第81回 国連総会(UNGA)期間中に米国・ニューヨークで開催されたサイドイベント報告 How Do We Build Resilient & Sustainable Health Systems? Perspectives on Health-Finance Collaboration, Innovation and Future Preparedness
(強靭で持続可能な保健システムの構築に向けて:保健・財政連携、イノベーション、そして将来の備えの視点)

開催概要

日時
2026年9月24日(木)8:00~9:15
会場 The Harvard Club of New York City
主催 日本製薬工業協会(JPMA)
後援 国際連合日本政府代表部
支援 国際製薬団体連合会(IFPMA)

開催目的・概要

本イベントは、国連総会ハイレベルウィークの機会を捉え、医療イノベーションが人々の健康アウトカムの向上に寄与し、将来のパンデミック等の保健緊急事態への備え(PPPR)を強化できるよう、保健省と財務省の連携(Health-Finance Collaboration)や持続可能な投資をはじめとする強靭な保健システム構築に向けた実効的なアプローチを共有・議論し、各国間のピア・ラーニングを推進することを目的として開催されました。

司会:製薬協 常務理事 髙橋 剛 氏

開催内容

(1)Opening Remarks

日本製薬工業協会 副会長 眞鍋 淳 氏

眞鍋副会長は、参加者、登壇者、モデレーター、後援・支援団体(国際連合日本政府代表部、IFPMA)への謝意を述べた上で、本イベントのテーマである「強靭で持続可能な保健システム」が、より良い健康アウトカムを実現するための基盤であると述べました。保健システムは国ごとに事情が異なるため唯一絶対の解は存在しないものの、互いの経験や課題を共有し学ぶ「ピア・ラーニング」が不可欠であると指摘しました。

また、保健医療への支出は単なる費用ではなく「人間、地域社会、社会の持続可能な発展のための投資」であると捉え直し、保健と財政のセクター間連携および持続可能な保健財務基盤の確立が必要であると訴えました。さらに、医療イノベーションは単体で存在するだけでは十分な成果を生み出せず、それを安全かつ効果的・持続可能に活用できる保健システム基盤の整備と、政府・国際機関・民間企業等のマルチステークホルダーによる協働の重要性を表明しました。

(2)Setting the Scene:強靭かつ持続可能な保健システムの構築

独立行政法人国際協力機構(JICA) アメリカ合衆国事務所長 平良 靖 氏

平良氏は、「イノベーションは医療の可能性を広げるが、それが実際に公平で望ましい健康アウトカムにつながるかを決定づけるのは保健システムである」という核心的なメッセージを提示しました。

COVID-19パンデミックでは、COVID-19ワクチンの早期開発等イノベーションの大きな可能性を示した一方、イノベーションを人々に届けるには医療人材、検査体制、感染予防、供給網など、以前から認識されていた課題への対応が不十分であったことを明らかにしたと指摘し、 強靱な保健医療システムには、危機に備え、必須医療を維持しながら対応するとともに、経験から学び、状況に応じて適応する能力が必要であると強調しました。

また、JICAがベトナムで長年にわたり支援してきた検査ネットワークの整備、病院機能の強化、人材育成などが、COVID-19への対応にも生かされた事例を紹介しました。そのうえで、危機が起きてから対応するのではなく、平時から保健システムの能力を高め、次の危機に備えておくことの重要性を強調しました。

さらに、保健省と財務省の密接な連携の必要性を挙げ、東京に設立された「UHC Knowledge Hub」(日本政府、WHO、世界銀行の共催)を通じた保健財政分野でのピア・ラーニングの促進と、知見から実装への移行を呼びかけました。

強靭な保健システムのための資金調達

Dr. Monique Vledder氏、Director of Health, World Bank Group

Vledder氏は、政府開発援助(ODA)資金の縮小や資金の分断、脆弱性の高まりなど、保健医療を取り巻く環境が厳しさを増す一方、AIやデジタル技術、民間セクターの役割拡大など、新たな機会も生まれていると指摘しました。

世界銀行は「15億人に質の高い不可欠な保健サービスを提供する」という新目標を掲げ、以下の3本柱を紹介しました。

  1. プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の強化(110か国・300億ドル規模の融資)
  2. 国内財源を中心とした持続可能な保健財政の確立(昨年日本に設立した「UHC Knowledge Hub」を通じた保健・財務の連携支援等)
  3. ローカル・マニュファクチャリング(現地生産体制)とサプライチェーン強靭化(ASEANにおけるワクチン生産支援等)

さらに、タンザニアにおける「Safer Births Bundle of Care(SBBC)」の事例を紹介しました。SBBCでは、新生児蘇生機器の導入に加え、医療従事者への実践的な研修を組み合わせて実施しており、出生後24時間以内の新生児死亡が50%減少する傾向が示されました。その後、国家予算とIDA(国際開発協会)融資を活用し全国展開されており、民間の技術・イノベーションを政府の公的制度に組み込むことでスケールアップさせることができるとの示唆を示し、持続可能な資金調達と長期的なパートナーシップの必要性を語りました。

(4)インタラクティブ・ディスカッション:視点から行動へ

モデレーターのBetty Baisiwa Dowuona-Hammond氏の進行のもと、政府関係者、国際機関、民間企業、NGO、研究機関等からの参加者を交えたインタラクティブなディスカッションが行われました。

  • 保健医療システムの強靭性

    プライマリ・ヘルス・ケアへの資源配分を強化し、治療中心から予防・早期介入へ転換する必要性が示されました。また、保健医療システムは、将来の危機だけでなく、医療人材不足、非感染性疾患(NCDs)、感染症、薬剤耐性(AMR)などによって、すでに大きな負荷を受けているとの指摘がありました。
    ケニアの事例では、患者の声を踏まえ、自宅から遠隔医療を受けられる仕組みから地域医療施設で医療従事者とともに遠隔診療を受けられる仕組みに変更した結果、2万人以上が利用するようになったことが紹介されました。この事例から、イノベーションは技術起点ではなく、患者・地域住民の実際のニーズを起点に設計しなければならないとの認識が共有されました。

  • 強靭性を支える財政支援

    ガーナの公的医療保険制度や民間資金(インパクトファンド)の活用事例にみられるように、単にGDPの大きさや資金量だけでなく、政治的決断(Political Decision)と適切な資金還流の仕組み(優先順位付け・制度設計)および実施能力が重要であると指摘されました。さらに、政策目標を掲げるだけではなく、保険料、医療機関への償還、予防サービスへの支払い、データに基づく改善など、具体的な「実施方法」まで支援する必要があるとされました。
    また、保健医療支出を「コスト」ではなく「社会・経済の生産性を生み出す投資」として捉え、保健省と財務省を含む政府全体で取り組む必要性が強調されました。
    さらに、保健分野以外の技術が健康に寄与する例として、高温多湿地域の医療施設における省エネルギー型換気設備が紹介されました。感染症対策とエネルギーコストの両立には、医療分野を超えた企業・技術との連携が重要であることが示されました。

  • イノベーションの社会実装に必要な条件

    「グローバルヘルスの分野には航空業界以上のパイロット(実証事業)が存在する」との指摘を踏まえ、短期的な実証事業を繰り返すのではなく、政府を初期段階から巻き込み、成果の測定、財源確保、制度化・予算化までを見据えて設計することが重要であるとの意見が示されました。
    ナイジェリアのがん基金や、ブラジルにおける病理検査の品質基準の政策採用などが紹介されました。実証事業を持続的な施策へ移行するには、政府のコミットメント、地域関係者との共同設計、長期的な官民連携が必要であるとの認識が共有されました。

  • 国間におけるピア・ラーニングと今後の連携

    タンザニアの新生児モニタリングに関する知見をケニアが導入した事例や、インドが既存のデジタル決済・本人確認基盤を活用して、保健医療のデジタル基盤を構築した事例が紹介されました。
    成功事例の共有だけでなく、各国の実施担当者の試行錯誤や実務上の知見なども共有できる継続的な学習プラットフォームの必要性、コミュニティ(先住民や地方人口等)との事前対話の重要性が強調されました。

(5)Key Takeaways

Betty Baisiwa Dowuona-Hammond氏

モデレーターより議論の総括として、以下の4点が提示されました。

  1. 強靭性は危機発生時ではなく平時からの長期的な投資によって構築される
  2. 財源確保に加え、限られた資源を適切に配分・活用することが重要である
  3. イノベーションは実施・拡大・維持できる能力を備えた保健システムがあって初めて価値を発揮する
  4. 多様な国・セクター間でのピア・ラーニングと持続可能な連携が不可欠であること

(6)Closing Remarks

国連日本政府代表部 参事官 加藤 琢真 氏
※厚生労働省 大臣官房 国際保健福祉交渉官 江副 聡 氏の代読

製薬協および関係者への謝意が表されるとともに、「保健システムは日常の医療提供に加え、健康危機時に人命と必須サービスを守り、健康と社会・経済の安定の基盤である」ことが強調されました。医薬品、ワクチン、診断技術などの価値は、持続可能な財源、医療人材、政策、質の高い医療サービスを通じて、必要とする人々に届いて初めて実現するとし、医療イノベーションと保健システム強化は「車の両輪(Go hand in hand)」であり、どちらが欠けても持続的な健康アウトカムの向上は達成できないと指摘されました。

日本が主導するUHC推進や日本政府、WHO、世界銀行が設立した「UHC Knowledge Hub」を通じた保健・財政連携の支援に触れ、保健への投資を将来への投資と捉え、官民・多国間の連携を一層深めていく方針が示されました。

製薬協としてのまとめ・所感

本イベントを通じて、強靭かつ持続可能な保健システムが、医療イノベーションの恩恵を最大化し、将来の保健緊急事態へ備えるための不可欠な基盤であるという認識が参加者間で広く共有されました。 特に、保健・財政間のセクターを超えた連携や、各国の実情に応じた持続可能な投資、そして単なる一時的な試み(パイロット)にとどまらない長期的パートナーシップと国間での継続的なピア・ラーニングの重要性が改めて確認されました。

製薬協は今後も、革新的製薬産業を代表する団体として、官民連携や国際機関との対話を深め、グローバルヘルスの推進と持続可能な保健システムの共創に向けて積極的に貢献してまいります。

(国際委員会 Multilateral Advocacy Group)

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