トピックス 「バイオジャパン2019」開催・参加報告 開会式、アジア製薬団体連携会議(APAC)の創薬連携活動、ならびにバイオ医薬品委員会セミナーについて

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「バイオジャパン2019」が2019年10月9日~11日に、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催されました。2018年と同様に併催された「再生医療Japan 2019」に加え、環境省もバイオエコノミーゾーンを新たに設置し、厚生労働省主催の「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2019」も本年より同時開催されました。展示会は26ヵ国から970以上の出展者が集結し、来場者数は約1万7000名超にのぼり、目玉の一つでもあるパートナリング商談への参加企業は1300を超え、総商談件数は1万1000件を超えた模様です。年々、海外からの参加企業が増加しており、海外も含め幅広く事業機会を求めるオープンイノベーションの傾向は、より強まっていることが感じられました。製薬協も主催団体の一つとして参加し、会員会社のみなさんが多数発表するとともに、多くの会社・団体がアライアンスブースを出展し、アカデミアやベンチャー等と面談する等、活発な情報交換と交流が行われました。

バイオジャパンは我が国の国際バイオ総合イベントであり、1986年以来、2019年で21回目を迎えました。バイオインダストリー協会を中心に、製薬協を含めた9団体からなる組織委員会による主催で多数のセミナーやアカデミックシーズ発表会、バイオベンチャー中心の発表の場を通して活発な交流がありました。開催規模は年々拡大し、過去最大であった2018年の規模を超え、アカデミア、バイオベンチャー、バイオクラスター、行政関係者、製薬・化学・食品等の各企業等から多くの参加がありました。出展・パートナリング参加団体数も過去最大となり、また多数の面談が組まれ、アジア最大のパートナリングイベントとなりました。

開会式ならびに基調講演

主催者団体を代表してバイオインダストリー協会理事長の永山治氏による挨拶の後、経済産業副大臣の牧原秀樹氏、厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏、神奈川県知事の黒岩祐治氏、横浜市長の林文子氏による英語での祝辞に続き、3つの基調講演がありました。

内閣総理大臣補佐官の和泉洋人氏は、「日本のイノベーション戦略とバイオ戦略2019について」と題して、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔となり推進している統合イノベーション戦略2019におけるバイオ戦略2019の位置づけについて説明しました。その中で、2030年に向けた全体目標であるバイオファースト発想、バイオコミュニティ形成およびバイオデータ駆動の3つが実現している状態等、戦略の基本的な考え方から、社会像と市場領域、そして具体的な取り組みとして、データ基盤整備、国司祭拠点の形成および研究開発・人材育成の強化等の取り組みを多様な視点から解説し、持続可能な新たな社会経済システムの重要要素となるバイオエコノミー実現戦略への転換の重要性を指摘しました。

その後、ソニーコンピューターサイエンス研究所社長の北野宏明氏からは、「AI駆動型生命科学」と題して、第5の科学といわれているAI駆動型科学の最新の考え方や将来展望について、The Institute of Cancer ResearchのPaul Workman氏から、「UK Life Sciences : Innovation and Partnership to Defeat Cancer」と題して、英国におけるがん撲滅に対するさまざまな取り組みの紹介がありました。

アジア製薬団体連携会議(APAC)創薬連携ワーキンググループ企画の公開セミナー

製薬協は2012年に『革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける』をミッションとした「アジア製薬団体連携会議(APAC)」を設立しました。創薬連携ワーキンググループ(WG)では、「国境を越えたオープンイノベーションを促進し、アジアの人々に革新的な医薬品を届ける」ことを目的として、(1)情報共有、(2)ヒューマンネットワークの強化、(3)創薬研究者の能力向上、(4)創薬連携基盤の構築という4つの柱で活動を進めています。

今回の「バイオジャパン2019」における製薬協セミナーでは、「官民連携(Public Private Partnership、PPP)」と「非競争領域における協同研究」の創薬における重要性をテーマとして、2日目の10月10日(10:00~11:30)に開催しました。

"「官民連携(PPP)」と「非競争領域における協同研究」の創薬における重要性"を
テーマとした製薬協セミナー(バイオジャパン第2日)

APAC創薬連携WGのリーダーの蓮岡淳氏とタイTCELS(Thailand Center of Excellence for Life Sciences)CEOのNares Damrongchai氏によるモデレーターのもと、厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐の大久保貴之氏から日本政府の視点におけるPPPについて、武田薬品工業(米国)のKumar Singh Saikatendu氏からPPPのこれまでと今後について、GHIT Fundシニアディレクターの鹿角契氏からGHIT FundでのPPPの実例について、最後に武田薬品工業(米国)の大谷暁子氏から新たなトレンドとしてヨーロッパでのPPPの取り組み(Innovative Medicines Initiative、IMI)について講演がありました。その後にモデレーターと4人の演者のみなさんでのパネルディスカッションを行い、PPPにおける主要な成功要因および課題、課題の克服方法、ならびに、アジアで国境を越えたPPPを実施するための方法について熱心に議論が行われました。その討論の中で、官民両方の強みの活用、目的の明確化と共有、パートナー間の信頼関係の構築、ヒューマンネットワークの活用、異なる文化への柔軟な対応等の重要性が指摘されました(参加者140名)。

製薬協セミナーでのパネルディスカッション風景(バイオジャパン第2日)

バイオジャパンを活用したアジア製薬団体連携会議(APAC)創薬連携WG活動

前述のセミナーのほか、「バイオジャパン2019」前日の10月8日に、東京大学産学協創推進本部(Division of University Corporate Relations、DUCR)と、神奈川県殿町のライフイノベーションセンター(LIC)および国立医薬品食品衛生研究所(National Institute of Health Sciences、NIHS)の施設見学を行いました。

8日午前に東京大学DUCRを訪問し、アジアから19名(タイ9名、台湾10名)が参加しました。東京大学DUCRイノベーション推進部ディレクターの江藤伸晃氏から東京大学のインキュベーション体制について説明があり、台湾の参加者から各々の所属機関の創薬研究の取り組みについて、タイの参加者からタイでのライフサイエンスのエコシステムの取り組みについて紹介がありました。

東京大学産学協創推進本部の施設訪問の一コマ(バイオジャパン前日)

その後、5人1チームとして交代で施設見学を行いました。施設見学を行っていないメンバーは東京大学DUCRイノベーション推進部特任教授の長谷川克也氏、同部ディレクターの東條英明氏らとインキュベーション体制等についてフリーディスカッションを行い、各国の状況を踏まえた課題や問題点について議論しました。

東京大学産学協創推進本部の施設訪問団の集合写真(バイオジャパン前日)

8日午後に神奈川県殿町のLICを訪問し、アジアから16名(タイ9名、台湾7名)が参加しました。最初に神奈川県政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室国際戦略担当部長の大木健一氏から神奈川県のヘルスケア分野での取り組みについて、続いて心不全に対する再生医療に取り組むベンチャー企業METCELAの研究内容の説明があった後に、LICの施設見学を行いました。

ライフイノベーションセンターの施設訪問団の集合写真(バイオジャパン前日)

その後NIHSへ移動し、NIHS再生・細胞医療製品部第四室長の河野健氏から再生医療と細胞療法に関する日本の現在の規制とNIHSでの取り組み状況について説明があった後に、NIHSの施設見学を行いました

国立医薬品食品衛生研究所の施設訪問団の集合写真(バイオジャパン前日)

2日目の10日午後には、製薬協研究開発委員会タスクフォースメンバーと、タイと台湾のメンバーで天然物創薬に関する会議(参加者19名)を開催し、APAC天然物創薬コンソーシアムの2019年の活動の進捗状況について報告し、今後のアクションプランについて議論しました。次いでアジアからの参加者を含めた創薬連携WGメンバーの全体会議を開催し、今後のWG活動全般について議論しました(参加者22名)。

バイオ医薬品委員会セミナー

世界的な取り組みとして、生産性の高い生産プロセスの構築を目的に、低分子医薬品に続き、バイオ医薬品の開発・製造プロセスへの人工知能(AI)導入の動きも出てきています。そこで、製薬協バイオ医薬品委員会では、バイオ医薬品の製造へのAIの導入について大学および産業界のそれぞれの立場で議論することを目的として、バイオジャパンにおいて、「バイオ医薬品製造最前線」と題した取り組みを続けています。2019年は第3弾として「~速やかに患者さんに新薬を届けるための次世代バイオ医薬品製造~」を10月10日に開催しました。本セミナーでは、最近話題となっているAIを応用した「スマート工場」に焦点を絞り、スマート工場での開発スピードアップや製造業務効率の改善等の「生産性の向上=時間の効率的な活用」について議論しました。

神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授、バイオ医薬品委員会の内田和久技術実務委員長がコーディネーターとなり、現状のオーバービューのあと、立場の異なる4名のプレゼンターから発表がありました。機材提供会社の立場からGE Healthcare Life SciencesのParrish Galliher氏より「Strategies and Technologies for the Future of Biomanufacturing」について、開発製造受託(Contract Development and Manufacturing Organization、CDMO)の立場からはAGC Biologics/Chief Technical OfficerのMoller Kasper氏より「The Future of Monoclonal Antibody Bio manufacturing」について、ユーザーである製薬会社の立場からは中外製薬製薬研究部の柳田哲博氏より「超低コスト生産を実現するためのバイオ医薬品の次世代型工場に向けて —中外製薬の取組み—」について、最後にBioPhorum Operating GroupのSimon Chalk氏より「Applying GMPs to the Biopharmaceutical Manufacturing Supply Chain - An industry collaborative approach to defining best biopharmaceutical practices which are necessary to ensure the safety of the supply chain」について紹介がありました。

その後のパネルディスカッションでは、スマート生産システムについて、システムをモニタリングする方法の改善法やデータの収集と適切な判断を行えるITシステムの確立といった具体的な内容について、活発な討論が行われました。2019年は日米欧から発表者が参加し、また、所属の立場も異なる等、幅の広い議論が行われ、参加者も多く盛況な会合となりました(参加者126名)。

次回の「バイオジャパン2020」は2020年10月14日~16日、パシフィコ横浜にて開催されます。

(薬事部長 伊藤 哲史、研究振興部長 舛森 弘明、バイオ医薬品委員会 技術実務委員長 内田 和久

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