「BioJapan 2024」開催・参加報告 開会式ならびに基調講演、バイオ医薬品委員会セミナーについて
「BioJapan 2024」が2024年10月9日(水)~11日(金)の3日間、パシフィコ横浜にて開催されました。例年同様に「再生医療JAPAN2024」および「healthTECH JAPAN 2024」も併催され、今年は過去最高の18,003人が来場したほか、展示会への出展社数も非常に多く、パートナリングにおいても過去最多の22,045件の面談が実施されました。2023年同様、海外からの来日参加者も多く、会場を活気付けました。製薬協も主催団体の一つとして参加したほか会員会社の皆さんからも多数の発表があり、多くの会社・団体がアライアンスブースを出展し、アカデミアやベンチャー等と面談するなど、活発な情報交換と交流が行われました。
開会式ならびに基調講演
主催者を代表してBioJapan組織委員会会長の吉田 稔氏による挨拶の後、経済産業省 商務・サービス審議官の南 亮氏、厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官の内山 博之氏、文部科学省大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)の松浦 重和氏、神奈川県知事 黒岩 祐治氏等による来賓祝辞がありました。
開会式の様子
その後、基調講演として「革新を生む挑戦:ウィルス療法の臨床開発と実用化」(東京大学医科学研究所 先端がん治療分野 / 東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科 教授 藤堂 具紀氏)、「日本の創薬力強化に向けて」(日本製薬工業協会 上野 裕明 会長)、「Laying the foundations for a cancer innovation ecosystem」(Executive Director, Research and Innovation, Cancer Research UK:CEO Cancer Research Horizons Dr. Iain Foulkes)の3つの講演がありました。
製薬協の上野会長の講演では、最初に製薬産業を取り巻く環境の変化として、アンメット・メディカル・ニーズの変化、創薬モダリティの多様化、市場のボーダーレス化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が挙げられ、これらの環境変化に伴う創薬手法の変化に対して、要素技術の組み合わせが重要であることおよび複数のプレーヤーが協働する創薬エコシステムの必要性が示されました。続いて世界の創薬エコシステムの現状として、米国ボストンや英国ロンドンの事例を挙げるとともに、日本の創薬・バイオクラスターやバイオコミュニティの現状を示し、日本は自国に適した形態の創薬エコシステムの構築が必要であること、それぞれの地域のバイオクラスターをもう一段上げて結集させる仕組みが必要であることを言及しました。加えて、日本の創薬力強化に向けて、地域間の連携の強化や各バリューチェーンでのサプライヤー間の連携強化が必要であることおよびこれらの連携により生まれた成果例、創薬エコシステムにおける連携強化に向けた重要な3つの視点(ヒト・モノ・カネ)を示しました。最後に、創薬力構想会議の設置や創薬エコシステムサミットの開催などの国の施策ならびに新政権への期待について言及するとともに、「イノベーションが躍動する国を目指して、創薬力強化に向けて一体となって動き出した今、皆さんとともに『創薬の地』の実現へ」との言葉で締めくくりました。
製薬協 上野 裕明 会長
バイオ医薬品委員会セミナー(主催者セミナー)
次世代バイオ医薬品の製造拠点整備 ~産学官におけるニューモダリティ橋渡し製造基盤の強化~
製薬協バイオ医薬品委員会では、バイオ医薬品の製造プロセスや製造基盤に関する話題について、過去数年間にわたりセミナーを開催してきています。2024年度は「次世代バイオ医薬品の製造拠点整備~産学官におけるニューモダリティ橋渡し製造基盤の強化~」をタイトルに10月10日に開催しました。神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授の内田 和久氏がコーディネーターとなり、海外からのリモート参加の演者も含め4名が登壇し、官公庁、アカデミア、企業のそれぞれの立場から幅広い議論が行われ、会場は満席となりました。
セミナーのイントロダクション
冒頭、内田氏より、本セッションのオーバービューが紹介され、次世代バイオ医薬品、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン等新たなモダリティが多様化するなか、産業界への橋渡しをスムーズに行うためには、対応可能な製造基盤の拡充だけでなく、そこで働く人材供給やCMC※技術に課題があることが示されました。また、広範な課題解決を個社努力で行うことはすでに困難であり、自前主義を捨てて多くのステークホルダーが皆で一定の方向性を目指して活動することで国内のバイオロジクスの開発競争力の強化が可能になるはずである。産官学の立場からこのままでは見通しが悪い今後の連携の方向性について考えたいと、本セッションの趣旨が説明されました。
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※CMC:Chemistry, Manufacturing and Control
医薬品製造および品質を支える統合的な概念
神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科
特命教授 内田 和久氏
各演者による講演内容
アカデミア発CRDMO製造拠点がもたらすグローバル創薬エコシステムへの貢献
広島大学大学院医系科学研究科(薬)教授・副学長(産学連携担当)の田原 栄俊氏は、「死の谷」を克服して乗り越えないと創薬できないため、経産省のデュアルユース事業に採択されている広島大学では、mRNA製造が可能になるPSI※バイオロジクスを2026年に竣工し2027年に霞キャンパスに創業予定であること、その準備段階として2年前にPSI GMP教育研究センターを立ち上げ、ドキュメントと組織体制の整備を進めていること、「ひろしま好きじゃけんコンソーシアム」を作り無料で誰でも参加して使えるエコシステムを目指していることを紹介しました。また、広島ベンチャーキャピタルの ファンドがスタートアップを支援する点に触れました。
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※PSI:Peace&Science Innovation
広島大学を主幹機関とした平和を希求する精神と共にイノベーションを創出するエコシステム
トランスレーショナルリサーチとバイオ人材育成
一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)代表理事の豊島 聰氏は、2012年の製薬協提言を契機に、2015年4月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が発足し、次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(MAB組合)の設立や医薬品製造受託機関(CMO)/医薬品開発製造受託機関(CDMO)の増加など、国内のインフラが整備されつつあることを示しました。海外で実績をあげていたBTEC (Biomanufacturing Training and Education Center)やアイルランドのNIBRT(National Institute for Bioprocessing Research and Training)のような人材育成機関が当時日本になかったことから、BCRETが2017年8月に設立され、2018年4月に稼働したことなどを説明しました。また、座学と実習を通じたCMC開発・製造人材育成の対象が企業だけでなく、当局・学生・アカデミアと広範である点に触れました。最後に、従来の神戸拠点に加え、2023年4月東京拠点を開設しており、遺伝子治療・細胞治療主体の人材育成の取り組みがスタートしたことを述べました。
再生・細胞治療・遺伝子治療の産業化に向けた製造基盤整備に関する経産省の取組
経済産業省商務・サービスグループ生物化学産業課課長補佐(再生・細胞治療・遺伝子治療担当)の幸寺 玲奈氏からは、製造しないと製品につながらず、細胞治療における労務費の割合は71%とかなり高く(低分子では5%)、そのうち製造費が34%、品質管理コストが22%も占めることの紹介がありました。製造は極めて重要であり、そのポイントとして(1)目を向けるタイミング、(2)データの取り扱い、(3)自動化を挙げました。とくに(1)では海外に比べ日本ではベンチャー・スタートアップの資金力が低い点を紹介し、そのためにお金がかかる製造プロセス設計が後回しになりがちになり、製造コストがかかったまま変更できずに上市せざるを得ないケースや上市にさえ至らないケースがあり、初期段階での支援が必要であることを強調しました。最後に「国内製造基盤を強化し、創薬の強化、細胞製造業の輸出産業化を目指し、日本の産業に裨益するR&D、製造に必要な手当てをしていきたい」と総括しました。
Establishing manufacturing base for next-generation biopharmaceuticals - An Industry Perspective
Prof. Uwe Buecheler, Senior Advisor Biopharmaceuticals, Boehringer Ingelheimは、90年代の組換え糖タンパクから抗体医薬へと存在感がシフトし、最近ではニューモダリティが多様化し、製法・設備に課題が出てきたことを示しました。マルチモダリティに適用可能な設備ができれば良いが、新しい技術も求められることから、実用化に向け製造効率を上げて原価を下げるためには、産学が連携し、技術を修練させる必要があります。最後に「患者さんのニーズに応え、新規モダリティを実装させるためには、学会、企業、非営利団体(NIBRT等)など関係ステークホルダーが連携し、新規トランスレーションに適応したライフサイエンス、材料、プラットフォーム、CDMOといった整備が必要」と述べました。
バイオ医薬品委員会セミナーの様子
まとめ
最後のパネルディスカッションでは、今後取り組む必要がある課題として、(1)トランスレーショナルリサーチ成功の重要要素、(2)協力体制に向けて必要なもの・打ち手について議論されました。(1)重要要素では、アカデミアと産業界の融合(特に人材育成と流動が鍵)や“D”ができるCDMOを国内に育てる必要性があるという意見のほか、アカデミアやベンチャーにはお金がないため、CDMOなどに委託できるよう資金面の手当てを講じる必要性が挙げられました。また、(2)打ち手について、エコシステムに関わる人材が複雑であり、関係ステークホルダーが人材面で協力しやすい環境整備とそれを仲介・調整できるコーディネーター役が必要、一蓮托生で協業するマインドセットと顔の見える関係性を築くべきといった意見があり、総じて目指す方向性(協業インフラ整備)はグローバルで共通であるとの認識でした。コーディネーターの内田氏は、ニューモダリティ橋渡し製造基盤の強化について、ありふれた議論ではなく「状況が刻々と変化しているなか、産学官一体的な本気の議論を通じた打ち手を講じていかないと手遅れになる」と総括しました。
展示ブース
2024年も展示会場内に製薬協ブースを設置し、製薬協、研究開発委員会およびバイオ医薬品委員会の活動紹介等を行いました。展示ブースはこれまで研究開発委員会にて計画・運営を進めてきましたが、今年からは研究開発委員会およびバイオ医薬品委員会の合同タスクフォースを設置し、準備を進めてきました。2024年はこれまで以上に製薬協、研究開発委員会およびバイオ医薬品委員会に関する資料や投影映像等の充実化やブース内レイアウトの有効化が図られ、また、期間を通して両委員会からブースに人員を配置し、説明や質疑応答等についてもきめ細かな対応ができるようにしました。結果として、ブースでの名刺交換数も倍増し、製薬協のアドボカシー活動として一定の効果が上げられたと考えています。
展示ブース(初日)
次回の「BioJapan 2025」は2025年10月8日(水)〜10日(金)、パシフィコ横浜にて開催される予定です。
(バイオ医薬品委員会 政策実務副委員長 金子 佳寛、薬事・バイオ医薬品部長 塚田 純子)