患者団体連携推進委員会 「第3回 患者団体アドバイザリーボード」を開催
第3回患者団体アドバイザリーボード(2019年3月27日):医薬品の情報提供のあり方、あるべき姿とは
1.医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて
厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課の堀尾貴将氏が「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(以下、本ガイドライン)について、患者さんに対する情報提供のあり方を中心に講演を行いました。
本ガイドライン策定の目的
本ガイドラインは、医療用医薬品の適正使用を目的に策定しました。販売情報提供活動とは、製薬企業が特定の医療用医薬品の販売促進を期待して行う活動を指し、一般人を対象にした疾患啓発活動も含みます。行政が販売情報提供活動に着目する理由は、この活動が医師の処方に大きな影響を与え、医薬品の適正使用に影響を与える、あるいは不適正使用につながり得る重要な活動だと考えているためです。
そこで、販売情報提供活動のあり方を行政として示したものが、本ガイドラインとなります。本ガイドラインは、基本的には製薬企業が医師や薬剤師に情報提供を行う際のあり方を示していますが、一方で、患者さんや患者団体が製薬企業へ情報提供を求める声があることも理解しています。これまで、法規制や慣習等により、患者さんに情報が届きにくい状況になっているという指摘もされていたところです。しかし、患者さんに対する情報提供が過度に萎縮してしまうことがないよう、本ガイドラインでは“患者さんへの情報提供活動”についても方向性を示しました。
厚生労働省 医薬・生活衛生局
監視指導・麻薬対策課
堀尾 貴将 氏
患者さんへの情報提供についての問題
さて、患者さんへの情報提供については、法的には2つの問題があります。1つ目は、メディアセミナーや疾患啓発広告等が“一般向け広告”に該当しないかという問題です。2つ目は、“未承認薬・適応外薬の情報提供の問題”です。
1つ目の“一般向け広告の禁止”は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第67条の「がん・肉腫・白血病という特殊疾病については、指定された医薬品についての広告を一般人向けにしてはいけない」という規定に基づいています。また、がん・肉腫・白血病以外の疾患についての医療用医薬品の一般向け広告は「適正広告基準」で禁止されています。医療用医薬品の一般向け広告が通知という形で禁止されている背景には、サリドマイド事件があります。睡眠薬であるサリドマイドは、“完全無毒”“妊婦にも安心”というような広告を行ったことにより使用が拡大し、催奇形性という副作用の拡大にもつながりました。この事件を受け、安全性の確保が課題となり、1967年に医薬品の製造承認等に関する基本指針を出し、この中で「医療用医薬品についての一般向け広告は禁止する」ことを定め、現在に至っています。
また、2つ目の“未承認薬・適応外薬の情報提供のあり方”については薬機法第68条の「承認前の薬剤の一般広告をしてはいけない」という規定との関係を整理する必要があります。
これらの規制を前提として、企業側が患者さんへの情報提供について慎重な対応を行ってきたという状況がありました。しかし、いずれも“広告”については禁止していますが、“広告に該当しない情報提供”について禁止しているわけではありません。そこで、本ガイドラインでは“広告に該当しない未承認薬・適応外薬の情報提供”は、どのようなものなのかを示しました。未承認薬・適応外薬の情報提供を行うに際して、情報提供する内容は要求内容に沿うことといった条件のほか、適正使用が確保されるための条件も記載しています。
今後、患者さんへの情報提供の実態を患者団体や医療関係者のみなさんから教えていただき、患者さんが情報提供についてどのような希望をもたれているのかを把握したうえで、患者さんへの情報提供のあり方を引き続き検討していきたいと思います。
2.医薬品情報の提供について考える
次に、一般社団法人くすりの適正使用協議会(RAD-AR協議会)理事長の俵木登美子氏が「医薬品情報の提供について考える」と題した講演を行いました。
RAD-AR協議会の活動
RAD-ARは、Risk/Benefit Assessment of Drugs-Analysis & Responseの略です。1960~1980年代のさまざまな薬害問題を契機に製薬企業への批判が高まったことを受け、1980年代後半に欧米の製薬企業を中心として、医薬品に本来備わっているリスクとベネフィットを科学的、客観的に評価・検証し、その結果を社会に提示することで医薬品の適正使用を促し、患者さんのメリットに寄与することを目的に活動を開始しました。
現在、主に3つの活動を行っています。1つ目は、信頼できる医薬品情報の提供のために、添付文書を平易な言葉で説明した「くすりのしおり」のウェブサイトでの公開です。「くすりのしおり」は、薬剤師が服薬指導の際に使用することを目的としており、各製薬企業が作成しています。2018年12月時点で1万6300枚の「くすりのしおり」が作られています。2つ目は、くすり教育の支援です。現在、中学校、高校では年に1時間程度ではありますが、くすりの教育を行うことを義務づけていますので、先生がくすりの教育を適正に行えるような資材の提供や研修会を開催しています。また、一般国民向けの啓発資材も作成しています。3つ目は、患者さんの実生活に沿った医療を行うことを目指したコンコーダンス概念や薬剤疫学の普及啓発活動です。
一般社団法人 くすりの適正
使用協議会
理事長 俵木 登美子 氏
より良い情報提供活動のために
現在、インターネットにはさまざまな医療情報が氾濫しており、本当に役に立つ正しい情報を患者さんが見出すための対策は喫緊の課題です。2018年3月28日には「健康や医療・医薬品に関する情報を正しく理解していただくために」の共同ステートメントを6団体共同で発表しました。また、われわれが作成している「くすりのしおり」のサイトは、月の閲覧回数が2018年は前年度の3倍を超える1200万回近くまで上昇しました。この背景としては、2017年10月にGoogleの検索式が変更され、より適切と考えられるサイトが上位に表示されるようになったことが挙げられます。
厚生労働省では「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」において、信頼できる医療情報を見やすくまとめて提供することを提言しています。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究班でも「信頼できる医療情報サイト構築を目指す取り組み」を行っています。われわれとしても、この課題にどのように取り組めるのか、現在検討を重ねています。たとえば、「くすりのしおり」のサイトは月1200万回もアクセスされていますので、「くすりのしおり」のサイトがポータルサイトになることにより、アクセスされた方が関連する情報を得られるように、関連サイトへのリンクを貼る等の対応はできないかと考えています。また、適切な情報と不適切な情報を見極めるための簡単なチェック方法等を啓発することも検討しています。
過去に、ある薬剤の安全性情報が出された際に、翌日の朝刊よりも先に、患者団体のホームページに患者さん向けに当該医薬品の注意喚起が掲載されたことがありました。説明されている文章もとてもわかりやすく噛み砕かれており、大変感心しました。このような事例からも、患者団体のみなさんと協働することで、より良い情報提供活動ができると考えています。
3.質疑応答
講演に対する活発な質疑応答が交わされました。
1) 患者さんは製薬企業以外にもアクセスできる情報源があること
アドバイザーのコメント:
企業から患者さんへの情報提供活動をガイドラインで規制しても、現在患者さんは、企業の株主総会や海外の学会、文献等から自由に情報を得ることができる状況にある。ほかのソースから情報を得られる環境があるにもかかわらず、製薬企業に対してのみこのような規制を行うことをどのように考えているのか。
堀尾氏のコメント:
すべての情報提供活動を禁止しているのではなく、広告に該当する活動を禁止している。しかし、現在、広告に該当する情報の外延が明確でないことから、患者さんへの情報提供活動が萎縮しているのではないかという問題意識があり、適切な情報が患者さんに届くよう、情報提供が可能な境界線を明確に示すために、本ガイドラインを作成した。
2) 患者団体からの情報提供
アドバイザーのコメント:
海外の学会(米国臨床腫瘍学会(ASCO)等)に参加すると、入口に患者団体のブースがあり、患者団体が企業と一緒に患者さんへ情報提供活動を行っている。しかし、日本の学会では、患者団体は立ち入り禁止で、パイプライン情報や治験情報を入手することができない。日本では患者団体が企業と一緒に患者さんへ情報提供活動を行うことはできないのか。
堀尾氏のコメント:
学会の展示ブースで患者さんが情報を得られない状況があるというご意見を踏まえ、2018年に展示ブースへ勉強するために来られた患者さんへ情報提供することについてのQ&Aを示した。今後も誤解が生じているところについては、行政から正しい考え方を示すことで問題を解決したいと考えている。
3) 未承認薬・適応外薬の情報提供
アドバイザーのコメント:
今後、日本でゲノム医療が本格的に始まると患者さんがゲノム検査を受けることになるが、検査の結果、使用できる治療薬があったとしても、おそらくほとんどが未承認薬・適応外薬となる。治療薬の情報を製薬企業から直接入手できないのではないかと患者さんの不安を煽ることにならないか。
堀尾氏のコメント:
ガイドラインの考え方は、求められた範囲での情報提供は、科学的・客観的な根拠に基づく正確な情報であれば企業からも提供可能というものである。患者さんに対する医薬品に関する情報提供が適切に行われるよう、行政からも考え方を示していきたいと考えている。
4) 市販薬の適切な情報提供と薬剤師の役割
アドバイザーのコメント:
京都の医師の平憲二氏は、一般用医薬品のかぜ薬と解熱鎮痛薬の成分をまとめ、パッケージの写真とQRコードを掲載した『クスリ早見帖』というフリーペーパーを作成し、全国の医療機関に配布している。個々で素晴らしい取り組みをされていても、活動が共有されず、情報が増えるとかえって患者はどこにアクセスすれば良いかわからない。今後はこのような活動を取りまとめられる“リード役”が必要だと思う。
4.全体でのディスカッション
「患者さんが望む情報」について、さまざまな立場から意見交換を行いました。
1) 治験実施施設名の公開
【課題】治験実施施設が公開されていないと、患者さん自らが調べて治験に参加することができない。
アドバイザーのコメント:
ClinicalTrials.gov等、患者さんがアクセスできる情報は増えているが、日本人が日本の治験情報を調べるために、海外の英語のサイト(ClinicalTrials.gov)を調べなければいけないことには大変違和感がある。また、ClinicalTrials.govでは施設名が掲載されていないこともある。日本の治験情報を日本語で、特に施設名も含めて公開していただきたい。
米国では患者団体がClinicalTrials.govのアカウントをもっているので、相談を受けた患者さんの住所から施設との距離を割り出して、適切な治験施設へのつなぎ役まで担っている。
製薬協のコメント:
治験情報の公開については、2018年に日本語で公開する旨を通知しているので、企業は前向きになっていると思う。現在は治験審査委員会(IRB)情報から施設名を特定できるので、施設名の公開を拒む企業があれば、正していきたい。
2) 市民公開講座での一般名の使用と広告3要件
【課題】市民公開講座で商品名も一般名も出せなければ、患者さんは最新の治療を知ることができない。
製薬協のコメント:
今の考え方では、当該薬剤を飲んでいない患者さんに対しては一般名も出せないというルールになる。ただ、時代は変わってきており、市民公開講座で治療薬の話ができないことは、われわれもおかしいと感じている。厚生労働省の堀尾氏が説明された『求めに応じた情報提供は広告3要件に該当しない』という点が重要となるが、今回のガイドラインによって、各企業は患者さんからの求めに応じて積極的に情報提供を行う必要があるという考え方に変わってきている。この考え方に則れば、ある程度問題は解決できるのではないかと期待している。
3) 製薬企業が作成している資材の活用
【課題】製薬企業がわかりやすい資材を作成しても、患者さんに直接提供できなければ、患者さんは有用な情報を得られない。
俵木氏のコメント:
「くすりのしおり」のウェブサイトをいろいろな情報につなげていきたいと考えている中で、企業が作成している患者さん向け指導箋や疾患情報等の資材の情報を掲載することも検討している。本件について厚生労働省の監視指導・麻薬対策課に相談したところ、どのような情報を掲載するのかを協議会において適切に判断する仕組みを構築するべきとのご指摘があったが、掲載自体は問題ないとの考えもお聞きしたので、企業の作成した資材を患者さんに直接提供することは適切な方法で行う限り問題ないと理解している。
アドバイザーのコメント:
COMLでは2003年から5年間、国立病院機構大阪医療センター内で患者情報室のモデル事業を手伝い、病院に出入りしているすべてのメーカーから無料で配布できる資材を400種類ほど入手し、患者さんに自由にもち帰っていただけるような環境を整えたところ、患者さんから大変人気があった。
製薬協のコメント:
全国の難病相談支援センターでも、企業が作成した冊子は大変人気が高い一方で、冊子を集めるのに苦労されているとも聞く。患者さんのヘルスリテラシーを高めるためにも、もっと患者さんに情報が届くような活動を行いたいと思う。
閉会の挨拶
最後に吉永委員長より閉会の挨拶がありました。
「今回は従来のアドバイザリーボードとは異なり、さまざまな立場の方々と議論することができました。現場の実際の状況や課題を活発に教えていただき感謝申し上げます。“情報提供についてわれわれはなにができるのか”“創薬に向けた協働”をキーワードとして、今後のわれわれの活動が明確になりました。平成も終わり、5月より新しい時代が始まります。本日の議論がみなさんの明るい未来につながるよう祈念いたします」と締めくくり、「第3回 患者団体アドバイザリーボード」は閉会しました。
患者団体連携推進委員会 吉田 満美子