トピックス 「第1回 日本-ベトナム合同シンポジウム」を開催

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2019年10月8日、ベトナム・ハノイにて独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)およびベトナム医薬品管理局(DAV)主催で「第1回 日本-ベトナム合同シンポジウム」が開催されました。製薬協およびベトナム日本医薬品部会(JPAV)が協賛団体として本シンポジウムの運営に協力しました。本シンポジウムは両国の薬事の相互理解を深め、医薬品規制や開発のより良き発展を目指すことを目的としています。両国の医薬品登録に関わる官民が一堂に会した初めての場となりました。基調講演に続き、「Overview of the Regulatory system」「Pharmaceutical Review」「Pharmacovigilance」の3テーマで両国より講演があり、参加者からも多くの質問が出され熱心な議論が行われました。

集合写真

はじめに

ベトナム保健省近隣のプルマンホテルが会場となりました。参加者総数は199名、うちベトナム当局および専門家は38名、日本当局から9名、ベトナム企業からは71名、日本企業からはJPAV加盟のベトナムからの参加者も含め81名でした。また在ベトナム日本大使館から一等書記官の清水貴也氏が参加しました。

開会にあたってPMDA理事長の藤原康弘氏、DAV副局長のDo Van Dong氏より挨拶がありました。Dong氏から、1973年国交樹立以来、両国は政治・経済・文化交流による良好な関係を築いており、2000~2016年には日本がベトナム最大の政府開発援助(ODA)支援国となり教育・農業・エネルギー等広い分野へ協力が及んでいること、保健医療分野では独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて進行している混合ワクチンの製造技術移転をはじめとした多くのプロジェクトがあることが紹介されました。両国保健当局間ではハイレベル会合、特に2019年4月のアジア規制当局ネットワーク会合にはベトナム保健省からの参加もあり、協力関係はますます強化されています。藤原理事長は、今回のシンポジウムが2国間のさらなる関係強化につながることを期待すると挨拶を結びました。

以下、講演の内容を記載します。

Keynote Speech

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長 藤原 康弘

自身の略歴紹介に続き、PMDAの組織や役割について話がありました。

PMDA理事長就任時に自ら掲げた4つの「F」(Patient First、Access First、Safety First、Asia First)に率先して取り組んでいます。セイフティ・トライアングルと呼ばれるReview(承認審査)、Safety(安全対策)、Relief(健康被害救済)がPMDAの3つの大きな役割です。PMDAの国際展開では、アジア医薬品・医療機器規制調和グランドデザインの策定や、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国における医薬品・医療機器承認体制の充実に向けた支援等に積極的に取り組んでいます。これまでにタイや台湾、インドネシア、マレーシアではPMDAの審査が参照されており、さらに協力・連携を深め、これらの国の保健衛生の向上に資することを期待しています。PMDAアジアトレーニングセンター(PMDA-ATC)は、国内外におけるトレーニングセミナーを開催しており、世界各国、特にアジアの若手審査官育成の役割を担っています。PMDAはこれまで多くの国と2国間シンポジウムを開催しており、今後はベトナムの医薬品アクセスの向上やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の確立に向けて協力していきたいと考えております。

Overview of the Regulatory system

Overview of the Regulatory system

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審議役(国際担当) 中島 宣雅

日本の審査制度、相談制度、早期実用化のための制度の3つのポイントが説明されました。

日本の審査制度は通常審査制度のほか、優先審査制度・希少疾病審査制度・先駆け審査指定制度・条件付き早期承認制度等があり、それぞれ適用されるための基準・条件とともに審査目標期間も示されます。これまで審査期間の短縮を目指し成果を出してきましたが、PMDAでは審査に対して目標を設定し、それを公開して透明性・予見性を確保したうえで、その達成のために努力をしています。PMDAの相談システムに関しては、治験相談、レギュラトリーサイエンス戦略相談、事前評価相談等、開発早期の段階から承認後まで各段階で相談制度があり、その費用も設定されています。相談制度は臨床試験デザインの最適化等による開発費用軽減や審査期間の短縮に大きく貢献しており、規制当局にとっても企業にとってもメリットがあります。さらに、革新的医薬品の早期実用化を促進するための先駆け審査指定制度や、重篤な疾患で治療法が乏しいが患者数が少なく治験が困難、または時間を要する場合に適用できる条件付き早期承認制度という新しい制度を設けて、患者さんへの医薬品アクセス向上を目指しています。

Overview of the Registration in Vietnam

DAV, Drug Registration Division, Deputy Director Nguyen Ngoc Anh

ベトナムの医薬品登録の概要が説明されました。

医薬品登録部門は、その下に国内医薬品、輸入医薬品、ワクチンおよび生物学的製剤、医薬品情報・副作用・医薬品広告の4部門をもちます。2018年時点の医薬品登録数は2万857件(うち、輸入医薬品は6203件)でした。医薬品登録有効期間は最大5年で、新薬やワクチン・生物製剤、安全性・有効性のモニタリングが必要とされるものは最大3年となります。資料様式は、ASEAN-CTD(Common Technical Document)または医薬品規制調和国際会議(ICH)-CTDで提出が可能です。優先審査制度があり、オーファンドラッグリスト収載、緊急時・災害時の治療ニーズに応える医薬品、ベトナム国内製造のうち直近18ヵ月内に医薬品査察協定及び医薬品査察協同スキーム(PIC/S)やEUのGMP(Good Manufacturing Practice)を満たした製造ラインで製造される場合、海外メーカーの先発品だがベトナム国内に製造移管される場合等が優先審査の対象となり得ます。登録申請の審査は、法的文書、薬学的文書(添付文書・ラベル)、品質書類、臨床データ、生物学的利用率/生物学的同等性(BA/BE)試験の5つのグループに分かれた技術審査官(大学や研究施設等に所属)により行われます。医薬品表示は2018年保健省通達第1号の要件に従い、申請資料の技術要件はASEANの技術ガイドラインに従って審査されます。

最後に、ベトナム当局が日本との協力に期待することを挙げます。

  • 新医薬品の承認に関する法定書類の情報共有
  • ベトナムと日本の規制当局によって海外製薬製造工場で実施される査察結果
  • 日本の医薬品の安全性および有効性に関する情報の共有
  • ベトナム企業の生薬の登録および輸出支援
  • ベトナム国内への医薬品製造技術の移転のための日本の製薬会社からの投資

Pharmaceutical Review

Pharmaceutical Review

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 国際協力室 妙圓薗 あや

PMDAにおける実際の審査方法について、新医薬品の開発と審査全体のプロセス、承認に必要な事項と承認の範囲、新医薬品の審査上のリスク・ベネフィットの評価の3つのポイントで説明がありました。

はじめにPMDA審査部の組織、審査チームの構成、PMDAに申請が受理されてから厚生労働大臣により承認されるまでの審査プロセスについて、初回面談・審査報告書1、専門協議・審査報告書2の作成タイミングや役割も含めて紹介しました。承認取得後の薬価収載プロセスについても紹介し、あらためて日本の2つの規制当局PMDAと厚生労働省の役割を話しました。すなわちPMDAは、科学的な審査・外部専門家との協議を担い、厚生労働省は行政的な判断、医薬品部会のマネージメント、薬価収載等を担います。次に、承認に必要な事項とその範囲を説明しました。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)で「承認を与えない」という承認拒否事由が定められており、一方で承認維持に関して日本の承認申請書は承認時に承認文書として発行され、承認後に承認申請書記載事項に変更が必要となった場合には変更申請、もしくは品質や有効性への影響が小さい変更の場合、変更届を提出する必要があります。日本では、添付されるCTDの内容は承認事項とはなりません。添付文書内容についても、承認事項は販売名、効能効果および用法用量であり、その他の箇所は承認事項にはなりません。最後に、新薬審査におけるリスク・ベネフィットの評価について説明しました。リスクがまったくない医薬品が承認されるわけではなく、リスクは管理によって小さくできるものです。審査の段階では、リスクマネジメントが適切かどうかを確認し、ベネフィットがリスクを上回る場合に医薬品としての承認が検討されます。

Evaluation of the ASEAN Common Technical Dossier(ACTD)for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use, Part II Quality

National Institute of Drug Quality Control(NIDQC), Head of Raw Material Quality Control, MSc. Pharm. Tran Thuy Hanh

ベトナム登録申請のうち、承認審査手続きと品質要件について以下の説明がありました。

医薬品の登録は、薬事法のもと2018年保健省通達第32号に規定されており、この通達は2019年9月1日より施行されています。承認審査手順は、(1)申請者が申請書類をDAVに提出、(2)申請書類はDAVから指定された審査専門員(または専門機関)に渡され、(3)審査専門員により審査され、審査報告書にまとめられ、DAVに送付される、(4)DAVは審査報告書を確認し、要件を満たしている場合に諮問評議会に申請資料・審査報告書等を提出する、(5)諮問評議会は、登録番号交付(承認)可否を評価し最終判断を下す意見を提出する。登録に係る要件は、登録規定通達のほか、表示や品質に関する通達も定められています。技術文書はDAVの発行するガイドラインのほかASEANのACTDおよびACTR(ASEAN Common Technical Requirements)、ICH、世界保健機関(WHO)、米国食品医薬品局(US FDA)、欧州医薬品庁(EMA)等の他国/他組織のガイドライン、薬局方が参照可能です。品質規格として、ベトナム薬局方、英国薬局方(BP)、米国薬局方(USP)、日本薬局方(JP)、欧州薬局方(EP)、WHO発行の国際薬局方(IP)が参照可能であり、原薬がEP適合認証(CEP)の場合は、ACTD S1~S7パートは提出が免除されます。企業側で設定された規格および試験方法が登録される場合(in-house規格)は、薬局方規格より厳しくなければならず、ICHや薬局方等の技術文書に基づいた分析バリデーション報告書の提出が必要となります。

Pharmacovigilance

Pharmacovigilance in Japan

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品安全対策第一部 福田 小夜子

日本のPV(Pharmacovigilance)制度とPMDAにおける市販後安全対策が紹介されました。

製造販売業者(MAH)は販売開始後副作用情報を収集する必要があり、日本で新薬は再審査までの間、製造販売後調査が義務づけられています。それに加えて、多くの新薬には販売開始後6ヵ月間実施される市販直後調査(EPPV)が義務づけられます。EPPVは日本独自の制度で、この制度の導入により副作用報告件数も増え、副作用が早期に見つかった事例もあり、情報収集体制が強化されたものと考えられます。日本ではPMDAへの3つの報告ルート(1)MAHから、(2)医療従事者から、(3)患者さんからの副作用報告があり、収集された副作用報告はPMDAのデータベースに投入され、厚生労働省ともシェアされます。(3)患者さんからの副作用報告は、(1)(2)と異なり法律で義務づけられておらず、患者さんが任意で報告します。患者さんからの副作用報告は日本では2012年より試行的に開始され、2019年3月から正式受付が始まったところであり、患者さんへの周知活動を行って報告数の増加を目指しています。

次に、PMDAの医薬品安全対策部の構成と業務内容、副作用情報入手から添付文書改訂のプロセスと時間を具体的に説明しました。なお、市販後の安全対策を行ううえでは、医療機関に対するMAHの情報収集活動が非常に重要であると考えます。PMDAや厚労省で評価中の医薬品のリスク情報はPMDAのウェブサイトに掲載しており、添付文書改訂情報についても調査概要・改訂の理由とともにウェブサイトに掲載しています。また、緊急、迅速な対応を要する情報について、厚労省の指示に基づきMAHよりイエローレターやブルーレターが発出されますが、PMDAはこれらの情報を電子メールで発信するPMDA medi-naviというサービスを行っています。このサービスは日本語のみ対応していますが、重要な安全性情報や安全対策措置についてはPMDAの英語ウェブページでも閲覧することができます。

Pharmacovigilance Activities in Vietnam

The Vietnam National Centre of Drug Information & ADR Monitoring(DI&ADR Centre) Nguyen Phuong Thuy

ベトナムにおけるPVの歩みと取り組み、今後が述べられました。

ベトナムでは、1994年にスウェーデンのサポートにより初めてADR(Adverse Drug Reaction Monitoring)情報が収集されました。その後、2009年ハノイ大学にDI&ADRセンターが、2011年ホーチミンのチョーライ病院にベトナム南部DI&ADRセンターが設立されました。DI&ADRセンターでは、PV活動としてADRの検出、評価、リスク最小化、リスクコミュニケーションに取り組んでいます。DI&ADRセンターが設立されてからADR報告件数は約8倍になっていますが、ベトナムにおける報告はUS FDAや日本と異なり、主に医療従事者から行われます。リスクコミュニケーションとして、論文発表やウェブサイトのほかFacebookを利用して情報を配信しており、フォロワーは1万2000人になります。医療従事者に無償でコンサルティングサービスも行っており、毎年100件ほど回答しています。また、中央・省レベルの病院を中心にPVトレーニングも行っています。今までの取り組みで成果もありましたがいまだ問題もあり、PVの重要性に関する医療従事者や製薬業界・民間の医療施設での認識が低いこと、人材の数と質の不足、中央と地方のレベルの格差等が問題となっています。これらの問題を解決するために、今後保健省や各関連施設と連携して法規制、技術的なガイドライン、プロトコール、標準業務手順書(Standard Operating Procedures、SOP)等を統合することであらゆるレベルでPV活動を促進することが必要となっています。

おわりに

閉会時はPMDAの中島氏とDAVのAnh氏より挨拶がありました。

両氏はシンポジウム開催と成功への感謝と有意義な会であったこと、今後もこのようなシンポジウムの開催を期待していると述べました。

本シンポジウムは初めての開催であり、運営面で不慣れな点がありましたが、成功裏に終えたと総括しています。今後、日越両国官民の互いの理解を深め協力を進めるためのプラットフォームとして定期的な開催に発展し、両国国民ひいてはアジアの人々の革新的な医薬品へのアクセスの改善につながることが望まれます。

会場風景

(国際委員会 アジア部会 ベトナムチームリーダー 東山 昌代

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