トピックス 「第139回 医薬品評価委員会総会」を開催 新型コロナウイルスを振り返る ~ベストプラクティスの共有と国内課題解決へ向けて~

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2021年11月2日、室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)とWeb配信にて「第139回 医薬品評価委員会総会」を開催しました。新型コロナウイルス感染症の第5波が沈静化しつつあるもののまだ安心できない状況であったため、今回も製薬協医薬品評価委員会の幹部と演者の約40名のみが会場より参加し、その他の委員会メンバー約700名はオンラインでの参加となりました。

全体風景

本総会のプログラムは3部構成とし、第1部では、企業とアカデミアの取り組みを、第2部では、パンデミックを踏まえたうえでの医薬品産業の未来と、緊急事態下におけるレギュラトリーサイエンスのあり方について講演がありました。第3部では、1部と2部の演者の方々をパネリスト、製薬協の森和彦専務理事と医薬品評価委員会の菊地主税副委員長を座長とし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下での医薬品開発の苦労や、通常から変化させた経験、それらを踏まえた今後のあるべき姿等について討議を行いました。

第1部:新型コロナワクチン・医薬品開発の実例に学ぶ

1)「コミナティの開発」

ファイザーR&D 開発薬事第2グループ グループ長 森久保 典子 氏                     

ファイザーR&Dのコミナティについて、通常10年以上の期間が必要とされるワクチン開発をどのようにして約10ヵ月間で行い緊急使用許可(Emergency Use Authorization、EUA)を取得したのかについて説明がありました。短期間でのEUA取得の背景には、すでに確立されていたmRNAワクチンの科学的な基盤のみならず、規制当局の柔軟な判断や治験のオペレーションの革新、リアルワールドエビデンス(RWE)の活用、そしてリスクがある中での資金投資や規制当局と社内の優先度の決定が重要であったと紹介がありました。

ファイザーR&D 開発薬事第2グループ グループ長 森久保 典子 氏

2)「SARS-CoV-2 肺炎の治療薬としてのバリシチニブの開発から承認について」

日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 薬事部 開発薬事 専門課長 塚田 篤 氏     

日本イーライリリーのバリシチニブについて、治療薬の探索から臨床試験のデザイン・評価に関する工夫、承認申請の戦略等の説明がありました。2020年2月に人工知能プラットフォームBenevolent AI社がバリシチニブをCOVID-19の治療薬となる可能性がある薬剤として特定したことがLancet誌に掲載され、同年5月には医師主導国際共同第III相臨床試験(ACTT-2)を開始し、同年11月に米国でEUAを取得するまでの戦略と工夫に関する説明がありました。さらに日本における早期申請・承認取得に向けては、Globalとの早期の合意取得と当局との密なコミュニケーションが重要であったと紹介がありました。

日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 薬事部 開発薬事 専門課長 塚田 篤 氏

3)「新型コロナウイルスとイベルメクチン」

北里大学 大村智記念研究所 感染制御研究センター センター長・教授 花木 秀明 氏              

アフリカにおける河川盲目症および象皮病に対するイベルメクチンの効果ならびに重要性について触れ、イベルメクチンの新型コロナウイルスに対する効果・安全性に関してもPK/PD理論を中心に説明がありました。さらにレバノン、バングラデシュインド等における臨床試験の結果、アフリカ、アルゼンチン、ペルー、インド、ドミニカ共和国の現状から、イベルメクチンの投与が新型コロナウイルス感染症による死亡者数を減らした可能性について紹介がありました。最後にイベルメクチンの臨床報告と査読済み論文について説明し、取り下げられた論文の問題点や疑問点を指摘しました。

北里大学 大村智記念研究所 感染制御研究センター センター長・教授 花木 秀明 氏

第2部:新型コロナウイルスと国内規制・レギュラトリーサイエンス

1)「パンデミックから読む医薬品産業の未来」

デロイトトーマツコンサルティング 執行役員 増井 慶太 氏                        

パンデミックにより医薬品の研究開発の生産性改善の必要性が顕在化した可能性が示唆され、実際2020年には医薬品開発の生産性が下げ止まり、その後上昇に転じていた可能性があるとのデータが示されました。この生産性改善には均質化、標準化デジタル化が影響を及ぼしており、情報技術への目配せが重要であるとの説明がありました。また多様なヘルスケアデータの利活用が可能となり、進化したデジタル技術を利用することにより、医薬品産業の効率化・付加価値化のための変化が進んでいること、さらにパンデミックの影響で製薬・バイオ企業への信頼度が上がっていることから、よりいっそうの情報公開が必要であることが示されました。今後は「協創」優位性への目配せが必要であり、そのためには、標準化・規格化、信頼の担保および国民に対するアドボカシーが必要であるとの考えが共有されました。

デロイトトーマツコンサルティング 執行役員 増井 慶太 氏

2)「COVID-19緊急事態におけるレギュラトリーサイエンス」

早稲田大学 特命教授 医療レギュラトリーサイエンス研究所 顧問 笠貫 宏 氏                 

日本における陽性者数の推移とその間に行われた主な活動・会議について説明がありました。平時ではなくパンデミック下のような特殊な状況において、レギュラトリーサイエンスをどのように適用すべきか、リスク・ベネフィットバランス評価、少ないデータ情報のもと迅速に予測、評価、判断を行い、科学的合理性・社会的合理性・政治的合理性の観点から決定し実行することの重要性について話がありました。最後にパンデミック下における国産ワクチン・治療薬の臨床開発と緊急時承認について、レギュラトリーサイエンスから見た課題とあるべき姿について触れ、今が日本がワクチン大国に生まれ変わる最後のチャンスであることを示唆しました。

早稲田大学 特命教授 医療レギュラトリーサイエンス研究所 顧問 笠貫 宏 氏

第3部:総合討論(パネルディスカッション)

パネルディスカッションは座長の森専務理事よりパネリストの4名(笠貫氏、増井氏、森久保氏、塚田氏)に対し、「コロナ禍でなにが変わったのか」との問いかけから始まりました。

森久保氏からは、平時でできないことは有事でもできない、日ごろの積み重ねが重要で「やればできる」と感じたこと、塚田氏からは開発のきっかけがAIの分析結果であったこと、日本イーライリリーとしては医師主導治験のみでの申請は初めてであったが、今後に活きる経験であったことが共有されました。増井氏からは世界が大きく変わりバーチャル・デジタル技術、インシリコ創薬が急速に実装されており、迅速な意思決定のためにITを含む閉じない情報インフラが必要であること、笠貫氏からは科学と政治の関係がこれから大きく変わり、科学的根拠に基づくイノベーションおよび有事のレギュラトリーサイエンスも必要であるとの意見が共有されました。

続いて「スピーディかつ大胆な意思決定」の例について問いかけがあり、森久保氏よりワクチンの国家検定について平時とは異なる進め方がされた点が、塚田氏からは日本法人としてのリーダーシップと規制当局と協力して取り組むことの重要性が共有されました。

パネリストからは、オープンで十分なコミュニケーションにより社会に語ることの重要性は、患者さんの声を活かした医薬品開発(Patient Centricity)にも通じること、広報、IR、アドボカシーがいっそう重要であること、レギュラトリーサイエンスは人・社会のためにあることが大切であり、正解はないが透明性と説明責任が重要であることが話されました。

最後に森専務理事による閉会の辞をもって、4時間にわたる医薬品評価委員会総会が終了しました。

(医薬品評価委員会 佐野 俊治

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