薬品・医療機器のGMP査察

(1)緊急使用許可・条件付き承認

緊急性を求められ、タイを含む複数の国で申請登録が必要なものが多く、統一されたルールや一定の条件なども揃える必要があります。タイFDAでは共通のひな型であるASEAN Common Technical Dossier(ACTD)またはICH-CTDテンプレートを用いています。タイFDAが審査をするうえでは世界保健機関(WHO)やアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、日本等の先進国での評価・審査結果を参照して簡略的な審査を行っています。

(2)流通に関するルール、手続き、条件等

流通管理を行うため、医薬品の使用者からの使用実態に関する情報、COVID-19の感染が拡大し始めた2020年からのレスポンス、対策等について情報を収集しています。

Modern drug distributionに関するルールは2021年5月14日に調印され、2022年1月1日から施行されています。企業(製造業者および輸入業者)は、基準を遵守した上で、2022年中に自社のライセンスの更新を行う必要があります。

(3)海外における医薬品・医療機器のGMP査察

タイの薬品法(仏暦2510年版)に基づいています。海外当局によるGMP certificateがある場合にはタイFDAによる審査ルールに則って申請が可能ですが、海外当局発行のGMP certificateがない場合にはタイFDAがGMP査察を行う必要があります。海外への実査が困難な状況であるため、この代わりとなるGMP関連の申請により、審査・承認しています。
 

■RA’s support to COVID-19 related medicines and vaccines
 

タイFDA Medicines Regulation Division、Senior Professional Level、Pharmacist Parichard Chirachanakul 氏              

COVID-19の感染拡大に備えて、薬剤の緊急使用や条件付き承認に関する告示が3つ出される等、タイFDAは承認に関して柔軟性をもって対応しました。

タイFDAは、プレマーケティングとポストマーケティングの大きく2つの管理監督を行っています。プレマーケティングに関しては、輸入許可、製造許可、販売許可を取るときには、必ずその対象薬品についてタイFDA番号、登録番号を取得しなければなりません。取得してから、輸入、製造と販売ができるようになります。

コロナワクチンは新しいワクチンで、緊急性も求められているため、普段のやり方と違い、モジュールベースの申請を可能としました。われわれが承認をしたコロナワクチンは、評価開始から承認まで、30営業日まで時間短縮ができました。また、コロナワクチンはコールドチェーンの流通が必要なので、タイに輸入したときに、従来のラベリングの仕方だと品質の損失も発生してしまう可能性があるため、eラベリングの手法を取りました。

緊急使用の条件付き承認については、これはリスク管理計画に基づいたものでなければなりません。また、接種後に起こる有害事象(Adverse Events Following Immunization、AEFI)、副反応のサーベイランスも必要です。

タイにおいてワクチンの研究開発もされています。チュラーロンコーン大学が開発するChulaCov19、これはmRNA(メッセンジャーRNA)のワクチンで、第II相臨床試験中です。また、BioNetが開発するCOVIGENはDNAワクチンで、第I相臨床試験中であり、Baiyaという植物由来のワクチンも第I相の段階です。さらに、タイ政府製薬公社のワクチンHXP-GPOVacは非活性型であり、第II/III相臨床試験中です。

われわれは一丸となって、可能な限り早くこのパンデミックに対抗していきたいと思い努力してきました。ワクチンは全部で6つ承認され、低分子治療薬としてRemdesivir、Favipiravir、Olumiant等も承認されました。また、モノクローナル抗体に関しては、Casirivimab、ImdevimabとSotrovimabが承認されました。
 

タイFDA Strategy and Planning Division、Health Product Vigilance Center、Practitioner Level、Pharmacist Pornkanok Chankum 氏   

タイFDA関係部門が2020年末から協議をし、2021年2月に最初のワクチン接種の準備体制を整えました。副反応、有害事象については、タイ政府の疾病管理局の管轄であるHPVC(Health Product Vigilance Center)と、DDC(Department of Disease Control)の疫学部の両組織が共同で監視をしています。HPVCのネットワークでは、薬局、病院、DDC、疾病管理局、大学機関、研究機関からも情報を受けています。また、そのような情報を活用して、タイFDAのチームがリスクアセスメントを実施しています。さらに、WHOにもタイの情報を提供しています。

タイ保健省が開発したアプリ“Mor-Prompt”を使った能動的なサーベイランスも実施しています。国民一人ひとりが、いつワクチン接種をしたのか、どういう副反応があったのか、つまり接種の履歴を確認できます。重度な副反応があった際には、ホスピタルウェブベースのコミュニケーションの手段があり、医療従事者が評価します。まず、報告を受けたら、そのリスク査定を行います。たとえば、どのような有害事象なのか、副反応なのか、どのような種類のワクチンを打ったのか、そういった情報を収集して、評価するための委員会に報告します。この際、情報に不備や不足がある場合には、さらに調査を行うことになります。
 

■GMP clearance of overseas pharmaceutical manufacturers
 

タイFDA Medicines Regulation Division、Practitioner Level、Pharmacist Waranon Cheewajorn 氏                    

レギュラトリーフレームワークは、3つの段階に分けて成り立っています。1つ目はライセンシーとして輸入の認可や、製造、および販売の認可です。2つ目はドラッグレジストレーションであり、ASEAN共通薬事申請様式(ACTD)にしたがって、われわれは運営しています。3つ目は、コンプライアンスベリフィケーションであり、ドラッグレジストレーションとコンプライアンスベリフィケーションは、その医薬品のその認可がまだ存続している間は必ず並行で行う必要があります。

本日はGMP Clearance of Overseas Pharmaceutical Manufacturersに特化してお話しします。GMPクリアランスに関連する法令は、医薬品法、保健省省令、タイFDA告示、PIC/Sガイドラインの4つとなっています。

GMPクリアランスには、タイ国外にある医薬品製造所、工場がPIC/S、GMPと同等な水準を満たすことの査定と評価を行うこと、タイに輸入する医薬品が品質、有効性、安全性についても基準を満たしていることを保証する目的があります。

アセスメントする際にエビデンスとして求められるのは、GMP認証、サイトマスターファイル、クオリティマニュアル、ポリシー、プロシージャ等すべてとなります。現在は、医薬品の完成品として、非無菌製品、無菌製品、およびバイオ製剤製品をカバーしています。施行方法は任意であり、タイで製造・販売する際には、必ずGMPクリアランスの申請をしなければなりません。同じ手法でつくられた製品でも、サイトが変わっていれば、GMPクリアランスを行う必要があります。また、GMPクリアランスの有効期限が切れた場合は更新を求められます。

ASEAN地域での円滑なレギュラトリーサイエンスを担うASEAN Listed inspection serviceは、シンガポール健康科学庁(HSA)、マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)、インドネシア国家医薬品食品監督庁(NADFC)、タイFDA、フィリピンFDAで構成されています。ASEAN Listed inspection serviceに加盟する国で製造された医薬品を、ASEAN 10ヵ国へ輸出する際は、ASEAN Listed inspection serviceの結果を参照しなければなりません。ただし、カバーされているのは完成品だけです。また、バイオ製剤と血液製剤は含まれていません。

結び

今回の「第8回 日本-タイ合同シンポジウム」は、COVID-19の影響により2021年に引き続きオンライン開催となりましたが、講演者のみなさんから両国のCOVID-19への真摯な取り組み等について詳細な説明があり、質疑応答では実務面での忌憚のない意見交換も行われ、大変有意義なシンポジウムとなりました。平時の交流を密に行ってきた両国間で、緊急時の対応においても学び合うことが多くあることを実感しました。より迅速に革新的医薬品やワクチンを両国民にお届けすることができるよう、このような交流の場を生かしていければと思います。

(国際委員会 アジア部会 タイチーム 岡本 雅子米山 めぐみ

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