トピックス 国際原子力機関(IAEA)、在ウィーン国際機関日本政府代表部と、保健分野の諸課題に関する意見交換を実施

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製薬協国際委員会グローバルヘルス部会では、国際保健の諸課題への貢献とSDGs推進のために、関係機関との対話に取り組んでおります。今般、2021年1月29日に、在ウィーン国際機関日本政府代表部ならびに国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、IAEA)とオンライン形式で会合を開催いたしました。当日は、製薬協とIAEAからの参加者に加え、在ウィーン国際機関日本政府代表部からは特命全権大使の引原毅氏が出席し、双方合わせて30名近い参加者となりました。会合の概要は以下の通りです。

オンライン会合の様子

冒頭、製薬協の中川祥子常務理事より、続いて在ウィーン国際機関日本政府代表部特命全権大使の引原毅氏から挨拶があり、国際原子力機関(IAEA)事務局長特別補佐官の金子智雄氏よりIAEAの組織体制と活動の紹介がありました。特に、IAEAが、がん治療、人獣共通伝染病対策、水資源管理、気候変動対策、食糧問題対策、プラスチック問題、女性の原子力研究推進への助成等の幅広い分野において、低中所得国に対する技術支援、人材教育を進めていることが紹介され、参加者は新たな気づきを得るとともに、今後の連携についても活発な意見が交わされました。

開会の辞

製薬協 中川 祥子 常務理事

中川常務理事からは、引原氏の出席と、会合実現に尽力したIAEA、ウィーン代表部、ならびに外務省国際原子力協力室の関係者のみなさんへの謝辞を伝えました。

また、製薬協が国際製薬団体連合会(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers and Associations、IFPMA)の加盟協会として、産業界全体の国際連携に貢献するとともに、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会を通じて地球規模課題に対する政策提言や官民パートナーシップを推進していることを紹介しました。具体例として、2019年のG20大阪サミットに際して日本政府に提出したユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進を柱とした政策提言や、グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund、GHIT Fund)や薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド(AMR Action Fund)等の官民パートナーシップへの参画について、言及しました。

さらに、国際委員会がコロナ禍においても、国際機関との対話推進に取り組んでいる点に触れ、IAEAならびに日本政府のリーダーシップに対する敬意と会合実現に対する謝意を伝えました。

挨拶

在ウィーン国際機関日本政府常駐代表 特命全権大使 引原 毅

引原氏は、IAEAの役割は「核の番人」である以外にも医療、健康、食糧、農業、環境等、極めて幅広い分野にわたっており、SDGs実現のために非常に大きな役割を担っている国際機関であることを最初に述べました。続いて、日本企業からIAEAへの2つの支援事例を紹介しました。1つは、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大に際して、IAEAは約130ヵ国に対してPCR検査機器等の支援を実施しており、当プログラムに対して武田薬品工業よりIAEAへ約5億円の支援が行われたこと、もう1つは、食品汚染防止のため島津製作所から精密大型質量分析機器の提供を受けたことです。引原氏は、双方の企業からの支援に深い感謝を述べました。IAEA事務局長のラファエル・マリアーノ・グロッシー氏は、IAEA加盟国政府のみならず民間企業等、幅広いパートナーとの協力を強化したいという思いも述べ、当会合で活発な意見交換が行われ、日本企業とIAEAの協力進展に向けた契機となることを大いに期待していると述べました。

特命全権大使の引原氏による挨拶の様子

国際原子力機関(IAEA)の組織概要と保健分野の活動について

国際原子力機関(IAEA)事務局長特別補佐官 金子 智雄

引原氏の挨拶に続いて、特別補佐官の金子氏から、IAEAの組織と活動について、以下の紹介がありました。

IAEAには172ヵ国が加盟しており、職員数は約2500名です。オーストリア・ウィーンに本部を置き、カナダ・トロント、東京に地域事務所、米国・ニューヨークとスイス・ジュネーヴにリエゾンオフィスを設置しています。また、自前の研究所(ウィーン郊外のサイバースドルフとモナコ)を運営していることが、ほかの国際機関にはない特徴です。IAEA事務局長のグロッシー氏は、今まで連携していなかった企業や国際機関との(non-traditional partnership)に力を入れており、IFPMAとも連携強化について協議を行っているところです。

IAEAは査察や原子力発電だけではなく、原子力技術を活用・応用し、SDGsに貢献しています。具体的な例として、以下の7つの活動を紹介します。

  1. 1.
    女性特有のがんへの対策(Fighting Women's Cancers)

    2021年2月のWorld Cancer Dayでのイベントや世界保健機関(WHO)と連携した対小児がんイベント等を行っています。また、発展途上国の医療機関は高度な機器が必ずしも設置されているわけではないうえ、近接照射法による治療も多く、放射線治療における医師や患者さんへの放射線管理に関するトレーニング等を行っています。

  2. 2.
    人獣共通感染症の予防と対策(Preventing and Combatting Zoonotic Diseases)

    5年間で約1億5000万ユーロの大きなプロジェクトです。IAEA加盟国の研究機関等とIAEAとの間でネットワークラボを構築し、国境を越える動物の移動を含め、動物から人への感染経路をトレースするようなデータ収集、分析等の活動を行っています。こうした活動はIAEA事務局内にIAEAと国際連合食糧農業機関(FAO)との共同部署を設け、対応しています。動物から人への感染経路の分析までをIAEAとFAOが共同で行うというユニークな取り組みの一つです。また、発展途上国への感染診断キットの配布等を行っています。

  3. 3.
    水資源の保護と管理(Protecting & Managing Water Resources)

    同位体分析技術により、世界中の水の組成を分析し、マッピングすることで、水の循環についての情報を収集しています。これにより、たとえば発展途上国で井戸を掘った際に、その井戸がすぐに枯れるかどうか(水が循環している場所なのか)等の調査に応用しています。

  4. 4.
    気候変動への取り組み(Addressing Climate Change)

    多くの国が温室効果ガスの排出ゼロを目標として掲げる中、2021年11月のCOP26(第26回 国連気候変動枠組み条約締約国会議)の国際会議等の場で、原子力発電が果たすことができる役割について情報発信をしていくことを考えています。

  5. 5.
    食の安全向上と農業開発の推進(Increasing Food Security & Improving Agricultural Development)

    放射線技術を使い、食糧等に応用する取り組みを行っています。たとえば、フルーツを放射線で表面殺菌することで早期の腐敗を防ぐこと、また、放射線を種子にあて、突然変異を起こさせることで、今まで植物が育たなかった環境でも育つようにする研究を行い、発展途上国に技術移転をしています。

  6. 6.
    プラスチック汚染対策(Combatting Plastic Pollution)

    IAEAは、モナコの海洋研究所を中心に、世界中の海水を長年サンプリングし、多くのデータを蓄積してきています。こうした取り組みを通じ、海洋プラスチック問題解決のために、IAEAとしても貢献しようとています。放射性標識の使用により海洋モニタリングを行い、マイクロプラスチック等の動きを追跡し、科学的データを収集する等の活動を本格化していく予定です。

  7. 7.
    女性活躍のためのフェローシップ制度(Fellowships to Empower Women)

    ドナーからの拠出金により、修士課程(原子力関連分野)等で学ぶための奨学金を約100名に手当てしています。発展途上国出身者が中心ですが、世界中の女性が対象です。日本政府からも財政支援をいただいています。

上記事業の財源のほとんどすべてが特別拠出金であり、活動の継続には新たな財源も必要です。従来、日本企業の存在感はIAEAの中では必ずしも高くありませんでしたが、2020年に武田薬品工業より、PCR検査機器関連で約5億円の財政支援をいただいたことを契機として、IAEAにおける日本の民間企業との連携への期待が高まっています。

IAEA事務局長特別補佐官の金子氏による説明の様子

Q&A

Q&Aセッションでは、IAEAと製薬業界団体・企業の連携の可能性について、活発な意見交換が行われました。IAEA事務局長特別補佐官の金子氏は、IAEAは放射線技術を活用し、がん、環境、感染症等の幅広い分野で世界への貢献を行いたいが、まだまだ資金が十分とはいえず、民間企業を含めたパートナーとの連携の機会、支援の機会を模索していることに言及しました。

中でも「がん」に関しては、今後も世界的に患者数の増加が予測されるため、放射線治療、診断、放射性医薬品に注力してグローバルな支援活動を行っているとのことです。製薬協の参加者からの、「製薬企業による途上国のがん治療アクセス向上支援活動と親和性があるのでは?」という問いかけに対し、「まさにニーズが高く、協力可能な範囲が大きい」との返答がありました。

そのほか、放射線技術取り扱いの人材育成や、人獣共通感染症拡大様式の研究、環境問題等、幅広い分野での協力可能性について意見交換が行われました。

また、「日本企業や業界との連携事例の対外的な発信の場はあるか?」という問いに対し、特命全権大使の引原氏から、「IAEA年次総会やそのサイドイベントが良い機会と考えられる。その際にはできるだけ日本政府としても協力したい」という貴重な示唆がありました。

Q&Aセッションの様子

結び

製薬協は、『製薬協 産業ビジョン2025』の中で、政府、国際機関等のステークホルダーと連携し、新薬開発にかかわる技術力や経験を活かしてグローバルヘルスの課題解決に努め、世界の保健医療と公衆衛生の向上に貢献するというビジョンを掲げています。

今般の会合の実現にご協力いただいた、IAEAならびにウィーン代表部のみなさんに改めて感謝をお伝えいたします。製薬協国際委員会では、引き続き、製薬協および会員各社の活動の対外発信に努めるとともに、政策提言、能力強化、医療システム強化等に関する関係機関との具体的な連携についても検討してまいります。

(国際委員会 グローバルヘルス部会
飯野 伸吾、岡本 雅子、清永 文子、佐藤 孝徳、杉山 洋介、高橋 剛、田中 良知、知原 修、中野 今日子、溝渕 正浩

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