トピックス 「第133回 医薬品評価委員会総会」を開催

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2019年11月25日、東京証券会館ホール(東京都中央区)にて「第133回 医薬品評価委員会総会」を開催しました。「『医薬品の新規モダリティ』—ヘルスケアイノベーション創出エコシステムの構築を目指して—」をテーマに、医薬産業政策研究所、製薬会社、アカデミアおよび独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の演者による5つの講演がありました。参加者は200名を超え、各講演後には時間いっぱいまで質疑応答が行われ、最先端の話題が聴衆の興味を引きました。その後のパネルディスカッションでは、医薬品評価委員会の代表者も参加し、活発なディスカッションが行われました。

背景

かつては企業における医薬品開発といえば、探索により発見した標的分子をターゲットに、低分子化合物ライブラリーのスクリーニングによってヒット化合物を見出し、非臨床試験をクリアした後、臨床試験を実施し、有効性と安全性を検証するという流れが主流でした。ところが近年、細胞工学、遺伝子工学等、さまざまな分野の技術革新により、従来難しいと考えられていた生体分子の製造、細胞治療や遺伝子治療の道筋が見えてきており、企業が医薬品開発で使用できるモダリティの選択肢が広がってきています。アカデミアにおいても、医科学の進歩により疾患メカニズムに関与する生体内プロセスの解明が進み、従来とは異なる標的分子種あるいは生体内反応が新たな疾患治療の対象として浮上しています。診療の現場で得られたアカデミアの知見を活かして、疾患が発症する原因に新規モダリティでアプローチすることで、従来は治療が難しいと思われていた疾患に対して新たな治療方法を提供しようとするのが「医療イノベーション」の流れとなっています。

今回の医薬品評価委員会総会シンポジウムでは、近年の医療イノベーションを反映し、低分子化合物に替わる新しい医療モダリティに焦点をあて、医薬品のシーズ探索から臨床開発まで、旧来の手法との異同について考える場を提供することとしました。

シンポジウム

(1)「新規創薬モダリティの研究開発動向」

医薬産業政策研究所 鍵井 英之 主任研究員

近年、核酸医薬や遺伝子治療、細胞治療といった新規の創薬モダリティが登場し、従来の低分子医薬品あるいは抗体医薬品ではアプローチできなかった疾患に対して治療効果が見られています。このことから、各創薬モダリティの研究開発状況や販売状況について、開発企業、開発国、創製企業のタイプ等、さまざまな切り口で情報を分析し、その結果が紹介されました。日本では低分子医薬品の開発品保有率は高いが、抗体医薬品、細胞治療の保有率は低く、特に細胞治療では中国が高い保有率を示している等、興味深い分析結果が共有されました。

(2)「抗体医薬の新展開(バイスペシフィック抗体)」

中外製薬 創薬薬理研究部 部長 北沢 剛久

2018年に承認された「先天性血液凝固第VIII因子欠乏患者(血友病A)における出血傾向の抑制」を効能・効果とするエミシズマブについて講演がありました。血友病Aのアンメット・メディカル・ニーズに応えるために、従来の抗体医薬の枠を超えた2種類の異なる抗原を認識するバイスペシフィック抗体を開発した経緯とその過程で遭遇した困難、どう克服したかについて、実体験を踏まえて事例の紹介がありました。

(3)「CAR-T細胞療法の開発、承認申請からの学び」

ノバルティス ファーマ 取締役 薬制本部長 川音 聡

日本で初めて承認されたCAR-T細胞療法「キムリア」について講演がありました。臨床開発では日本が国際共同治験に参加し、米国、欧州、日本で同一のデータパッケージを用いて申請し、承認された経緯を共有しました。製品の特殊性、つまり患者さんから採取された細胞を米国の製造所に輸送し、CAR-T細胞に改変・増殖させて製品化するサプライチェーンの確立および徹底した品質管理の重要性についても、実体験を踏まえて詳しく解説がありました。

(4)「エクソン・スキップ治療薬の開発」

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 理事 武田 伸一

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 理事 武田 伸一 氏

自身が長年取り組んだデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるエクソン・スキップ治療薬について、開発経緯の紹介がありました。ジストロフィン欠損症の病態メカニズムの研究からエクソン・スキップ治療法が見出されたことに始まり、その効果を動物(犬)で検証した後、臨床に応用するという本剤の開発についての、大変貴重な経験を共有しました。また、本剤は2015年10月に厚生労働省により先駆け審査指定制度の対象品目として指定され、2016年10月に米国食品医薬品局(FDA)からもファストトラックおよびオーファンドラッグの指定を受ける等、厚生労働省、FDAから画期的な新薬として認められた新薬であるとともに、アカデミア発の創薬として企業と連携しながら日米で迅速に開発が進んだ成功例であることの紹介がありました。

(5)「新規モダリティとPMDAの取組み」

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長 藤原 康弘

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長 藤原 康弘 氏

PMDA発足から今日に至るまでの取組みについて、日本のサイエンスレベル、創薬力の話を交えながら振り返るとともに、薬事戦略相談を通じて新規モダリティの開発にも力を入れてきた経緯の紹介がありました。今では欧米の規制当局と肩を並べる審査機関に成長を遂げ、新薬審査期間では世界でトップレベルを堅持し、予見可能性の高い審査を実現できるようになりました。先駆け審査指定制度の4回の試行的実施の経験も踏まえて、PMDAのさらなる活躍に期待を感じる講演でした。

パネルディスカッション

新しいモダリティでの非臨床から臨床への移行の判断はどのように行われるのかについて、議論がありました。非臨床試験で効果が確認されていること、医薬品としての品質が確保できていることが重要な要件である一方、新しいモダリティでは、これまでの臨床評価手法が使えるかどうか慎重な判断が必要であり、その判断も難しいという議論がありました。また、新しいモダリティの開発をする際のPMDA相談等に柔軟な対応をお願いするとともに、一緒に新しいガイドラインを作成しながら開発を進めていくことも必要であり、今後の新しいモダリティでの産学官の協力体制に期待する声が上がりました。

パネルディスカッションの様子

終わりに

今回の医薬品評価委員会総会シンポジウムでは、「医薬品の新規モダリティ」について、アカデミア、規制当局、製薬会社で取り組んでいる最新の状況や経験を多くの参加者と共有することができ、質疑応答やパネルディスカッションでは有意義な議論を行うことができました。シンポジウム終了後の情報交換会でもディスカッションが続く場面もあり、参加者のみならず、演者からも好評であったとのコメントを多くいただきました。

本シンポジウムが今後のみなさんの新規モダリティ開発の取り組みに役立つことを願うとともに、充実したシンポジウムとなったことに対して、ご協力いただきました演者の先生方をはじめ、企画メンバーのみなさんに感謝を申し上げます。

(医薬品評価委員会 副委員長 菊地 主税

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