患者団体連携推進委員会 第30回、第31回 患者団体セミナー

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『患者さんにとっての「かかりつけ薬剤師」』、「熊本地震における難病患者さんへの対応」

講演:患者さんにとっての『かかりつけ薬剤師』

薬剤師の仕事と医薬分業

薬剤師の任務について、薬剤師法(※1)で「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」と定められています。具体的には、医薬品・食品・化粧品などを製造する会社や工場における品質管理・衛生管理、自治体の薬務課や保健所における医薬品検査・指導、学校における環境や衛生状況の検査など、薬剤師の仕事は多岐にわたります。

赤あんど薬局
西﨑 大祐 氏

そして医薬分業とは、医師が患者さんに処方せんを交付し、薬局の薬剤師がその処方せんに基づき調剤を行い、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し国民医療の質的向上を図るものです(※2)。医薬分業における患者さんのメリットは、調剤の待ち時間の短縮、医薬品に関する十分な説明が受けられるなどが挙げられ、病院にとっては、医薬品購入費削減、 医師の処方薬の範囲拡大などが挙げられます。こうしたメリットから、 医薬分業率は年々上昇し、2014年度には68.7%(※3)となりました。医薬分業率の上昇にともない薬局数(※4)、医療費(※5)、調剤医療費(※6)の増加もみられました。しかし、より患者さん本位の医薬分業を実現すべきとの観点から「かかりつけ薬剤師」制度が誕生しました。(西﨑氏)

東和薬局
武政 文彦 氏

  • 1
    薬剤師法(昭和三十五年八月十日法律第百四十六号、最終改正:平成二六年六月一三日法律第六九号)
  • 2
    平成26年版厚生労働白書など
  • 3
    日本薬剤師会. 処方箋受取率の推計「全保険(社保+国保+後期高齢者)」平成26年度調剤分
  • 4
    厚生労働省. 衛生行政報告例:結果の概要. 年度報
  • 5
    厚生労働省. 医療費の動向調査:結果の概要. 年次報告
  • 6
    厚生労働省. 調剤医療費の動向調査:集計結果. 年次報告

かかりつけ薬剤師

2016年4月より新たにスタートした制度「かかりつけ薬剤師」とは、保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があること、医療に係る地域活動の取り組みに参画していることなど一定の条件を満たした薬剤師のことです(※7)。かかりつけ薬剤師がもつべき3つの機能としては、
(1)患者さんがかかっているすべての医療機関や服用薬の一元的・継続的把握
(2)24時間対応・在宅対応(開局時間外の電話相談、夜間・休日の調剤実施、残薬管理など)
(3)医療機関との連携(医師に対する疑義照会や処方提案、医療機関への受診勧奨など)があります(※8)。
また、上記3つをかかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能として位置付けたうえで、地域あるいは住民のニーズに応じて強化すべき機能として挙げられているのが、2015年10月、厚生労働省により策定された「患者のための薬局ビジョン」に基づき2016年4月から施行した健康サポート機能(地域住民による主体的な健康の維持・増進の支援)および、現在、厚生労働省の研究班により検討が進められている高度薬学管理機能(がん、HIV、難病などの患者さんに対して専門的な薬物療法を提供できる体制)です(※9)。
患者さんがかかりつけ薬剤師をもつためには、まず普段利用している薬局に「かかりつけ薬剤師」の条件を満たした薬剤師がいるかを確認し、(在籍している場合には)かかりつけ薬剤師による服薬指導を受けることに同意します(同意書に署名)。また、かかりつけ薬剤師が患者さんにくすりを渡す場合、「かかりつけ薬剤師指導料」として、60〜100円(3割負担の場合)ほど患者さんの追加負担となります(※10)。(西﨑氏、武政氏)

  • 7
    厚生労働省保険局医療課. 平成28年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要
  • 8
    厚生労働省. 患者のための薬局ビジョン 〜「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ〜 平成27年10月23日。日本薬剤師会. 地域の住民・患者から信頼される「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」の役割について 日薬業発第194号平成27年9月16日
  • 9
    厚生労働省 患者のための薬局ビジョン 〜「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ〜 平成27年10月23日
  • 10
    日本薬剤師会.(別紙)かかりつけ薬剤師指導料(かかりつけ薬剤師包括管理料)の算定についてご同意いただいた患者さんへ <お願い>

信頼できる薬剤師をもつために

日本難病・疾病団体協議会では、患者会の3つの役割(※11)について明記していますが、それをくすりの視点でとらえれば、以下のように考えられると思います。
(1)病気を科学的にとらえること → くすりをよく知って使う
(2)病気と闘う気概をもつこと → 信頼できる薬剤師をもつ
(3)病気を克服する条件をつくりだすこと → 患者さんのための薬事制度・仕組みをともに作り出す
特に、2つめの「信頼できる薬剤師」については、できるだけ自宅や職場の近所にもつと安心でしょう。信頼できる薬剤師は多くの場合、地域の薬局で長年仕事をしており、患者さんの話しをよく聞き、患者さんの質問に対し適切な対応をし(不明点については即答せず必ず確認、失敗を隠さない)、主治医からの信頼も厚いものです。ぜひ、かかりつけ薬剤師を選ぶときの参考にしてください。

講演:熊本地震における難病患者さんへの対応

医療と行政の連携における課題と「互助」の重要性

2016年4月14日の夜以降、震度7や6強を観測する地震が相次いだ熊本県などでは、その後も活発な地震活動が続きました。私は、4月14日の夜(21時26分)、自宅で晩酌を始めようとしたまさにその時、大きな縦揺れを感じ、壁の額縁が落ち、食器が割れ、テレビなどが倒れました。さらに、4月16日午前1時25分頃の本震では、畳に敷いた布団から身体ごと宙に投げ出されるような激しい揺れを経験しました。
各地の被害は深刻で、断水や停電が続いたため、多くの病院でしばらくの間、通常治療ができませんでした。医療に携わる人々も混乱し、9月に開催されたシンポジウム(※12)では、「近隣病院の空床の情報がわかりづらく困った」、「行政区域と保健所の管轄、郡市医師会のエリアがそれぞれ異なり、どこに相談すればよいかわからず混乱した」といった声が聞かれ、医療と行政の連携が課題であることが浮き彫りになりました。また、誰もが混乱し、大変な経験をする災害時こそ、自助・共助・公助に加え、患者会における仲間同士の顔の見える助け合い「互助」が非常に重要であると改めて実感しました。

熊本難病・疾病団体協議会
代表幹事 中山 泰男 氏

  • 12
    国立病院機構 熊本医療センター. シンポジウム「熊本地震時の対応と復興」−出来たこと、出来なかったこと、そして、復興へ−. 平成28年9月30日開催

被災した経験からみなさんに伝えたいこと

私は、難病である炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、IBD)(※13)を抱えているため、粉末状の経腸的高カロリー栄養剤1パックを300ccの水で溶き、合計5パックほど摂取しないと十分な栄養が摂れません。また、トイレの後は、炎症を防ぐために臀部を水で清潔に洗う必要があります。しかし、避難所で配給された水はたったの1日当たり1Lであったため、洗面や身体の清拭を含めると、まったく水が足りない状況で大変苦労しました。だからこそ、何らかの疾患、特に難病を抱えるみなさんには以下のことを伝えたいと思います。

自助(自分でできること)

  • 非常用避難袋の準備(食料3日分、乾電池、保温シートなど)
  • 水なしで飲める常備薬(ジェル状の補助用品などを含む)1週間分の準備
  • 日常生活エリアを越えた医療機関・調剤薬局に関する情報収集(避難先の検討)

共助(地域からの援助を得るために)

  • 地域民生委員や自治会長に対する自身の疾患に関する最低限の情報開示
  • 避難所の事前確認と備蓄品で自身に足りないものの把握
  • 社会貢献活動の一員となる

公助(社会的な支援を受けるために)

  • 自治体における災害時要援護者登録(※14)を行う
  • 自治体の担当者とつながる(保健師、福祉職員など)

互助(緊急時の確認)

  • (患者会では)会員からの支援要請に対応するための体制整備
  • 自治体に対し、難病患者固有の課題を網羅したガイドラインについて要望

一見すると無駄だと思われるようなことでも、“もしも”のために普段からしっかり準備を整え、自ら命を守ることが大切だと思います。

これらの講演に加えて、製薬協からの情報提供として田中徳雄常務理事より「災害時の医薬品の提供について」と題した説明のほか、司会から「第2回 患者団体の意識・活動調査」の速報と「製薬協 産業ビジョン2025」の紹介もあり、盛況裏に終了しました。

患者団体連携推進委員会 齋藤 有香

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