トップニュース 「骨太方針2020」について

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日本製薬工業協会 参与 川原 章

2020(令和2)年7月17日「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(いわゆる「骨太方針2020」)が閣議決定されました。本稿で、概略を説明します。

1. はじめに

年初に日本国内でも確認された新型コロナウイルス感染症は、短期間で世界中に広がり世界的なパンデミックと認定され、これまでにない特徴を有する特異なウイルス像と相まって、人々の活動・移動が制限されることとなり、社会全般に大きな影響を与えています。具体的には、あらゆる分野における広範囲の人々の移動規制・自粛を招くこととなり、このことが世界全体の社会・経済情勢に未曽有の影響を及ぼしています。

本年7月24日から開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックも1年間延期という決定がなされたほか、オフィスワーカーにも、海外出張は言うに及ばず国内出張も極力抑制することが求められ、日常生活においてもソーシャルディスタンスなるものを守ることが求められ、業務においてもテレワークやウェブ会議が急速に一般的となるなど、1年前には世界中の誰もが想定もしていなかった状況が新たな日常として定着しつつあります。今後当面の間は、このような社会変化の良い面をさらに上手に活用し、不都合な悪い面を顕在化させないような創意工夫が求められてくることになると思われます。

なお、製薬協としては会長記者会見(2020年6月17日)を機に、中山讓治会長より「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言—新型コロナウイルス感染症発生を契機として—」を公表するとともに、3月に開始したウェブサイト上での各社の治療薬やワクチンの開発等にかかる取り組みに関する情報を随時アップデートする形で公表することを開始しています。

製薬協
川原 章 参与

2. 骨太方針2020の特異な性格・位置づけについて

このような新型コロナウイルス感染症拡大という異例の状況下でまとめられた「骨太方針2020」には、これまでの骨太方針とは大きく異なる特徴が存在しますので、それについて述べます。

  1. (1)
    「骨太方針2020」の目次末尾に枠囲いで、「骨太方針2020」の特異な性格・位置づけについて述べるとともに、「骨太方針2019」との関係について断り書きを入れていること。
  2. (2)
    特異な性格・位置づけのとりまとめとなったこともあり、従来70頁を超えるボリュームが約半減したこと。
  3. (3)
    通常は6月中となる、とりまとめ時期が7月17日となったこと。
  4. (4)
    これらに伴い、各省の概算要求の期限も通常の8月末から9月末に延期されたこと。

具体的に(1)については、「『経済財政運営と改革の基本方針2020』は、現下の情勢下では政府として新型コロナウイルス感染症への対応が喫緊の課題であることから、令和3年度概算要求の仕組みや手続きをできる限り簡素なものとすることと歩調を合わせ、記載内容を絞り込み、今後の政策対応の大きな方向性に重点を置いたものとしている。『経済財政運営と改革の基本方針2019』(令和元年6月21日閣議決定)のうち、本基本方針に記載が無い項目についても、引き続き着実に実施する」と記載されており、本年度の「骨太方針2020」が2019年度の「骨太方針2019」を基本的にベースとし、今後の政策対応の大きな方向性にかかわるもののみ記述した特異な性格・位置づけを有したものであるということを注記しています。また、新型コロナウイルス感染症拡大がもたらした種々の制約から学んだ結果として、今回の「骨太方針2020」は、以前にも増して日本社会のデジタル化を強力に推進するという記述が随所に見られる内容となっていることも指摘できます。

3. 骨太方針に係る過去の経緯等

社会保障関連費用の増大は、人口の高齢化とも相まって、日本をはじめとする先進諸外国において大きな問題です。このこともあり、「骨太方針」は毎年のように次年度予算編成に直結するものとして社会保障費関連の記述が注目を集めます。この社会保障費関連の記述が、医療費、特に薬剤費の極端な抑制を指向するようなものとなれば、研究開発型製薬産業にも大きな影響を与えることになります。

2019年の時点では、薬価制度改革(2020年4月)関連の"引き続きの検討課題"や「給付と負担」の議論について、「骨太方針2020」に向けて議論が本格化していくものと考えられていました。しかし、予期せぬ新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、社会経済に大きな影響が及ぶ中、これらの本格的な議論が先送りせざるを得ない状況となったと推測されます。

すなわち医療機関や卸薬業をはじめとする関連産業にも新型コロナウイルス感染症の大きな影響が及ぶ中、差し迫った薬価の中間年改定の実施の是非が大きな問題となり政治的にも採り上げられました。最終的には薬業関係者の要望からはかなり距離を置いた形で、薬価調査は行うものの、「骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」という記述で決着し、改定そのものの実施に係る最終判断は年末の2021年度予算編成時に行われることとなりました。

7月8日の原案提示時には特段の記述がなく、2019年度の骨太方針の通りとの解釈が伝わりましたが、医療界、薬業界がこぞって反対したことから、中間年改定については大詰めの段階で記述が追加されるという異例の経過をたどりました。このことは、中間年改定問題が政治的にも大きな方向性にかかわるものとして認識されたと受け止められます。

ところで、骨太方針といえば、かなり以前の「骨太方針2006」で社会保障関係費増加の一律抑制が盛り込まれ、これが医療現場の荒廃を招いたとの指摘につながったことを記憶している方も多いと思います。また「骨太方針2015」においても、社会保障費の自然増を3年間に1.5兆円程度を目安に抑制する方針が盛り込まれて実行され、ほとんどの支出抑制・改定財源が薬価切り下げにより賄われる等、製薬産業側には非常に厳しい抑制策が続いています。

近年の改定の基本とされるのは2016年12月の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(いわゆる4大臣合意)で、この基本方針では「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、国民が恩恵を受ける「国民負担の軽減」と「医療の質の向上」を実現する観点から実施することとされていますが、製薬産業側から見ると、現実は著しくバランスを欠いたものになっていると思われます。繰り返しになりますが、社会保障費の増大は先進諸外国において共通の課題です。しかし、人々が健康で豊かな生活を送るために必要な費用でもあります。

我が国においては、2019年度から2021年度までの3年間は高齢化の伸びが一時的に鈍化することから、この期間を2022年からの団塊世代の75歳以上への移行が始まる前の"基盤強化期間"と位置づけ、医療・介護サービス供給体制の適正化・効率化を進めるとの記述が「骨太方針2018」にありました。このような経緯もあり、2019年の「骨太方針2019」についても社会保障の給付と負担のあり方について新たな記述がなされる可能性がありました。しかし、結果的に「今後総合的な検討を進め、骨太方針2020において、給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」と2020年に先送りされた形でまとめられました。

これまで2度にわたって延期された消費税率の引き上げ(8%⇒10%)も2019年10月に実施されましたし、参議院議員選挙後の2019年9月には全世代型社会保障検討会議も発足し、いよいよ具体的な給付と負担のあり方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策のとりまとめが「骨太方針2020」をめぐる議論の中を含め本格的に開始されると思われていた矢先でした。こういう微妙なタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大は降りかかってきたことになります。

4. 「骨太方針2020」と全体の章構成(製薬産業関連部分)について

「骨太方針2020」は、2019年の75頁に及んだ文書の半分の37頁の分量となっています。このことは前述しましたが、本年の骨太方針の特異性・位置づけに関係します。副題として"危機の克服、そして新しい未来へ"が掲げられ、一貫して、全体を新型コロナウイルス感染症がもたらした危機に対する認識とこれを克服するための施策の記述に充てています。したがって、2019年までの「人口減少社会において生産性向上などを通じて、これからも経済成長を第一に目指していく」姿勢は不変のままのはずですが、当面の大きな克服すべき問題が生じたことから幾分目立たなくなってしまった印象です。

以下に、「骨太方針2020」の記載の中で製薬産業にも関係すると思われる主な部分について、採り上げて説明します。

なお、骨太方針とともに閣議決定された成長戦略実行計画等、いわゆる政府4計画と言われているものの中で、特に製薬産業にもかかわるものについて最後に触れます。

1)第1章 新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて

新型コロナウイルス感染症がもたらした経済財政状況について、「グローバル危機の様相を呈しており、我が国の感染症対策は死亡者数の圧倒的な抑制に成功している」と述べる一方、「感染症拡大による我が国経済への影響は甚大であり、これまで経験したことのない、正に国難とも言うべき局面に直面した。我が国経済は、総じてみれば、極めて厳しい状況にある。新興国も含めた海外経済全体の減速の影響を受けやすい製造業のみならず、サービス業にも広く感染症拡大に伴う景気下押しの影響が広がり、結果として、国民生活に特に重要な雇用情勢も、弱い動きとなっており、感染症の影響を受けて休業者が大幅に急増し、企業が懸命に雇用を守っている状況にある」と今後の経済社会情勢、特に雇用情勢を注視する姿勢が際立っています。

また、今回の感染拡大は各国の脆弱な部分を攻めているとし、我が国の行政分野でのデジタル化・オンライン化の遅れ等を例示して、我が国のリスク要因というべき事項を列挙した後に、(1)第四次産業革命の到来やエネルギー・環境制約の高まり、(2)大規模自然災害の頻発、(3)社会保障と財政の持続可能性に係る構造的な問題の3つを指摘しています。特に(3)については、新型コロナウイルス感染症対策で行われた相次ぐ補正予算の編成等もあり「今年度の新規国債発行額が戦後最大の90兆円に達するなど」との修飾字句が付されており、社会保障と財政の持続可能性に関する並々ならぬ問題意識を表しています。

また、「コロナの時代の国際政治・経済・社会情勢—国際秩序の揺らぎ」として、(1)世界経済の大幅な落ち込みと不確実性の高まり、(2)自由貿易体制の維持への懸念、(3)グローバルレベルでの協調の形骸化や国際的分断の進行を挙げていますが、これらの変化が大きなものとなれば、早晩製薬産業にも影響を及ぼしてくるものと考えられ、注視していく必要があると考えられます。

これらの記述に引き続き、ポストコロナ時代の新しい未来、国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜くことが記述され、特に「この百年に一度の危機から日本経済を守り抜く。デフレへ後戻りはさせない。そうした決意の下に、『ウィズコロナ』の時期において、柔軟かつ万全な政策対応を進めていく」との決意表明が行われていることも注目されます。また、新たな日常の実現のためには、デジタル化実装が先行諸国の後塵を拝しているとの我が国としての問題意識のもとに、「社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に一刻の猶予もない」と強く言い切っています(5頁)。

そして、2021年度(令和3年度)予算については、概算要求期限を1ヵ月遅らせるとともに、概算要求の仕組みや手続きをできる限り簡素なものとするとしています。

また、「感染症拡大を踏まえた経済・財政一体改革の推進」では、「感染症対策により医療・介護システムの課題として認識された、柔軟で強靭な医療提供体制の構築、デジタル化・オンライン化を実現する」と医療のデジタル化・オンライン化を推進する方向性を明確に打ち出すとともに、「世界に誇る国民皆保険制度を維持しつつ、社会保障制度について、基盤強化期間内から改革を順次実行し、団塊の世代が75歳以上に入り始める2022年までに基盤強化を進めることを通じ、より持続可能なものとし、次世代に継承する」と基盤強化の具体的な内容には言及していないものの、全世代型社会保障検討会議で議論される給付と負担のあり方に言及した形となっています。

さらに、科学技術・イノベーション政策では「創薬研究、デジタル化・リモート化やAI・ロボット等の社会課題解決に資する分野を中核に据えて取り組む。その際、予算の質の向上を図りながら、官民連携による戦略的な研究開発投資を促進し、『世界で最もイノベーションに適した国』の実現につなげる」(8頁)と製薬産業にかかわる「創薬」を真っ先に挙げて、世界で最もイノベーションに適した国の実現につなげるという強い意志を表明しています。このことから研究開発型製薬産業としても、この目標の実現に向けて協力・努力していくとともに、建設的な政策提言を継続的に行っていくことが求められているものと考えられます。

2)第2章 国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く

現状認識として、「我が国は、感染拡大防止策を引き続き講じつつ、経済活動を段階的に引き上げるフェーズにある。治療薬やワクチンが開発・普及するまでの間は、国際的な人の移動を含め、経済が直ちに元の姿に戻ることは難しいが、(中略)本年4月・5月を底に、経済を持続的な成長軌道に着実に戻していく」と記述しています。さらに「今般の感染症は、世界経済を戦後最大の危機に陥らせるとともに、感染拡大防止の観点から、内外において人為的に経済活動を抑制することで、需給両面から経済を大きく押し下げたという意味でも、過去に例のないショック」とし、検査・監視体制の充実とともに医療提供体制の強化、感染拡大防止策の進化、治療薬・ワクチンの開発加速を図ることにも触れており、われわれ製薬産業側に期待するとともに奮起を促しているように思われます。

なお、製薬協の提言中で、感染症対策における司令塔機能という形で述べられた部分に関係する記述として、「国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの体制強化を図るとともに、一体的な取組を進めるための体制を構築する」(10頁)という記述が盛り込まれており、今後の概算要求や予算編成作業の中でより具体的な内容が明らかになってくるものと思われます。

また、製薬産業にもかかわりの深い記述として、「日本を含め世界の叡智を結集することにより、疾病メカニズム等の研究を進め、効果的な治療法・治療薬やワクチン等の研究開発を更に加速し、緊急対応として優先かつ迅速に審査し、国内での生産体制を早期に整備するとともに、ワクチンや治療薬の必要量の確保とワクチン接種体制の構築を進める」(10頁)との研究開発のみならず、許認可や生産体制にも言及した記述も見られます。

さらに、直接の関係はかなり薄いと思われますが、「消費など国内需要の喚起」のところにも、「個人消費の回復に当たっては、様々な支援策の迅速な実行を通じて雇用と生活を守り抜くこと、そして検査体制の拡充や早期のワクチン・治療薬の開発・普及等を通じて感染リスクに対する国民の不安払拭に努めることに加え(後略)」といった記述もあり、経済等の回復においても検査薬、治療薬、ワクチンの果たす役割が大きく期待されていることが明記されています。

3)第3章 「新たな日常」の実現

この第3章(15頁)では、「新たな日常」構築の原動力となるデジタル化に対する並々ならぬ記述が目白押しです。前出のDX(デジタルトランスフォーメーション)に加え、キーワードだけを取り出しても、「デジタルニューディール」「デジタル・ガバメント」「マイナンバー制度の抜本的改善」「デジタル基盤の構築」「分野間データ連携基盤の構築(ベース・レジストリ構築)」「オープンデータ化の推進」等の字句が見られます。また、社会全体のDX推進のため、5Gのネットワーク整備とともに、ポスト5Gに関する技術開発の推進も謳っており、デジタル化・スマート化を今後策定する次期社会資本整備重点計画を貫く原則とするとしています。

また、この章では、新しい働き方・暮らし方として、テレワークの定着・加速、少子化対策・女性活躍等とともに、教育・医療等のオンライン化にも言及があります。具体的には「新しい生活様式の中、遠隔教育、オンライン及び電話による診療・服薬指導について、利用者を含めた多様な関係者の意見を踏まえつつ、検証を進めていく」と述べる一方で、「オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築する」(20頁)との記述もあり、関係者の合意は尊重しつつ、コロナ禍で急速に広がったオンライン診療の利便性をさらに高めていこうとする方向性が打ち出されているように思われます。

延期となった東京オリンピック・パラリンピックに関する記述(27頁)もあり、「来夏に開催する復興五輪としての2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向け、感染症・暑さ対策や国際競技力の強化等を進め、人類が感染症に打ち勝った証として大会を開催し、レガシーを創出する」と力強く述べています。われわれ製薬産業としても、今後新たに登場する検査薬、治療薬やワクチン等の寄与も加わって新型コロナウイルス感染症と折り合いがつき、来年の東京オリンピック・パラリンピック大会が無事に開催されることを心から願いたいと思います。

「科学技術・イノベーションの加速」(29頁)の冒頭部分では、健康・医療に特化した記述はないものの、2019年も見られた科学技術・イノベーション関連の司令塔の機能強化・相互連携を図るとともに、官民を挙げて研究開発を推進するとの記述が見られます。また、「イノベーション・エコシステムの維持・強化に向けた取組」という中で、具体的な技術が列挙されており、「再生医療」「バイオ」「効果的な治療法・治療薬やワクチンの研究開発等の感染症対策」が書き込まれており、製薬産業に関係深い記述となっています。

続いて記述されているのは「4.『新たな日常』を支える包摂的な社会の実現」(30頁)ですが、ここにおいては、「今回の感染症拡大を契機として、柔軟な医療提供体制、データ利活用、健康予防の重要性が再認識された。社会保障制度の基盤強化を着実に進め、「新たな日常」を支える社会保障を構築する(後略)」ことが謳われています。中間年改定についての記述も骨太原案の再調整を経てここに収められています(31頁)。

この記述の中には「骨太方針2018、骨太方針2019等の内容に沿って、社会保障制度の基盤強化を着実に進め、人生100年時代に対応した社会保障制度を構築し、世界に冠たる国民皆保険・皆年金の維持、そして持続可能なものとして次世代への継承を目指す」といった、先行して出されている骨太方針を踏襲する記載も見られます。

ご承知のように、7月8日に提示された骨太原案には中間年改定についての記載がなかったことから、確認の意味で質問が飛んだ際には、「従来の方針に沿って対応する」との回答が出されたものの、そこでは収拾に至らず、与党内の最終調整において「また、本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定については、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」との文言が加えられることで、「骨太方針2020」記載をめぐる攻防は最終決着の形となりました。

これに先立つ中央社会保険医療協議会(中医協)の議論や意見陳述においても、卸をはじめとして、医療界・薬業界がこぞって調査実施自体に反対してきたにもかかわらず、調査は行うが改定については十分な検討を行ったうえで実施の可否を決定するというさまざまな解釈がなされ得る内容となり、改定の実施そのものの決着については年末の予算編成時まで先送りされた形となりました。

このほかに、「全ゲノム解析等実行計画を着実に推進し、治療法のない患者に新たな個別化医療を提供するべく、産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制整備を進める」(32頁)という記述が見られます。また、国際協力に関する記述も多く、今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けかなりの記述が見られます(35頁)。具体的には、「感染症拡大を根本的に解決するため、有効な治療薬やワクチンの開発・普及を世界の叡智を結集して一気に加速する。具体的には、治療薬・ワクチン候補の臨床研究を国際的に拡大するとともに、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)、Gaviワクチンアライアンス(Gavi)への拠出を通じて世界に貢献する」との記述が見られます。また、続いて、いくらか長文になりますが「感染症の更なる拡大と我が国への流入を阻止するため、世界保健機関(WHO)をはじめ国際機関とも連携しながら、国際的な協力体制作り、感染症拡大の可能性が高い国の医療体制や公衆衛生の向上を支援する。特に保健システムが脆弱な発展途上国に対し、医療・保健分野における無償資金協力や医薬品・物資支援、技術協力等国際協力の一層の拡大を図る。さらに、今回の危機を教訓に、世界全体の感染症予防体制を強化し、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の実現を目指す。アジア健康構想、アフリカ健康構想の下、我が国のヘルスケア産業の海外展開等を推進するとともに、アジアにおける規制調和等を一層推進する。また、薬剤耐性対策においても主導的な役割を果たす」と記述され、今回の新型コロナウイルス感染症拡大を機に、医薬品関連の企業も官学と連携しながら国際的な対応を強化していくことが求められています。

5. その他 成長戦略実行計画 医薬品の供給体制の重要性

骨太方針とともに閣議決定された政府4計画と言われるものの中で、成長戦略実行計画には医薬品の供給体制の重要性に関する記述があります。いわゆる新薬に限らず、医療に必要な医薬品の安定確保を目指すために供給体制について言及したものです。すでに2019年の段階で抗菌薬の供給不足から医薬品の供給の安定確保については重要な問題として認識されており、上部団体の日本製薬団体連合会(日薬連)では厚生労働省の事務連絡での要請を受けて本年2月初旬にすでに医薬品供給不安対策でスキームを策定しており、現在は厚生労働省で「安定確保医薬品(仮称)」なるものの選定も進められているところです。

その意味では医薬品分野の対応は先行していた面もありますが、今回新型コロナウイルス感染症拡大の中でマスクの事例等が再認識されたことから、成長戦略実行計画にも「医療・健康用の消費財・薬剤などの国民の健康に不可欠なものや、海外依存度の高いものについて、国内投資を支援し、確実な供給体制を構築するとともに、サプライチェーン上不可欠な製品・部素材については、生産の多層化・多重化を支援し、危機時に柔軟に対応できるサプライネットを構築する」と記されています。

この点も直接研究開発にかかわるものではないものの、薬剤へのアクセスを確保するという点で製薬産業に求められる重要な事項ですので記しておきたいと思います。

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