「Rare Disease Day 2026 シンポジウム」を開催

2026 年 2 月 8 日に日本製薬工業協会(製薬協)と RDD Japan 事務局*1 、日本希少疾患コンソーシアム(RDCJ)は、野村コンファレンスプラザ日本橋(東京都中央区)で「製薬協 Rare Disease Day 2026 シンポジウム」を共催しました。以下に当日の講演およびフリーディスカッション、Q&A の様子を紹介します。

開催の背景

製薬協産業政策委員会は、難病・希少疾患とともに生きる方々やご家族が暮らしやすい社会を作るため、 2021 年 10 月に難病・希少疾患タスクフォースを立ち上げました。2024年11月に公表した “医療従事者の困りごとに関する調査” では、「早期診断体制の遅れ」や「治療選択肢(治療薬)の不足」など、臨床現場での課題が明らかとなりました。
治療薬の開発・提供は、患者さんの治療満足度向上に直結する重要な要素であり、医療従事者・行政・患者団体・製薬企業が連携して取り組むテーマです。
希少疾患の認知度向上と社会的理解の促進を図るとともに、治療薬をめぐる課題の共有と解決に向けた議論を深める場として、本シンポジウムを開催いたしました。

開会挨拶

製薬協 専務理事 吉田 易範 氏

近年、医療を取り巻く環境は大きく変化しています。社会全体の構造変化や医療ニーズの多様化が進む中で、医薬品産業には安定供給の確保と同時に革新的な治療の創出という2つの責任がこれまで以上に強く求められています。とりわけ難病・希少疾患の分野においてはいまだ治療選択肢が限られている疾患も多く、創薬や治験の意義は極めて大きいものと認識しています。製薬協ではこうした課題意識のもと、2021年に難病希少疾患タスクフォースを立ち上げ、調査や提言を実施・公開しています。Rare Disease Dayイベントの一環としての本シンポジウムでは研究開発の視点・医療現場の視点・患者さんの視点が交差することで希少疾患医療のこれからを考える上での示唆に富んだ時間になることを期待しています。

第1部 講演

「難病・希少疾患タスクフォースの取り組み」

 製薬協 産業政策委員会 難病・希少疾患タスクフォース リーダー 玉富 一朗 氏

私たちのタスクフォースは2021年に発足し、希少疾患領域における患者さんや医療従事者の「困りごと」を調査して課題を整理し、解決に向けた提言をまとめる活動を続けています。

昨年9月に開催された「くすりビジョナリー会議2025」では、患者団体や医療現場、行政など九つのセクターから11名が参加し、臨床試験情報の提供方法や医薬品研究開発への患者参画などをテーマに対話を行いました。会議終了後には「共同メッセージ2025」として、国民がより良い生活を送るために多様なステークホルダーが率直に対話し、課題解決に向けた創造的取り組みを継続する旨を発信しました。私たち製薬業界も一員として、この場づくりに参画し続けていきます。

2021年の発足以降、まずは患者さんの困りごとに関するアンケートを実施し、その結果を同年中に取りまとめました。昨年度には希少疾患に関係する医療従事者を対象に困りごと調査を行い、基礎・臨床研究や診断、治療開発の現場で感じられている課題を明らかにしました。今年2月には、その調査結果を踏まえて「医療従事者の困りごとを解消するための提言」を公表しております。

提言では、大きく五つの領域に分類し、取り組むべきアクションを示しました。
1. 疾患啓発・患者への情報提供:希少疾患の認知度向上に向けて、疾患啓発と広告の境界を明確化し、規制に抵触しない形で持続的に情報を発信する枠組みの整備を進めます。
2. 早期診断体制の強化:新生児マススクリーニングの拡充に向けて、治療法が確立している疾患を優先的に検査対象に追加する制度設計を支援するとともに、スクリーニング導入の必要性を訴えていきます。
3. 研究開発の加速:分散型治験やデジタル活用による患者参加機会の拡大、国際共同試験対応の体制構築、条件付き承認・優先審査制度の拡充などを官民で連携し、ドラッグラグ・ロスの解消に貢献します。
4. 専門人材育成:希少疾患領域の専門家や臨床開発責任者を体系的に育成する教育プログラムを整備し、キャリアパスを構築するとともに、地方格差の是正にも取り組みます。
5. 患者・家族支援:患者さんやご家族の視点を取り入れた情報提供体制の強化、社会理解の促進、経済的・精神的支援ネットワークの整備、本格的根治療法研究への資源投入を提言しています。
これらの提言は、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)やRDCJなどの専門家・患者団体と共同で検討し、製薬協サイト上でも公開しております。今後もタスクフォースとして、多様なステークホルダーとの対話を重ね、調査結果を具体的なアクションに結びつけてまいります。

第2部 講演

「医師の視点から考える希少疾患創薬 -筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップの実例 -」

 国立精神・神経医療研究センター (NCNP) 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 部長/RDCJ 代表 青木 吉嗣 氏  
 希少疾患創薬は患者数が非常に限られる一方、疾患種類が約7,000種と多岐にわたるため、一般疾患とは異なる制約が研究資源・治験実施・事業性の各方面に生じます。特に診断の遅れや確定診断までのハードル、ドラッグラグ・ロスによる治療薬の選択肢の不足が現場の大きなボトルネックとなっています。

我々はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)をモデルに、アンチセンスオリゴ核酸を用いたエクソン・スキップ療法の基礎研究から前臨床、臨床開発までを一貫して推進してきました。当センターでは、まずマウス・犬モデルでジストロフィン部分回復の有効性を確認し、患者登録サイト「Remudy」を立ち上げて対象患者をコホート化しました。その後、医薬品行政の先駆け審査指定制度や早期条件付き承認制度を活用し、2020年、DMD遺伝子のエクソン53を標的とする治療薬「ビルトラルセン」は、日本と米国承認されました。

第Ⅱ相臨床試験では、10名の被験者に40~80mg/週を24週間にわたり静脈内投与した結果、最高用量群で正常比4.8%のジストロフィン回復を確認し、安全性も良好でした。このように、わずかなタンパク質の回復でも運動機能改善が期待できることが、希少疾患創薬における重要なポイントです。現在は、エクソン44、50、51標的薬の臨床開発を進めており、さらにエクソン45~55を一度にスキップするマルチエクソン・スキップ薬の開発も視野に入れています。これらが実現すれば、DMD患者の30~50%が治療対象となり得ます。
しかし次の課題として、①対象患者の拡大に向けたエクソン・スキップのマルチ化、②骨格筋以外の組織にも十分に届くドラッグデリバリーの最適化、③標準化され、非侵襲で反復可能かつ予測性の高い評価系の整備——の三点が挙げられます。特に、患者さんから採取可能な尿由来幹細胞やiPS細胞を活用した個別薬効予測系は、希少疾患の臨床開発成功率を格段に高めると期待しています。
最後に強調したいのは、診断・登録・評価系・拠点整備を疾患横断的に構築し、基礎から臨床、さらには実装までの流れを一体化する「疾患横断プラットフォーム」の整備です。DMDで培った基盤を他疾患に展開し、希少疾患全体の創薬・実装を加速させることがRDCJの使命と考えています。

第3部 講演

「〜 希少疾患家族の切実な期待と新薬への希望 〜」

 日本アラジール症候群の会 代表 吉⽥ ⿇⾥ 氏  
アラジール症候群は肝臓内の胆管減少に加え、胆汁鬱滞や心血管系常、骨格系異常、眼科的異常・特異的顔貌など多彩な症状を呈し、とりわけ激しい痒みは生活の質を著しく損ないます。2007年に患者会を立ち上げた当初、患者である三男は3歳でしたが、当時は疾患情報が限られ、孤立感や将来への不安が大きかったことを今でも鮮明に覚えています。
当会では、①定期交流会による患者・ご家族間のつながりづくり、②医療従事者へは医学学会、一般の方へは商店街や動物園・百貨店やレストランでのブース展示、チャリティーグッズ(服、バッグ、クッキー、コーヒー等)の活用による社会周知、③医師や患者・家族から直接ヒアリングした「生の実態」や課題を、医学学会を通じて医療現場へフィードバックし、疾患への理解を深める啓発活動——を三本柱に活動してきました。特に2017年以降のアンケートでは、回答者の約4割が痒みで毎晩目覚めると回答しており、こうした主観的苦痛を可視化し、社会や開発に関わる方々へ「バトン」として届けることを大切にしています。

そしてついに新薬が発売されました。正直に言います。まだ発売から日が浅く、手元に具体的な改善データは揃っていません。服用を始めたばかりの家族がほとんどで、声を数値化するには至っていないのが現状です。しかし、大きな変化はすでに起きています。これまでは「どう耐えるか」と話していた私たちが、今「この薬で朝まで眠れるかもしれない」という未来の予定を語り始めています。データはこれからですが、「希望という名の治療」は、私たちの生活の中で動き始めています。
新薬のバトンを受け取った私たちは、効果を検証し皆様にフィードバックする準備をしています。それが開発に尽力された皆様への最大の恩返しだと思うからです。薬は「できて終わり」ではありません。正しい診断、専門医へのアクセス、安心して使い続けられる環境。これらを整えるため、私たちはこれからも「最高の開発パートナー」として共に歩み続けます。2026年が歴史的な転換点だったと振り返るために。この歩みを皆様と確かなものにしていきたいと願っております。今後とも一層のご連携をお願い申し上げます。

第4部 講演

「希少疾病における創薬環境整備状況について-行政の立場から」

 厚生労働省 医政局 研究開発政策課 治験推進室 室長 荒木 康弘 氏  
我が国では、2023年3月時点で欧米で承認されているにもかかわらず国内未承認の医薬品が143品存在し、そのうち86品は日本でそもそも開発されていない「ドラッグロス」品目でした。特に希少疾病用や小児用医薬品が多く、米中での治験増加により、早期に承認・上市をめざす企業は日本を開発拠点から外す動きも出ています。令和6年度には日本で届出られる治験のうち国際共同治験の割合は65%と向上していますが、件数・割合ともにさらに拡大する必要があります。
こうした課題を受け、岸田総理が2024年に創薬力向上構想会議で「官民を挙げて小児難病医薬品の開発を推進する」と宣言しました。現在は、「日本成長戦略」の中で創薬・先端医療を国の成長分野と位置づけ、ワーキンググループを設置して継続的に政策を検討しています。

厚生労働省では以下の具体策を展開中です。
1. ドラッグロス定期調査:欧米承認状況をモニタリングし、医療ニーズが高い品目が取り残されていないか探索します。
2. 臨床研究データベース(jRCT)のユーザーインターフェース改善:患者や医療者が治験情報にアクセスしやすい検索機能・表示方式に刷新します。
3. 海外で開発されている医薬品の国内導入の支援:海外のベンチャー企業が開発する医薬品が日本で開発されやすくなるようワンストップで相談できる窓口を作ります。
4. 小児医薬品開発ネットワーク構築:専門病院・治験拠点間の連携強化やを通じて、小児治験参加のハードルを下げます。
5. 臨床研究や治験推進: 希少疾病や小児領域の臨床研究や治験を支援します。
これらの施策により、日本を「国際水準の臨床試験が実施できる環境」として位置づけ、治験参加しやすい社会システムを構築します。最終的には、一日でも早く希少疾病用医薬品を患者さんに届けることが政府の責務です。私自身、引き続き官民連携を推進し、ドラッグラグ・ロスの解消と医薬品の迅速実装に取り組んでまいります。

フリーディスカッション・Q&A

「 希少疾患における治療薬の重要性を創薬・開発・治験アクセスから考える」をテーマとし、視聴者のみなさんからいただいた質問を含め登壇者でフリーディスカッションしました。

総合司会者:西村 由紀子(NPO法人ASrid理事長/臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会メンバー)

パネリスト:吉田易範・玉富一郎・青木吉嗣・吉田麻里・荒木康弘

1)ディスカッションの内容

・希少疾患における治療薬の重要性
・希少疾患における治療薬が”生まれる・届く”までの創薬・研究・治験アクセスに関する課題
・各ステークホルダー個々あるいは協働による解決の方向性

2) 視聴者から寄せられた質問

・患者が治験情報を 知るためにどのような新しい方法を検討されていますでしょうか。
・新技術である核酸医薬を用いて創製 されたご研究について、実際にどのような困難があり、またそれらをどのように克服されたのか、ご経験をお聞かせいただけますでしょうか。
・患者だけでなく、先生方、行政、製薬企業など多岐にわたる 方々が参画される研究会を発足されたとのことですが、研究会を発足するにあたり苦 労した点、スムーズに進めることができた出来たポイント、工夫があれば教えてくだ さい。
・希少疾患の患者さんのご家族として、どのように(どのような媒体を使って)情報収 集されてきたのでしょうか。ご経験をもとに、「こんなものがあればよかったのに」「今だったらこういうこともできたのに」といったことはありますか。

最後に、今回のシンポジウムが難病・希少疾患とともに生きる方々やご家族が暮らしやすい社会を作るための対話の場となり、さまざまな関係者の方々に取り組みの輪が広がることを願っています。

動画報告

動画報告はこちら

(産業政策委員会 難病・希少疾患タスクフォース)

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