市民・患者とむすぶ 「第36回、第37回 製薬協 患者団体セミナー」を開催 令和時代の患者団体活動とは ~次世代に繋ぐ夢、持続的な患者団体運営を考える~

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製薬協患者団体連携推進委員会は、2019年10月29日に大阪第一ホテル(大阪市北区)で、また11月29日に経団連会館(東京都千代田区)で、それぞれ第36回・第37回「製薬協 患者団体セミナー」を開催しました。今回のセミナーでは、「令和時代の患者団体活動とは ~次世代に繋ぐ夢、持続的な患者団体運営を考える~」というテーマのもと、難病NET. RDing福岡で代表を務める池崎悠氏より、若手主体の患者団体活動と若者の患者会活動への参画推進について、また特定非営利活動法人(NPO法人)愛媛がんサポートおれんじの会理事長の松本陽子氏より、これまでの、そしてこれからの患者団体活動について講演がありました。また、3年前の患者団体セミナーで講演を行った熊本難病・疾病団体協議会代表の中山泰男氏より、熊本地震から3年後の現地の復興状況やその後の活動について、ビデオレターによる紹介がありました。また、本年は、患者団体セミナーの初の試みとして、「みんなで語ろう!次世代に繋ぐための人材育成について~後継者育成のために明日から実践できること~」と題したグループワークの時間が設けられ、大変活発な意見交換が行われました。大阪会場では約60名、東京会場では約100名が参加し、参加者同士の交流も深まった大変活気あふれる会となりました。

東京会場の風景

大阪会場の風景

講演1 「若手主体の患者団体活動 難病NET.RDing福岡の取り組み」

難病NET. RDing福岡 代表 池崎 悠

難病NET. RDing福岡代表の池崎悠氏は、2007年に慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発病し、九州大学在学時代の2013年にRare Disease Day福岡実行委員会を設立しました。その後、難病当事者としてさまざまな就労課題に直面したことをきっかけに、翌2014年に難病NET. RDing福岡を立ち上げ、福岡県内の難病に対する理解促進と難病当事者の就労支援を目的に活動を行っています。現在では20~30代のメンバーを中心に、特に若い難病患者さんが抱える課題解決に向けて、患者会運営等の知識や経験をもつ先輩患者団体メンバーの方々とも協力しながら、世代や疾患を超えた活動を行っています。

本講演では、難病NET. RDing福岡の活動、そこから見えてきた若い難病患者さんの抱える共通の課題やその解決に向けた取り組みについて紹介がありました。また、難病NET. RDing福岡が実施した若者の使用するSNS(Social Network Service)の調査結果も共有し、若手(当事者)患者会の本音、また若者にどのようにして患者会活動に興味をもってもらうかについて示唆に富んだ発表が行われました。

1. 若手中心の団体運営、活動について

(1)世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day、RDD)の啓発

  • RDDイベント実施により見えた(若者)難病患者の課題

    • 若者が声を上げる場所がない
    • 患者会の高齢化・SNS止まりの若者
    • 講演会、交流会形式の限界(地方開催の頻度が少ない、時間/場所が固定的等)
    • 当事者の就労・生活の課題を話す場所がない(同じ病気の人との交流がない、ほかに働いている人はどうしているのか知りたい、周囲への伝え方・話し方を知りたい、恋愛や学校のことを気軽に話したい等)
  • RDDイベントの開催を通じてわかったこと

    疾患を限定せずに気軽に参加することができ、生活レベルの悩みや情報の共有ができる場、そして、必要があれば支援につながるような場が求められていることがわかりました。これが難病カフェの開催につながりました。

(2)難病カフェ

  • 難病カフェとは?

    • ピアサポート※1が受けられる
    • 申し込みは不要である
    • 誰でもアクセス可能なオープンな場所である
    • 疾患を問わない
    • 専門的な相談も受けられる
    • 1
      同じ症状や悩みをもち、同じような立場にある仲間(peer:ピア)によるサポート

    難病カフェは、2016~2019年の過去4年間で9回開催され、毎回20~40名ほどが集まり、延べ300名弱が参加しています。大学や企業のオープンスペースを活用し、難病だけでなく、がんや発達障害をもつ方等、多様な方々が参加しています。若者をターゲットにしているわけではありませんが、参加者の年齢は比較的若く、平均年齢は35.9歳です。

  • 難病カフェの開催を通じてわかったこと

    • 患者会に所属していない若者の難病患者も潜在的な課題を多く抱えている
    • 課題を共有するだけでなく、解決に向けてなにかしてみたいと考える若者がいる
    • 難病の問題は難病(疾患)だけの問題ではない
    • 1人では難しいけれど、みんなとだったらできるかもしれないと感じ、若い人同士で交流してみたいという思いをもつ若者がいる

    若年層が、難病を取り巻く諸問題を正しく認識し、みんなで考え、主体的に社会に発信していくこと、そのような場を作り出すことが求められています。それが難病みらい会議の開催につながりました。

(3)難病みらい会議

  • 難病みらい会議とは

    • 18~39歳の難病当事者(疾患は問わず)を対象とした、意見交換の場とする
    • 自身の課題把握また他者の課題理解を通して、当事者として主体的に課題解決へ向け、社会へ発信することを目的とする
  • 難病みらい会議で得られたもの

    個人レベルの課題解決を中心に考えていた若者患者の視野が広がりました。たとえば、義務教育や高等教育における難病理解・周知を広げるという社会レベルの課題に対する議論に発展しました。

2. 先輩団体とのコラボレーション

(1)コラボレーションの現状

  • 福岡/佐賀等の既存の患者会メンバーと日ごろより交流、情報交換を実施する
  • 難病カフェ/みらい会議の実施において、オブザーバー/アドバイザーとして、サポート・アドバイスをいただく
  • 北九州で発足した難病支援研究会との連携、またFacebookでのイベント情報のシェア等を行う

(2)コラボレーションによるシナジー

  • 発信

    • 自分と同世代の若い人が発信している→「行ってみよう」との意識が高まる
    • 良く知っている団体が発信している→信憑性が上がる
  • 運営

    • 先輩患者会の圧倒的な経験から得られる知見を活かせる
    • 先輩患者会のネットワークを活かせる
  • 来場者

    • 患者会未所属の若者へ患者会や支援機関等を紹介できる

3. 若手当事者(団体)の本音

  • どのような事柄でも検索して、中身を知って(理解して)から参加したい

    患者会は会の様子(写真等)を少しでもウェブサイトや会報等で発信することにより、若者が患者会に参加するハードルが少し下がる

  • 手伝いや運営をしないといけないのではないか? という不安をもっている

    まず参加してもらうことを考える

  • 難病制度や国の動き、疾患情報の理解が乏しく、そんな自分が意見を言っていいかわからない(不安に感じている)

  • 疾患の情報はインターネットで十分と考えている

    患者会でしか得られないような情報、またウェブサイトの有効な使い方を発信する等することで若者の捉え方も変わってくる

  • 勇気を出して患者会に参加したのに、「若い」こと自体に言及されてしまう(たとえば、「まだ若くていいね」「若いのに大変」「若い女の子(男の子)が来てうれしい」等という言葉はかけてほしくない)

4. 若者に興味をもってもらうには?

  1. ウェブサイトについて、スマートフォンやタブレット等を通じたアクセスが60%以上である。情報発信媒体はデスクトップだけに最適化されたウェブサイトではなく、スマホ対応も検討したほうが良いかもしれない。
  2. 18~44歳の世代のウェブサイトへのアクセスが75%近くに及んでいる。世代に合わせた情報発信の仕方を工夫することも効果的である。
  3. Facebookの使用は減少傾向、TwitterやInstagram、LINEを使用する世代が増えてきている。LINEの利用率は10代で8割強、20代では9割を超えている。また、10代の動画視聴率も9割を超え、中でも毎日動画を見る割合は半数近くに上る。若い世代の長文への接触機会がどんどん減ってきており、そういった特徴をもつ世代に向けたコンテンツ作成が必要かもしれない。

5. 若手当事者団体/若者の実態についてのまとめ

(1)発信

  • ターゲットに合わせた発信の仕方を考える必要がある
  • FacebookとTwitterで同じような文言を発信するのではなく、たとえば、Facebookではオフィシャルな情報、Twitterでは利用者に近いカジュアルな情報発信をする等、媒体によった使い分けをしてもいいのではないか
  • アクセスしてほしい層が利用しているSNSを使う、投稿ルールを決めて若者に投稿してもらう

(2)運営

  • それぞれの会が同じことをする必要はなく、得意分野を組み合わせて協働したい
  • 主催者やサイトに顔を出している世代と同世代の人がアクセスしやすい(お店と同じ)
  • 若者のニーズ、意見を本人たちから聞いてほしい

(3)どうやって若い人に興味をもってもらう?

  • たとえ疾患の知識や国の制度・動向に明るくないとしても、誰でもがどのような意見でも出せるような、それぞれの意見や価値観を尊重する場を作ることを心がける
  • 自分の存在や、自分が疾患と歩んできたストーリーこそが社会や地域、コミュニティにとって意義があると気づいてもらうように心がける
  • 若者といっても幅広い年代が含まれており、それぞれ興味関心、課題等は異なるため、それぞれの層に分けた意見交換会も効果的である

6. まとめ

  1. SNSでのコミュニティから抜け出して活動するのは勇気・エネルギーがいるため、門戸を広く、楽しく興味を引くところから始める。若者だからこその企画力等を十分に発揮できる環境を準備する。
  2. 若者の自由な価値観や意見を尊重し、安心して話せる場を作る。作って終わりとするのではなく、若者からフィードバックをもらいながら、より良いものを一緒に作り上げていくことが大事である。
  3. 持続的な患者団体運営実現のためには、「活動に若者ならではの視点を加え、患者会活動をもっと多様で意義のあるものに」していくことが重要である。

講演2 「わたしたちの患者団体活動 ~これまでの10年 これからの10年~」

特定非営利活動法人愛媛がんサポートおれんじの会 理事長 松本 陽子

特定非営利活動法人(NPO法人)愛媛がんサポートおれんじの会理事長の松本陽子氏は子宮頸がんの当事者として、2007年に愛媛県がん対策推進協議会に参画しました。その時に、1人の経験・意見ではなく、仲間の多様な経験や声を集約することの必要性を感じ、患者団体の設立を決意し、2008年に任意団体として「愛媛がんサポートおれんじの会」を設立しました。翌年2009年にNPO法人化し、現在は、愛媛県内のがん患者さんのピアサポート活動(町なかサロンの開設、ひとりじゃないよプロジェクトの実施等)や行政からの委託事業(がん患者満足度調査等)、医療機関との協働事業を実施しています。

本講演では、持続的な患者団体運営に向けて「変わらないもの ~みんな、ひとりじゃない~」と「変えていくもの ~わたし、ひとりじゃない~」という2つのキーワードを採り上げ、ヒト・カネ・活動の観点でおれんじの会の運営を振り返りながら、患者会活動をどのようにして次世代につないでいくのかについて紹介しました。また、講演の最後には、「手段」と「目的」を取り違えないように、「団体の運営をいかに継続するか」ではなく「団体として、なにをなすべきか」をしっかりと考えることの重要性を唱えました。

1. 国のがん対策と患者団体活動

1984年に対がん10カ年総合戦略が策定、2006年にがん対策基本法が成立され、2016年に改正がん対策基本法が成立しました。基本法の改正には患者団体(当事者団体)のたび重なる働きかけが大きく関与しており、当時のニュースで「患者たちの悲願届いた」という見出しで採り上げられました。

2018年に閣議決定した第3期がん対策推進基本計画では、初めてがん対策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項の一つとして、「患者団体等との協力」が盛り込まれました。

2. おれんじの会の取り組み

(1)「がん患者満足度調査」(愛媛県からの委託事業)

対象

愛媛県内のがん診療連携拠点病院に入院中の患者さん

回答

512人

期間

2010年7月20日~9月20日

手法

紙ベース、各病院で直接配布、回収

結果
  • 「痛み」に関してはほとんどの方が医師または看護師に伝えているが、「不安が強い、気持ちが落ち込む」という精神的な内容は、半数以上が医師または看護師に伝えずに我慢している、という結果が調査により浮き彫りとなった。
  • 似たような経験をもつがん患者さんとの相談が役立つ、という結果も示された。
  • 療養生活の中でうれしかったこととして、「医師・看護師・医療スタッフの態度・声掛け」「がん患者同士の触れ合い、支え」が半数以上を占めていた。同室の先輩方、同じ病気の方々に話をして不安が解消した等のコメントがあり、同じ病気の人に共感してもらうことの重要性が示唆された。

(2)がんと向き合う人のための町なかサロン

  • 愛媛県からの補助金事業
  • 院外で平日10~15時まで運営、週末は特別企画、またピアサポーターが対応

(3)ひとりじゃないよプロジェクト

協力

One Worldプロジェクトサポーター

後援

一般社団法人全国がん患者団体連合会
愛媛県南予地方の豪雨災害で被災したがん患者さんへの支援プロジェクト
ウイッグを贈ろう…30個のウイッグ
ケア用品を贈ろう…14万269円の寄附(20人の個人と2団体より)

3. 全国がん患者団体連合会の活動

がん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会の構築に寄与することを目的に、2015年に設立され、現在40団体が加盟しています。

活動の柱の一つは政策提言です(たとえば、「建物内禁煙」の要望、ゲノム医療の進歩に伴う遺伝情報の取得やその不適切な取り扱いによって患者さんが社会的不利益を被ることのないような法規制を要望等)。

一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)との共催、院内集会を開催しています(患者申出療養制度についてラウンドテーブルを実施し、患者さんの立場に立った制度に向けて話し合い等)。

がん患者団体の活動の発表や学びの場として、「がん患者学会」を2015年から毎年開催しています。2019年のがん患者学会でも、患者会運営について話し合いました。ニーズの変化にどう対応するか、収入を得る事業化が必要であるとの提案がありました。製薬協や製薬企業から寄付をもらって運営に充てるという関係性だけでなく、対等な立場でパートナーとして活動することが大切ではないかとの議論が行われました。

4. おれんじの会を振り返る

(1)ヒト

  • 現状と課題

    • 2008年の設立以来、理事メンバーはほぼ不変
    • 価値観の共有は行われているが、新しいアイデアが出にくいという課題
    • 複数の理事辞任に伴い、理事長(松本氏)がほとんどの業務を抱え込むという状況
  • 対策

    • 「準」理事を設定→理事会に出席、新しい視点からの意見
    • 理事長業務を分担→抱え込みの解消、リスク回避
    • 賃金計算等に新システム導入→ヒトの負担減

(2)カネ

  • 現状と課題

    • 会員の増加が鈍化→会費収入の減少
    • 不確定な寄付金→予算化しにくい
    • 県からの委託事業、補助金事業頼み→事業打ち切りの不安
    • 慈善事業だと思われている
  • 対策

    • 収入につながる事業(事業化)が必要である(ただし、現状は県の委託事業等を実施することで手一杯であり、マンパワー、工夫が足りない)

(3)活動

  • 現状と課題

    • 県からの委託事業、補助金事業→多くの制限
    • 独自事業→毎月の例会(講演会と交流会を交互に開催)や町なかサロンの運営等で『安定』
    • 変化するニーズが見えない→病院サロン等、交流できる場が増えた、SNS等を使った緩やかなつながりも増え、通院治療/仕事との両立等の変化
  • 対策

    • ほかの団体との連携をすることで、新しい視点や気づきを得ることにつながる
    • がんについての正しい情報提供とがんサバイバーやその家族にとってより暮らしやすい環境づくりを目指すプロジェクトである「愛GIVER project」(愛媛新聞社)やほかの団体(小児慢性疾患の子供を支える団体、子供をもつ患者支援団体)との協働を実施
    • 愛媛県がん対策推進委員会に対して、「小児・AYA世代のがん患者への支援について」の要望書を他団体と協働で提出

(4)まとめ

理事長の抱え込み、活動のマンネリ化、マンパワー不足を解決するために、仲間を増やす・連携するということを考えました。

これまでは団体の中だけに目が向いていましたが、外にも目を向けていくことの重要性に気づき、今、一生懸命取り組んでいます。それにより、少し視点が変わっていけばと思います。

意見交換 「みんなで語ろう!次世代に繋ぐための人材育成について」
~後継者育成のために明日から実践できること~

難病NET. RDing福岡 代表 池崎 悠
NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会 理事長 松本 陽子 氏 理事長 松本 陽子

「後継者育成」をテーマとした意見交換(グループワーク)が池崎氏、松本氏の司会・進行により実施されました。池崎氏、松本氏の講演をヒントに、参加者一人ひとりが「後継者育成」また「持続的な患者団体運営」のために明日から実践できることについて考え、自身の思いや考えをそれぞれ発表しました。

各テーブルからは、SNS(特にLINE)を活用し相談の窓口を設けて若い世代の取り組みを促進する、スマートフォン向けのウェブサイトを改修する、JPA主催のリーダー研修への派遣や会の運営/企画等楽しい仕事を任せる、準役員という役職を設ける等の意見が発表され、大変活発な意見交換となりました。また、疾患の垣根を超えた課題や考えの共有により、患者団体同士の交流も深まる機会となりました。

池崎氏からは、「SNSの使用に関しては正確な情報の発信/管理が大切であるため、どのような情報を発信するのか、しないのか等のポリシーを定めて運用することが重要である」とコメントがありました。また、松本氏からは「『若い人のところに行ってみよう』というコメントが印象的であった。どうしても待ちの姿勢で『来ないなぁ、来ないなぁ』と考えてしまいがちだが、若者の中に飛び込んでみるという姿勢も大事である。また動画を採り入れるのも良いアイデアである」とコメントがありました。さらに、「若い人に来ていただく、組織の年齢層を広げていくのはとても大切なことではあるが、『それがみなさんの団体にとってなぜ必要なのか?』ということを立ち止まって考えることも必要であり、これは自分自身への問いかけでもある」という松本氏のコメントで意見交換会は締めくくられました。

情報交換中の風景

情報提供 「ビデオレター ~熊本地震から3年、復興と展望」

熊本難病・疾病団体協議会 代表 中山 泰男

3年前の患者団体セミナーで「熊本地震における難病患者さんへの対応」と題して講演した中山氏より、震災から3年経過した熊本の復興状況、震災後の熊本の取り組み、患者団体、また、製薬協/製薬企業へのメッセージを、ビデオレターとして紹介しました。

1. 復興の現状

震災直後を0点とすると現在の復興状況は90点ほどで、特にハード面は復興してきています。公営団地や仮設住宅にお住まいの方は現在8953人です。いちばん多い時は4万人弱の方々がいたため、避難生活を送っている方もだいぶ減ってきました。医療関係はほぼ順調に回復し、患者さんに不都合がない状態に戻っています。ただ、震災当事者の難病患者さんはいまだに小さな地震、体感に対する恐怖心が残っており、震度5レベルの揺れがあるとビクッビクッとしながら暮らしているのが現状です。

2. 震災後の熊本の取り組み

難病団体は震災のその時だけ頑張れば良いというわけではなく、これから起こり得る災害に備えて、どれだけ「仕組み」を作れるかが大切です。熊本県では、県議会や担当所管課へ陳情にうかがい、ハンドブック作成の協力をしてほしいと要望を続けました。2年かかりましたが、行政の予算化を実現し、委員会という形で協力をいただきました。

震災後間もなくアンケート調査を実施しており、そのアンケート調査結果を活かし、そのとき当事者が家族とともにどのように困っていたか、どのような支援を必要としていたかとの情報をベースにハンドブックを作成しました(図1)。

図1 難病患者・家族のための災害対策ハンドブック

患者団体の役割は仕組みを残すこと、そして、県民すべてがその成果物を共有できるということが重要ではないかと考えています。当時困ったのが、難病患者さんが避難しても、本人を探してもらえない、本人がいくら訴えても病気を理解してもらえない、ということでした。そのような状況が起こらないように、ヘルプカードを作成し、難病当事者、発達障害、そのほかの障害のある方々に配布しました。ハンドブックの中には、そのヘルプカードのことや要配慮者とはどういう人なのか、等の情報が載っています。これらは、県や難病相談支援センターのウェブサイトにも掲載されています。

3. 患者団体・患者さんへのメッセージ

日本各地で地震、山崩れ、洪水等が起きており、震災はいつ起きてもおかしくありません。しかし残念なことに、対災害時の持ち出しの避難袋は知識として知っている割にはどこの家にも置いていない、という問題が多々見られます。これらは自分たちの健康のみならず、命をつなぐために必要なものになるかもしれません。なぜかというと、あなたの体のことはあなたしかわからない、必要な薬もあなたしかわからない、具合が悪くなった時の必要な応急処置もあなたしかわかりません。だからこそ、自分の身を守る意味での「自助」を道具として準備いただきたいです。

4. 製薬協、製薬企業へのメッセージ

今、患者団体は課題として、役員のなり手がいない、新たな会員が発掘しにくい、会員が減少している、ということを挙げています。われわれがやりたいことはこの病気で苦しんでいる人の相談に乗る、そういう人たちになにかツールを残していくことです。

患者会が企業に求めていることは「お金」だと思うかもしれませんが、それだけではありません。確かにそれもありますが、「知識」や「ヒント」を求めています。製薬企業のもつノウハウやアドバイスがほしいと考えています。令和時代を迎え、これまでのお互いの関係性を一歩進め、この日本の患者さんや障害をもつ方の役に立つもの、これから10年、20年、できれば100年残せるようなものを一緒に創意工夫をして作り上げていきたいと思っています。

セミナー全体のまとめ

製薬協患者団体連携推進委員会の吉永芳博委員長より、2000年から開催されている「製薬協 患者団体セミナー」において、今までになく活発な交流が行われ、令和元年の幕開けにふさわしいセミナー開催となったことに対する謝辞が述べられました。また、交流会は患者団体間、また池崎氏、松本氏との活発な情報交換の場となり、盛会のうちに終了しました。

(患者団体連携推進委員会 患者団体セミナーTFリーダー 桾澤 貴史

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