トップニュース 「会長記者会見」を開催

印刷用PDF

2020年6月17日、ホテルメトロポリタンエドモント(東京都千代田区)にて、製薬協「会長記者会見」を開催しました。今回の会見には37名の報道関係者の参加があり、製薬協の中山讓治会長から、「製薬協の取り組み」について説明を行うとともに、活発に質疑が交わされました。

会場風景

製薬協の中山讓治会長は、「2020年度の製薬協活動方針」「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」「骨太の方針2020に向けた提案」「製薬協 政策提言2019の進捗」について説明しました。これらのテーマのうち、本稿では、「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」の要旨を紹介します。

Ⅰ. 感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言の要旨

今般の新型コロナウイルス感染症は瞬く間に全世界に広がりを見せ、世界各国の経済活動や社会活動を麻痺させ、地球規模で重大な社会問題となっています。治療薬やワクチンが感染の早期収束と経済回復の鍵を握っており、製薬企業は本感染症に対する治療や予防に向けて、既存薬の活用をはじめ、安全で有効な新規治療薬やワクチンの創製を目指して研究開発を推進しております。

今般、策定いたしました「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」は、今回のパンデミックの経験から感染症対策の課題を把握し、今後の感染症流行を克服するための提言をまとめたものです。

製薬協 中山 讓治 会長

1. 感染症治療薬およびワクチンの迅速な創出と安定供給

感染症という疾患の特性や予測の不確実性から、企業が単独で開発から生産、供給までを迅速に行うことは困難であり、感染症対策に関する国の司令塔機能を設置する必要があると考えています。司令塔の全体像としては、米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)の感染症に特化した機能・組織をイメージしています。この機能のもとで、治療薬・ワクチンの創製に関しては、平時から国内の技術開発、感染症領域の研究者や技術者の育成、国際連携による情報収集・新技術の導入や、新技術に対応した国内生産設備の整備等、研究開発基盤・生産体制基盤の整備等の戦略立案、支援を想定しています。

また、感染流行期における総合的な戦略立案も想定し、その一環として、当該感染症の治療薬やワクチンの開発、生産体制整備の支援策等の立案・実施を想定しています。

司令塔機能の設置をベースとして、研究開発、製造技術・生産体制、安定供給、規制に関する提言の概要を以下の通り報告します。

(1)研究開発の推進

新型コロナウイルスは培養製法では増殖が困難という特性から、現在開発が進められているワクチンは、遺伝子組み換え技術を用いた核酸やウイルスベクター等を利用した、これまでにない革新的なモダリティとなっています。こういったイノベーションを速やかに実用化するため、平時より産学官連携で研究を進め、また、世界保健機関(WHO)や米国CDC等、海外との連携によって新技術を獲得していく努力も必要です。

また、感染症領域の研究開発では、高度なバイオセーフティレベルに対応できる施設が必要ですが、民間では、地域との関係等さまざまな理由で困難です。そこで、民間も利用できる高度なバイオセーフティレベルに対応した公的研究施設の設置も必要です。

臨床開発面では、感染流行時でないと治験症例が集まらないので、早く治験を開始しなければなりません。そのためには、医薬品のリポジショニングがさしあたって有効な対策となります。迅速に開発を行うためには、平時から既存の医薬品等のライブラリを整え、流行時に速やかにスクリーニングし開発候補品を決定できる体制を整えること、またあらかじめリポジショニングにおける臨床評価指針等を定めておく必要があります。

(2)製造技術の向上と生産能力の拡充

2020年6月1日に厚生労働省より、新型コロナワクチンの開発と並行して企業の生産体制を整備するための「加速並行プラン」が発表されました。生産体制の整備に関して、2020年度第2次補正予算で設置する基金を活用して支援することが公表されました。企業側としてもこの取り組みを歓迎し、おおいに期待したいと考えています。

一方、製造技術の開発と、それを担う研究者・技術者の育成も重要です。これについては、海外組織との連携も含め、産学官共同で人材育成に取り組んでいただきたいと考えています。

(3)安定供給の確保

公衆衛生上優先順位の高い医薬品に関しては、緊急時であっても、その製造に必要な原薬等の輸入に問題が生じないよう、平時より原産国とのアライアンス協定を進める等、政府レベルでのしっかりした枠組みを構築していただきたいと考えています。また、優先度の高い原材料については、その製造工程の一部を共同製造設備として公的支援のもとで国内に設置していただくことが必要です。

また、需要予測が立ちにくい感染症の治療薬とワクチンの生産に関する企業側のリスクを低減するために、製造販売承認取得報奨制度等の導入を検討いただきたいと考えています。

(4)感染症流行時の規制

今般の流行において、特例承認が了解され、レムデシビルが医療現場に供給されることになりました。しかし、現状、特例承認は海外での承認実績がないと日本では特例承認の対象となりません。感染流行の規模・重篤性によっては、薬事承認によらない緊急避難的な仕組みの検討が必要です。提言書ではその一例として米国の緊急使用許可(Emergency Use Authorization、EUA)を挙げていますが、明確な科学的根拠・基準による新たな仕組みが必要です。

世界的な規模の流行時には、できるだけ各国が協調して開発を進め、同時期に承認することが求められます。そのためには、平時より、欧米各国の政府・審査機関・研究機関との連携をいっそう深めて、新興・再興感染症治療に対する科学的根拠を共有し、関連規制をできるだけ一体となって運用できる仕組みを作っておくことが必要です。

2. 創薬以外の製薬協の取り組み

(1)医薬品の安定的な供給に必要な取り組みや政策的提案

1点目は、流通・物流関連です。有事の際においても医薬品の安定供給を継続するため、航空便等の輸送手段の優先的な確保が必要であると考えています。また、日本製薬団体連合会が策定した「医薬品供給調整スキーム」について、各社が取り組んでいくこと等、供給不安等が生じた際の迅速な対応体制を構築すべきであると考えています。

2点目は、薬価制度です。リポジショニングに伴う追加効能に関する薬価上の評価や、調達に伴う投資やコストがカバーされ得る薬価上の仕組みについて検討すべきであると考えています。

3点目は、感染症治療薬開発の事業性を高めるためのPull型インセンティブ策です。薬剤を開発した企業に対して一定額を一定期間支払う仕組み、すなわちサブスクリプション方式が優れたインセンティブ策になり得ると考えています。併せて国際的な枠組みでの制度上の整備が必要であると考えています。

(2)製薬産業としての社会的責任・貢献としての取り組み

新型コロナの第2波・第3波、他の新興・再興感染症発生時も想定しつつ、製薬産業として平時より取り組むべき対策について検討を進めていきます。

パンデミック発生時において、各社の医療関係資格保有者が地域医療にてボランティアとして従事することや、各社従業員やOBが地域の感染症に関する相談窓口等で、ボランティアとして活動することは大きな意義があると思います。各社従業員やOBが有事において速やかに活動できるよう、平時から標準的な研修プログラムや研修機会を会員企業に提供する等、効果的なサポート策について検討を進めていきたいと考えております。

また、将来の感染症対策や医療関係職を担う人材の育成は製薬業界の事業とも密接に関係し、社会的意義も大きいと考えます。たとえば、緊急時において経済的な支援を必要とする医学・薬学・公衆衛生学等を学ぶ学生に対し、第三者機関等への資金拠出を通じて支援すること等について検討したいと考えております。

「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」に関する説明は以上です。これら提言内容の進捗につきましては、適宜情報提供してまいりますので、みなさんのご支援をお願いしたいと思います。

主な質疑応答

製薬協の取り組み全般に関する主な質疑応答は以下の通りです。

質疑応答の様子

Q1 COVID-19ワクチンの生産体制整備に国も予算をつけたが、日本のワクチンは生産技術、製造キャパシティ、品質等のレベルが必ずしも高くないと思う。国内でワクチンが短期間で本当にできるのか?

核酸(DNAやRNA)等の新規モダリティを活用したワクチンの研究開発と製造技術の確立について、現在、各社がチャレンジしている。海外ワクチンの国内生産も含め、国内において一定数量を確保できるものと期待している。高品質なワクチンの安定供給に向けては、平時から新規モダリティの研究開発と製造技術の確立に加え、それを担う研究者・技術者を育成することが重要である。

Q2 医薬品のサプライチェーンも中国・インドへの原材料依存度が高い。安全保障の観点から国際アライアンスを強化する必要があるとのことだが、具体的になにに取り組むのか?

医療の安全保障の観点から、コストが高くても日本ですべての医薬品を創るという考えではない。日本はエネルギー資源に乏しく自然災害の発生等リスクが高い国であり、平時から、中国やインドに限らず欧米等との政府レベルでのアライアンスを積極的に強化し、医薬品サプライチェーンを安定的に確保していく必要があると考える。

Q3 米国のEUAのような仕組みを日本でも導入したいのか?

海外で承認実績のある医薬品のみ日本でも特例承認できるという仕組みはあまりにも自律性に欠けるのではないか。日本も、科学的根拠・基準に基づく独自の判断で、迅速に特例承認を行う仕組みをもつべきと考える。ただし拙速な対応は避けるべきである。

Q4 国は、以前、新型インフルエンザワクチンの生産体制確立に向け、1000億円以上の予算を使ったが、今回のコロナ禍でまた1000億円以上の予算をかける。もっと効率的な対応方法はないものか?

今回のコロナ禍に対応するには、従来型の鶏卵や細胞培養によるワクチン製造ではとても必要量を確保できない。新規モダリティによるワクチンを開発すれば、最適な製造方法も変わる。また、民間も利用可能な、高度なバイオセーフティレベルに対応した公的研究施設の設置とセットで考えていく必要がある。

Q5 なぜこの時期に提言書をまとめたのか? また今後どのように活用していくのか?

製薬協会員会社は、これまでも感染症の治療薬やワクチンの研究開発と供給に注力してきたが、コロナ禍を機に、感染症医療全体の課題について製薬協が思うところを伝えるため、今回提言をまとめた。提言書については、機会を捉え、医療関係者、国民、国の然るべき立場の方等にお伝えしていく。

Q6 2021年の薬価改定(中間年改定)の見送りを提案しているが、2021年に限定した提案か? あるいは薬価の毎年改定自体の凍結を提案するものか?

現在のコロナ禍において、甚大な影響を受けている医療機関、薬局、医薬品卸等の状況を踏まえると、実勢価格を調査できる状況にはないと考える。

Q7 医薬情報担当者(MR)の活動について、医療機関への訪問規制が強化される中、今回のコロナ禍でリモートによるプロモーションが進んでいる。MRの将来ビジョン、あり方、適正人数は?

MRの本質的なミッションは、医薬品の適正使用の推進のための「適正な情報提供」と「副作用情報の収集」である。製品ポートフォリオの違いから、各社の状況はさまざまであるが、本来的な使命を大切にすれば、MRは今後も必ず必要とされる。

Q8 疾患ステージに応じた製薬会社の取り組みとして、発症後の薬物治療に加え、発症前の予防・先制医療や、予後のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)改善や社会復帰について言及があったが、発症前と予後ステージにおいて製薬会社としてどこまで入り込んでいくのか?

日本の少子高齢化問題を乗り越えるためには、社会を支える側を増やす必要がある。医療は単年度コストではなく投資である。アルツハイマー等の予防・先制医療にもっと投資して社会を支える側を増やすことで、全体の社会保障コストを抑えられると思う。

(広報委員会 政策PR部会 荻原 浩二

このページをシェア

TOP