トピックス 「2020年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」を開催

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製薬協コード・コンプライアンス推進委員会は、2021年3月12日、「2020年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」をオンライン形式で開催しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2年ぶりの開催となりましたが、会員会社73社からコンプライアンス管理責任者とコンプライアンス実務担当者156名が出席し、表1のプログラムに従って実施され、有意義な会となりました。以下、本会の概要を報告します。

表1 「2020年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」プログラム

開会挨拶

会の開催に先立ち、製薬協コード・コンプライアンス推進委員会の羽田野誠実務委員長は、2020年度の本委員会の基本方針「コード・コンプライアンス推進委員会は、会員会社が関連法令はもとより製薬協コード・オブ・プラクティスをはじめとする自主規範を遵守し、生命関連産業の一員として高い倫理観をもって社会的責任を果たすことを支援する」、ならびに重点課題「会員会社のコンプライアンス推進の支援」「透明性ガイドラインに基づく適切な情報公開の推進」「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインへの対応」「行政および日本製薬団体連合会(日薬連)、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(公取協)、国際製薬団体連合会(IFPMA)等の国内外の関係団体との連携、情報の収集・発信およびフィードバック」についてその概要を紹介しました。

また、2020年度、「APEC SMEs Vision 2025」が発効されたこともあり、引き続きグローバルな動向を収集し、情報発信を行っていきたいと述べました。

製薬協 コード・コンプライアンス
推進委員会
羽田野 誠 実務委員長

製薬協会員会社に対する措置事案について

コード・コンプライアンス推進委員会の溝口裕章副実務委員長は、製薬協における「措置」の考え方について、措置レベルの判定基準、違反会社の責務、「措置」と「処分」の区分について説明のうえ、「措置」は、コード・コンプライアンス推進委員会が違反会社に対して、自主的な改善を求めるものであることを理解してほしいと述べました。その後、2020年4月以降に新たに追加された措置事例として、販売情報提供活動監督部門の機能が十分に機能していないことが認められた「未承認・適応外薬の推奨を含む不適切なプロモーション活動」の事例を採り上げ、措置の判断基準を具体的に説明しました。

最後に、ガバナンスが脆弱と判断し、措置を行った過去の事例として、「経営幹部が関与していた事案」「製品情報概要審査部門が機能していなかった事案」「社内管理体制の不備があった事案」について説明し、各社のコード・コンプライアンス遵守推進の参考にしてほしいと締めくくりました。

製薬協 コード・コンプライアンス
推進委員会
溝口 裕章 副実務委員長

会員会社のコンプライアンス対応事例

KMバイオロジクス代表取締役社長の永里敏秋氏が「信頼回復に向けて」と題し、事業承継から約3年にわたり継続してきた取り組みについて報告しました。

永里氏は、はじめに今回のコンプライアンス対応事例の原因・問題点と改善措置の概要を示した後、「ガバナンス強化」「コンプライアンス推進体制」「信頼回復への取り組み」について、それぞれ、その体制、機能、仕組みの具体的な改善内容を紹介しました。

ガバナンス強化においては、経営管理体制・監査体制の強化と品質保証・生産管理体制の再構築を行い、経営陣、従業員それぞれの責任を明確にし、課題をタイムリーに解決するための体制整備を実施したことを説明しました。

また、コンプライアンス推進体制においては、社長を委員長とするコンプライアンス委員会の設置や継続的な教育を通じて、従業員のコンプライアンス意識を高めるとともに、リスクの早期発見・早期対応のために従業員からのボトムアップを重視した取り組みを行っていると述べました。

最後に、信頼回復への取り組みについて、中期経営計画の最優先事項を「信頼の回復」とし、組織、役割、職場環境、意識改革の視点からさまざまな取り組みを実行してきたことを紹介した後、一人ひとりの意識と風通しの良い職場環境、また経営層が常に現場に目を配る姿勢を大切にしていると述べ、報告を締めくくりました。

KMバイオロジクス
代表取締役社長 永里 敏秋 氏

特別講演「改訂ERMが求める持続的な企業価値向上のためのガバナンス改革」

明治大学法学部教授の柿﨑環氏が「改訂ERMが求める持続的な企業価値向上のためのガバナンス改革」と題した講演を行いました。

柿﨑氏は、はじめにトレッドウェイ委員会組織委員会(Committee of Sponsoring Organizations of Treadway Commission、COSO)の内部統制フレームワークから改訂全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management、ERM)への変遷とその背景、および改訂ERMの全体像と5つの構成要素である「ガバナンスとカルチャー」「戦略と目標設定」「パフォーマンス」「レビューと修正」「情報、伝達および報告」について解説しました。その中で、企業価値向上をもたらす企業ミッションの実現には、経営戦略としてのリスクマネジメントが不可欠であり、かつ、自律的ガバナンスをもたらす企業カルチャーが重要であることを強調しました。

続いて、リスクマネジメントに関する我が国のガバナンス上の課題として、判例や公益通報者保護法改正を例に挙げ、取締役会への迅速なリスク情報の提供と将来事象へのプレアクションの合理性を取締役会において十分に検討できる仕組みの確保が必要であると述べました。

最後に、改訂ERMを活かすガバナンス改革に向けて、IIA(内部監査人協会)の新しい3ラインモデルのポイントとALIプロジェクト第1試案からの示唆について解説しました。そのうえで、加速する企業環境の変化に迅速に対応し、企業のリスクマネジメントを取締役会が適切に監督するために、改訂ERMと3ラインモデルの活用により、リアルタイムのリスク情報を入手し、日々の経営戦術の微調整を可能にする実質的かつ柔軟なforward-lookingな第2線のリスク・コンプライアンス担当管理者と第3線を担う内部監査の連携が必要であり、それが持続可能な企業価値向上のガバナンス改革の礎になると締めくくりました。

明治大学 法学部 教授
柿﨑 環 氏

閉会挨拶

製薬協の田中徳雄常務理事は、演者の永里敏秋氏、柿﨑環氏に謝辞を述べた後、コンプライアンス管理責任者・コンプライアンス実務担当者の本会への参加および日々の活動への謝意を伝えました。

謝辞の中で、田中常務理事は、最近発生したGMP違反事案、および奨学寄附金をめぐる不適正な事案について触れ、製薬産業全体に対する社会の信頼を大きく失墜する極めて憂慮すべき出来事であると述べました。GMP違反事案については、過去に発生した同様の事案の教訓がまったく活かされていないこと、奨学寄附金をめぐる事案についは、「製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方(2014年4月22日、製薬協)」において、奨学寄附金提供のあり方が明示されている中、都合の良い判断により発生した事案として、誠に遺憾であり、業界の信頼回復に努めなければならない事態であることを強調しました。

「新薬の研究開発」と「コンプライアンス」は、車の両輪であり、正しく回ってこそ未来に向かって進めることを製薬産業に従事するものすべてが十分に理解し、日々実践しなければ、社会からの信頼は得られないと述べ、いっそうの協力をお願いしたいと締めくくりました。

製薬協 田中 徳雄 常務理事

(コード・コンプライアンス推進委員会 実務委員 山本 款政

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