トピックス 「第4回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」が開催 日インド(日印)間の医薬品規制に関する議論の成熟とさらなる国際的協力スキームへの発展へ

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2020年2月5日、ベルサール東京日本橋(東京都中央区)にて、「第4回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」が開催されました。2015年に厚生労働省およびインド保健家族福祉省・中央医薬品基準管理機構(CDSCO)との間で交わされた覚書「医療製品規制に係る対話と協力の枠組みに関する協力覚書」に基づき、2016年から官民合同のシンポジウムを開催し、2020年で4回目となります。

会場風景

今回のシンポジウムはインド行政側から、中央医薬品基準管理機構(CDSCO)長官のV.G.Somani氏、グジャラート州規制当局のHemant G.Koshia氏、インド大使館の公使Mona K C Khandhar氏ら5名が参加しました。日本行政側からは、厚生労働省医薬・生活衛生局局長の樽見英樹氏、国際薬事規制室室長の安田尚之氏ら5名、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏、理事の林憲一氏、国際部部長の佐藤淳子氏、課長の城谷真理氏、主任専門員の富樫美賀氏を含む11名が参加しました。一方、産業界からは、インド医薬品輸出促進協議会(Pharmexcil)会長のSh. Udaya Bhaskar氏、製薬協の伍藤忠春理事長および国際委員会の赤名正臣委員長をはじめとする国際委員会幹部そのほか29名、現地企業からの参加者9名、一般社団法人医療機器産業連合会(JFMDA)専務理事の石井信芳氏を含む24名、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)副会長の鈴木邦彦氏ら6名、日本ジェネリック製薬協会の早川政兼氏ら3名、一般参加者47名を含む総勢140名が参加しました。

アジェンダとしては、午前中に日印の各規制当局および産業界からのOpening Remarks、Keynote Speechesの後、Part A(革新的医薬品の市販前後における臨床試験要件)が続き、注目される日印両国における臨床試験ルールの最新動向についての発表と活発な議論が交わされました。午後は、Part B(医療機器の規制)、Part C(ジェネリック医薬品の規制および最新動向)、Part D(再生医療等製品の規制および最新動向)が続きました。本稿では、主にPart Aや医薬品に関する発表について報告します。

シンポジウムに参加したVIP

開会の挨拶

厚生労働省 医薬・生活衛生局 局長 樽見 英樹

日本とインドでは2015年に薬事規制分野の協力覚書を締結し、2016年よりシンポジウムを開催して、相互の理解や改善のための方策について議論を深めてきました。今後も議論を継続して両国における規制調和を促進していきたいと考えております。シンポジウムの各テーマ、特に新薬については、臨床開発のグローバル化が進む中、効率的な開発手法により、革新的な新薬をより早く、より安全に世界の患者さんに届けられることが重要です。日本で承認された医薬品についてインドでの追加臨床試験実施の免除の早期実施、日本とインドによる医薬品規制調和国際会議(ICH)や医薬品査察協定および医薬品査察協同スキーム(PIC/S)等の国際的な規制調和議論の推進を期待しています。

インド大使館 公使(Economic & Commerce) Mona K C Khandhar

2015年の薬事規制分野の協力覚書締結より、シンポジウムを通じて両国で意見交換を行うことで医薬品・医療機器等の分野において多大なる進展が見られています。インドは日本から多くのことを学んでいます。患者さんにより良い医薬品を届けられるよう、本日のシンポジウムも成功することを期待しています。

製薬協 伍藤 忠春 理事長

2015年の薬事規制分野の協力覚書締結以降、両国間で規制調和について話されてきましたが、その成果が徐々に現れていると認識しています。近年国際共同試験の実施が増加していますが、特に、がん・呼吸器疾患・認知症の分野ではAsian trialの活性化が期待されています。アジアの患者さんに革新的な医薬品を届けるためにはインドをはじめとするアジア各国との緊密な連携が必要不可欠となっています。製薬協としては国際共同治験を革新的な医薬品を早く患者さんのもとへ届けるためのbest practiceの一つとして考え、その実施を推進したいと考えています。本シンポジウムでは日本とインドの良好な関係構築につながるよう、活発な意見交換がなされることを期待します。

Otsuka Pharmaceutical India Pvt. Ltd Mihir Raja

両国の協力体制が素晴らしいゴールに向かうには、ステークホルダー間の協力、継続的なBest practiceの共有、および当局によるコミットメントが重要だと考えます。Somani氏はコミットメントについても進めており、インド国内における臨床試験の免除、新しい治験に関する方針の発行等を行っています。業界としてもこの流れは大変好ましいと受け止めており、両国の協力体制が次のステップに進むようさらにサポートしたいと考えています。

Keynote Speeches

Latest trend of pharmaceutical, medical device regulation, and international cooperation of India

CDSCO Drugs Controller General V.G. Somani

毎年このような日印シンポジウムを開催することで、相互理解が深まっており、感謝しています。CDSCOは、主に、(1)高品質かつ購入可能な医薬品や医療機器を国内に提供する、(2)規制の整備によりビジネス環境を整える、(3)患者さんや消費者のためになることを彼らに沿いながら前に進める(医師、メーカー、業界団体、規制当局は末端の存在であり、患者さんを中心に考える)、以上のことを意識しながら国際協力や規制の合理化を進めています。2019年に改訂されたNew Drug and Clinical Trial Rulesにおいては、対象疾患の重症度、希少性、有病率を踏まえて迅速審査制度の対象品目を選定しており、申請前相談等の活用が可能となりました。現在、他国とも連携しながら、積極的に改革を行っていますが、日本とは基本合意書(MOU)を締結しています。連携の取り方については、審査・承認プロセスの相互利用、GxP(適正 x 基準)の共有、インドの薬局方への理解推進、Capacity building(査察、安全性モニタリングの強化)等を模索しています。日本と協力することで特に審査、PV、治験環境の整備を進めていきたいと考えています。

Latest trend of pharmaceutical and medical device regulation, and international cooperation of Japan

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事 林 憲一

PMDAは「4つのF」を優先事項として業務に取り組んでいます。

Patient First
患者さんがなにを望んでいるのか把握し、それを業務に採り入れていくことを目指し、2019年5月に患者参画検討ワーキンググループ(WG)を設置した。
Access First
有効性の最大化とリスク最小化のバランスをとり、患者さんのアクセスを最適化するべく国際的な連携・協力に取り組んでいる。
Safety First
安全性を担保するために品質管理を徹底する必要がある。PIC/Sでは、Good Manufacturing Practice(GMP)規制の調和や査察を通じた品質管理を推進しており、日本のPIC/S加盟時の経験をインドと共有したい。
Asia First
アジア諸国は地理的に近いのみならず、さまざまな要因における類似性が高いことからアジア地域が一体となって強固な協力関係をつくっていくことを期待する。アジアンネットワーク会合も活用して規制調和やアジア国際共同治験の推進を図る。それにより、アジアを超えた世界の患者さんへの新薬提供が促されるだろう。

Part A. Clinical Study Requirements on Innovative Products in Pre and Post Marketing Phase

Clinical trials and regulatory supports for innovative drug development in Japan

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 新薬審査第一部 審査専門員 佐藤 大介

日本での医薬品開発についての状況および規制について紹介します。

  • 希少疾病用医薬品に係る審査において、国内試験および海外試験で臨床データパッケージが構成され、民族的な差異をICH E5のガイドラインをベースに検討した事例がある。ICH E17も導入されており、今後さらに国際共同治験の実施数が増えることを期待する。
  • 日本では治験相談を通じて、開発者とPMDAが密に連携し効率的に医薬品を開発することができる。PMDAの見解は通知等に基づき判断されるが、実状や企業の要望に合わせて柔軟な対応ができるようにしている。治験相談を通じ開発計画を早めに提供することで、承認申請後のスムーズな審査につなげることができる点はPMDAにとってもメリットがある。

The New Drugs and Clinical Trials Rules, 2019

CDSCO Drugs Controller General V.G. Somani

インドの医薬品開発に関する規制(The New Drugs and Clinical Trials Rules)について、最近の法改正の内容を中心に紹介します。

  • 今回の法改正により新薬の定義が変更され、モノクローナル抗体、遺伝子治療用製品等も新薬として取り扱う旨を明記した。
  • 医師もしくはスポンサーが主導している試験における賠償について明確にした。インドでは比較的社会的立場の弱い人間が試験に参加する傾向が多く、政府として彼らを保護することが必要であると考えている。
  • インドでは市販後臨床試験(Ph4)を実施することを条件として、インドでの治験データなしで承認する仕組みがある。PK/PDデータや安全性に問題がないという条件のもと、Ph4の実施を署名で確認したうえで承認を与える。米国や日本等、インドが指定した国において承認されている医薬品等が対象となる。また、重篤な疾患やインドにおいてアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患に対する薬剤については、Ph4の要件が緩和されることがある。
  • 医薬品審査の透明性および予見性を高めるため、Pre-/Post-submission meeting制度を設置した。有料であるが、企業は承認申請を行う前に臨床試験および動物試験のデザイン等の開発計画について相談できる。

Strategies and challenges for innovative drug development

製薬協 医薬品評価委員会 国忠 聡 委員長

医薬品開発の現状と将来の展望について紹介します。

  • 「技術革新のサポートおよびそれを支える法規の確立、さらにレギュラトリーサイエンスを通じて革新的な医薬品をより早く効率的に患者さんの元へ届ける」ことが医薬品評価委員会のビジョンである。
  • 近年の医薬品開発では、対象疾患の変化、バイオ医薬品へのシフトチェンジ、さまざまな種類の臨床試験活用、といったチャレンジが起きている。このような環境の中でより早く効率的に医薬品を開発するためには国際共同治験が重要である。
  • E6、E8、E17、E19のガイドラインの発展によって、臨床試験に対する効率化改革が進んでいる。この中でAdjustment Protocol(E20)という考え方に基づいて、よりフレキシブルな臨床試験が可能である。
  • Real World Dataの利活用について、海外では適用外使用データを集計して効能追加に導いたケース等、先端的な試みがなされている。日本でもたとえば医療情報データベース(MID-NET)に蓄えられた適応外使用データに基づき有効性・安全性を評価して、臨床試験の困難な疾患での適応拡大という可能性も検討すべきと考える。小児用の用法の開発、希少疾患等MID-NETを医薬品開発にも活用すべきことを提言した。

左から、CDSCO長官のSomani氏、PMDA新薬審査第一部審査専門員の佐藤大介氏、
製薬協医薬品評価委員会の国忠聡委員長

閉会の挨拶

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事 林 憲一

医薬品分野では両国の最新の規制制度について情報交換でき、インドにおいても治験相談の充実が図られていることを知ることができました。本日の議論を踏まえ、今後は両国の協力関係をさらに進展させ国際的な協力スキームに発展することを期待します。

CDSCO Drugs Controller General V.G. Somani

今回のシンポジウムでは議論が成熟してきたという印象を受けました。インドはPIC/Sの事前申請となる、世界保健機関(WHO)のオブザーバーとして4つのWGに参加する等、国際的なプラットフォームへの参画を進めており、日本を含めた多国間や2国間の会合を行う等、規制調和に努めています。日本とは今後、相互理解だけではなく、さまざまなことを現実化していくような成熟を超えた次の段階に進みたいと考えます。

最後に

プログラム終了後、同フロアにて終始和やかな雰囲気でレセプションが開催されました。今回は、PMDA国際部部長の佐藤淳子氏と製薬協国際委員会の赤名正臣委員長による共同司会が実現し、日本官民の良好な連携による進行でスタートしました。乾杯の挨拶に、厚生労働省医薬・生活衛生局長の樽見英樹氏、中締めはPMDA理事長の藤原康弘氏、その間のスピーチにはCDSCO長官のSomani氏やグジャラート州規制当局長官のKoshia氏も登壇しました。Somani氏は、この日、各セッションでの講演等で6回目の登壇となりました。しかし、このシンポジウムに対する熱意と期待は変わることがなく、次のように言及しました。「最初は情報交換からスタートしたが、最近ではその議論はとても成熟し互いの理解が深まっている。インド当局とPMDAの友情は深く、2国間での取り組みを歓迎する」

PMDA 理事長 藤原 康弘 氏

翌日は当局間での会合が開催され、申請前相談や臨床試験免除の具体化、審査プロセスの効率化、ICHメンバー加盟やPIC/S加盟に向けた国際協力のさらなる進展等において成果が得られたと聞いています。また、今回は国際保健において喫緊の課題となっている新型コロナウイルス感染症への対策のため、直前に参加のキャンセルやそれに伴うアジェンダの変更が相次ぎました。そのような中、インドと日本、双方の薬事規制当局および産業界、関連団体、在日インド大使館等の関係者がベルサール東京日本橋にて一堂に会し、無事にシンポジウムを終えることができました。次回は、2021年にインドにて開催予定です。

グジャラート州規制当局 長官
Hemant G. Koshia 氏

レセプション司会を務めた製薬協国際委員会の赤名正臣委員長と
PMDA国際部部長の佐藤淳子氏

(国際委員会 アジア部会 インドチームリーダー 桑原 千佳

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