トピックス 「第11回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」開催される

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2021年9月17、18日に、Web開催にて、「社会実装を加速するレギュラトリーサイエンス」をテーマに「第11回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催されました。

はじめに

医療現場、大学・研究機関、産業界や規制当局の方々が一堂に会して、医薬品・医療機器等のレギュラトリーサイエンスに関する研究成果や考えを公開討議し、その学術の進歩と普及を図るという設立理念のもと、2010年8月にレギュラトリーサイエンス学会が設立されました。本学会は2021年で設立11年を迎え、その間レギュラトリーサイエンスの概念は広く浸透しつつあります。2021年は9月17、18日の2日間にわたり、「社会実装を加速するレギュラトリーサイエンス」をテーマとして「第11回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催されました。本学術大会は、大会長講演、特別講演(3題)、シンポジウム(13題)、一般演題(口演18題、ポスター32題)から構成されていました。

なお、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の開催となり、学術大会史上初めてのWeb開催となりましたが、430名以上の参加申し込みならびに講師等の招待者を含め約500名の参加者により各セクションで活発な議論が行われ、産学官の垣根を越えた有用な情報交換の場となりました。以下に、シンポジウム1題およびポスター発表4題について紹介します。

シンポジウム8:コロナ禍を踏まえた環境変化における医薬品開発のあり方

製薬協薬事委員会の柏谷祐司委員長および製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会の松澤寛部会長を座長として、「コロナ禍を踏まえた環境変化における医薬品開発のあり方」をテーマに開催されました。

図1 当日のスライド 図1 当日のスライド

まず、治験関連の話題として、新潟大学医歯学総合病院臨床研究推進センター実施支援部門コアCRC室の鈴木由加利氏から、医療機関の立場から新型コロナウイルス感染症蔓延下に経験した治験業務の課題と今後の品質確保のあり方について、製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会の藤岡慶壮委員から、製薬企業の立場から考える医療機関のプロセス管理による質の確保と治験依頼者の果たす役割について、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課課長補佐の柳沼宏氏から、治験環境の変化とオンライン技術を活用した治験における信頼性確保について発表がありました。

次に、承認申請後の適合性調査に関する話題として、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)信頼性保証部調査役の山口光峰氏から、初めての緊急事態宣言からリモート調査開始までの検討内容および現在の状況について、製薬協薬事委員会申請薬事部会の浜田奈津子委員より、承認申請後の適合性調査等におけるリモートの活用と課題(製薬企業からの視点)について発表がありました。

総合討論では、各発表者への発表内容に関する質疑応答のほか、コミュニケーションの取り方が従来の対面からWeb対応となったことにより直面した課題等について議論が行われました。

座長と演者によるパネルディスカッション 座長と演者によるパネルディスカッション

最後に座長より、治験の実施・モニタリングおよびリモート調査でのコミュニケーション等、平時に直接会えない状況下でのコミュニケーションに難しさはあるが、お互いの信頼を確保すべく、相手をよく知ることの重要性、場面は違っても官民それぞれの努力により、コミュニケーションの取り方を工夫することで、有益な意見交換ができているとのコメントで締めくくられました。

製薬協会議室からの配信状況 製薬協会議室からの配信状況

一般演題(ポスター)

製薬協薬事委員会より以下の4つのテーマについてポスター発表がありました。

ポスターはWeb上にPDFを掲示し、討論の時間にはブレイクアウトルームにて発表者と参加者をオンラインでつなぎ意見交換するという、例年にない対応が行われました。

呉サン委員らからは、「日本における申請ラグの現状調査に関するアンケート」のテーマで、申請ラグの実態とその要因の把握のためにアンケート調査を実施した結果が紹介されました。2018年4月から2020年3月までに承認された新有効成分含有医薬品および小児適応に係る承認を取得した新医薬品について申請ラグを調査しました。その結果、国際共同治験への参加と同時申請は申請ラグの短縮に有効であることが示唆され、これらがいっそう進むことで申請ラグの解消につながることが期待されることが示されました。小児適応の開発については、特定用途医薬品の対象となったことおよび成人効能の再審査期間延長で小児開発を早期計画・実行することとなったことにより、小児を対象とした医薬品開発の加速につながっていくのか、継続して調査していく旨が示されました。

北條杏季委員らからは、「日本製薬工業協会薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況 ~Global開発実施状況からの考察~」をテーマに、“製薬協薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況について”、“より効率的なグローバル開発ストラテジーについて”および“2018年6月に実装された「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則」ガイドライン(ICH E17)を踏まえた本邦での開発のあり方について”に着目した検討結果が示されました。開発プロジェクト数1028件における分析を行った結果、2020年までの傾向と同様に抗悪性腫瘍薬のプロジェクトの割合が多く、全体で45%、外資では49%、内資では37%でした。また、ICH E17の実装が各国で進んではいるものの、併合戦略への取り組みは依然として普及しておらず、その要因として、併合戦略の妥当性を示すエビデンス構築が最大の課題と考えられ、今後も併合戦略における課題について引き続き注視し、より効率的で質よくスピーディなグローバル開発推進に向けて検討を継続していきたいこと等が示されました。

杉原正委員らは、「医薬品医療機器総合機構が行う対面助言の現状および企業の現状認識に係るアンケート」をテーマに、製薬協薬事委員会加盟会社が2019年10月から2020年9月に実施した対面助言の現状認識および要望を調査しました。その結果、対面助言実施件数は537件であり、満足度は前回調査と同様に高く、コロナ禍での対応や相談形態の変更による大きな影響は認められませんでした。コロナ禍で開始されたWeb会議形式での対面助言について、メリットがあったと考えている会社が多いことから、コロナ終息後も会議形式はフレキシブルに選択できると利用者の利便性が高まる可能性があることが示されました。本発表は、第11回優秀ポスター賞を受賞しました。

清水目梢委員らは、「製品ライフサイクルにおける承認書製造方法欄の記載内容の変更について—ICH Q12の実装も見据えて—」をテーマに、ICH Q12の国内実装を視野に、高い品質の医薬品を安定的に継続供給するための品質リスクマネジメントを含む頑健な品質管理システム(主にPQS)を構築したうえでの製造管理および品質管理に着目して、PQS活動を基にした承認書記載内容の検討を行いました。その結果、承認書の工程管理における残留溶媒の削除は、PQS結果がその根拠として有用であること、および想定される変更案件の事例の多くは、一部変更承認申請が必要であり、それがPQS結果に基づく承認書記載内容を見直すハードルとなっていることがわかりました。規制当局との相談制度を拡充することで薬事手続きの効率化に寄与するものと考えられる旨が示されました。

最後に

本年の学術大会は、新型コロナウイルス感染症の対策のため、初めてWeb開催となりましたが、学会員からの最新の知見を披露いただく機会を作ることが重要との考えのもと、事務局をはじめ関係者の方々のご尽力により開催されました。対面によるコミュニケーションは取れませんでしたが、パソコン等の機器と通信環境があればどこからでも参加でき、Q&A機能を用いて講師に気軽に質問することが可能となりました。また、学術大会終了後に一定期間オンデマンド配信することにより、同時間の複数演題の聴講を可能にするなど、新たな試みがなされました。

レギュラトリーサイエンス学会は設立から11年が経過し、会員数も1000名を超え、当初の目的である産学官の連携も進んできました。今回のテーマである「社会実装を加速するレギュラトリーサイエンス」の通り、シンポジウムや一般演題では、レギュラトリーサイエンスの定義に言及する演題はなく、現在、存在している課題にどのように対応するかという、まさに社会実装のためにレギュラトリーサイエンスを活用し、産学官でさまざまな角度から幅広い議論が行われました。今後、レギュラトリーサイエンスのさらなる発展とともに本学会の活動がますます活発になっていくことが期待されます。

(薬事委員会 高山 裕典、小林 正次

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