「環境省モデル事業成果報告会」を開催し業界初のScope3ガイドラインを発表 ~バリューチェーン全体での脱炭素を加速させるために~

2026年3月2日に、東京日本橋ライフサイエンスビルにおいて、「環境省モデル事業成果報告会」を開催しました。本報告会は、2025年度に環境省の「バリューチェーン全体での脱炭素化支援モデル事業」に採択された製薬業界共通のScope3排出削減のガイドライン策定に向け、製薬協環境問題検討会(検討企業13社)による活動の集大成として開催されたものです。会場には、環境問題検討会のメンバーをはじめ、環境省、モデル事業事務局など多くの関係者が集い、「製薬業界におけるScope3算定とビジネスパートナーとの連携実践ガイドライン」の完成を受け、その策定背景や狙い、主な内容が共有されました。

医薬品業界における温室効果ガス(GHG)排出量の多くは、原材料調達や物流などのScope3(自社事業の活動に関連する他社の排出)に由来しています。しかし、サプライチェーンの複雑さや温度管理を要する物流といった業界特有の要因により、個社単独での対応には限界がありました。こうした背景も踏まえ、本報告会では第1部でガイドライン策定の背景と狙いを、第2部で具体的な算定方法とエンゲージメントの考え方を、そして第3部で今後の業界としての展望を共有し、ステークホルダーとの「Co-creation(共創)」の重要性を確認しました。

第1部.開催の趣旨と業界共通課題としてのScope3

報告会の冒頭、製薬協の吉田易範専務理事より開会挨拶があり、人々の健康を守る産業として、業界全体でScope3に主体的に向き合い、共通の考え方のもとで排出削減に取り組む意義が示されました。続いて、活動を支援いただいた環境省地球環境局地球温暖化対策課脱炭素ビジネス推進室長の小野裕永氏より来賓挨拶が行われ、本モデル事業の位置づけと、産業界によるバリューチェーン全体での脱炭素化への強い期待が述べられました。

その後、環境問題検討会の光武 裕副委員長(アストラゼネカ)より、ガイドライン作成の背景の説明がありました。

第2部.ガイドラインの柱:エンゲージメントと算定の枠組み

第2部では、執筆をリードした原 彰秀(日本新薬)、磯部 亜矢(第一三共)両リーダーによる概要説明の後、ガイドライン各章を担当した検討企業各社の執筆者が登壇し、実務上のポイントを説明しました。本ガイドラインの最大の特徴は、ビジネスパートナーとのエンゲージメントを重要な柱に据えている点です。

エンゲージメントの実践

製薬企業側が果たすべき役割として、説明機会の提供や段階的な期待水準の提示、算定や目標設定の支援、好事例の共有といった具体的なアプローチが整理されました。各社でフォーマットが統一されていない中、製薬協として標準化を進めることが、製薬企業とサプライヤー双方の工数削減につながる実利的なメリットであることが強調されました。

製薬業界特有の算定ルール

算定方法については、GHGプロトコル等に準拠しつつ、特に、排出量への寄与が大きいカテゴリ1(購入した製品・サービス)およびカテゴリ2(資本財)に加え、医薬品物流の特性を反映したカテゴリ4・9(輸送・配送)やカテゴリ10(販売した製品の加工)を重要カテゴリとして位置づけました。一次データの取得が困難な場合でも、実態を過小評価しないシナリオ設定を行うなど、実務での活用を意識した整理が行われています。

第3部.講評と今後の方向性:共創による真の解決へ

第3部では、環境省による講評が行われ、本ガイドラインが業界の自発的な取り組みとして非常に意義深く、他の産業でも有用であると高く評価されました。

最後に、環境問題検討会の有馬覚委員長(第一三共)より閉会の挨拶が行われました。有馬委員長は、本ガイドラインの完成はゴールではなく、ここから始まるビジネスパートナーや関係者との「Co-Creation(共創)」こそが解決の鍵であるとのメッセージを述べました。先行企業の知見を「業界の共有財産」として扱い、課題を抱えている企業の悩みもオープンにする透明性の高い活動を通じて、業界全体のボトムアップを図っていく決意を示しました。

最後に:検討企業より振り返り

Scope3は、製薬各社にとって約9割を占める主要な排出源です。一方で、サプライチェーンには複数のビジネスパートナーが関与しており、排出削減に向けては、すべての取引先が目標を設定して脱炭素に取り組むことに加え、一貫した基準で排出量を測定し、個別の製品・サービスに固有の排出を把握したうえで、最終的には推計値ではない一次データ(実測値)に基づく算定が求められます。これは極めて難易度の高い挑戦ですが、業界に即した基準が存在しないため、各社が手探りで進めているのが現状です。

環境問題検討会は、情報共有と専門家の知見を重ね、2024年12月に業界としてビジネスパートナーに向けた「脱炭素の取り組みへのお願い」を公表しました。これは、気候変動への対応をバリューチェーン全体で進める必要性を示す大きな一歩となりました。

その後、業界共通の基準づくりに取り組みましたが、論点が多岐にわたり、すぐには実現しませんでした。個社対応には限界があり、この課題は業界として取り組むことでこそ効果が最大化します。依頼する製薬企業と依頼を受けるビジネスパートナーの双方が迷いなく進められる業界共通の「ガイドライン」こそが、脱炭素を加速させる鍵であるという認識が一層強まりました。

こうした中、環境省「令和7年度バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」への採択が大きな転機となり、ガイドラインの策定が一気に進みました。2025年8月から約7か月間、検討企業13社が力を合わせ、月2回の全体会議と分科会を通じて、国内外の最新動向を踏まえた集中的な議論を重ねました。難易度の高い課題に対し、どこまで踏み込むかが議論の焦点となる一方、限られた時間でもできる限り深掘りした実践的なものを目指すという思いが参加者の間で共有され、総勢40名超のプロジェクトとなりました。ガイドライン策定にあたっては、まず「なぜ製薬業界が取り組むのか」というパーパス(存在意義)を再定義しました。「地球環境を守ることは、人々の健康と命を守る製薬産業のミッションそのものである」という視座を共有したことが、各社の主体性を引き出す重要な原動力になりました。また、モデル事業の開始にあたり、検討企業間で課題認識を共有した結果、「Scope3(特にカテゴリー1)が共通課題である」ことを可視化し、議論の焦点を絞ることに成功しました。加えて、有志の「スモールグループ」を設置して機動的に検討を進め、意思決定のスピードと質を両立させました。

また、2025年大阪・関西万博の関連イベント等を通じて、環境省、厚生労働省、一般社団法人日本医薬品卸売業連合会などと「気候変動と人々の健康」をテーマに対話を深め、「共創(Co-Creation)」の重要性を改めて確認しました。

本ガイドラインは、既存の指針にはない次の特徴を備えます。

  • エンゲージメントの詳述

    算定方法に加え、ビジネスパートナーとの具体的な協力体制(エンゲージメント)を独立した章として詳細に記載しています。

  • 業界ニーズに即したカテゴリ選定

    排出割合の大きいカテゴリ1・2に加え、製薬業界特有の商流・温度管理・物流構造等を踏まえ、算定が難しいとされるカテゴリ4・9(輸送・配送)およびカテゴリ10(販売した製品の加工)についても具体的に言及しています。

  • 実態に即した運用

    GHGプロトコルに準拠しつつ、事務上の算定・推計が難しい部分への具体的な対応策を提示しています。

  • 第三者保証・検証への配慮

    将来的な情報信頼性の確保を見据え、第三者保証・検証取得に向けた留意点・推奨事項を補記しています。

国、産業、企業レベルのいずれにおいても、目指すゴールはネットゼロです。ただし、各社の置かれた状況が異なる中で、各論をどのようにガイドラインとして取りまとめるかは大変なプロセスでした。モデル事業を通じた多くの専門的支援を得て本ガイドラインを取りまとめられたことは、一年前には想像し得なかった大きな前進であり、まさに「共創(Co-Creation)」の成果と言えます。共創の難しさとやりがいを実感する7ヶ月でした。

もっとも、本ガイドラインの策定がゴールではありません。今後は本ガイドラインを活用し、ビジネスパートナーと共に歩みを進め、温室効果ガス排出の着実な削減を一歩ずつ積み重ねていきます。結びとして、本ガイドラインが製薬業界のみならずヘルスケアセクター全体の脱炭素化を加速する一助となり、人々の生命と健康を守る持続可能な社会の実現に資することを願います。あわせて、本書は社会情勢、国際基準、実務運用の進展に応じて適宜見直し、内容の充実を図っていきます。引き続き、関係者各位の理解と協力、ならびに率直な意見をお願いします。

最後に支援いただいた環境省、モデル事業の事務局である合同会社デロイト トーマツ、株式会社エスプールブルードットグリーン、一般社団法人サステナブル経営推進機構に厚く御礼申し上げます。

検討企業(発表者):
アステラス製薬株式会社(清原)、アストラゼネカ株式会社(谷井、光武)、エーザイ株式会社(佐藤)、小野薬品工業株式会社(辻田、郡)、キッセイ薬品工業株式会社(西沢)、サノフィ株式会社(草刈)、参天製薬株式会社(吉田)、塩野義製薬株式会社(米原、上木)、第一三共株式会社(磯部、山田)、武田薬品工業株式会社(荒木(総合司会))、中外製薬株式会社(須田、渡井)、日本新薬株式会社(原)、Meiji Seika ファルマ株式会社(小林)
(企業名は五十音順・順不同)

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