トピックス 「英国製薬工業協会(ABPI)との定期会合」を開催

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製薬協国際委員会欧米部会では、欧米の政府・製薬団体と協調し、国際的課題の解決を図る活動の一環として、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、英国製薬工業協会(ABPI)、フランス製薬工業協会(LEEM)、ドイツ研究開発型製薬工業協会(vfa)との定期会合を毎年実施しています。今般、ABPIとの定期会合を2021年12月9日にオンライン形式で開催しました。双方合わせて35名近くが参加し、活発な意見交換が行われました。会合の概要を以下の通り報告します。

オンライン会合の様子

はじめに

冒頭、製薬協国際委員会の伊藤達哉委員長と、ABPI Chief ExecutiveのRichard Torbett氏の挨拶から会がスタートしました。伊藤委員長は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、世界は新たな局面に入り、私たちの働き方や生活様式が大きく変化したこと、ワクチンの迅速な臨床試験と承認によって、製薬業界の評価が高まってきていること、そして、そのような大きな環境変化の中でCOVID-19後の新たな医療問題の解決に貢献する製薬業界のベストプラクティスをお互いに学んでいくこと、COVID-19によって加速されたヘルスケアのデジタル化が今後どのように進化していくのかを理解することの重要性について述べました。

その後のセッションでは、ABPIからはUK Market Overview、Patient Engagement、Digital Health、UK pricing and market access Q&Aについて発表がありました。

製薬協からは、「製薬協 政策提言2021」、厚生労働省により今般発表された「医薬品産業ビジョン2021」のサマリーと製薬協からのステートメント、Patient Engagement、Digital Healthについて紹介しました。

各セッションにおいてはABPI、製薬協の双方での質疑応答が行われ、それぞれにトピックスについて意見交換を実施しました。

■UK Market Overview

Government Life Science Vision/Brexit/COVID

Chief Executive, ABPI Richard Torbett 氏                                              

このセッションでは、英国市場における下記の3つの重要なトピックスが紹介されました。

1)Life Science Vision

英国政府がCOVID-19からの教訓も踏まえ、ライフサイエンスセクターに関する新たなビジョンを発表しました。以前のビジョンに比べ、英国の国民保健サービス(National Health Service、NHS)が業界のパートナーとして位置づけられた点は、非常に重要な要素の一つとなっています。

2)BREXITに関する残課題

バッチテストに関する英欧の相互認証(MRA)の締結、北アイルランドの複雑な規制問題の解消は依然、業界にとっての最優先課題です。

3)COVID-19に関するグローバル課題と英国のポジション

英国は世界貿易機関(WTO)でのTRIPS Waiver提案(COVID-19関連の知的財産の放棄)に反対のポジションを維持しています。また、2021年議長国を務めたG7では、将来のパンデミックへの備えとして、ワクチンや治療薬の迅速な開発・供給のための100 Days Missionを打ち出しました。

ディスカッションでは、製薬協から、Life Science Visionにも含まれておりこれまでも英国で積極的に進められているゲノムデータの活用推進について、英国のゲノム医療に及ぼしている影響について質問したところ、研究開発投資が充実した一方で、診断利用が進まない点が課題であることが共有されました。

Japanese Government Pharma Industry Vision

製薬協 国際委員会 欧米部会 三浦 慎一 部会長                                              

このセッションでは、「製薬協 政策提言2021」について、その背景とサマリー、厚生労働省の「医薬品産業ビジョン2021」、ステートメントについて紹介がありました。

ディスカッションでは、ABPIからは、政府が製薬業界と協力していく意向がどれくらいあるのかという質問があり、製薬協からは、今回の「医薬品産業ビジョン2021」では重要業績評価指標(Key Performance Indicator、KPI)が設定されており、それを実務者レベルでモニタリングしながら、官民対話を進めていく旨の回答がありました。

Patient Engagement

Executive Director Strategy, Research and Partnerships, ABPI Colette Goldrick 氏                          

このセッションでは、ABPIのPatient Engagementに関する取り組みについて説明がありました。2021年の第一四半期に見直された戦略には、4つの要素(リーダーシップの意思決定に患者さんの意見を取り入れること、Patient Engagementを中心的課題と考えること、協働しやすい環境を整備すること、患者さん中心の文化を育むこと)が必要であるとされ、これらの実現のために、患者諮問委員会の設置、同協会が展開するキャンペーンへの患者さんの参画、協働ガイダンスの更新、業務全般に患者参画を根づかせるプログラムへの着手等を行っていることが紹介されました。

ディスカッションでは、製薬協から、患者団体と協力して作成したガイドラインや、企業と患者団体との間の透明性に関するガイドラインについて質問し、ABPIからは、これらのガイドライン、およびそのリンク先について紹介されました。また、製薬協から英国以外の患者団体、グローバルな患者団体との連携およびその方法についても質問し、ABPIからは、現在のところ英国に集中しているが、グローバルレベルの活動は国際製薬団体連合会(IFPMA)等と連携を取っていく旨の回答がありました。

Patient Engagement

製薬協 国際委員会 欧米部会 欧州グループ 森本 朝子 委員                                        

このセッションでは、Patient Engagementに関する日本での動向について、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と製薬協の取り組みを中心に説明がありました。日本に比べて米国と欧州が大きく先行しているものの、近年PMDAが取り組みを加速しており、Patient Centricityワーキンググループを立ち上げ、2021年に発行した患者参画ガイダンスについて、詳しく紹介を行いました。また、製薬協が策定した患者団体との協働に関するガイドライン、企業活動と患者団体の関係の透明性ガイドラインについても採り上げました。ABPIからは、英国でも同様の取り組みを進めており、非常に励みになる内容であったとのコメントがありました。

Digital Health

Executive Director Strategy, Research and Partnerships, ABPI Colette Goldrick
製薬協 国際委員会 欧米部会 デジタルヘルスグループ 岡本 雅子 リーダー                                 

このセッションでは、日本におけるデジタル化促進のための政府の取り組みについて紹介がありました。2021年9月に新しく設立されたデジタル庁のミッション、ビジョンと4つの柱、マイナンバーカードの普及、プログラム等の最先端医療機器の審査に関する抜本的な改革である「DASH for SaMD」、日本におけるテレメディシンの状況、バーチャルな臨床試験分野での取り組み等、日本の最新情報を共有しました。

ディスカッションでは、製薬協からは、COVID-19のパンデミック以前と比べたテレメディシン機能を使うことによるバーチャルな臨床試験の導入の状況を紹介し、ABPIからは官民連携による医療データインフラ構築の取り組み、医療データ活用に関する社会的信用の構築に向けたロードマップについて紹介されました。

製薬協から社会的信用構築の重要性については、活動により国民の意識の変化が見られているか質問したところ、まだ端緒についたところであり、これから経時的に確認していきたい、と回答がありました。ABPIからは、日本における遠隔診療の実施状況の課題に関する質問があり、今後は高齢者等デジタルリテラシーに課題がある患者さんを、どのようにサポートしていくかも重要な点である、とコメントがありました。

UK pricing and market access Q&A

Executive Director, Patient Access, ABPI David Watson 氏                                      

このセッションでは、製薬協からABPIに事前に投げかけた質問の回答について、追加の質疑応答を実施しました。製薬協からは、高額治療における価格設定や償還についての新たな課題や、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence、NICE)が標榜する医薬品・医療機器の迅速かつ公正なアクセスのための新たなプロセスや手法に関する制度導入について質問し、ABPIからは詳細な解説がありました。

終わりに

その他のディスカッションでは、話題となっている気候変動に関するABPIの取り組みについても採り上げられました。今後は優先順位を上げて情報共有をしていくことを双方で確認しました。  最後に、製薬協の中川祥子常務理事は、ポストコロナ時代には、デジタルヘルスと医療・社会制度の見直しの重要性が増していく中、もっと世界規模で知識や経験を議論し、情報交換する必要があり、世界中の患者さんを取り巻く課題を解決するために、製薬協としてもABPIと一緒になって取り組んでいきたいと述べました。

今回もオンライン開催となりましたが、各セッションにおいて活発な意見交換がなされ、相互に理解を深めることができ、非常に有意義な会合となりました。

次回は2022年度に開催の予定です。

(国際委員会 欧米部会 欧州グループ)

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