第39回 患者団体セミナー(オンライン開催)
ともに考えましょう、これからの医薬品開発(治験) ~ともに開きましょう、未来への扉~
セミナー開催日:2021年11月24日(水)
動画配信期間 :2021年12月23日(木) ~2023年05月31日(水)
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※動画配信期間は終了しました
文中の(*)印については、文末に資料リンク先を掲載しています
情報提供:患者さんの声を活かした医薬品開発~製薬企業の取り組みと今後の期待~
製薬協 医薬品評価委員会 臨床評価部会より医薬品開発に関する情報提供として、以下内容をご説明しました。
1.くすりができるまで(医薬品開発の流れ)
- 基礎研究(2~3年)
- 動物などを用いた研究(3~5年)
- 治験(3~7年)
- 承認申請・審査(1年)
- 承認
- 製造販売
2.医薬品開発への患者さんの参画(PPI)について
PPIとは「Patient and Public Involvement(患者市民参画)」の略で、患者さんや市民の皆さまの意見を取り入れて、医療や研究を進めることを指しています。薬の開発では、これまで製薬企業と医師などの専門家が協議して薬の候補の評価を行い、治験の計画を作成してきました。最近では、患者さんに治験に参加いただくだけではなく、治験計画を作成する際に、自らの実体験を活かした意見を述べてもらい、ともに治験を創りあげていくことが大切だと考えられています。
3.製薬企業での患者さんの参画に関する取組みの状況
製薬企業側からの患者参画が進んでいない背景として、患者さんとのコミュニケーションの取り方が分からないという理由が挙げられます。そのため、製薬協では患者団体の皆さまにご意見を伺いながら、製薬企業が患者さんとコミュニケーションをとるための内容をガイドブック(*)をまとめました。また、患者さん向けの治験に関するパンフレット「「くすり」と「治験」」(*)を患者団体の皆さまと協働して、14年ぶりに改訂することができました。
4.行政(PMDA)での患者さんの参画に関する取組み
医薬品の審査などを主に行う行政機関(独立行政法人医薬品医療機器総合機構:PMDA)でも患者さんとの参画が進められています。2019年に患者さんの参画を検討するワーキンググループが発足し、今年9月7日に患者さんの参画を告げるガイダンスを公表しました。
また、2018年に治験情報の登録公開が義務化されました。さらに2020年9月1日以降は、治験実施医療機関名の公開が義務化されました。治験情報の登録先も一元化され、国内の治験はすべてjRCT(臨床試験情報登録センター)臨床研究実施計画・研究概要公開システム(*)というウェブサイトで、日本語での検索が可能になりました。
5.患者さんの参画により期待される効果
患者さんの声が反映された医薬品の開発は、患者さんおよび製薬企業にとって共通の願いである「患者さんにより早く価値のある医薬品を届けること」につながると期待されています。これまで以上に患者さんの声を聞く医薬品開発を促進すべく活動を進めていきます。
パネルディスカッション
ご紹介
- 進行役
- 一般社団法人 全国がん患者団体連合会 副理事長 松本 陽子 氏
- パネリスト
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NPO法人 GISTERS 副理事長 櫻井 公恵 氏
NPO法人 日本ナルコレプシー協会 副理事長/事務局長 駒沢 典子 氏
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会
1.団体紹介
(1)NPO法人日本ナルコレプシー協会(*)
ナルコレプシーを中心とした過眠症関連疾患の患者会です。ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、若年性の慢性希少疾患です。オレキシンという覚醒と睡眠のスイッチを固定化する役割を持つ脳内物質が作り出せなくなることにより、一日中眠ったり起きたりを繰り返す病気です。1967年に設立し、会員数は400名です。
(2)NPO法人GISTERS(*)
GISTは消化管に発生する粘膜下腫瘍で、推定罹患率は10万人に1人という大変希少ながんです。2003年に初めて分子標的薬が承認され、ようやく治療ができる病気になりました。珍しい疾患ながら、現在SNSの登録者数は550名弱です。
2.治験の課題
(1)治験に参加することへの不安、抵抗など
駒沢氏
治験に参加する際は、断薬による眠気のコントロールが大きなハードルです。ナルコレプシーでは喜怒哀楽の感情を表すと筋力が脱力する現象がありますが、断薬によってさらに行動制限が加わります。そのため、会社勤めの方が治験を受けることは非常に少なく、治験参加は学生や主婦が中心になっていると思います。
櫻井氏
私たちにとって、治験は標準治療から先の治療です。診療ガイドラインにも治験参加について示されています。当会では定期的に会員へアンケートを実施しています。特に治験の部分について、2020年の結果を共有します。(回答222名)
- Q
- 治験の参加経験
- A
- ある5.4%でした。
- Q
- 治験の参加理由
- A
- 必要性/他に選択肢がない、が大多数でした。
- Q
- 治験のイメージ
- A
- 希望/新薬開発の過程/標準治療後の選択肢、が多い一方で、人体実験、という回答もありました。
- Q
- 懸念すること
- A
- 予期せぬ副作用・体への影響が一番多い回答でした。交通費・宿泊費等を含めた経済的な不安/主治医との関係性、新たな病院に移ることへの不安、などの回答もありました。
(2)治験の情報は患者さんに届いているのか?
駒沢氏
治験は主治医から紹介されない限り受けられないと認識している患者さんが非常に多かったです。特に専門医がいない地方では治験情報が届いていないため、受けたくても受けられない状況が続いていました。そのような中、製薬企業から治験の患者登録の進め方について相談があり、当会ホームページで治験募集サイトを作成しました。(現在は募集を締め切っています。)
櫻井氏
治験情報の収集はとても苦労しています。先述のアンケートでの治験情報に関する回答をご紹介します。
- Q
- 治験情報は十分に得られているか
- A
- はい5.4%でした。
- Q
- 治験情報はどこで探すか
- A
- 患者団体のホームページ、という回答が大多数でした。ポータルサイトなどで検索したが見当たらない、判別できない、という声もありました。
松本氏
がん研究振興財団ホームページでは、「患者本位の『がん情報サイト』」(*)があります。ここでは、治験・臨床試験に関わる信頼できる最新のがん情報を調べることができますが、サイトを作成したばかりということもあって、検索方法が少し難しいと感じており、分かりやすい表現などを検討しています。
製薬協
我々も治験情報を患者さん、市民の方に届けることは大切なことだと考えています。2つの取組みをご紹介します。
①正確に分かりやすく伝えるための取組み
- 行政の取組み:日本の臨床試験情報は全てjRCT(臨床試験情報登録センター)(*)に掲載することが決められました。しかし患者さんや市民の方がサイトにたどり着けるのか、また、欲しい情報を得られるのかという点はハードルが高いと感じており、製薬協でもさらなる取組みが必要だと考えています。
- 製薬企業の取組み:各社のウェブサイトにおいて各社ポリシーに則り治験情報を発信している会社があります。積極的に情報公開をしている企業もあれば、まだこれからという企業もありますが、情報公開に前向きな姿勢を持ち始めていると感じています。
②治験の啓発の必要性
製薬協では今年「「くすり」と「治験」」という治験啓発のためのパンフレットを作成し、ウェブサイトで公開しました。本日のセミナーような機会も含めて積極的に発信していく必要性を感じています。
(3) 患者団体と製薬企業の治験に関する協働事例
製薬協
治験の企画段階・実施中・実施後で患者さんの意見を伺い参加しやすい治験を検討する、製薬企業の社員が治験の企画段階で手順を実際に確認してみる、といった治験の不安を払拭するための取組み事例があります。
櫻井氏
実施計画書や同意説明文書を確認することはよくあります。今後はさらに増えていくと感じています。
駒沢氏
治験での入院時は食事ぐらいしか楽しみがないので、そういった意見を聞いてほしいと感じました。ホームページの治験募集では会員だけでなく患者会に所属しない患者さんからの相談の際に治験について紹介しやすくなり、とても良かったです。
松本氏
セミナー視聴者から事前に頂いた質問を2つ取り上げます。
①治験の初期段階から患者が参加することの価値について
製薬協
製薬企業は薬のプロフェッショナルですが、病気のプロフェッショナルは患者さんです。日常生活の中に治験が入ってきたときの視点を事前に知ることが、医薬品開発にとって一番大きな意義と考えます。
櫻井氏
患者の意見について本気で考えてもらい、生活している私たちの意見を初めから言えたら、偽薬の必要性などいろんなことが変わってくると思います。
駒沢氏
製薬企業から「こんな薬があったらいいのに、ということはありますか?」と聞かれたときは本当にうれしかったです。
松本氏
私たちは治療に暮らしや人生を合わせていかざるを得ない段階はあるかもしれませんが、やはり人生に治療や薬を合わせていければいいと思いました。
②治験参加者の募集について
製薬協
基本的に治験実施医療機関の先生に治験に合いそうな患者さんを探していただいています。新聞広告やラジオ、インターネットを通じた参加募集もあり、患者団体を通じた参加募集も一部で行われています。しかし、現状では治験情報が分かりやすく周知されていないと実感していますので、今後もさらに取組んでいきます。
松本氏
製薬企業と、「ねえねえ」と言える間柄に至っていません。治験を始める際に、急に仲良くしましょうではなく、日頃から密にいろんな情報交換をするところから信頼関係を築ければいいと思いました。
(4) 患者団体と製薬企業の治験以外の協働事例について
製薬協
患者さんをお招きして講演会や対話会を実施する、医療機関に出向いて治療現場を見て感じる、などマインド醸成に取組んできました。私たちが働く理由やモチベーション、視野・視点を定期的に考えるような取組みを実施する企業が増えてきています。
櫻井氏
講演会や新入社員研修のお手伝い、患者向けサポートページや冊子の企画・協力をしています。
駒沢氏
病気についての困り事や状況を話す場があります。多くの患者さんが製薬企業とつながるといいと思います。
松本氏
もう一歩進んで、ともに未来への扉を開くためにどうしていきたいですか。
製薬協
患者さん、製薬企業、医療関係者、行政、それぞれのプロフェッショナルがもっと近くで対話できる関係が大切だと思います。適切な関係や透明性を担保しながら継続的にコミュニケーションを取っていければうれしいです。
櫻井氏
お薬ができて長生きができるようになってきた私たちにとっては、薬への感謝の思いは強いです。私たちの声をこれからも聞いてほしいと思います。一緒に考えていきたいです。
駒沢氏
製薬企業以外にも、医療関係者や行政と一緒に顔を合わせ、大きな視点で見られる機会があるといいと思います。また、患者会は当事者が運営を担うことが多く、疲弊しています。この状況を打開していきたい。皆さんのお力を借りられたらと思います。
松本氏
今日は、未来への扉をともに開くということでお話してきました。治験が入口でしたが、私たちの生きる、暮らす、を支えるための一つとして再確認できたように思います。私たちの暮らしや人生を支えるための扉を製薬企業、他の関係機関とも結び合って手を取り合って、進んでいきたいと思っています。そのための一歩に今日がなれば幸いです。
製薬協からのお知らせ:「製薬協 産業ビジョン2025 追補版 患者さんとご家族に向けて」について
製薬協 産業政策委員会 総合政策部会より「製薬協 産業ビジョン2025 追補版」と、製薬協に新たに設置されたアドボカシーグループについて紹介しました。
1.「製薬協産業ビジョン2025追補版 患者さんとご家族に向けて」について
製薬協は画期的な新薬をいち早く患者さんにお届けするために、将来のありたい姿を「製薬協産業ビジョン2025」として2016年1月に定めていますが、さまざまな環境変化を鑑み追補版(*)を作成しました。6項目のうち、本日は患者さんに関係が深い下記について紹介します。
(項目1)デジタル技術を活用して新しいお薬を創ります
私たちは人工知能等の技術を研究に活用し、有効性と安全性に優れた医薬品を短期間で生み出すことに挑戦しています。治験を含む臨床研究は、通常は病院で行われますが、新しい情報通信技術を使って在宅で参加する方法も検討されています。
(項目2)「ビッグデータ」を活用し、暮らしやすい社会を実現します
個人情報を保護した上で何千人、何万人の人々の健康や病気、治療に関する情報(ビッグデータ)を集め、最新のコンピューターを使って解析することで病気を早く見つける新しい検査や、効果が高い医薬品の開発につながることが期待されています。
(項目4)お薬の情報を、わかりやすくお伝えします
治療を受けながらも長生きするためには、病気や医薬品のことを患者さんやご家族にもよく知ってもらうことが大切だと考えています。製薬協では各会員会社が持っている患者さん向けの情報を集めて、ホームページ等から病気やお薬の情報が得られる仕組みを作っていきます。
2.製薬協の活動について(アドボカシーグループ)
健康で暮らしやすい社会の実現には、社会のさまざまな方からご理解やご支援をいただくことが重要だと考え、製薬協 産業政策委員会 総合政策部会にアドボカシーグループを新たに設置しました。アドボカシーという言葉は考えや意思を表明することを意味していますが 、私たちは製薬協産業ビジョン2025で示した製薬企業としての志を、社会との対話や協働を通じて伝えていきたいと考えています。
患者さんの期待に応えられるような新薬を創り出すには、病気や治療に対する患者さんの不安な気持ちを聞かせていただくなど、患者団体の皆さまとの連携が欠かせません。
医薬品開発に留まらずさまざまな場面において対話や協働の機会を広げながら、患者団体の皆さまとともに健康で暮らしやすい社会の実現を考えていきます。
まとめ
製薬協 田中徳雄常務理事より、医薬品開発に対して難病とがんの当事者立場でこれまでの経験や貴重な情報を発信いただいたことに対して謝辞が述べられました。今回のセミナーでは参加いただいた患者団体の皆さまへお役に立つ情報をお届けするとともに、製薬企業にとっても患者さんの未来のために、ともに医薬品開発について考える機会となりました。