トピックス 「第10回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」開催される

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2020年9月11日~12日に、学術総合センター(東京都千代田区)にて、「医薬品・医療機器のライフサイクルとレギュラトリーサイエンス」をテーマに「第10回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催されました。

シンポジウムの様子

はじめに

医療現場、大学・研究機関、産業界や規制当局のみなさんが、対等の立場で一堂に会して、医薬品・医療機器等のレギュラトリーサイエンスに関する研究成果や考えを公開討議し、その学術の進歩と普及を図るという設立理念のもと、2010年8月にレギュラトリーサイエンス学会が設立されました。本学会は2020年で設立10周年を迎え、その間レギュラトリーサイエンスの概念は広く浸透しつつあります。

2020年は9月11日~12日の2日間にわたり、「医薬品・医療機器のライフサイクルとレギュラトリーサイエンス」をテーマとして「第10回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催され、約250名の参加者により各セクションで活発な議論が行われました。

本学術大会は、第10回記念大会シンポジウム(4題)、シンポジウム(12題)、一般演題(口演14題、ポスター29題)で構成されました。

第10回 記念大会シンポジウム

本大会では独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)で理事・審査センター長を務め、現在は公益財団法人日本薬剤師研修センター代表理事の豊島聰氏が大会長を務め、日本発革新的医薬品の創製促進のための基盤整備について講演がありました。

その後、レギュラトリーサイエンス学会理事長の大野泰雄氏と豊島氏を座長として、4名の演者から10周年記念大会シンポジウムの特別講演がありました。

続いて、徳島文理大学名誉学長・名誉教授の桐野豊氏からは「レギュラトリーサイエンス学会10周年—これまでとこれから—」と題し、日本薬学会レギュラトリーサイエンス部会の活動や薬学コアカリキュラムの課題、薬剤師によるレギュラトリーサイエンスの実践としてのフォーミュラリー導入のメリットについて講演がありました。

また、一般社団法人Medical Excellence Japan(MEJ)理事長の近藤達也氏からは「レギュラトリーサイエンスの更なる実装への前進」と題し、PMDA理事長の経験から医療への国際的貢献としてMEJでの取り組みについて講演がありました。

さらに、自治医科大学学長の永井良三氏からは「臨床研究法の課題」と題し、2018年施行の臨床研究法の除外規定により観察研究の一部が同法の対象とされたことを受けた課題について講演がありました。

早稲田大学特命教授の笠貫宏氏からは「レギュラトリーサイエンスにおける合意形成システムと意思決定プロセス」と題し、レギュラトリーサイエンス概念の提唱者である内山充氏の「評価科学」に立ち返り、科学的根拠から価値判断へのパラダイム転換の重要性について講演がありました。

医薬品関係をテーマとした主なシンポジウム

シンポジウム1

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の勝井恵子氏、ファイザーの最上理氏を座長として「日本におけるPPI(Patient and Public Involvement)の実践」をテーマに開催されました。NPO法人肺がん患者の会ワンステップの長谷川一男氏、公益財団法人がん研究会有明病院臨床研究・開発センターの宋菜緒子氏、PMDA新薬審査第二部の平松彩佳氏、ファイザーR&Dの今枝孝行氏から、患者さん、医療機関、行政、企業の立場からそれぞれの取り組みについて発表があり、その後、「くすりのシリコンバレーTOYAMA」創造コンソーシアム事業責任者の森和彦氏を迎え、活発な討議が行われました。本邦においては、製薬協による報告書やAMED課題評価委員会の活動、PMDAにおける患者参画検討ワーキンググループ(WG)等、さまざまな活動が行われている一方で、欧米ではガイダンスや育薬コンソーシアム等、患者さんとの連携に積極的に取り組む活動があり、今後の患者さんとの意見交換のあり方や患者参画のためのプラットフォーム作り、研究開発者の意識改革等、検討課題が明確にされました。

シンポジウム6

東京大学大学院の今村恭子氏、製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会の松澤寛部会長を座長として「Decentralized Clinical Trial(DCT)—医療機関への来院に依存しない臨床試験手法—の日本での実現に向けて」をテーマに開催されました。冒頭に今村氏より、コロナ禍において新薬への関心が高まり、オンライン診療やリモート化が促進され、治験においてもICTの利活用が望まれる現状と課題について講演がありました。続いて、製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会の松島総一郎委員から「医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の実現に向けて—製薬企業の立場から考える現状と課題—」、医療法人社団嗣業の会外房こどもクリニックの黒木春郎氏から「臨床試験におけるオンライン診療活用の期待値と留意すべきポイント」、慶應義塾大学の岸本泰士郎氏から「精神科領域における中央評価やLocation Flexible Trialに向けての産学連携の取り組み」、厚生労働省医政局研究開発振興課の野村由美子氏から「患者さんのアクセス向上のための新たな臨床試験手法の可能性」について発表があり、その後パネルディスカッションにて活発な討論が行われました。DCTの課題として、同意取得プロセスや検査の実施、被験者の安全性確保やデータの信頼性の考え方、デバイス活用における規制等が挙げられました。

シンポジウム11

PMDA国際部部長の佐藤淳子氏、製薬協薬事委員会の柏谷祐司委員長を座長として、「小児用医薬品を取り巻く新たな制度と今後の開発促進への期待」をテーマに開催されました。国立研究開発法人国立成育医療研究センター臨床研究センターの中村秀文氏より「今、小児科医・小児医療従事者が小児医薬品開発に貢献できること」、PMDAワクチン等審査部部長の荒木康弘氏より「医薬品医療機器法改正と小児用医薬品開発について」、PMDAワクチン等審査部の崎山美知代氏より「国内外規制当局の小児医薬品開発への取組み」、製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会の佐藤且章委員より「小児用医薬品開発に明るい未来を…」というタイトルでそれぞれの立場からの情報提供や取り組みの紹介の後、演者4名に製薬協の名執真希子委員と浜田奈津子委員の2名を加えてパネルディスカッションが行われました。小児に適した製剤の検討の必要性を認識している一方で、国や地域により異なる嗜好という側面も含めた開発の困難さについての議論や、医療従事者による小児医薬品開発への患者参画の後押し、規制の面からは欧米規制当局とのよりいっそうの連携等、継続して取り組んでいくべき多くの課題についての議論が活発に行われ、規制当局、医療従事者、アカデミア、製薬企業等がOne teamとなるべき、との共通の意識をもつことができたように思いました。

シンポジウム11の座長

一般演題(口演、ポスター)

一般口演、ポスター発表は各々会場を2ヵ所に分けて産学官の活発な議論が交わされました。ソーシャルディスタンスの確保の対策としてポスター発表は例年とは異なり、会場を2ヵ所に分けること、討論時間の延長がされていましたが、時間中は途切れることなく参加者のみなさんが訪れ"密"を避けながらも活発に意見交換が行われました。

ポスター発表では、製薬協薬事委員会より以下の2つのテーマについて発表しました。

山本恵啓委員、浜田奈津子委員らからは、「新医薬品の審査状況に関するアンケート2020」のテーマで毎年継続して検討しているアンケートの結果が紹介され、2019年に承認された品目のうち、製薬協加盟72社が承認取得した品目の審査担当分野、審査形式、電子データの提出状況等のほか、アンケート回答企業から寄せられた添付文書およびリスク管理計画(RMP)に係る重要な照会事項の時期等の意見や要望等が示されました。

栗下雅仁委員、杉山修委員らから、「日本製薬工業協会薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況 Global開発実施状況からの考察」をテーマに、製薬協薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況について、より効率的なグローバル開発ストラテジーについておよび2018年6月に実装された「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則」ガイドライン(ICH-E17)を踏まえた本邦での開発のあり方について着目した検討結果が示されました。開発中/申請中プロジェクト数は今回より再生医療等製品についても集計に含めることとし、開発プロジェクト数962における分析が行われました。2019年までの傾向と同様に抗悪性腫瘍薬のプロジェクトの割合が多く、全体で46%、外資では52%、内資上位6社では60%であったこと、ICH-E17の実装が各国で進み、2019年医薬品規制調和国際会議(ICH)のウェブサイトでTraining materialも公開されたものの、国内ではその積極的な活用は認められておらず、今後の推移を注視していきたいこと等が示されました。

本学会での発表を目標として分析・検討を重ね、さまざまな分野からアカデミア、製薬企業、規制当局等によって発表された口演・ポスターの内容はいずれも大変興味深く、産学官の垣根を越えた有用な情報交換の場となりました。

ポスターセッションの様子

最後に

本年の学術大会については、例年とは異なり、新型コロナウイルス感染症への対策のため、参加申込者数を会場定員の半数とする等、いわゆる"三密"を避ける対応を取って開催されました。

今回、レギュラトリーサイエンス学会は設立から10年という節目の年を迎えました。2020年では会員数も約1000名となり、当初の目的である産学官の連携もかなり浸透してきたように思われます。また、アカデミアの会員数が当初に比し増加してきたことから、教育現場である大学においてもレギュラトリーサイエンスの研究や教育が進展してきたものと思われます。そのため座長や発表者に多くのアカデミアのみなさんの参加が見られました。また、医療機器、Decentralized Clinical Trial、MID-NET、小児用医薬品等、いくつものキーワードで幅広い分野のシンポジウムが開催され、産学官の活発な意見交換が行われたように思います。さまざまな立場からの議論が数多く交わされることにより互いの気づきにつながり、レギュラトリーサイエンスの推進と産学官間のさらなる連携がいっそう進むと思われ、レギュラトリーサイエンスの発展とともに本学会の活動がますます活発になっていくことが期待されます。

(薬事委員会 村田 宰子、小野田 美代子

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