トピックス 「製薬協記者会見」を開催 新型コロナウイルス感染拡大の教訓と薬剤耐性(AMR)への備え

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2030年までに2~4種類の新しい抗生物質を患者さんに提供することを目的とした画期的なパートナーシップである「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」の設立イベントを、製薬協主催の記者会見という形で2020年7月10日にホテルメトロポリタンエドモント(東京都千代田区)で開催しました。

会場の様子

20を超える世界のバイオ医薬品企業により設立された「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」は、10億米ドル近くの資金を調達し、最も耐性の高い細菌や生命にかかわる感染症に対処する革新的な新しい抗生物質の研究開発を支援します。本ファンドは、世界保健機関(WHO)、欧州投資銀行(EIB)、ならびにウェルカム・トラスト財団からも賛同を得ており、日本企業からは、エーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬の5社が参画しています。

本会見では、「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」設立の背景・趣旨に加えて、COVID-19の世界的な感染拡大により、われわれは多くのことを学びつつあることや、将来生じ得る新たな感染症拡大への備えを今、並行して整えておく必要性についての情報発信が、産学官の第一人者から行われました。

なお、「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」の設立イベントは、国際製薬団体連合会(IFPMA)が主導し、各国・地域の業界団体と協力してグローバルに展開され、2020年7月9日には、米国・ワシントンD.C.とドイツ・ベルリンでも同時開催され、その模様はインターネットを通じて全世界にライブ配信されました。また、日本における本記者会見についてもライブ配信を行い、会見場に足を運ばれたメディア関係者の方々のみならず、多くの方々に視聴いただきました。これらのイベントならびに本ファンドの詳細については、同ファンドのウェブサイトにて報告されています。

本記者会見は、製薬協の白石順一理事長の司会・進行のもと、IFPMA事務局長のThomas Cueni氏ならびにWHO西太平洋地域事務局長の葛西健氏からのビデオメッセージにより開幕し、続いて英国トリニティカレッジ教授のDame Sally Davies氏(ビデオを通じて)、国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター長である大曲貴夫氏による基調講演が行われました。次のセッションでは、IFPMAの副会長であり塩野義製薬社長の手代木功氏から「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」設立趣旨説明が行われ、また、同社に加え日本から同ファンドに参画したエーザイ・第一三共・武田薬品工業・中外製薬の各代表がスピーチを行いました。次に、COVID-19パンデミックの経験を踏まえ、厚生労働省医務技監(8月7日退官)の鈴木康裕氏が感染症対策、薬剤耐性(AMR)対策の必要性について(ビデオを通じて)説明し、最後に、製薬協の中山讓治会長が感染症治療薬の創薬に必要な取り組みについて説明するとともに、本記者会見の総括を行いました。

その後行った質疑応答のセッションでは、会場にお越しいただいた日本のメディアの方々から有意義な質問があり、本記者会見は、参加・視聴された多くの方々にとって薬剤耐性菌感染症に関する知識を深め、新たに設立された「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」についての理解を深める貴重な機会となりました。

1. 開会挨拶

IFPMA事務局長のThomas Cueni氏は、AMRは新型コロナウイルス感染症に比べ予測可能かつ予防可能な危機であるとビデオメッセージで述べました。そして同氏は、「私たちは協力して抗菌薬のパイプラインを再構築し、研究室で創製された最も有望で革新的な抗菌薬が確実に患者さんに届くようにする必要があります。『薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド』は、世界的な公衆衛生上の脅威に対処するための製薬業界による、これまでで最大かつ最も野心的な取り組みの一つになります」と話しました。

IFPMA事務局長のThomas Cueni氏によるビデオメッセージの様子

また、WHO西太平洋地域事務局長の葛西健氏は、AMRが公衆衛生上の緊急課題の一つであるとビデオメッセージで述べました。そして同氏は、「私たちは長い間、新しい抗生物質の研究開発への投資の不足を懸念してきました。今日がターニングポイントです。『薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド』が、より良い、より安全な未来への助けとなることを願っています」と話しました。

WHO西太平洋地域事務局長の葛西健氏によるビデオメッセージの様子

2. 基調講演

英国トリニティカレッジ教授のDame Sally Davies氏は、ビデオメッセージで、リーダーシップとガバナンスを備えたグローバルな行動が必要であると述べました。そして同氏は、「私たちには、リーダーシップと世界的規模の統治による、グローバルな対応が必要です。また、各国ごとの対応も必要であり、各種のプランを実行に移さなければなりません。さらには、地域レベルの対応も必要であり、すべての人が手洗いをし、抗菌薬を適切に使用しなければなりません。そして、私たち全員が一丸となってAMR対策に取り組むことも必要です。それは、個人レベルの取り組みでもあり、政府レベルの取り組みでもあり、業界レベルの取り組みでもあるのです。そのような中で、製薬業界が新たなファンドを立ち上げ、新規抗菌薬の開発に投資するという今回の取り組みに大いに期待しております」と述べました。

英国トリニティカレッジ 教授
Dame Sally Davies 氏

国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター長の大曲貴夫氏は、日本では毎年8000人以上が耐性菌感染症で亡くなっていると述べました。そして「新型コロナウイルス感染症患者への不適切な抗菌薬の使用も懸念されます。本来、抗菌薬はウイルスには効果がないのですが、検査薬の不足等から、感染がウイルス性か細菌性かを見定められず、やむなく抗菌薬を投与する例もあります。WHOは、これが耐性菌の拡大につながると警告しています」と述べ、「薬剤耐性菌による感染症は脅威です。ただし、耐性菌はすでに特定されています。新型コロナウイルス感染症とは異なり、耐性のメカニズムは明確であり、事前に対処することができます」と指摘し、「新たな抗菌薬の研究開発に関する障壁は主に経済的な理由にあります。『薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド』がこの壁を破り、新たな抗菌薬が生まれることを強く期待します」と述べました。

国立国際医療研究センター
AMR臨床リファレンスセンター長
大曲 貴夫 氏

3. 製薬企業からのコメント

FPMA副会長であり塩野義製薬の社長である手代木功氏が、「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」設立の背景とファンドの概要について述べました。同氏は、耐性菌の問題は、人命にかかわるだけでなく社会にも甚大な被害を与えるものにもかかわらず、その対策となる有効な新しい抗菌薬の開発が停滞していることを指摘しました。その理由として、開発に膨大な費用がかかること、一方で、新規抗菌薬の市場規模が小さいことを挙げています。同氏は、「私たちは製薬業界がこれらの問題を解決するためのフレームワークとして『薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド』を設立しました。新しい抗菌薬の研究開発を強化および加速し、投資だけでなく、業界のリソースと専門知識および技術を提供することによって、それらをできるだけ早く商品化することができるでしょう。また、政府に対して新規抗菌薬の研究開発に対するインセンティブ制度の策定を働きかけ、その開発が持続的に行われるようなエコシステムの構築も図ります」と付け加えています。

塩野義製薬以外の日本の出資会社4社の代表、エーザイ代表執行役COOの岡田安史氏、第一三共社長兼CEOの眞鍋淳氏、武田薬品工業チーフグローバルコーポレートアフェアーズオフィサーの大薮貴子氏、中外製薬上席執行役員の河野圭志氏も本記者会見に参加し、各社における本ファンドの位置づけについて述べました。

IFPMA副会長、
塩野義製薬 社長 手代木 功 氏

エーザイ 代表執行役COO
岡田 安史 氏

第一三共 社長兼CEO
眞鍋 淳 氏

武田薬品工業
チーフグローバルコーポレート
アフェアーズオフィサー
大薮 貴子 氏

中外製薬 上席執行役員
河野 圭志 氏

4. COVID-19感染拡大の経験からAMRを考える

厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏から、パンデミックの歴史やCOVID-19患者数の推移、日本で開発中の医薬品等の現状をビデオメッセージで説明し、政府が定めたAMRアクションプランの数値目標と達成状況を強調するとともに、新規抗菌薬の研究開発を促進するための施策としてプッシュ型とプル型のインセンティブの必要性について言及がありました。

厚生労働省 医務技監
(講演当時)
鈴木 康裕 氏

製薬協の中山讓治会長は、新型コロナウイルス感染症の治療薬とワクチンの研究開発については、産業界、政府、学界の力を集結させ精力的に取り組んでいると述べました。同氏は、薬剤耐性菌についても産学官の連携・国際協力が必要であり、必要な医薬品の開発を続けるには各国政府の協力が必要だと付け加えました。同会長は、「政府に対して、製造販売承認時に政府や公的機関が当該企業に報酬を与える制度や、政府が一定量の在庫を購入する責任を負う制度の確立を求めていきます」と述べ、本会見を締めくくりました。

製薬協 中山 讓治 会長

5. 質疑応答

質疑応答の様子

Q1 AMR対策については国民の理解が重要だということだが、処方する医師や製薬企業自身も適正使用に関して対応すべきだと思うが、製薬協会長としてどう考えるか。

AMRの問題は極めて重要で、本年度、製薬協としてもAMRを医薬品の適正使用推進における主要な課題の一つとして捉えて、種々の活動に取り組んでいる。MRが適正使用に関する情報提供について、共通して使える資材を準備したり、薬剤師の先生方が使えるようなポスターを準備したりする等、さまざまに普及活動をしていきたい。また、メディアを通じて伝えていくことは重要であると考えるので、メディアの方々の力もお借りしたい。(製薬協 中山譲治会長)

Q2 抗菌薬の主な原料は中国に依存しているようだが、原料を中国に頼っている現状で、サプライチェーンの問題について解決策をどう考えるか。

基本的には別問題だと考えている。「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」においては、ファンドが管理して全体へのアクセスを保証しようとする考えが明確にあり、サプライチェーンの問題も考慮して、万全を期して進めていくものと理解している。(中山会長)

原材料のサプライチェーンの問題は、AMRファンドとは別の問題であり、それ以外の抗生物質も含めた国全体の問題としてどのように供給していくのかという課題だと考える。(IFPMA副会長、塩野義製薬 手代木功氏)

Q3 新型コロナウイルスと薬剤耐性菌の問題について、北米の研究者との間で話題になったとのことだが、国内外で新型コロナウイルス感染症の治療の中で、薬剤耐性の感染症の事例があったのか教えてほしい。また、長期間治療でカテーテルや人工呼吸器で薬剤耐性菌の問題があるということだが、何が原因となるのか教えてほしい。

英文の論説では新型コロナウイルスとAMRの問題は語られ始めており、関心は高まっている。欧米の先生から直接聞いた話として、新型コロナウイルス感染症の患者さんの隔離はしたものの耐性菌対策が抜けてしまい、耐性菌が患者さん同士でうつるという現象が起こっている。これは盲点なので真剣に考える必要がある。カテーテルや人工呼吸器における薬剤耐性菌については、コロナにおいては、人工呼吸器を使用するケースがあり、喉に管を通すため肺炎を起こしやすくなる。これが理由の一つ。また、点滴を介した血流感染症のリスクが上がることもある。また、比較的リソースのある国では、腎臓の問題のため、あるいは体外式膜型人工肺(ECMO)使用のため、酸素不足を補うために体外循環として血液を外に出して治療することがあるが、体の外に血液を出すことで感染のリスクが上がる、あるいは免疫が落ちるので、その点が原因ではないかと推測する。(国立国際医療研究センター 大曲貴夫氏)

Q4 「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」の運営システムやスケジュールについて教えてほしい。

本アクションファンドは、2020年第1四半期までに稼働させ、重要な感染症の研究をしているプロジェクトに対して投資していく。(中山会長)
仕組み上はアクションファンドができ上がってから、サイエンティフィックアドバイザリーボードを含めた意思決定体制が構築されることになり、最終的には、ボードの方々の意見もうかがいながら、投資先を決定していくことになる。(手代木氏)

Q5 「薬剤耐性菌(AMR)アクションファンド」は国内5社が参画しているとのことだが、今後、参画企業は増えるのか。また、2~4剤開発とのことだが、新しい薬剤が出てきた場合、グローバルでの公平な分配についてどう考えるのか。

現時点での参画は23社だが、今後増える可能性はあるだろう。成果として薬剤が開発されても、企業が存続していなければ意味がなく、それを回避する仕組みとして、プル型インセンティブの考え方を挙げた。特に、サブスクリプションモデルや、国家における備蓄について、WHOを中心に、早い段階から考えていく必要がある。AMR対策と分配を常にセットで考えることが重要である。(手代木氏)

Q6 10年でこのファンドは終わるのか、期間を教えてほしい。

現時点では10年がひとつのスコープとなるが、オンゴーイングで考えていくことになる。ファンドであるので、出資者には何らかの形でお返しするが、リターンがあったとしても数%である。寄付ではないが、社会貢献の要素を前面に出しているファンドといえる。(手代木氏)

Q7 各社は本ファンドを活用して抗菌薬開発をしていく考えはあるのか。

自社としてはAMRアクションファンドで採択いただけるような面白い化合物をつくれるよう頑張っていきたいと考えている。(手代木氏)
当社はこれまで、キノロン系薬剤を開発していたが、現時点ではフォーカスはがんに移している。当社のもつノウハウは必要であればお伝えするが、直接的にモノで関与することは考えていない。(第一三共 眞鍋淳氏)
現在抗菌薬の開発や販売は行っておらず、将来的にそのような計画はない。(中外製薬 河野圭志氏)
直接、抗菌薬の開発する考えは現時点ではない。(エーザイ 岡田安史氏)
社会的責任から寄付という立場で参画している。(武田薬品工業 大藪貴子氏)

(国際部長 俵木 保典

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