トピックス 「GCPリノベーションセミナー」を開催

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2020年12月17日、厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、製薬協の共催で、「GCP(Good Clinical Practice)リノベーションセミナー」を開催しました。本セミナーでは、ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use、医薬品規制調和国際会議)のEガイドライン(有効性ガイドライン)の最新動向や、GCPガイドライン改定(ICH-E6(R3)ガイドライン:以下、E6(R3)の状況、E6(R3)への期待や要望について、講演とパネルディスカッションが行われました。なお、本セミナーは、各ICH地域で行われているE6(R3)に対するStakeholder Engagementの取り組みの一環として開催されました。

1. GCPリノベーションセミナー開催要領

E6(R3)は、2019年11月のICHシンガポール会合より本格的な議論が開始されたところですが、早い段階からさまざまなStakeholderからの意見を反映する方針で進められており、ICH会合だけでなく各ICH地域においてもStakeholder Engagementの取り組みが行われています。本セミナーも日本におけるStakeholder Engagementの取り組みの一環として、ICHの基金により厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、製薬協の共催で開催しました。

本セミナーは、新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、会場での参加者は最小限として、オンライン形式での開催としました。会場である東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)への参加は約70名、オンラインでの参加は1800名弱と国内のICHのイベントとしてはこれまでで最も多い参加者となりました。

本セミナーは、表1に示すように午前、午後の2部構成で、午前の部では初めにPMDA理事長の藤原康弘氏による基調講演があり、その後、ICHの最新動向をテーマにパネルディスカッションが行われました。午後の部ではPMDAの安藤友紀氏のICH-Eガイドラインの最新動向の講演後、E6(R3)の検討状況、E6(R3)に対するアカデミアおよび製薬企業の立場からの期待についての講演、最後にパネルディスカッションが行われました。

表1 プログラム

参加者からは事前に質問を受け、午後の部のパネルディスカッションのトピックに一部反映させました。事前質問としては、E6(R3)が目指す臨床試験の質、日本の法規制への適応、そしてE6(R3)の与えるインパクト等に関する質問が多くありました。また、当日は各講演に対して、会場、Webから質問を受け付ける形で実施しました。

本稿では、E6(R3)に関するトピックに焦点をあて、午後の部の講演とパネルディスカッションの内容を報告します。

2. 午後の部の講演

(1)ICH Eガイドラインの最新動向

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 安藤 友紀

E6(R3)の講演に先立ち、PMDAの安藤友紀氏より、ICH Eガイドラインの最新動向について講演が行われました。現在議論されている6つのEガイドラインのうち、E8(R1)(臨床試験の一般指針)、E11A(小児用医薬品開発における外挿)、そしてE20(アダプティブ臨床試験)について説明がありました。特に、まもなくStep 4に到達するE8(R1)については、GCP renovationの検討経緯の説明に加え、臨床試験の目的への試験の質の適合性を考えること(fitness for purpose)、試験の質を試験実施計画書および実施手順の中に設計し試験の質の積極的な向上を確実にすること(Quality by design)、試験の質を保証するために重要な要因に重点を置くべきであること(Critical to Quality Factors)、といったE6(R3)に大きく影響する重要なメッセージが示されました。

(2)E6(R3)の背景・概念

独立行政法人医薬品医療機器総合機構、E6(R3)作業部会(Expert Working Group、EWG)メンバー 北林 アキ

続いて、PMDAでEWGトピックリーダーを務めている北林アキ氏より、E6改定の背景、目的と現在の作業状況、今後の予定について説明がありました。E6(R3)は、GCPの基本となる原則(Overarching Principle)、これまで行われてきた従来型の介入試験のGCP(Annex 1)に加えて、非従来型の介入試験のGCP(Annex 2)で構成されます。Annex 2に含まれる臨床試験のタイプとしては、Pragmatic Trials(日常診療に近い一般化可能性の高い臨床試験)、リモート臨床試験(Decentralized Clinical Trials、DCT)およびリアルワールドデータ(RWD)を活用する臨床試験が検討に挙げられています。改定のタイムラインは、2021年11月までにOverarching PrincipleおよびAnnex 1がStep 1に到達し、その後Annex 2の検討が開始される予定です。

加えてEWG内のガイドラインの議論と並行して、各地域におけるアカデミア代表の知見もインプットされていることが説明されました。これは、GCP Renovationは、E6(R2)のパブリックコメント募集の際、多くのアカデミアより「現在の記載では、臨床試験のタイプの違いによるリスクの違いを十分に配慮していない」「臨床試験の質に関する重要な要因により焦点をあてた記載にするべきである」といった意見が出されたことが発端となっており、アカデミアの意見を早期から吸い上げることで、より活用しやすいガイドラインにすることを期待すると述べました。

(3)E6(R3):Non-Traditional Interventional Clinical Trials

製薬協 医薬品評価委員会 臨床評価部会、EWGメンバー 青柳 充顕 委員

製薬協でEWGトピックリーダーを務めている青柳充顕委員からは、Annex 2で考慮されるPragmatic Trials、DCT、RWDを活用する臨床試験について紹介がありました。これは製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会やデータサイエンス部会のこれまでの検討結果から抜粋したものです。特に、承認申請目的の臨床試験としては実施されることが少ないPragmatic TrialsもAnnex 2のフォーカスに含まれており、日本の規制にどのように落とし込まれるのかといった観点からの話題提供でした。

(4)E6(R3)への期待:アカデミアの立場から

国立がん研究センター中央病院、厚生労働省 E6(R3)特別研究班 リーダー 中村 健一

中村健一氏は「厚生労働科学特別研究事業(令和2年度)、ICH-GCP改定における国内ステークホルダーの参画のための研究」の研究代表者を務めており、E6(R3)と各地域のアカデミア代表との会合にも参加し、日本のアカデミア代表としてEWGにさまざまな意見を発信しています。中村氏からは、アカデミアの立場からのE6(R3)への期待として、国内アカデミア(臨床研究中核病院+ナショナルセンター)に対して実施されたICH-GCPアンケート結果の紹介がありました。また、アカデミアの研究者は、治験以外の介入研究がどのようにE6(R3)に取り込まれるか、特定臨床研究等にどのように影響するかの関心が強く、Annex 2への注目度が高いこと、また中村氏の私見として日本の法規制のあるべき姿についても述べました。

(5)E6(R3)への期待:製薬企業の立場から

製薬協 医薬品評価委員会、EWGメンバー 川勝 英次 委員

製薬協の川勝英次委員からは、E6(R2)の対応状況およびE6(R3)への期待について、製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会で実施したアンケート結果の紹介がありました。E6(R2)への対応が完了している企業は約3分の1であり、各社の実装状況が遅れていること、その中でもQuality Management体制の整備実装等が課題として残っていることが明らかになりました。またE6(R3)への期待としては、「臨床試験におけるリスクに応じたアプローチの進展」「多様な臨床試験デザイン、データソースへの柔軟な対応」「臨床試験における新しいテクノロジーへの柔軟な対応」が挙げられ、一方で、国内Step 5時の課題としては、欧米に比べたStep 5移行の遅れや、国内規制との整合性といった懸念が示されました。

3. 午後の部のパネルディスカッション

パネルディスカッションでは主に以下の内容について、各パネリストのさまざまな意見が述べられました。

  1. 1.
    GCPリノベーションにおけるE6(R3)
  2. 2.
    COVID-19を踏まえたGCPのあり方、E6(R3)への展望
  3. 3.
    臨床試験への患者参画(Patient involvement)
  4. 4.
    E6(R3)国内導入時の課題
  5. 5.
    まとめ:E6(R3)に対する期待と課題

製薬協EWGトピックリーダーの青柳充顕氏から、E6(R3)に対する期待と課題として以下の2点について説明がありました。

  1. (1)
    GCP renovationの動向を踏まえて、国内規制のあり方について議論が必要と考えられること。E6(R3)のキーワードの一つであるproportionality(被験者のリスクと得られるデータや情報の重要性に応じた質の管理)の考え方を導入するうえで、日本の臨床試験制度が医薬品医療機器等法、臨床研究法、倫理指針といった別の建て付けでは弊害があるのではないか。
  2. (2)
    今後、Quality by designによって前向きに臨床試験の質の向上が図られ、医療機関自らが質を作り込み、モニターはプロセス通りに臨床試験が実施されているかを確認する、このような流れで臨床試験の質を確保することになる。医療機関において適切にプロセス管理が実施されるように、早急な取り組みが必要である。

4. 終わりに

E6(R3)は2021年11月までにOverarching PrincipleおよびAnnex 1についてStep 1に到達する見込みであり、当初、このタイミングでのセミナー開催は少し時期尚早の声も上がっていました。しかし、実際に参加された多くの聴衆がどのような点に期待し、懸念しているのかがわかるとともに、将来的にStep 5に進むまでにどのような議論が必要になってくるのかが明確になり、その意味で非常に有意義なセミナーになりました。

われわれの使命は、質が確保されたより多くのエビデンスをもった医薬品を、より短い開発期間で患者さんに届けることであり、そのためにさまざまなStakeholderの意見をうかがいながら、E6(R3)の検討を進めていきたいと考えています。

なお、資料はこちらをご参照ください。

(ICHプロジェクト ICH E6(R3)EWGトピックリーダー 青柳 充顕

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