トップニュース 「製薬協会長記者会見」を開催

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2021年3月23日、日本橋ライフサイエンスハブ(東京都中央区)にて、「製薬協会長記者会見」を開催しました。製薬協の中山讓治会長から、「製薬協 政策提言2021」等について説明を行うとともに、今回の会見には42名の報道関係者の参加(会場参加22名、Web配信視聴20名)があり、当日は活発に質疑が交わされました。

記者会見の全景

製薬協の中山讓治会長は、「製薬産業における産業政策の必要性」および「製薬協 政策提言2021」について説明しました。本ニューズレターにおいて、その要旨を紹介します。

Ⅰ.「製薬産業における産業政策の必要性」の要旨

先日、自由民主党・社会保障制度調査会のもとに設置された「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム」において説明した内容をご紹介します。

我が国における新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発状況は、現時点で承認されている1製品、申請されている2製品はすべて海外で開発されたものです。国内外のワクチン開発の差は、開発のスタート時期の差による結果です。日本において承認もしくは申請された3製品については、5~10年前から別の感染症への適用を目指し、本格的に新技術の開発が進められていたものです。米国は、バイオテロに対する安全保障として、平時から、国内外の新技術に積極的に投資を行って来ました。今回の新型コロナウイルス発生を受けて、それらを転用することで、ワクチンのスピーディーな開発が実現しました。

COVID-19収束と今後やってくる新たな感染症対策強化として、平時からの感染症対策の推進が必要であると考えております。さらに、国産のワクチン・治療薬の創出のためには、国内製薬産業の健全な成長が不可欠であり、製薬産業を国の基盤産業・基幹産業と位置付け、産業政策を推進することが必要であると考えます。

今、日本はDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、「Society 5.0」「データ駆動型社会」の実現に向けて進もうとしています。ポストコロナの経済復興を担う分野として、デジタル、グリーンに加えてライフサイエンス分野をぜひとも掲げるべきではないかと考えております。

医薬品はライフサイエンス分野の中核であり、世界の医薬品市場はここ15年で2倍以上に成長しています。一方、日本市場の伸びは小さく、ここ15年、市場のシェアは縮小を続けている状況です。将来にわたって成長が期待できる医薬品分野において、日本企業が国際競争力を強化しグローバルに成長することで、日本経済を牽引できる存在感のある産業となることを目指したいと考えております。

産業政策を推進するうえで、日本国内の医薬品市場の魅力も大きな要素の一つであると考えております。我が国においては、少子高齢化が進む中、国民の健康寿命を延伸し、国民全体の生産性を向上させる必要性が指摘されております。健康寿命の延伸のためには、患者さんに革新的新薬が早期に届くことが重要であり、これを実現するためには、革新的新薬が適切に評価される市場、すなわち日本の医薬品市場が世界の中で魅力ある市場、欧米先進国に見劣りしない市場であることが不可欠です。欧米先進国に見劣りしない市場となれば、製薬企業の日本における事業活動の活性化が期待でき、新薬の早期市場投入により国民が早期にアクセス可能となります。さらに、患者さんの早期社会復帰等により、支え手が増え、社会保障制の安定化にもつながるという好循環の実現が期待できます。

製薬協 中山 讓治 会長

II. 「製薬協 政策提言2021」の要旨

(1)政策提言2021「イノベーション創出に向けた環境整備」について

医療分野のDXは製薬産業のみならず、社会全体に大きな利益をもたらす力をもっています。医療情報や、日常生活から得られる健康データ、さらにはゲノムデータを用いて研究や開発を行うことで、個人に合った治療法を生み出し、患者さんのQOLの向上や健康寿命の延伸が実現できるようになります。製薬企業においては医薬品開発のスピードアップや成功確率の向上、開発コスト低減が可能となります。ひいては、医療コストの効率化にもつながります。

医療分野のDXを進めるには、まず健康医療データ基盤構築が非常に重要です。電子カルテを含む健康医療データの標準化・精緻化・構造化、そして医療分野IDを用いてデータの連結・統合に向けた取り組みを加速・強化する必要があります。また、医薬品の研究・開発・安全性監視に特化したデータベースの構築や、セキュリティと利便性を両立する技術開発、そして国民の理解と協力が得られる仕組みづくりが重要だと考えます。

また、データを利活用するためにも、レギュラトリーサイエンスの推進、異業種連携を推進する基盤づくりや、データサイエンティスト、特にゲノムやオミックス解析を行うためのバイオインフォマティシャンの育成強化が必要です。

次に政府が推進している、がんと難病の全ゲノム解析等実行計画です。この取り組みは、ゲノムデータを患者さんの治療に役立てるとともに、創薬にも活用できるデータを蓄積する一大国家プロジェクトであり、製薬協としても大変期待を寄せ、これまでも政府に提言をしてまいりました。すでに英国ではGenomics Englandという取り組みを日本に8年先行して進めています。スピード感をもってゲノム解析関連事業を実現するには強力な推進組織が必要です。戦略的に推進する計画を立案し、事業運営の責任を持つ、国の推進体制を整備いただきたいと考えております。

健康医療ビッグデータの利活用にはデータ基盤の構築とともに法制度等の環境整備が極めて重要です。現行の個人情報保護法や次世代医療基盤法では、DXやゲノム医療の新時代に十分に対応できません。「個人の権利と利益の保護」と「新たな産業の創出ならびに活力ある経済社会および豊かな国民生活の実現」を両立する環境整備が必要です。そのために、医療分野の仮名化データの利活用を可能とする環境整備等が必要と考えます。

次に、「産学官連携で推進する最先端の研究や技術の高度化」についてです。

1つ目が、超高磁場核磁気共鳴装置(Nuclear Magnetic Resonance、NMR)の整備です。タンパク質の構造を極めて高精度に解析できるもので、海外では導入計画が進められていますが、残念ながら日本には計画が存在しません。こちらをアカデミアの施設に設置し、産学連携で活用させていただきたいというものです。

2つ目が、RNA創薬です。こちらは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)事業として計画されています。この事業を実現、推進し、RNA創薬を日本で実現したいというものです。

最後が、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)です。核酸や中・高分子等、新たなモダリティ研究を進めるためには、薬効成分を必要な時間に、必要な量を必要な組織に狙い通りに届けるDDSの技術開発が必要不可欠です。こちらについては、まず業界内の協業から開始するとともに、ステークホルダーとの協議を進めた後、産学官連携によって非競争領域における高度なDDS技術の開発を目指したいと考えております。

これらの取り組みを、政府やアカデミアのみなさんのご理解をいただきながら、産学官一体で推進してまいりたいと考えております。

(2)政策提言2021「イノベーションの推進と国民皆保険の持続性の両立」について

高齢化が急速に進む中、将来にわたって持続可能な医療・社会保障制度を実現するためには、抜本的な改革が必要であり、社会保障制度改革に必要な財源を薬価改定・薬価差に求めるこれまでの手法は、もはや限界であることは明白です。我が国の将来の医療・社会保障のあり方について、国民的な議論を経たうえで、医療システムの改革を推進することが不可欠であると考えます。持続可能な医療保険制度を実現するため、医療の効率化や適正化はもとより、国民皆保険の維持に向け、負担構造や給付範囲の見直し、イノベーションの適切な評価等、バランスの取れた国民の納得感が得られる制度設計が求められます。これらのうち、医療の効率化、適正化には、当然ながら医薬品の適正使用も含まれていますが、これは私ども製薬業界の役割として、従来より推進してきております。

続いて薬価制度の課題について述べます。

新薬の開発は、失敗のリスクが大きく、巨額の研究開発投資を必要とします。そのため、新薬の価格は上市時に適切に決まり、特許期間中は安定的に維持されることで、投資を特許期間中に回収し、回収した原資を新たなイノベーションに投資できることが必須の条件です。そして、特許期間が終了した後は、後発品にその市場を譲ることが、グローバルスタンダードな考え方となります。このように価格の不確実性というリスクファクターが少ないことは、薬価の高低と並んで市場の優位性を考えるうえで、非常に重要な要因となります。

日本においても欧米と肩を並べる魅力的な市場に転換するため、2010年度に新薬創出等加算制度が導入され、それ以降、企業は本制度を基盤に日本での革新的新薬の創出とドラッグラグ問題の解消を推進してきたと言えます。

しかし、特許期間中の薬価の推移を見ると、2010年当時は、特許期間中の薬価は維持される制度でしたが、2018年の抜本改革等により、新薬創出等加算の見直し、再算定の強化、中間年改定の実施等、特許期間中の薬価も大きく引き下げる方向にルールが見直されました。

2021年度に行われた薬価改定は、4大臣合意や「骨太方針2020」から想定される改定内容と著しく異なり、日本の薬価制度の信頼性を毀損するものとなりました。

今後、新薬を含む幅広い品目を対象に毎年薬価が引き下げられることで、特許期間中に回収できる投資原資が大幅に減少することから、日本市場におけるイノベーションの推進に極めて深刻な打撃をあたえ、これからの日本での新薬開発が滞ることが懸念されます。

このような背景のもと、「製薬協 政策提言2021」では、製薬業界として目指す姿を示しています。

まずは、厳しい社会保障財政のもとにあっても、「イノベーションの推進」と「国民皆保険の持続性」が予見性をもって両立できる仕組みが構築されていることが必要です。そして、医薬品がもつ多様な価値や市販後に新たに構築されるエビデンスに基づいた価値が適切に評価される仕組み、その価値を企業が主体的に説明し、国民から高い納得性・信頼性が得られる仕組みを目指したいと考えています。

具体的には2022年度薬価制度改革に向けて、「新薬の評価体系の再編」と「新薬の評価プロセスの改善」の2つを大きな課題に掲げて検討を進めています。そのうち、「新薬の評価体系の再編」については、「医薬品の多様な価値の評価」「類似薬選定の基準見直し」「収載後のイノベーションの評価」の3つを具体的な検討課題として検討を進めています。「新薬の評価体系の再編」と「新薬の評価プロセスの改善」を実現することは、原価計算方式による算定事例の低減や薬価算定のブラックボックス性の解消につながります。今後、「国民にわかりやすい評価システム」を確立し、薬価に関する国民の納得性を高める必要があると考えており、実現に向けた取り組みを加速させたいと考えております。

現行の薬価制度上、効能追加は再算定による薬価引き下げの大きなリスクとなるため、効能追加への開発意欲の低下につながることが懸念されます。薬価収載後に効能を追加することは、患者さんの状態に応じた薬剤治療の選択肢を増やす観点から、医療の質の向上に貢献するものであります。革新性・有用性の高い効能追加を促進していく観点からも、次期薬価制度改革においては、薬価収載後のイノベーション評価の充実についての検討を進め、改善を要望してまいります。

製薬協およびその会員会社は、病に苦しむ患者さんを1人でも多く、1日でも早く救い、患者さんにも、世の中にも、明るい未来が広がるように、これからも全力を尽くしてまいります。そのためには、イノベーションを創出できる環境、イノベーションが適切に評価される環境が必要になりますので、各面のご理解を得られるように努めてまいります。

主な質疑

記者会見における主な質疑は以下の通りです。

質疑応答の様子

Q1 ライフサイエンス分野、特に同分野の中核である医薬品産業の成長期待に関するお話があったが、たとえば中国は同分野に多額の研究開発投資を行っている。中国や米国等に対し、日本の医薬品産業は将来的にどこでアドバンテージをとることができると考えているか?

各国ともライフサイエンス分野は成長性が高いと認識しており、同分野への投資優遇策を導入している。日本も国策として、国内での医薬品の研究開発を促進してもらいたい。米国の医薬品産業におけるエコシステムは高度に回っており、日本は米国等といっそうの連携を図ることにより、医薬品産業を持続的に成長させることができると考えている。

Q2 新型コロナ感染症のような新興・再興感染症への対策として、国内医薬品産業の育成の必要性についてお話があった。特にワクチン産業については、国策として育てていく必要があると思うが、ハードルはなにか?

ワクチンについては、国防として、新しい技術の確立と新技術に対応した国内生産体制を構築していく必要がある。今回、実用化された新型コロナワクチンは、米国等でバイオテロ対策や国家安全保障の観点から、他の感染症対策として投資してきた核酸等の新技術が転用されたものである。日本は技術の進歩がなく、今回、その差が明確になった。日本も平時から、新興・再興感染症に備え、新しいワクチン技術に投資していく必要がある。

Q3 新型コロナウイルス感染症の国産ワクチン開発について、海外ワクチンの実用化が進んでいることから、被験者を集めづらくなり、プラセボ比較の大規模な第3相臨床試験の実施が難しくなっている。第3相臨床試験の実施において、どのような課題があり、それをどう解決していくのか?

確かに開発が遅れると難しくなる面はある。グローバルに実施する必要があるし、変異ウイルスにどう対応していくかという問題もある。一方で、新型コロナウイルスは短期間で収束するのは難しく、第2世代のウイルスに備える必要があるかもしれず、そういう意味で後発組であっても、開発を進め、備えておく必要性は十分あると思う。将来的にはDXを活用して限定的な被験者数でも承認される道ができるかもしれない。また、日本も、米国型の緊急使用許可(EUA)は導入したほうが良いと考えている。

Q4 新型コロナウイルス感染症のワクチン・治療薬の買い取り・国家備蓄の確約に関するお話があった。製薬業界としてもっともな提案だとは思うが、国家が確約することは可能だろうか?海外で事例はあるのか?

厚生労働省には、現在でも早期研究開発段階から、生産体制構築等のための助成をいただいている。他国も同様である。パンデミック等の緊急時は、前倒しで生産体制を構築し、製造を開始しないと対応できない。製造した後、流行が収束したから要らないと言われると、企業としては事業が成り立たない。開発に成功した場合の買い取りや国家備蓄等を国との契約条件に盛り込むといった提案は、リーズナブルだと考えている。近い将来、新型コロナウイルス感染症の第2世代ウイルスや薬剤耐性(AMR)等の他の感染症が流行する可能性は十分あり、国としても将来に備えた適切な投資を行っていく必要があると考える。国民の納得感を得ることは重要と認識している。

(広報委員会 政策PR部会 荻原 浩二

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