トピックス 「製薬協メディアフォーラム」を開催 新型コロナウイルスパンデミックで再認識された薬剤耐性(AMR)に対する新規抗菌薬の必要性 新型コロナウイルスパンデミックで再認識された薬剤耐性(AMR)に対する新規抗菌薬の必要性

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日本における薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、AMR)に対する新規抗菌薬開発を促進する施策の実現に向けて、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会では、AMRにかかわる諸問題と対策について広く国民のみなさんにご理解いただくための活動に取り組んでいます。2021年4月21日、AMRの脅威および新規抗菌薬開発の現況・課題に加え、AMR治療薬開発を促進するためのプル型インセンティブ導入の必要性をテーマとして、メディアを対象とした「製薬協メディアフォーラム」を室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)およびWeb配信にて開催しました。

フォーラムの様子

本フォーラムでは、感染症学の第一人者である国際医療福祉大学医学部教授の松本哲哉氏、東邦大学医学部教授の舘田一博氏を招き、「新型コロナウイルスパンデミックで再認識されたAMRの脅威」「AMRに対する新規抗菌薬の必要性と対策」について講演が行われました。その後のQ&Aセッションでは、コーディネーターに特定非営利活動法人日本医療政策機構マネージャーの柴田倫人氏を招き、活発な質疑応答と合わせ、本フォーラムを通じて薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、AMR)に対する新規抗菌薬の必要性についてメディアの方々に理解を深めていただきました。

講演1 「新型コロナウイルスパンデミックで再認識されたAMRの脅威」

国際医療福祉大学医学部 教授 松本 哲哉

本講演では、薬剤耐性菌について、その種類と感染拡大イメージ、保菌者の特徴、最も大きな課題、将来予測等について、新型コロナウイルスと比較しながら、わかりやすく説明されました(図1)。それに加えて、「薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、AMR)対策アクションプラン」等の日本で実施されている対策と、その進捗状況およびグローバルでの耐性菌の広がりとその要因について報告があり、ヒトのみならず動物や環境等に対するワンヘルスアプローチの重要性、国内のみならず世界で団結して取り組みを進めることの重要性が述べられました。

図1 新型コロナウイルスと耐性菌(流行)

講演の中で、世界中で多くの人が耐性菌による感染症が原因で亡くなっており、さらに今後拡大が予測されていることが大きな問題として取り上げられました。また、東南アジアのある国では抗菌薬が医師の処方箋なしに薬局等で自由に入手できる状況であること(図2)や、ペット、家畜や魚でも広く耐性菌が確認されており、グローバルかつ人獣で共通して取り組むべき深刻なテーマであり、今後、海外との行き来の再開・増加に伴い、日本では未確認あるいは稀な耐性菌が持ち込まれるリスクがあることが紹介されました。

図2 医師の処方によらない抗菌薬の使用頻度

感染症は、ワクチン等により感染者数は減らせても、治療薬なしには患者さんを助けることはできません。改めて、感染症に対する薬がないことの恐ろしさを認識するとともに、今後見込まれる耐性菌の問題に対し、深刻化する前に戦略を立て積極的に準備を進めることの重要性が示されました。

講演2 「AMRに対する新規抗菌薬の必要性と対策」

東邦大学医学部 教授 舘田 一博

本講演では、世界各国で耐性菌の脅威への対策が迫られている中、製薬企業が新しい抗菌薬の開発に投資できない理由について、慢性疾患の薬剤等と比較し説明がありました(図3)。また、新規抗菌薬の開発に向けて他国で取り入れられているプッシュ型とプル型インセンティブの事例(図4)や、製薬業界等により設立されたファンド等について紹介し、今後の日本でのプル型インセンティブ制度導入の必要性、抗菌薬・創薬促進に求められる方向性についての見解が述べられました。

図3 製薬企業はビジネスの原理で動いています

図4 抗菌薬研究開発におけるプッシュ型とプル型インセンティブ

耐性菌の問題は、今後確実に人類への脅威となることが見込まれる中、国によってはいまだ抗菌薬の適正使用を守ることができない状況にあり、医療のみならず経済等の社会課題と合わせて世界が連携して解決に向け取り組む必要性があります。日本はこれまで世界標準となる抗菌薬を多数生み出し、大きな経済効果を生み出した事実があるにもかかわらず、多くの製薬企業がその領域から撤退し、知識や経験が継承されなくなっています。米国等では、国としての抗菌薬開発を促進する複数の施策により成果を上げはじめています。耐性菌の問題は健康危機の問題であり、静かに進行するパンデミックといわれています。日本においても国の危機管理として、診断法確立と合わせて新規抗菌薬の創製を促進するための一つの施策として、販売後の適正使用と利益確保の両者を可能にするプル型インセンティブ制度の早期導入が必要であることが認識されました。

Q&Aセッション

コーディネーター 特定非営利活動法人日本医療政策機構 マネージャー 柴田 倫人 氏

Q&Aセッションでは、会場に参加したメディアのみなさんから多くの質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われました。AMRに対する一般的な知識として、感染メカニズム、感染経路のほか、新型コロナウイルス感染症との混合感染の可能性とその危険性等について質問があり、回答として「世界的には市中感染型の耐性菌が増えてきている。幸い日本はその数は少ないが、徐々に進行している。オリンピック等で海外からの持ち込み、その後の拡大も懸念される。また、新型コロナウイルス感染症との混合感染の可能性もあり、新型コロナウイルス感染症回復後に肺炎を繰り返す場合に問題となる可能性がある」との指摘があり、AMRの脅威と対応の難しさが改めて示されました。

また、2020年に終了している政府の「AMR対策アクションプラン」の、その後の改訂版に関する質問に対し、舘田氏より「公表の時期はわからないが、策定の必要性は政府もわかっている。ただし、現在は新型コロナウイルス感染症への対応で手いっぱいの状態だ」と、現在の状況に理解を求めました。さらに、AMR治療薬開発におけるプル型インセンティブの実現性に関する質問に対し、「重要なイベントは、2021年に英国で開催されるG7。2022年はドイツ、2023年は日本で開催される。これらの中で、プル型インセンティブの必要性に関する議論が深まっていくと思われる」と今後の政府のAMR対策への進展に対する期待が述べられました。

本セミナーを通して、松本氏、舘田氏ともに、AMRに対する新規抗菌薬の開発促進は市場原理で企業が単独に進めることはできないとし、新型コロナウイルスワクチン開発も同様に、これまで国の感染症に対する危機意識が薄かったことが、諸外国の対応に比べ劣後している原因と指摘しました。また、感染症の専門家は産学とも減ってきており、AMRを含む感染症対策は安全保障の問題として国を挙げて取り組むことが急務であることを強調しました。

Q&Aセッションの様子

結び

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの経験により、感染症に対する治療薬やワクチンの創出・開発は、人々の生命や健康を守るために製薬企業ができる大きな貢献であることが再認識されました。ただし、そのためには、平時より備える必要があると考えられます。特に、AMRは将来予測される大きな危機の一つですが、対応すべき原因菌が明確なため、産学官が連携して、喫緊に国を挙げて取り組みを強化していくべきであろうと考えます。

製薬協では、2016年より「薬剤耐性(AMR)対策推進国民啓発会議」の要請に応え、AMR対策の普及啓発を目的とした活動を幅広く行ってきました。また、2020年6月に「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言—新型コロナウイルス感染症発生を契機として—」を取りまとめました※1。製薬協もメンバーである日経・FT感染症会議/アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアムのもとに設置されたAMR部会は、政策提言「抗菌薬市場におけるプル型インセンティブ制度の導入に向けて」を2021年3月に公表しました※2。これらの提言のもと、製薬協は、プル型インセンティブの付与、国際的枠組みの制度整備等、AMR問題への取り組み強化を国に対して求めるアドボカシーを行っています。

今回のセミナーを通じて、メディアのみなさんには、AMR問題の現状、新規抗菌薬の開発の必要性、課題等について広く理解いただくことができたと考えます。われわれは、今後も本問題の取り組み強化に向けて、さまざまな活動を進めていく予定です。

(国際委員会 グローバルヘルス部会 粟村 眞一朗、中野 今日子

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