「2025年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」を開催

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製薬協コード・コンプライアンス推進委員会は、2026年3月26日、「2025年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」をオンライン形式にて開催しました。本会には、会員会社から、コンプライアンス管理責任者、コンプライアンス実務担当者を含む244名/68社が出席し、下記のプログラムに沿って実施しました。以下、本会の概要を報告します。

「2025年度コンプライアンス管理責任者・実務担当者会」 プログラム

司会:製薬協コード・コンプライアンス推進委員会 若井 真人 実務委員長 
(1) 開会挨拶:製薬協コード・コンプライアンス推進委員会 大内 香 委員長
(2) 特別講演:「製薬企業が押さえるべき取適法の重要ポイント
    -法改正を踏まえた実務上の留意点 -」 
    池田・染谷法律事務所 弁護士    田中 孝樹 先生
(3) 謝辞:製薬協 石田 佳之 常務理事
(4) 特別講演:「改正公益通報者保護法の概要と実務上の留意点」
     森・濱田松本法律事務所 弁護士  金山 貴昭 先生
(5) 謝辞:製薬協 石田 佳之 常務理事

開会挨拶

製薬協コード・コンプライアンス推進委員会 大内 香 委員長

本会を開催するにあたり、製薬協コード・コンプライアンス推進委員会の大内香委員長より、製薬業界は政府の成長戦略において医薬品・バイオ分野の中核として位置づけられ、国民の生命と健康を支える極めて重い社会的責任を負っていること、その期待の高まりと裏腹に、一度の不適切な行為が業界全体への信頼を失わせかねない事態に向かわせる可能性があると述べられました。
今年はコンプライアンス活動に大きく影響する2つの重要な法令改正が重なったことから、第一線で活躍する弁護士2名による特別講演が企画され、事前に会員企業から寄せられた実務的な質問にも対応する構成となっている。
コンプライアンスは事業活動を妨げるものではなく、患者や社会の視点に立ち、信頼を築くための道しるべ・信頼という名のエンジンであると位置づけられており、経営層の明確な発信と現場主導の実践を通じた企業の醸成が重要であると述べられました。

特別講演

「製薬企業が押さえるべき取適法の重要ポイント -法改正を踏まえた実務上の留意点 -」 

池田・染谷法律事務所 弁護士    田中 孝樹 先生

本講演では、旧下請法を「中小受託取引適正化法(取適法)」として再整理し、近年の労務費・原材料費・エネルギーコストの急激な上昇を背景に、中小事業者を含むサプライチェーン全体での適切な価格転嫁と賃上げ原資の確保を目的とした法改正について解説いただいた。本改正は協議を伴わない一方的な価格決定など、従来から問題視されてきた商慣行を是正し、取引の公正性を高めることが狙いとのことであった。

1. 取適法の性格と基本構造

取適法は独占禁止法の「優越的地位の濫用」を補完する法律であり、適用対象や義務・禁止行為がより限定的かつ明確、当局がとりうる措置も限定的である点に特徴がある。委託事業者には、①発注内容の明示、②書類等の作成・保存、③支払期日の設定などの義務が課され、受領拒否、代金減額、買いたたき、一方的な代金決定などの禁止事項が定められている。違反が認定された場合には勧告および企業名の公表等が行われ、企業の社会的信用に大きな影響を及ぼす。

2. 適用基準の見直し(資本金基準・従業員基準)

改正により、適用基準が大きく見直され、新たに「従業員基準」が導入された。従業員基準は、資本金基準を満たさない場合に補完的に用いられる。背景には、資本金が小さい一方で事業規模は大きい企業や、下請法適用を回避するために受注者へ増資を求めるといった不適切な慣行の存在がある。
従業員基準は「常時使用する従業員数」を基準とし、賃金台帳の作成対象となる労働者数で判断される。製造委託に関しては、常時使用する従業員の数が300人以下の企業への委託が実務上の注意対象となる。判断時点は「委託時」であり、取引後に従業員数が変動しても当該取引への適用関係は維持される点が重要である。

3. 協議を行わない一方的な代金決定の禁止

本改正の中核の一つは、「協議を行わない代金額の一方的決定」の新たな禁止である。労務費や原材料費の上昇、納期短縮、発注数量変更、さらには委託事業者側からの値下げ要請など、代金に影響を与える事情が生じた場合に、中小受託事業者が価格協議を求めたにもかかわらず、協議に応じない、または十分な説明・情報提供を行わないまま一方的に代金の額を決定する行為は、中小受託事業者の利益を不当に害する場合には禁止される。
この規制は、単に結果としての価格水準を見る「買いたたき」規制とは異なり、交渉プロセスの適正性に着目している点が特徴である。値上げ要請に応じない場合であっても、合理的な根拠の提示が必要であり、単に自社の利益が悪化するという理由だけでは正当化されない。

4. 運送委託の規制対象拡大

今回の改正では、「特定運送委託」が新たに規制対象に追加された。従来は再委託としての運送のみが役務提供委託として規制の対象となっていたが、今後は製品販売や製造請負に付随する物品の運送について、全部または一部を他事業者に委託する場合も対象となる。完成品に限らず、原材料の有償支給に伴う運送、顧客や顧客指定先への運送、経路の一部委託なども含まれる。
一方、同一法人内の拠点間運送、無償サンプル品、無償支給物品の運送などは原則として対象外とされるが、販売目的で経路の一部に自社拠点を利用する場合など、実務上判断が難しいケースも多く、製造業では特に注意が必要である。

5. 支払方法・その他の重要改正点

手形払いが禁止された。電子記録債権やファクタリングであっても、期日までに代金相当額の現金化が困難な場合は認められない。また、振込手数料を中小受託事業者に負担させることは、書面合意があっても不可となった。
取引条件の明示は、相手方の承諾がなくてもメール、EDI、SNS等の電磁的方法で可能となり、実務の柔軟性が高まった。一方で、取引条件の明示義務に違反した場合には処罰対象となり得るため、適用対象取引かどうかの定期的な見直しが不可欠である。

6. 実務対応上の留意点

企業としては、新たに取適法の適用対象となる取引の洗い出し、従業員数・運送委託の確認、価格交渉プロセスの整備が必須となる。基本契約に従業員数報告義務を盛り込む、定期的に公表情報を確認するなどの対応が有効である。また、法務・コンプライアンス部門のみならず、調達・物流・SCM部門と連携し、コスト削減圧力が中小事業者への過度な負担とならないよう社内に浸透させることが重要である。

謝辞

製薬協 石田 佳之 常務理事

田中先生から取引適正化法改正の背景や趣旨、実務上の留意点について丁寧な説明がなされたことに謝辞を述べられ、本講義で多くの学びが得られたと述べられました。特に、従来当然のように使っていた言葉や発注時の感覚が、現在の制度や社会環境に照らすと適切でない場合があることを再認識する機会となり、デフレ期に形成された「コスト削減を最優先する発注姿勢」から脱却し、物価上昇時代においては中小受託事業者も適切な利益を確保し、従業員に賃金を支払える取引関係を築く視点が重要であると述べられました。コンプライアンス担当者には、ビジネス部門に対し新たなルールや考え方を正しく浸透させ、部門都合による不適切な取引行動を防ぐ役割が求められる。今後も講義内容を社内対応に反映し、適正な取引の実現に努めていく決意が示された。

特別講演

「改正公益通報者保護法の概要と実務上の留意点」 

森・濱田松本法律事務所 弁護士  金山 貴昭 先生

本講演は、改正公益通報者保護法の内容とその背景を理解したうえで、企業における内部通報制度の実務運用にどのような影響が生じるのかを整理し、今後の対応の方向性を提示することを目的として行われた。

1.法改正の背景と経緯

公益通報者保護法が2004年に制定され、2020年に大幅な改正(2022年施行)がされ、体制整備義務の導入や通報者範囲の拡大など大幅な改定が行われ、条文数も従来の10条程度から約22条へと倍増した。同改正では、施行後3年を目途に制度の実効性を検証し、必要な見直しを行うことが国会附則で義務付けられていた。今回の改正は、この「3年後見直し規定」を踏まえたものであり、2024年から消費者庁が中心となって検討・実態調査を進め、約1年弱の議論を経て実現した。

2.国際的潮流と改正の推進要因

改正を後押しした要因として、国際的な通報者保護強化の流れが大きく影響している。EUでは2019年に通報者保護指令が採択され、加盟国全体で国内法制化と制度強化が進められてきた。また、国連「ビジネスと人権作業部会」は、日本の通報者保護制度について「実効性が不十分」と指摘し、不利益取扱いへの抑止力や救済手段の弱さを問題視した。こうした国際的評価や国内外の比較を踏まえ、世界基準に照らした制度強化の必要性が共有され、改正の機運が高まった。

3.改正の4つの柱

改正の第一の柱は、事業者に対する内部通報体制整備の徹底と実効性の向上である。公益通報対応業務従事者の指定義務違反に対する行政権限が強化され、命令や立入検査、命令違反への刑事罰が新設された。また、内部通報制度の内容を従業員等へ周知する義務が法律上明記され、単なる形式的な制度整備ではなく、「実際に機能する体制」への転換が求められている。
第二の柱は、通報を阻害する要因への明確な対処である。通報をしないよう求める行為や、不利益を示唆して通報を思いとどまらせる行為は「通報妨害」として禁止され、これに反する合意は無効とされた。また、通報者を特定する目的で行われる探索行為も法律上明確に禁止され、企業内の不用意な聞き取りやアクセス確認が法令違反となり得る点が強調された。
第三の柱は、公益通報者の範囲の拡大である。従来は労働者、派遣労働者、役員が中心であったが、今回の改正によりフリーランス(業務終了後1年以内を含む)が新たに保護対象に加えられた。これにより、業務委託先からの通報も社内窓口で受け付ける必要が生じ、通報を理由とした契約終了や発注量削減などは不利益取扱いとして禁止される。現場での認識不足が法令違反につながるため、実務レベルでの周知が重要となる。
第四の柱は、不利益取扱いに対する抑止・救済の強化である。公益通報後1年以内に解雇または懲戒処分が行われた場合、それは公益通報を理由とするものと推定され、企業側が反証責任を負うこととなった。さらに、公益通報を理由とする解雇・懲戒には刑事罰が導入され、実質的な意思決定者個人だけでなく、法人にも最大3,000万円以下の罰金が科される可能性がある。これにより、人事処分の検討経緯を記録として残す重要性が一層高まっている。

4.通報の類型と保護要件の整理

通報制度上、通報は①事業部内に対する通報(1号)、②行政機関に対する通報(2号)、③メディアや労働組合等事業部外に対する通報(3号)に区分される。特に1号通報は保護要件が緩やかで、違反があると「思料」する程度でも保護されやすい。一方、2号・3号通報は外部通報であるため、真実相当性が必要となるなど、1号通報と比較して保護されるための要件が追加されている。特にメディアへの通報などの3号通報は、2号通報よりもさらに保護要件が厳しく規定されている。

5.実務運用上の主な課題

実務上の課題としては、「ハラスメント通報」と「濫用的通報」への対応が挙げられる。ハラスメント事案は刑法犯に該当する可能性があるため、公益通報に該当する前提で慎重な調査が求められる。また、現行法上「濫用的通報」という明確な概念は存在せず、安易に調査を拒否することは困難である。このため、例えば、繰り返し行われる通報の場合で、繰り返される通報に新たな事実が含まれておらず全く同一の事案についての通報であれば、調査を行わない正当な理由があり、追加調査を行わないといった運用判断が現実的とされている。

6.施行スケジュールと今後の対応

本改正は2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行される予定である。施行までの期間に、消費者庁による指針改定や解説の公表が進む見込みであり、事業者にはそれらを踏まえた体制整備と運用見直しが求められる。通報者保護は制度整備にとどまらず、組織全体での理解と実装が不可欠であり、コンプライアンス担当者だけでなく、マネジメント層や現場を含めた全社的対応が重要となる。

謝辞

製薬協 石田 佳之 常務理事

金山先生からの改正公益通報者保護法に関する講演への謝辞として、実務に直結する示唆が多かった点が強調された。通報制度はハラスメント対応などを起点に発展してきたが、実務上は「濫用的」と感じられる通報も少なくない現状がある一方で、その中に重大な問題が含まれる可能性も否定できないため、まずは丁寧に話を聞く姿勢が重要であると述べられた。また、コンプライアンス対応を専門部署だけに任せるのではなく、マネージャーはじめ全社的に共通理解と適切なマインドセットを浸透させる必要性が示された。単なるルール対応にとどまらず、現場で実際に理解・実践される仕組みとして組織全体に根付かせることが、今後の重要な課題であると締めくくられた。

(コード・コンプライアンス推進委員会 実務委員 石井 大輔)

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