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「第10回 APAC(アジア製薬団体連携会議)」を開催
—ミッション:革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける—
テーマは「COVID-19の克服、そしてアジアにおける新たな革新への挑戦の10年に向けて」
2012年より開催しているアジア製薬団体連携会議(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations、APAC)は、2021年で10回目を迎えました。第9回 APACは新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で中止せざるを得ませんでしたが、第10回はWeb開催を念頭に準備を進め、700名を超える視聴者の参加を得て2021年4月13日にオンライン形式にて開催しました。今回初めてAccess To Innovative Medicines(ATIM)セッションにE-labelingを取り上げ、また新型コロナウイルス感染症を踏まえた討議が各セッションで活発に行われる等、従来にも増して時宜に沿った会議となりました。Web開催によるAPACカンファレンスの各セッション概要をご紹介します。
アジア製薬団体連携会議(APAC)カンファレンスの発表資料をウェブサイトに掲載しています。興味をおもちの方はぜひこちらもご参照ください。
挨拶と祝辞
プログラム冒頭の開会挨拶では、製薬協の中山讓治会長(当時)より、これまでの足跡をたどって合意事項や達成事項の紹介と、第10回 APACのテーマ「COVID-19の克服、そしてアジアにおける新たな革新への挑戦の10年に向けて」に沿ったディスカッションへの期待、さらに規制当局・アカデミアのみなさんの協力に謝意を述べました。続いて、国際製薬団体連合会(IFPMA)理事長のトーマス・クエニ氏からビデオによる祝辞があり、IFPMAの新型コロナウイルスに対する取り組みについて詳細を話しました。
基調講演
基調講演では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏から、新型コロナウイルスに対するPMDAの取り組みと国際協力について紹介がありました。まず、アジア太平洋経済協力会議(APEC)Regulatory Harmonization Steering Committee(RHSC)が定める7つの優先作業領域のうち、多国間臨床試験/GCPインスペクション、優良登録規範(GRM)、医療機器の3つのCenter of Excellence(CoE)について言及し、PMDAアジアトレーニングセンターがアジアを含むAPECメンバーエコノミーに2016年に教育・トレーニング活動を開始して以来、各領域の規制調和に貢献してきており、2019年に策定された国家医療戦略のグランドデザインの目標にも設定されていると説明しました。
新型コロナウイルスについては、PMDAが2020年10月に、無料で利用できる「新型コロナウイルス感染症ワクチン戦略相談」を新たに設置したことや、rolling review(逐次審査)を活用する等、新型コロナウイルス関連製品の実用化に向けて最優先で対応した結果、特例承認制度を用いて米国で2020年5月1日に緊急時使用許可を受けたレムデシビルを1週間でスピード審査し、5月7日には国内承認を与えたこと等の取り組みを紹介しました。続いて、国際的には各規制当局長官級メンバーで構成される薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)において、新型コロナウイルス関連の製品開発における規制上の懸念点等について行う議論に参加していることも紹介されました。アジア各国・エコノミーとAPAC開催に併せた二国間協議やシンポジウムを開催する等、「Team Asia」としてアジア規制調和に積極的に取り組むPMDAの考えを改めて確認することができました。
RA(規制・許認可)セッション
その後、5つのセッションに移りました。藤原氏の基調講演における、日本と世界の新型コロナウイルスに関連した規制のアップデートについての流れを受け、最初にRAセッションが口火を切りました。RAセッションでは、シンガポールよりDuke- NUS Medical School教授のJohn Lim氏が、パンデミック前の規制トレンドや、コロナ禍中の対応について総括し、デジタルヘルスを例として、10年後に向けた規制トレンドと、新型コロナ感染症収束後のニューノーマル(デジタルヘルスと俊敏な審査要件としての7つのT)について俯瞰しました。
その後、アジアの規制当局関係者を招き、「COVID-19禍における新薬審査に対しての取り組み」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。各国の事例が挙げられ、まず台湾FDAからは、2013年にPMDAとの協力体制を構築して以来、年次総会やワーキンググループ活動を実施し、2019年には双方が新薬承認審査の審査・承認の協力を推進するポジションペーパーを発行したこと、その結果としてポジションペーパーに基づく審査実施完了例が2件、審査実施中が3件あることが紹介されました。
PMDAからは、今回の新型コロナウイルスで藤原氏が副議長を務めるICMRAが重要な役割を果たし、多くのワークショップが開催され、各国の規制当局間で有用な情報交換が行われたことが説明されました。信頼関係構築に基づいた当局間の取り組みの優先度を上げることで、規制監視活動が効率的・効果的に進み、緊急事態宣言下で必須品目へのアクセスが迅速になることが期待されます。
マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)からは、2020年末に導入した条件付き医薬品迅速審査制度の対象に新型コロナウイルスワクチンも含まれること、ローリング申請も可能であること、120日営業日の優先審査となることが報告されました。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)同盟間での協力による信頼醸成、各国の技術能力強化およびタイムリーで効率的な審査業務確立を目的としたプラットフォームであるASEAN Joint Assessment Coordination Group(JACG)の取り組みも紹介されました。
そして、中国メンバーの中国研究開発製薬企業協会(RDPAC)は、中国国家薬品監督管理局(NMPA)によるCOVID-19対応の成果として、緊急承認制度が新型コロナウイルスワクチン開発で適用されたこと、e-CPP受理、リモート査察、分散型臨床試験等も実施されたことを報告しました。さらに、コロナ禍でも、2020年7月の医薬品登録法(DRR)を筆頭に関連規制を多数発出し、規制改革を推進している状況について説明しました。今後、ICH規制調和と信頼醸成がいっそう促進されていくと期待していると話しました。
セッションの最後に、アジアの規制当局が機動的な薬事対応(Regulatory Agility)を発揮した「薬事規制のニューノーマル」の重要性を強く認識し、新型コロナウイルス収束後も継続されることを、APACとして最善を尽くして支援することが確認されました。
ATIMセッション-1
E-labeling
第2セッションは、今回より新たに取り上げる「E-labeling」をテーマとしたATIMセッション-1です。
日本では医薬品医療機器等法(PMD ACT)が改正され、2021年8月1日以降、添付文書は基本的に電子的に提供されることとなり、包装に義務化したコード(GS1コード)を印刷し、スキャンして添付文書を見ることになります。PMDAの栗原彩華氏より、上記を踏まえて「添付文書の電子化 5つのベネフィット」として、Accessibility(情報へのアクセスの容易さ)、Efficiency(効率性)、Ecological(環境保護)、Searchability(検索が容易になること)、Arrangeability(変更・アレンジの簡単さ)について、わかりやすく解説がありました。また、日本の添付文書の英訳作業も進められている中、E-labelingの導入等により、将来的には、最新の日本の審査報告書や添付文書、患者ガイド等の情報が、日本語のみならず英語でもPMDAのウェブサイトに掲載されるようになれば、世界中からのアクセスが可能になり、日本での承認審査結果が他国の承認審査過程で活用され、審査が簡略化される可能性もあると示唆しました。
台湾FDAのPo-Wen Yang氏は、2006年から取り組んできたDrug license online search system(医薬品承認のオンライン検索システム)の経験に基づき、今後はユーザーフレンドリーなインターフェースとオープンデータのE-labelingの構造を使用可能にするために、XMLフォーマットの標準を設定・リリースしていく予定を述べました。また、シンガポール健康科学庁(HSA)のMark Wong氏は、これまでのさまざまなステークホルダーからの意見・アドバイスを紹介したうえで、「2021年3月時点で合計270製品がE-labelingとなっており、大半が二次元バーコードで企業のホームページからラベリングを見ることができる。大半の医療従事者はこのようなイニシアティブを歓迎する」と述べました。E-labelingの要件についてのドラフトガイダンスも2021年4月には完成予定で、今後の動向にも関心が寄せられています。ベトナム保健省医薬品管理局(DAV)のNguyen Thanh Lam氏は、国内でも関心が高く、どのような形で今後進めていくか、将来のE-labelingの状況について情報提供している状況を説明しました。
その後の登壇者を交えた討論では、各国の課題を洗い出すことで視聴者を含む会議参加者の参考になったほか、アジア地域での連携の可能性についても議論を行いました。アジア地域での共通点、利点、課題を各エコノミーの知識と共有し、アジア地域でE-labelingを実践していくことと、より広い選択を示し、今後のよりよい選択につなげるためのポジションペーパーが必要であることについて言及されました。
共同議長であるPMDAの佐藤淳子氏より、当日参加していないほかのアジア諸国や世界の状況について調査を進めたうえで、青写真(ロードマップ)を作成していくことが提案され、セッションが終了しました。
ATIMセッション-2
生物学的同等性試験免除(バイオウェーバー)
セッション開始にあたり、製薬協品質委員会の仲川知則委員から、第8回 APACで提案したポジションペーパーについて、新型コロナウイルス感染拡大の影響を加えて改訂したこと、これまでのATIMタスクフォースの活動経緯をまとめたこと、および本セッションで協議する承認後変更管理におけるバイオウェーバーについての背景と提案内容について説明がありました。その後、モデレーターを務めるPMDAの栗林亮佑氏が、2020年3月に改訂となった日本の「生物学的同等性試験ガイドライン」の概要およびバイオウェーバーの状況について解説しました。続いてインドネシア、台湾の状況について、それぞれ食品医薬品監督庁(BPOM)のRizka Andalucia氏、台湾FDAのChien-Liang Lin氏が概要を説明した後、パネルディスカッションを行いました。
そこでは、バイオウェーバーに関する各エコノミー間のガイダンスの微細な違いを埋めるため、ICH M9に準拠して試験免除を進めるうえでの課題、膜透過評価にin vitro評価を取り入れる場合の課題、科学に基づき評価しリスクのあるヒトでのバイオウェーバーを進めることに対する意見を登壇者が述べ、ICH M9にあるBiopharmaceutics Classification System(BCS)に基づくバイオウェーバーを進めていくことをインドネシア、台湾、日本の間で合意しました。
DA(創薬連携)セッション
創薬連携Expert Working Group(EWG)は、2013年より創薬シーズに関する情報共有、創薬連携プラットフォームの構築、ならびに若手研究者の人材教育に取り組んできている中、第10回APACではアジアの創薬シーズネットワーク(Drug Seeds Alliance Network in Asia、DSANA)とAPAC天然物創薬コンソーシアム(APAC Natural Product Drug Discovery Consortium、ANPDC)の2つの施策の状況について報告しました。
大阪商工会議所が、日本国内での革新的医薬品創出に係る研究開発活動を創出するためのプログラムとして展開している、創薬シーズ・基盤技術アライアンスネットワーク(Drug Seeds Alliance Network Japan、DSANJ)のコンセプトを参考に、アジア版との位置づけで開始したDSANAのパイロット的な取り組みとして、台湾のアカデミアおよびバイオベンチャー企業と日本の製薬企業のマッチングイベント(D-Bio)を2015年から開始しました。オンライン面談方式としては初めて、2021年1月27日から3日間にわたり開催されたD-Bioには、台湾から6社、日本から多数の参加がありました。台湾からの提案案件数、提案者数、面談数は飛躍的に増加したものの、提案内容は玉石混交といった印象だったので、今後は提案内容の質を担保して、日本の製薬企業への魅力を高めることが必要と考えられること、今後アジア諸国全体へこのシステムを拡大していきたい旨を、台湾Development Center for Biotechnology(DCB)所長のChi Wei-Kuang氏より報告しました。
2018年10月にタイ、台湾、日本の3ヵ国で連携覚書を締結・発足したANPDCは、2019年にはタイの依存性薬物専門家委員会(Excellent Center for Drug Discovery、ECDD)と武田薬品工業の間でインターンシップを開始しました。ECDDより派遣されたPhongthon Kanjanasirirat氏に対し、ハイスループットスクリーニング(HTS)とiPS細胞を用いたスクリーニング系の技術移転を実施し、運動神経の細胞死検査についての試験方法の技術を学んでタイへ持ち帰ってもらいました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬の開発を目的に、そのスクリーニング系をタイで立ち上げて再現性を確認した後スクリーニングを実施し、EC50が0.1μM未満でヒット化合物を検索したところ、1つの天然物と2つの合成化合物を見出すことができました。CEllular Thermal Shift Assay(CETSA)系を用いてヒット化合物の標的タンパク質の特定についても検討し、2021年8月?9月にはターゲット同定が終わる見込みで、その後、武田薬品工業で薬理評価や安全性評価を行う予定とのことです。
また、2020年2月~4月にはタイ・マヒドン大学シリラ病院よりSupawan Jamnongsong氏が武田薬品工業に派遣され、iPS細胞を神経前駆細胞へ分化させて大脳皮質細胞を得る技術の習得と、Macropinocytosisアッセイの方法を学びました。タイに帰国後、シリラ病院でスクリーニング系を立ち上げ、チュラロンコン大学とタイ遺伝子工学バイオテクノロジーセンター(BIOTEC)から提供された2588個もの化合物をECDDの天然物ライブラリーを用いてスクリーニングしたところ、8個のヒット化合物を特定することに成功しました。次のステップでは、用量反応曲線を用いて2次スクリーニングを行い、細胞毒性がないことを確認します。
一方、BIOTECとエーザイとのコラボレーションでは、新型コロナウイルスの影響によりオンライン会議を活用したインターンシップを実施し、スクリーニング系の技術移管、クルード抽出物ライブラリーの構築、メディシナル・ケミストリーについての学習が終了しており、今後の技術移管によってスクリーニング系構築の検討とヒット化合物の選別方法習得後、TBRC(BIOTEC内のバイオリソース研究センター)の真菌由来のデータベース等を用いた微生物由来化合物のスクリーニングを、BIOTECで実施していきたいと考えています。
以上、順調な進捗が見られる2つのプロジェクトに加え、今後は感染症、プレシジョンメディシン、高齢化社会、デジタルメディシン等への対応を踏まえた将来の創薬トレンドを考慮しながら、DA-EWGとしての活動戦略をアップデートしていく予定です。
VBH(価値に基づく医療)セッション
Re-Creation of Healthcare by the power of digital technology
本APACで3回目となるVBHセッションは、新型コロナウイルス感染症が持続可能性に影をもたらした一方で、遠隔医療が促進されたことにより、従来医療へのアクセスが困難だった人に新たにベネフィットももたらしている現状を俯瞰したうえで、APAC運営責任者の大塚具幸氏より「デジタルのパワーをアジアにおけるVBHの実現に向けてどのように活用するかについて議論したい」との開会挨拶により始まりました。
セッションでは、4つのプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました。
まず、BAIN & COMPANY(シンガポール)のVikram Kapur氏は、アジアではパンデミック禍でデジタルヘルスが一気に活性化し、デジタルヘルスがヘルスケアのバリューチェーン全体で対面サービスへのトリアージのポイントになりつつある現状と、ほとんどの医療相談内容はデジタルヘルス・プラットフォームで処理可能になることにより、アジア太平洋地域の医療コスト上昇曲線を抑制する解決策となる可能性を指摘しました。
続くチュラロンコン大学教授のJiruth Sriratanaban氏は、2002年にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成したタイでは、増加する医療費が課題となる中、制度充実に向けた構想としてSAFE 4分野(Sustainability, Adequacy, Fairness, Efficiency)への取り組みを掲げていること、VBHがSAFEへの取り組み手段として位置づけられ、具体的施策に落とし込まれている状況について解説しました。その一つは戦略的購買であり、なにを買うか、どう買うか、どう支払うかという視座から、さまざまな施策を紹介しています。しかし、VBHを費用抑制にのみ用いているわけではなく、National Health Reform Plan を進めるうえでの戦略の一つとして捉えていて、母子健康問題に関する医療、緩和ケア、個別健康データといった分野での応用も紹介されました。
また、アジア開発銀行のEduardo Banzon氏からも、UHC達成に向けての価値に基づく資金融資という視点からプレゼンテーションがあり、アジアの多くが患者さんの医療アクセスを担保することに取り組んでいる中で注力すべき課題として、政府による購買の強化、人口の多くを保険でカバーすること、医療提供者への支払方法をボリュームベースからアウトカムに基づいたバリューベースの支払いに移行する(医療技術評価(HTA)の適用等)等の必要があると述べました。これは、今後アジアでは高齢化が進展するため、bundled paymentといったVBHに軸足を置いていく必要があるということです。そしてVBHを促進する鍵がデジタルヘルスであると述べています。
前・厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏は、パンデミック禍の日本と世界の現状を俯瞰し、課題と対応策を論じる中で、ビッグデータ活用とデジタルトランスフォーメーションによるデータ駆動型ヘルスケアシステムの必要性を述べました。これらのモダリティは、医療資源の半分を消費する生活習慣病に親和性が高いこと、重労働にある医療現場の生産性向上への貢献が期待できること、医療の冗長部分(重複やギャップ等)解消に役立つこと等を指摘しています。
最後に、キューバ危機にあった米国・ケネディ大統領(当時)の言葉を引用し、「"危機"がリスク(危)であるとともにチャンス(機)である」という印象深い話もありました。
その後、元・厚生労働省医政局長でボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・アドバイザーの武田俊彦氏をモデレーターとするパネルディスカッションが行われ、(1)持続可能なヘルスケアシステムの構築、(2)新型コロナウイルスにより明らかになったヘルスケアシステムの新たな課題の2テーマについて、パネリストよりコメントを求めました。
テーマ(1)では、Eduardo Banzon氏が「アジア太平洋地域の多くの国においてはプライマリーケアが脆弱で、自己負担の国が多く民間保険に依存する部分がある一方で、医療システムが組織化された先進国を見ると、政府による調達がなされている。経済的便益があるプライマリーケアに効果的に投資することが重要であり、そのためには政府による購入を強化し、償還・支払方式も整備していく必要がある。民間に任せるのであれば、民間と医療提供者がプライマリーケアを提供するインセンティブを整備する必要がある」と述べました。
テーマ(2)ではVikram Kapur氏が「治療体験の面からのオフライン診療とオンライン診療のシームレスな統合の重要性」、製薬協の岡田安史副会長(当時)は「政府には電子カルテデータのような医療ビッグデータの標準化、統合・構造化を要望しているが、高品質の医療データを収集する国民的合意も必要である」、鈴木氏からはアジア各国で共有すべき教訓として、「(1)プロバイダー視点でスタートしない(税徴収システムとして1970年代にビッグデータ・プログラムを開始したが、強い反対に直面し世論も好意的ではなく奏功しなかった)、(2)過度のプライバシー保護は合意取得のプロセスを遅延させるので、イノベーション促進の観点からはバランスが必要、(3)患者情報の合理性のない開示へのペナルティについては、合法と非合法の線引きの明確化が必要」等のコメントがありました。
セッションの最後に、岡田副会長は「製薬産業にはイノベーション創出により、国民の健康寿命延伸と経済成長に寄与し、サイエンスの発展への好循環を生み出していく使命がある。VBHの実現に向け、製薬産業は医療のアウトカムを高める革新的新薬やヘルスケアソリューションの創出に今後も尽力する。また、国境を越えた積極的な協業を推進し、政府やアカデミアと協力する。APACの13の団体の結束のもと、持続可能なヘルスケアシステムの実現に向け協力していく」と述べました。
閉会にあたって
製薬協の安川健司副会長が、閉会にあたり1日のセッションを総括しました。
過去、パンデミックはライフスタイルを大きく変え、世界の変化を加速してきました。今回も、新型コロナウイルスのワクチン開発で、1年前には臨床試験前だった化合物が、1年以内にGMPレベルの製造を商業規模にまで拡大し、大規模な臨床試験と申請準備が完了できたことは驚くべき変化であると述べ、同様のことはほかの治療領域にも将来大いに起こり得るだろうと指摘しました。最後に、「イノベーティブな医薬品をより早く、より安く、待ち望むアジアの患者さんへ届けるために、産業界のみなさんが、AIや遺伝子改変技術等、あらゆる種類の新技術を活用して研究開発活動を加速するべきであり、規制面としてはよりオープンマインドで柔軟な対応をお願いしたい」として、第10回 APACカンファレンスを締めくくりました。
(国際連携部長 松岡 和治)