「英国製薬工業協会(ABPI)との定期会合」を開催

製薬協国際委員会欧米部会では、欧米の政府・製薬団体と協調し、国際的課題の解決を図る活動の一環として、欧州の製薬団体との定期会合を毎年実施しています。2025年の英国製薬工業協会(ABPI)との定期会合は10月24日にオンラインで開催されました。ABPI、JPG(在英日系製薬団体)、日本製薬団体連合会(日薬連)と製薬協の複数委員会から多数参加し、活発な意見交換が行われました。以下、会合の概要を報告します。

会合の様子

はじめに

冒頭、ABPI Chief ExecutiveのRichard Torbett氏より、日英両国における市場の課題や薬価制度改革の進展を歓迎する旨と、両国がイノベーションの迅速な患者アクセスをリードしていくことへの期待が表明されました。続いて、製薬協国際委員会の赤名正臣副委員長は、世界情勢が急速かつ不確実に変化する中、日英両国が協力してグローバルなライフサイエンス分野のイノベーションを牽引していく重要性が高まっていると強調しました。また、国民保健サービス(NHS) 10年計画や英国政府の産業戦略についてABPIの見解を直接聞けることへの期待を述べました。

NHS 10-Year Plan(ABPI)

Amit Aggarwal, Executive Director Medical Affairs and Strategic Partnerships

Amit Aggarwal氏より、NHS10年計画の紹介がありました。2019年以降の大規模改革を背景に、新政権下で長期的な医療ビジョンが策定されたことが説明されました。 主な変革点は、「病院中心から地域・在宅医療へ」「アナログからデジタル化(NHSアプリの活用拡大など)へ」「治療中心から予防医療へ」という3つのシフトです。また、NHS Englandが中央集権から7つの地域NHS体制へ分権化され、統合ケアボード(ICB)が地域医療の強化を担う体制となりました。政府は医療データの活用に6億ポンドを投資し、臨床試験の立ち上げ期間を150日以内に短縮するなど効率化を図っています。新薬アクセスの地域格差是正を目指す「単一ナショナルフォーミュラリー」の導入も検討されていますが、これには患者の選択肢を制限するリスクもあると指摘されました。併せて、国立保健医療研究所(NICE)による薬剤評価と資金提供に関する90日ルールの現状と課題も共有されました。

質疑応答においてEUの欧州ヘルスデータ空間(EHDS)との連携について問われると、ABPIからは国際協力を支持しつつも、EU離脱後の運用課題や患者データの機密性への配慮が必要であると回答しました。

UK Industrial Strategy and presenting the ABPI’s UK Competitiveness Framework(ABPI)

Joe Edwards, UK Competitiveness Director

Joe Edwards氏より、英国ライフサイエンス産業戦略の概要と「UK Competitiveness Framework」について紹介がありました。同戦略では、2030年までに欧州第1位、2035年までに世界第3位のライフサイエンス経済を目指すという目標が掲げられており、その取り組みの3本柱である「世界水準のR&D」「投資・スケールアップの促進」「医療イノベーションの推進」について説明しました。

質疑応答では、ABPIが行ったデータ分析についての質問があり、Edwards氏はそのデータ分析の方法について紹介しました。また、「ドラッグ・ロス」や「ドラッグ・ラグ」、大手製薬企業の英国からの撤退に関して意見交換が行われ、英国政府もこれらの課題を認識しているものの、経済状況や財政的制約が大きな障壁となっている実情が語られました。

Update on the Japanese market from an Access / spend perspective: U.S. MFN(JPMA)

製薬協 国際委員会 佐藤慶子 国際部長

佐藤部長より、最恵国待遇(MFN)に関する日本の状況として、日々変化する動向を注視していることや、MFNが導入された場合に新薬の日本上市が遅れる、あるいは見送られるというドラッグ・ラグやドラッグ・ロスへの懸念が共有されました。日本の薬価制度においては、製薬協は日本政府に対して、イノベーション評価の強化、予見性の高いシンプルな薬価制度構築、知的財産保護、市場拡大再算定の見直しを要望していることが説明されました。米国政府に対しては、日本企業がすでに米国での研究開発や製造、雇用に多くの投資を行っており、新規投資も活発であることを踏まえ、MFNの導入が日本企業の対米投資に深刻な影響を及ぼすという懸念を示す声明を製薬協として出す準備が整っていることも報告されました。

質疑応答では、医療費における医薬品支出比率がイギリスよりも日本において高いことに関して、ABPIより質問がありました。さらに、英国で新薬の上市数が減少傾向にあるというABPIのコメントに対し、日本も同様の状況にあり、ドラッグ・ロスの数を減らすための検討をさらに進めていく方針が製薬協から伝えられました。

VPAG and UK response to U.S. MFN(ABPI)

David Watson, Executive Director, Patient Access

David Watson氏より、英国の医薬品市場が直面する厳しい環境について説明がありました。特に、医療予算に対する医薬品への支出割合が約9%にとどまっており(欧州平均は約15%)、産業界の不満が高まっていることが指摘されました。また任意スキーム(VPAG)については、産業界からの強い懸念を受け、英国政府がVPAGの見直しを早期に開始することで合意したという経緯が共有されました。さらに、米国のMFNで相対的に低いネットプライスが参照されることにより、将来的に英国での新薬アクセスに悪影響をもたらす懸念があることも述べられました。

質疑応答では、日本のMFN対応状況にも触れつつ、両国の業界団体が「市場の魅力」や「薬価」の観点で共通の課題を抱えていることが確認されました。ABPIは国内外の団体と緊密に連携しており、市場の魅力を高めるために英国政府へ他国の政策事例を提示していくアプローチにおいて、今後も製薬協との対話と協力を継続していきたいとの意向が示されました。

終わりに

製薬協の中川祥子常務理事より、本会議で多岐にわたる重要なアジェンダについて有意義な情報交換ができたことへの深い感謝が述べられました。また、日本の高市政権においてライフサイエンス・イノベーションへの投資に高い期待が寄せられていること、そして激動する国際市場環境の中で日本市場の魅力度向上に向けたアドボカシー活動を行うにあたり、本会議でABPIから得られた情報が極めて有益であったことが言及されました。最後に、今後も両団体の益々活発な交流と協力関係が続くことへの期待と謝意をもって会議は締めくくられました。

(国際委員会 欧米部会 欧州グループ 英国チームリーダー 角野 那起)

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