トピックス 「第5回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」が開催 医薬品分野における日印協力スキームの発展に向けた積極的コミュニケーション

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2021年12月21日、22日に「第5回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」がオンラインで開催されました。本シンポジウムでは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の規制に関する両規制当局による最新の取り組みや産業界からの期待や要望を共有し、薬事規制の調和に向けて議論することで、産業界が抱える各種課題の解決、薬事規制の向上を目指しています。このニューズレターでは主に医薬品セッションについて報告します。

シンポジウム オープニングセッション

本シンポジウムは、インド保健家族福祉省(MoHFW)・中央医薬品基準管理機構(CDSCO)と厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)主催のもと、インド医薬品輸出促進協議会(Pharmexcil)、Federation of Indian Chambers of Commerce and Industry(FICCI)、日本製薬団体連合会、一般社団法人日本医療機器産業連合会、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム、製薬協の後援で開催されました。今回は、インド行政側からMoHFW次官補のMandeep Bhandari氏、CDSCO長官のV.G.Somani氏、在日インド大使館公使のMona KC Khandhar氏、日本行政側として厚生労働省大臣官房審議官の山本史氏、同医薬・生活衛生局総務課国際薬事規制室室長の安田尚之氏、PMDA理事長の藤原康弘氏、同国際部部長の佐藤淳子氏、産業界からは、Pharmexcil会長のSh. Udaya Bhaskar氏、製薬協の白石順一理事長らが参加し、以下3つのテーマに沿って議論されました。

1. 国際協調やリライアンス

インド側から、世界各国の規制当局と積極的にコラボレーションを進めている現状や、審査等におけるリライアンスについての取り組みが紹介されました。CDSCOは、MoHFWが指定した国で承認販売されている新薬については、海外データを参照することで迅速承認を行っています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンだけでなく、その他の新薬についても、リライアンス適用を進めていくことや参照国の追加が検討されています。インド国外のデータ活用については、“New Drugs and Clinical Trials(ND&CT)Rules, 2019”に定義されています。国際協力については、今回のようなシンポジウムを通じて、ベストプラクティス等の共有を行い、医薬品規制当局間での信頼関係を築いていきたいとのことでした。

日本側からは、医薬品規制における国際連携の意義(医薬品規制調和国際会議(ICH)、医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム(PIC/S)、ICMRA(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities))や、COVID-19流行下における国際連携の重要性が示されました。サプライチェーンの国際化、新技術、限られた資源、パンデミック時の対応や備えのため、国際連携の重要性は増しています。また、デジタルトランスフォーメーションにより、治験におけるオンライン化やウエアラブルデバイスの活用、eCTDやE-labeling等、さまざまな分野でデジタル化が進展していることや、患者さんを含むステークホルダーの意見の取り込み等が最新の話題として紹介されました。さらに、COVID-19対応として、ICMRAで取り組んでいる次世代ワクチンの開発のための試験デザイン、既存のワクチンを対照とした免疫ブリッジング試験、生産能力の迅速な拡大等、日本が世界の規制当局とともに活動している内容が述べられました。

現在のパンデミックのみに対応するのではなく、次に備える意味、またそれを超えてNew Normalとして作り上げていくという考えのもと、ICMRAのメンバーであるインドと日本の間での連携の必要性が再認識されました。

2. GMPおよび品質マネジメント

インド側からGMPの意義、指導原則、改訂プロセス、共同査察について紹介がありました。COVID-19流行下での査察事例として、オンサイトとオンラインで査察官が参加するハイブリッド形式での実施、技術移管等も含めた継続的な監視によりワクチンや生物学的製剤の加速査察が可能となった事例についても紹介がありました。

日本側からは、COVID-19に伴いPMDAが試行したICTツールを用いたリモート査察やGMP/GCTPコンプライアンス査察システムについて紹介がありました。新たな選択肢として、カテゴリーごとの査察である“Product Category based Inspection”がスタートしており、証明書の有効期間が3年間となるため、製造する製品の数が多ければ従来型に比べて査察の回数を減らせる可能性についても紹介がありました。

両国から、COVID-19流行下であっても品質を確保しながら査察を遅延させない工夫が示されました。

3. 臨床試験承認要件の最新動向

インドの臨床試験の最新動向として、未承認薬または治験薬の緊急使用、未承認薬の人道的使用、特殊な状況下におけるファストトラック承認(COVID-19ワクチンの承認に用いられた)、新薬の審査プロセスについて共有がありました。インド国外で実施された臨床試験のデータ活用や迅速承認については“ND&CT Rules, 2019”に記載されており、重篤または生命を脅かす疾患、希少疾患、インド地域の保健状況に特に関連する疾患、アンメット・メディカル・ニーズが存在する疾患、災害または特別な防御のための使用等について、新薬の迅速承認が検討されるとのことでした。

日本からは、海外臨床データとICHガイドラインの活用についての取り組みが紹介されました。ICH E5からE17に至るまで、世界的に臨床データの重複を最小限にし、患者さんにとって有益な医薬品を迅速に提供するという目的は一貫しており、国際共同治験(MRCT)は有力な手段となっています。日本では、MRCTの計画立案に際し、製薬企業とPMDAで協議を行ったうえで、適切な評価を承認審査の過程で実施しています。今後も各地域の規制当局に受け入れられるよう適切に計画されたMRCTデータ活用により、世界のさまざまな地域で遅滞なく有用な医薬品が提供可能になると示されました。

Q&Aセッションでは、製薬協から、ICH E5に基づいた評価を実施した場合であっても、インドにおいて臨床第III相または第IV相試験の免除が受け入れられないケースがあるため、事前相談や推奨する評価方法、インド国外のインド人症例での結果の受け入れ可否について質問がありました。CDSCOからは“ND&CT Rules, 2019”に規定されているとの前提を示したうえで、ICH E5のコンセプトによる民族差の影響をもとにしたMRCTデータによる評価は、すべての医薬品に適応されるわけではなく、たとえば致死性疾患、極めてアンメット・メディカル・ニーズが高いような医薬品等に限定されていること、インド国外のインド人症例の受け入れについては検討可能であるが、個々の案件として相談してほしいこと、回答を得ることができました。

4. 総括

2015年に厚生労働省およびMoHFW・CDSCOとの間で交わされた「医療製品規制に係る対話と協力の枠組みに関する協力覚書」をもとに、2016年から官民合同のシンポジウムを開催してきました。インドにおける深刻なCOVID-19感染拡大を踏まえ、開催は当初の予定よりも若干延期となりましたが、無事5回目の開催に至りました。閉会の挨拶において、CDSCO長官のSomani氏は、「今回はオンラインでの開催であったため、ネットワークの中断や混線があり、対面ほどは十分に議論できなかったかもしれないが、お互いから学び、最新の情報については、たとえCOVID-19流行下であっても知ることができ、意義のあるものになった。毎年このようなシンポジウムを開催し、連携体制を作っていきたい。1つの家族のようなものである。今後も努力していきたい」と述べました。PMDA理事長の藤原氏からは、「継続して連携していく土台ができた。議論を踏まえ、二国間の協力関係をさらに発展させ、国際的なスキームにしていきたい。このシンポジウムを契機に、協力関係を深めることで、それぞれの課題が解決していくことを願っている」との言葉がありました。

シンポジウム後には当局間で2ヵ国会合が実施され、かねてより製薬協から要望していた新薬承認申請書(NDA)審査における並行審査の効率化について成果が得られました。これまでインドにおける審査は、Step 1(新薬許可)、Step 2(輸入登録)、Step 3(輸入許可)を段階的に進める必要がありましたが、前回の2ヵ国会合から継続して効率化に向けての議論が行われた結果、これらが同時に審査されるようになりました。しかしながら、同様の書類を異なる担当部署に提出しなければならず、また提出のタイミングに申請戦略上の難しさがある場合があることから、Step 1から3を一元化して1つの手続きにすることができないかを製薬協から要望していました。今回の2ヵ国会合の中で、並行審査に関してStep 1、2、3を統合するガイダンスが近いうちに発出されるとの発言があり、引き続き動向を注視していきます。並行審査は、当局間で継続的に議論され、改善の成果が得られました。産業界としても、規制が改善されていく過程において、現地での運用状況の確認や、解決に向けた具体的提案を含むフォローアップの重要性を再認識しました。

各種会議がオンライン開催がNew Normalとなっていく中、シンポジウムにあっても同様の流れになっています。今後もグローバルにおける効率的な官民対話についても工夫を凝らしていきたいと思います。また、規制当局間の良好な信頼関係を軸に、医薬品産業界として今後どのようなことができるか、戦略的なアドボカシープランを提案し、薬事規制の課題解決を含む現地ビジネスの環境改善につなげていくことを検討していきます。次回の官民シンポジウムは、2023年2月初旬に開催予定です。

(国際委員会 アジア部会 インドチームリーダー 桑原 千佳

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