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「製薬産業における研究開発活動の国際化」


「製薬産業における研究開発活動の国際化」
日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所 主任研究員 八木崇 氏
解説講演(要旨)

 2008年5月28日(水)、東京・製薬協会議室にて、「製薬産業における研究開発活動の国際化」をテーマとして製薬協メディアフォーラムが開催されました。今回のフォーラムでは、医薬産業政策研究所がリサーチペーパーにて近々発表を予定しております「製薬産業におけるR&D活動の国際化」内のデータをもとにした分析結果について、医薬産業政策研究所・八木主任研究員から報告がありました(対象企業:日本、米国、欧州の主要製薬企業30社、対象特許:医薬品特許15,107件、調査期間:1996年から2005年)。


●特許情報を用いた自国および外国におけるR&D活動の実態の調査結果
<「企業」の視点でみた自国および外国におけるR&D活動>

 各国の企業が、どの国(自国および外国)でR&D活動を行っているかを調査した結果として1996年~2005年までの発明特許件数を自国と外国とで比較してみました。まず、もっとも特許数が多い米国の上位10社が出願した特許件数の変化をみると、自国発明の件数がまだ多いとはいえ、伸び率は外国発明の方が上回っていることがわかりました。また、欧州企業も自国発明を上回る伸び率で外国発明特許件数が増加しており、件数自体も自国を上回っています。一方、日本企業の場合は、外国発明の割合が欧米企業に比べて低いものの、外国発明特許は欧米企業と同様に増加傾向にあります。

 次に、各国の企業が出願した特許の発明人所在地を調べたところ、米国および日本の場合は自国でR&D活動を行っている割合が8割から9割と非常に高いのに対し、欧米のドイツおよびフランスの場合は5割から6割程度であることから、米国に比べると外国発明の割合が多いといえます。続いて、欧米のイギリスおよびスイスにおける上位10カ国を調べたところ、自国での発明が少なく米国での発明が多かったことから、R&D活動の中心が米国に移ってきていることがうかがえます。出願企業国籍別にみた特許件数と発明人所在地の内訳を見ると、日本は米国に次いで特許件数が多いのですが、外国発特許の割合が低く、自国を中心にR&D活動を行っていることがわかりました。

<「国」の視点でみた自国企業および外国企業によるR&D活動>

 発明人所在地上位30カ国を調べたところ、もっとも件数が多いのは米国、次いで日本、ドイツ、イギリス、フランスなど、自国に調査対象企業の本拠地を有する欧州主要国が続いていました。また、件数はきわめて少ないものの、インド、中国、シンガポールなどの新興国からも発明が生まれてきているのは注目すべきことです。次に、発明人の所在地別にみた特許件数の推移をみると、伸び率では近年日本が鈍化傾向にあることがわかりました。

 各国で出願された特許の出願企業上位10社について調べてみると、米国の場合は自国企業が多いのに対し、欧州の場合は自国の大手企業以外に米国企業の割合が高い国もありました。日本の場合は殆どが自国企業で占められており、外国企業のR&D活動があまり行われていないことがわかりました。また、発明人所在地別にみたところ、米国および欧州企業では外国企業の発明が30%から40%を占めているのに対し、日本は10%と低く、外国企業による日本でのR&D活動が活発に行われていないといえます。さらに、2007年以降に相次いだ外国企業による研究拠点撤退を考慮すると、この割合を維持するのも困難と考えられます。

 これらのデータから、「企業」および「国」の視点でみたR&D活動の国際化の現状は以下のようにまとめられます。

「企業」の視点でみた自国および外国におけるR&D活動

  • 各国の特許出願件数をみると、全体として自国以外で発明された特許の比率が高まっており、R&D活動の国際化の成果がみられる。
  • ただし、日本企業の場合は自国中心にR&D活動を行っているものと考えられる。

「国」の視点でみた自国企業および外国企業によるR&D活動

  • 特許件数は米国に次いで日本が多いが、米国および欧州主要国で発明された特許件数が年平均20%で増加しているのに対し、日本は近年伸びが鈍化している。
  • 出願企業の内訳をみても、米国および欧州では30%程度の特許を外国企業が現地で発明しているのに対して日本は10%と低く、外国企業による日本の創薬研究拠点撤退の動きを考慮すると、この割合を維持することも容易ではないと思われる。

●欧米製薬企業による研究拠点開設が相次ぐ中国の現状
 2002年以降、欧米企業の研究拠点が新興国、特に中国(上海地区)を中心に開設され始めています。中国の研究拠点としての位置づけをみると、当初は化合物ライブラリーの構築だったものが、2006年以降は特定の疾患にフォーカスしたものに変化してきているものと考えられます。

 海外R&D拠点立地に影響する要因に関する先行研究結果をみてみると、進出国別に比較した場合、知的財産権の保護が新興国においては阻害する要因として、先進国では誘因となる要因としてあげられています。新興国の誘因としては、コストの安さや市場の成長性などがあります。一方、進出企業のタイプ別に比較した先行研究では、製薬産業は研究志向型に分類されており、設立の要因としては、先端技術へのキャッチアップ、大学等との共同研究、優れた研究者の獲得、先端技術情報の収集があげられています。また、創薬の研究開発に求められる最適な立地条件として、研究開発都市(サイエンス・パーク)や大学を中心にした近隣地域および専門的な科学者、研究者が確保できる場所などがあげられています。これらの先行研究の結果をまとめると、R&D拠点立地に影響すると考えられる主な要因は、サイエンスレベルの強さと外部連携の容易さにあるものと考えられます。また、これら要因の具体的な指標として、それぞれR&D人材及び科学論文、産学官の連携が促進される環境及びバイオベンチャーがあげられます。

 では、実際に中国にR&D拠点を開設した欧米企業は、中国のどのようなところに魅力を感じたのでしょうか?これ以降では、R&D拠点立地に影響すると考えられる主な要因ごとに中国の現状をみていくことにしましょう。

 まず、中国の国家戦略におけるバイオ・製薬産業の位置付けを確認してみたいと思います。中国政府は2006年に今後15年間の中国の総合的な科学技術政策の根幹となる「国家中長期科学技術発展計画(2006-2020年)」を発表しています。本計画は、これまでの世界の工場としての位置付けから、独自のイノベーション創出を重視したものとなっており、バイオテクノロジーの強化と革新的医薬品の創出は重点課題の一つとして取り上げられています。また、国家中長期科学技術発展計画の最初の5カ年の具体的実施事項を示した11次5カ年計画では中国政府の今後の外資導入政策について「互恵的Win-Winの開放戦略の実施」をスローガンに、外資導入の質的な向上を図るとしています。すなわち、外資の導入を量から質へと根本的に転換し、先端技術の導入や高度な経営管理経験の移転等、中国の産業構造の高度化につながるような投資を選別して導入していく姿勢を打ち出しています。 また、2007年に改正された科学技術進歩法、この法律は2008年7月に施行されますが、バイオ産業の発展が推奨されており、税制上の優遇や、政府の科学技術予算の優先的な投入の対象となる産業の1つに挙げられています。このように、中国政府が国家戦略として産業構造の高度化に取り組む中で、バイオ・製薬産業はその中心的な担い手の一つとして位置づけられているものと考えられ、バイオ・製薬に関連性の高い科学技術政府予算は、他の分野を上回るスピードで増加しています。

 次に、先ほどお示ししたR&D拠点立地に影響すると考えられる要因について具体的にみていきましょう。中国のサイエンスレベルの高さを、まず大学院修了者数を指標としてみてみると、2002年から2005年の3年間で倍増しています。また、海外での人材に目をむけてみると、米国におけるライフサイエンス分野の外国人博士過程研究者の約3割が中国人研究者であり、これら人材が中国に帰国して活躍する割合も増加してきています。科学論文の数をみても、創薬と関連性の高い生物化学及び医学分野については、1995年では世界で20位以下だったのが、10年後の2005年には生物化学分野は7位へ、医学分野は11位へと大きく順位を上げています。また中国の強みとして外部連携の強さがあげられますが、2008年現在中国国内にある54の国家級ハイテク区の一つである張江ハイテクパーク内ライフサイエンスクラスター(バイオバレー)には、欧米企業のR&D拠点が相次いで開設されています。第Ⅰ期は製造がメインの企業が多かったのに対し、第Ⅱ期はR&D活動の拠点にしている企業も集まってきており、先ほどご紹介した欧米企業のR&D拠点もこの地域に開設されています。また、当バイオバレー内には中国国内のバイオテクノロジー企業が多数集積していること、上海を代表する上海交通大学や復旦大学、さらには中国科学院などの中国を代表する公的研究機関も集積していることなどから、産官学連携が促進される環境が整っているといえます。

 中国はR&Dの人材や科学論文数などからうかがえるサイエンスレベルの高さ、ならびにサイエンスパークなど産官学の連携が促進される環境やバイオベンチャーの数及び集積状況などから外部連携の容易さ(大学・公的研究機関、他企業との連携)も兼ね備えており、R&D活動の拠点として非常に魅力のある場所といえます。

 これらのデータより創薬研究拠点立地に影響する要因について、中国の場合は以下のようにまとめられます。

  • バイオ・製薬産業関連予算への重点的な配分
  • 理系人材が急増
  • 欧米などへの海外留学生および帰国留学生(海亀)の増加
  • サイエンスレベルの向上(科学論文数および被引用件数の増加)
  • バイオクラスターの整備(大学・公的研究機関および外資系企業の集結、バイオベンチャーの増加)により、産官学の連携が容易に促進される

●進むR&D活動の国際化と日本
 企業は魅力あるR&D資源を求めて、R&D活動を国際的に進めており、企業が国を選ぶ時代になってきました。また、R&D活動の場をめぐる競争は、先進国のみならず新興国へも拡大し、競争は激化しています。このような流れの中、欧米製薬企業による日本のR&D拠点閉鎖の動きは、憂慮すべき問題として認識されなければなりません。

 日本がとれる対策としては、まず創薬研究の場としての日本の魅力を向上させることだと思います。そのためには、国際共同研究の推進やベンチャー育成、国際的なクラスターの形成などが考えられます。また、企業によるR&D活動の国際化を推進し、国際的なネットワークを構築することなども必要と考えられます。日本においては、これまで以上に産官学が連携を深めるとともに、外国企業のR&Dの積極的誘致など、政府は思い切った政策をとる必要があるのではないでしょうか。


 以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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