トピックス 「CMC Strategy Forum Japan 2019」が開催

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2019年12月11、12日の2日間、東京マリオットホテル(東京都品川区)にてCASSS(California Separation Science Society)主催の「CMC Strategy Forum Japan 2019」が開催されました。日本だけでなくアジア、北米、欧州各国から合計110名が参加し、活発な議論が行われました。

CMC Strategy Forum Japan開催の経緯

CMC Strategy Forumは2002年にWCBP(Well Characterized Biotechnology Pharmaceutical)シンポジウムから独立し、米国で第1回が開催された後、2007年から欧州、2012年から日本、そして2014年からはラテンアメリカでも開催されています。CMC Strategy Forumでは、企業、アカデミアおよび規制当局の専門家がバイオ医薬品のCMC(Chemistry, Manufacturing and Control)※1についての研究開発、製造、規制等に関する課題に関して、十分に時間をかけて議論を行い、相互理解と課題解決を促進しています。

日本でのCMC Strategy Forumは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と製薬協で準備委員会を組織し、議論テーマの選定や議論の方向性について約1年をかけて準備をしてまいりました。

会の開催に際しCASSSの代表を務めるGenentech(Rocheグループ)社のWassim Nashabeh氏とPMDA審査センター長の新井洋由氏からのwelcome commentの後、以下のテーマで活発な議論が行われました。

  • 1
    CMC:原薬の製造法・製剤化の研究、原薬や製剤の品質を評価する分析研究等の医薬品製造および品質を支える統合的な研究

CASSS 代表、
Genentech(Rocheグループ)社
Wassim Nashabeh 氏

PMDA 審査センター長
新井 洋由 氏

Session 1
Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products
Session 2
ASEAN Regulatory Updates
Session 3
Technologies Related to Viral Safety and Topics about the ICH Q5A Revision
Session 4
New Trends in Advanced-type Antibody Products including Antibody Drug Conjugates and Bi-specific Antibodies

Session 1:Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products

Session 1では、PMDA再生医療製品等審査部の奥平真一氏とRoche社のMarkus Goese氏の司会のもと、各国の規制当局担当者から、バイオ医薬品を中心とした最近の薬事規制動向について幅広い内容が紹介されました。

Session 1司会のMarkus Goese氏と奥平真一氏

PMDA再生医療製品等審査部の榎田綾子氏から、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)改正の3本柱、先駆け審査指定制度の進捗、遺伝子治療製品の相談・申請状況、ICH Q12に関連した日本国内での取り組みおよびバイオシミラーの現状について紹介がありました。

韓国食品医薬品安全処(Ministry of Food and Drug Safety、MFDS)のJina Kim氏(電話会議システムでの参加)から近年の申請状況、新組織の追加、先進的再生医療製品およびバイオ医薬品の安全性にかかわる規制の追加、CMCについてはバイオシミラーや安定性試験の要件について紹介がありました。

カナダ保健省(Health Canada)のAnthony Ridgway氏から、医薬品のタイムリーな上市や規制調和といった保健省の方針、先進的製品への新しい審査ルール(Sandbox)でのチャレンジ、バイオシミラーの代替および切り替えの定義について紹介がありました。

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)CDER(Center for Drug Evaluation and Research)のChristopher Downey氏(電話会議システムでの参加)から、チームベースでの審査体制による啓蒙促進・迅速化、迅速審査およびバイオシミラーの進捗状況およびEC(Established Condition)のパイロットプログラムの紹介が、CBER(Center for Biologics Evaluation and Research)のCassandra Overking氏から、CBERの4つの優先審査戦略(Priority Review:優先審査、Accelerated Approval:迅速承認、Fast Track:ファスト・トラック、Breakthrough Therapy:ブレークスルーセラピー指定)、再生医療製品および先進技術に関する取り組み、新規技術を用いた製品の評価に対する課題について紹介がありました。

ドイツ規制当局(Paul-Ehrlich-Institut、PEI)のSteffen Gross氏からは、欧州医薬品庁(European Medicines Agency、EMA)のBrexit対応、迅速審査の状況、バイオ医薬品の局法収載によるバイオシミラーへの影響から、新規のバイオシミラーへの適応症の付与に関するチャレンジ、Traceability、Interchangeability、SwitchingおよびSubstitutionの状況についても紹介がありました。

パネルディスカッションにおいては、各規制当局担当者への質問のほか、CMCデータの整合性、各極での調和促進およびICH Q12パイロットプログラム、バイオ医薬品の局法収載やEC等について、活発な議論が展開されました。

Session 1でのパネルディスカッションの様子

Session 2:ASEAN Regulatory Updates

Session 2では、Session 1に引き続きPMDAの奥平氏と、Roche SingaporeのSannie Chong氏の司会のもと、東南アジア諸国連合(ASEAN)の規制当局担当者からバイオ医薬品に対する各国の対応について紹介されました。

マレーシア国家医薬品規制庁(National Pharmaceutical Regulatory Agency, Ministry of Health, Malaysia、NPRA)のNoraisyah binti Mohd Sani氏からは、マレーシアNPRAの紹介、安全性・有効性の担保と産業育成を踏まえた方針、医薬品管理については、医薬品をタイムリーに使用できるような管理およびSRA(Stringent regulatory authority)に準じた枠組みの強化、優先審査、条件付き登録および承認過程の促進といった試みも紹介されました。

タイ王国保健省食品医薬品庁(Food and Drug Administration, Thailand、タイFDA)のWittawat Viriyabancha氏からは、タイ政府の研究開発促進を重点項目としたMedical Hub政策、タイFDAの紹介、Regulatory scienceのレベルアップと近代化を取り入れた新たな規制(2019年4月法改正、2020年2月施行)、他国の規制当局との協業推進(規制Sandboxの導入等)について紹介がありました。

タイFDAのWittawat Viriyabancha氏

インドネシア国家医薬品食品監督庁(National Agency for Drug and Food Control, Republic of Indonesia)のTogi Junice Hutadjulu氏からは、世界保健機関(WHO)のシステムに準拠した取り組み、審査のオンライン化や偽薬防止のための電子署名の導入、自立のためのインフラ強化および業界育成サポート等について紹介がありました。

パネルディスカッションにおいては、各規制当局担当者への質問のほか、CMCの品質確保、ASEANとしての標準化、ICH Q12の承認後変更管理についておよびバイオ医薬品の局方収載への対応等について、活発な議論が展開されました。

Session 3:Technologies Related to Viral Safety and Topics about the ICH Q5A Revision

Session 3では協和キリンの内田和久氏、PEIのSteffen Gross氏の司会のもと、ICH Q5Aガイドラインの改定に関連した最新のウイルス分析技術の動向や、より柔軟なウイルスクリアランスの戦略に関する発表および議論が行われました。

Session 3司会のSteffen Gross氏と内田和久氏

冒頭、PMDAワクチン等審査部の櫻井陽氏より、ICH Q5Aガイドライン改定の背景や直近のシンガポール会議における専門家作業部会の活動、およびコンセプトペーパーの紹介がありました。ガイドライン改定に向けて検討すべき論点として、適用対象となる先端的なバイオテクノロジー応用製品、より柔軟なウイルスクリアランスアプローチ戦略、新しいウイルス分析方法を適用する際の一般原則、連続生産等の先進的な製造技術におけるウイルスクリアランスとリスク低減戦略、および1999年のICH Q5A(R1)改定後に発展したウイルスクリアランス技術の反映等が紹介されました。

続いて、FDA CBERのArifa Khan氏から、バイオテクノロジー応用医薬品のモダリティおよび細胞基材の多様化を背景とした新たなウイルス分析法の必要性と、高感度に広範なウイルスが検出可能な分析技術として期待される次世代シーケンサー(NGS)の可能性、およびその活用に向けた技術課題への取り組みについて紹介がありました。検体調製や測定法等の標準化や分析法バリデーション、モデルウイルスおよび信頼性の高い解析用データベースの重要性等の課題に対する考え方や、CBERの取り組みが説明されました。

神戸大学の遊佐敬介氏からは、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞株の非感染性レトロウイルス様粒子(RVLPs)形成に係る3つの遺伝子同定と、これらの内在性レトロウイルス遺伝子のノックアウトによるRVLPsを形成しないCHO細胞株樹立等の研究の紹介がありました。また、NGSを活用した細胞株の特性解析技術が紹介されました。本技術においては細胞株特異的なデータベースを活用し、細胞株ごとに一定である内在性レトロウイルス等のバックグラウンドシグナルを差し引くことによって、偽陽性のリスクを低減できること等が解説され、遺伝子治療製品や細胞医薬品等の幅広いバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価への活用可能性が示されました。

最後に、Genentech社のQi Chen氏より、開発企業の立場から、CHO細胞由来製品の実績を中心に、ウイルスクリアランスに関する工程特性として、レジンのサイクル数が工程のウイルスクリアランス能に影響を及ぼさないことを示した研究の紹介や、製品によって必ずしも流速・圧力等の条件がウイルス除去フィルターの性能と相関するわけではないことを示すデータ等が詳細に提示され、すでに得られている知識(Prior Knowledge)を有効に活用したモジュラーバリデーション等の柔軟なウイルスクリアランス戦略を選択可能にすることへの期待と提案が示されました。また、連続生産におけるウイルスクリアランス戦略やクローズドシステム等の製造設備の進歩に伴う施設設計の考え方等が説明されました。

発表の後、演者に協和キリンの山本耕一氏、Health CanadaのAnthony Ridgway氏が加わり、パネルディスカッションが行われました。その中でNGSに関しては、セルバンクの特性解析等の使用目的の適合性や、標準ウイルスおよび信頼性の高いデータベースの重要性等が議論されました。また、モジュラーバリデーションのアプローチについては、Prior Knowledgeの共有のための企業間連携の可能性や審査における考え方等、今後のQ5A改定への期待と課題について議論が行われました。

Session 3でのパネルディスカッションの様子

Session 4:New Trends in Advanced-type Antibody Products including Antibody Drug Conjugates and Bi-specific Antibodies

Session 4では、第一三共の薮田雅之氏、Genentech社のWassim Nashabeh氏の司会のもと、先進型抗体の開発に関する話題を中心に最新技術や品質管理、薬制面の考慮点に関して議論が行われました。

冒頭、座長の薮田氏からセッション内容の紹介があった後、同じく第一三共の天野正人氏から先進型抗体の概論と優位性、同社で開発された抗体薬物複合体(ADC)を例に挙げた開発における考慮点、開発可能性(developability)、先進型抗体の品質面のリスク管理について発表が行われました。ADCの優位性として、結婚になぞらえて抗体と低分子薬物それぞれ単独の場合よりも薬効の相乗効果が期待できることを説明しました。また、developabilityとして、開発の初期段階から開発可能性を評価して、低いものは開発しないことが肝要であると述べられました。さらに、先進型抗体の品質管理に関しては従来の規格設定を機械的に当てはめるのではなく、分子の特性を理解したうえでの管理が重要であることを説明していました。

Session 4の演者の天野正人氏と司会の薮田雅之氏

続いて、中外製薬の田中信幸氏から同社のバイスペシフィック抗体(BiAb)を例に挙げ、製法開発のケーススタディについて発表が行われました。まず、開発における3つのポイントとして、製造可能性(manufacturability)を意識した分子設計で工夫が施されたこと、シングルユースの自社プラントを構築したこと、同社初のQuality by Design(QbD)申請を行ったことを挙げました。細胞株構築の段階から開発しやすい細胞株を選択したことがその後の開発に優位に働いたことや、製法開発時に発生したウイルスフィルターの目詰まりに苦慮したが克服できたことを説明しました。QbDの手法を用いた重要工程パラメーターの特定と管理戦略の構築の体系的な解説や、シングルユースシステム特有の課題についても説明が行われました。

さらに、Amgen社のArt Hewig氏からBiAbを含む先進型抗体のプロセス開発と将来展望について発表が行われました。BiAbはすでに医薬品として販売されていますが、そのコンセプトに基づいた新しいタイプの医薬品開発は進化し続けています。分子構造が複雑化するとそれに応じてプロセス開発や品質管理に種々の課題をもたらしますが、焦点を絞って最適化を行うことでその困難さを軽減できると述べていました。同社における各疾患を治療するための医薬品開発を東京の鉄道網(各路線を組み合わせて目的地に到達すること)に準えて、モジュラープラットフォームを医薬品開発に適用することにより、限られたリソースで迅速かつ柔軟で効率の良い開発戦略が可能になると説明していました。

最後に、Genentech社のBenedicte Lebreton氏からグローバルな視点および薬制面から見た先進型治療用抗体の開発からの学びと考察と題して発表が行われました。本セッションで採り上げているような先進型抗体は、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズに応えられる可能性があります。グローバル展開を加速化させるキーワードとして、Post-Approval Change Management Protocol(PACMP)の活用や企業と当局者が申請資料に関して早い段階から議論を重ねることが、相互信頼を構築しイノベーションのサポートにつながると説明していました。また、医薬品開発をサポートする薬制が整備されており、国ごとの違いに留意しながら適切に活用していくことが開発の加速化につながると述べていました。

4人の演者からの発表の後、PMDA再生医療製品等審査部の櫻井京子氏、PEIのSteffen Gross氏の2人が加わり、パネルディスカッションが行われました。ほぼすべての演者から先進型抗体の開発の難しさが説明されましたが、開発の初期段階から当局者と議論を重ねることで、開発の困難さを軽減できるのではないかとの意見がありました。また、新しいモダリティに対しての既存ガイドラインの充足性に関して、ICH Q5Aは改良の余地があるが、ガイドラインで必ずしもすべてのモダリティをカバーさせなくても良いのではとのコメントがありました。

Session 4での活発なパネルディスカッションの様子

まとめ

本年の「CMC Strategy Forum Japan 2019」でも、パネリストだけでなく聴講者も交えた活発な議論が各セッションで行われると同時に、比較的長めの休憩時間にもネットワーク構築含むコミュニケーションが非常に印象的な学会でした。4つのセッション終了後、Global Biotech Experts, LLCのNadine Ritter氏から、本フォーラムの総括が実施され、最後にWassim Nashabeh氏よりclosing remarksで閉会となりました(当日の発表スライドは、「CMC Strategy Forum Japan 2019」のウェブサイトに掲載)。

このグローバル会議が、今後も日本で継続的に開催され、バイオ医薬品の研究開発の促進とCMC領域の活性化の一助になるよう、製薬協として支援を続けていきたいと考えております。今後ともみなさんのご支援をよろしくお願いいたします。

次回の「CMC Strategy Forum Japan 2020」は、2020年12月7、8日に開催予定です。

パネルディスカッションでの議場からの質問の様子

(バイオ医薬品委員会 山田 正敏、吉野 武、中村 奈央、伊藤 哲史

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