トピックス 「第22回 医薬品品質フォーラムシンポジウム」を開催

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2020年2月26日、全電通労働会館多目的ホール(東京都千代田区)にて「第22回 医薬品品質フォーラムシンポジウム」が開催されました。当日は、新型コロナウイルス感染症による社会的な影響が始まりつつある中での開催でしたが、同シンポジウムには、産学官の各方面より約60名が参加し、「ICH-Qシリーズの現状」と題して、講演と活発な討議が行われました。

会場風景

趣旨説明(開会あいさつ)

当シンポジウムの世話人である国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)の合田幸広氏は、以下のように述べました。

「ICH Qトリオ※1は、2003年に医薬品品質に対するパラダイムシフトとなるべくその考え方が出され、これに対応して第1回の本フォーラムシンポジウムが2004年1月に開催された。Qトリオはその後Q11(原薬の開発と製造)を加えてQカルテット※2となったが、本フォーラムは、医薬品の品質をどう考えるべきか、どのように管理していくかという観点から、産学官のそれぞれの立場の先生による意見交換の場として有効に機能してきた。今回は、その原点に立ち戻り、「ICH-Qシリーズの現状」というテーマを設定して、Q11以降のQ12(医薬品のライフサイクルマネジメント)、Q13(連続生産)およびQ14(分析法の開発)について、その現況をよくご存じの先生方に講師をお願いした。本日は、参加されている方々が、それぞれの立場でこれら課題にどのように取り組み、対応していくかについて、積極的な質疑、討論をしていただくことを期待している」

国立医薬品食品衛生研究所
合田 幸広 氏

  • 1
    ICH Qトリオ:科学とリスクマネジメントに基づく医薬品の品質システムとして作成された初期の3つのガイドライン、Q8(製剤開発)、Q9(品質リスクマネジメント)およびQ10(医薬品品質システム)
  • 2
    ICH Qカルテット:ICH QトリオにQ11(原薬の開発と製造)を加えた、科学とリスクマネジメントに基づく医薬品の品質システムとして作成された4つのガイドライン

ICH Q11の経緯と解説

シオノギファーマの尾崎健二氏は、科学とリスク管理に基づいた新たな品質保証の体系が製剤に関して構築されていたものの、原薬に関してはなく、企業側/規制側双方の労力を要していたためにこれを整備した、と本トピック採択の経緯を説明しました。原薬では製剤の製造プロセスと違い、不純物の知識に加えこれをどのように管理するかがより重要であること、管理戦略としては、最終試験による品質評価に重点を置いた「従来の手法」のほか、工程と製品の理解による有意義で効果的なパラメータ管理を用いた「より進んだ手法」、あるいは両者の組み合わせを採用することも可能であると解説しました。出発物質を選定する際には、ガイドラインに記述された個別の一般原則を厳密に適用するのではなく、一般原則のすべてを考慮することが重要であること、またガイドライン本体のみでは実行段階で課題が残ったため、選定の妥当性をより明確に示すためのQ&Aを作成するとともに、理解を促すためのデシジョンツリーを添付したと述べました。今後、企業側/規制側との間に原薬申請における適切なコミュニケーションが期待できると締めくくりました。

ICH Qガイドラインと医薬品品質調和(化学合成医薬品を中心に)

国立衛研の奥田晴宏氏は、1990年に設立された医薬品規制調和国際会議(ICH)は25年後に法人化するとともに、その使命も安全で有効な新医薬品をより早く提供するということから、新医薬品を適宜・継続的に患者さんが利用できるようにと変化してきたと述べました。これまで議論してきた品質関連ガイドラインを俯瞰すると、Q6(規格および試験方法)を軸にして承認申請や出荷判定に特定された安定性、分析法、不純物のガイドラインが整備され、その後、開発から市販後までの品質保証を見通したQカルテットが発出され、さらにこの概念を引き継いでライフサイクルマネジメントを容易にするためにQ12が議論されたと解説しました。Qカルテットの中での重要項目として管理戦略があり、クオリティ・バイ・デザイン※3の手法にて、管理をより上流の工程で実施することで最終製品の試験に依存しない管理が可能となること、また管理戦略を上手に構築することで頑健性のある工程を作ることができると解説しました。最後に、医薬品サプライチェーンの伸長と規制の収斂(Regulatory Convergence)についてICH活動のビジョンと関連づけて説明しました。

  • 3
    クオリティ・バイ・デザイン:QbD(Quality by Design)

ICH Q12の現状と今後の展望

大塚製薬の仲川知則氏は、Qカルテットにより医薬品の開発から承認までの科学およびリスクに基づいた運用・評価の仕方は定着してきたが、承認後の変更に関しての柔軟な運用は実現されておらず、要求される薬事手続きも調和されていなかったため本トピックが採択されたと述べました。新たな用語となるエスタブリッシュトコンディション※4は製品の品質を保証するために必要な法的拘束力のある情報であり、製造工程では個々の単位操作ではなく、各操作の順序を含む全体的な管理戦略で特定すべきであると説明しました。また、分析法ではその定義を決めました。承認後変更管理実施計画書※5は、変更の計画書についてデータ取得の前に合意するもので、これにより申請後の審査期間を短縮できること、製品ライフサイクルマネジメント※6文書は、エスタブリッシュトコンディションおよび関連する変更カテゴリーの情報、変遷をまとめたものです。そして本ガイドラインを活用することで、承認後の変更のマネジメントにつき企業側と規制側での透明性が高まり、イノベーションと継続的な改善が促進できると述べました。

  • 4
    エスタブリッシュトコンディション:EC(Established Condition)
  • 5
    承認後変更管理実施計画書:PACMP(Post-Approval Change Management Protocol/Plan)
  • 6
    製品ライフサイクルマネジメント:PLCM(Product LifeCycle Management)

ICH Q13の活動状況と国内における連続生産の取り組み

大日本住友製薬の松井康博氏は、世界各国で連続生産という方式の医薬品への適用が進んでいる中、国際的な共通認識がないことが普及の妨げにならないよう本トピックが採択されたと述べました。本トピックで取り扱う範囲は、たとえば打錠工程のような1工程ではなく、複数工程を統合した連続生産であると述べました。 次に、国内の産学官による国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究の取り組み状況につき、以下の通り解説しました。連続生産の管理戦略として、製品や中間製品等の品質をリアルタイムに測定し、稼働中に生じる変動に応じて工程パラメータを時々刻々と調整することで管理された状態(State of Control)を実現し、目的の品質を達成することが重要であり、また、原料を投入した後の滞留時間の分布や想定された変動が下流工程に及ぼす影響度を把握するという動的特性の理解が重要であることと、そのほか、連続生産におけるプロセスバリデーションで考慮すべき事項、ロットの定義について紹介し、本トピックの情報を活用することで連続生産の普及が期待されると締めくくりました。

ICH Q2(R2)/Q14の現状と企業側・規制側からの期待

国立衛研の柴田寛子氏は、Q2(R2)(分析法バリデーションの改定)では、これまでの液体クロマトグラフィーに加えて近赤外分光法(NIR)等、多変量解析を必要とする分光学的分析法のバリデーションの考え方を示したこと、Q14(分析法の開発)では、製剤開発ガイドラインの考え方を取り入れ、分析法を開発し理解を深めるための手法等を示したと述べました。Q2(R2)では、現行のガイドラインでカバーされていない分析法についてバリデーション計画の立案が容易になり(企業側)、また分析能パラメータとその評価方法等についての共通認識と相互理解が進むことで、リソースの最適化(規制側)と承認申請プロセスの期間の短縮が期待されます。Q14では、分析法そのものに起因するトラブルが減少する(企業側)ほか、企業側と規制側の相互理解と得られた知識の共有が促進されることで、より柔軟で効率的な薬事手続きとリソースの最適化(規制側)が期待されます。

最後に、これらガイドラインにて、より効率的な医薬品開発およびより合理的な承認および承認後の変更管理が期待できると述べました。

まとめ

閉会にあたり、国立衛研の奥田晴宏氏は、本日のテーマに関連して、ガイドラインというものは社会インフラの一つである道路のようなものではないかと述べました。「ICHにおいても、ガイドラインがあることでその意図するところを目指して企業活動が順調に行われるであろうが、ただ道路だけができても、ドライバーの教育や交通法規がないと動かない。また、道路ができても自動運転のような形は想定せず、常に最新のものを目指してそれにチャレンジをしていく、そのような道路ではないだろうか」と述べました。良いガイドラインができて、その中で企業活動による創意工夫が行われ、この業界が進歩していくということが、これから私たちこの分野に携わる産学官すべての方の務めである、との言葉でシンポジウムを締めくくりました。

(製造・品質管理部 今野 勉

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