From JPMA 感染症領域の創薬エコシステム構築に向けて

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2023年10月16~18日の3日間の日程で、「第10回 日経・FT感染症会議」が開催されました。17日には、産学官の有識者による製薬協の特別セッションとして、「感染症領域の創薬エコシステム構築に向けて」と題したディスカッションを行いました。この中で強調したのは、「平時からの備え」と「有事の瞬発力」を機能させるための、産学官それぞれの取り組みの重要性です。

この1年間、特に日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンや治療薬の開発においては、さまざまな取り組みが進んでおり、承認申請、承認取得の段階を経て実用化にも至っています。迅速な実用化はもちろん重要ですが、承認に至らなかったさまざまな開発品・モダリティの研究が進んだことで、今後の引き出しが増えたということにも極めて価値があります。今後このような知見をどのようにまとめ、育てていくか。これには国の指導力も重要だと考えています。

感染症領域の創薬エコシステムにおける各プレーヤーの位置付けやあり方は、ほかの疾患領域と基本的には変わりません。ただ、感染症を研究対象とするアカデミアやスタートアップが少ないという状況の中で、将来の感染症に備えるには「専門性の高いコミュニティを形成する」ということが重要だと感じます。さまざまな技術や情報をコミュニティ内に蓄積して、いざという時にいかに発揮できるか、そういう観点が必要です。

日本製薬工業協会 会長 上野 裕明 日本製薬工業協会
会長 上野 裕明

これからの感染症領域の創薬を考える際に、「科学的予見性」と「経済的予見性」は欠かせません。いつどこでなにがパンデミック化するのか(科学的予見性)。創薬の先にどのようなビジネスへとつながるのか(経済的予見性)。そして製薬企業としてどのような支援ができるのか。感染症領域のエコシステムについては、こういう点を踏まえて考えていかなければなりません。

感染症領域のエコシステムが機能するためには、ベンチャーキャピタルによる支援等、既存の伴走支援の仕組みの利活用が必要です。特に感染症というものは裾野が広く、単に創薬シーズだけではなく、モノづくりの観点も含めて、実用化できるかを見極める目利き力が重要になろうかと思います。また、最終的に実用化し世に届けるためには、製薬企業も提携したコミュニティの形成が重要になると思います。

科学的予見性、経済的予見性の壁を乗り越えるためには、国の支援としてプッシュ型およびプル型のインセンティブが必要であり、政府には司令塔機能の強化を検討いただきたいと思います。

アカデミアにおいては人材育成が重要です。ただし、アカデミアだけに任せるのではなく、産業界も、感染症を学んだ学生さんにキャリアプランを広く提示していかなければなりません。また、ベンチャーキャピタルにおいては、有望なシーズを見抜く目利き力とシーズを育て、実用化に持っていく開発推進力が必要です。そして、製薬企業は平時からの備えとして、実用化におけるサポートを常に意識すべきです。

企業による平時からの感染症創薬の強化、アカデミアによる人材育成とシーズ発掘、政府による平時からの有事を見据えた司令塔機能や、予見性を高めるためのプッシュ型インセンティブの拡充とプル型インセンティブの導入、こういった産学官それぞれの取り組みを結びつけ、感染症領域の創薬エコシステムを構築してまいります。

(「第10回 日経・FT感染症会議」講演内容より)

日本製薬工業協会(製薬協)
Japan Pharmaceutical Manufacturers Association (JPMA)

製薬協は、研究開発志向型の製薬会社が加盟する任意団体です。1968年に設立された製薬協は、「患者参加型医療の実現」をモットーとして、医療用医薬品を対象とした画期的な新薬の開発を通じて、世界の医療に貢献してきました。

製薬協では、製薬産業に共通する諸問題の解決や医薬品に対する理解を深めるための活動、国際的な連携等、多面的な事業を展開しています。また、特に政策策定と提言活動の強化、国際化への対応、広報体制の強化を通じて、製薬産業の健全な発展に取り組んでいます。

新薬の開発を通じて社会への貢献をめざす 日本製薬工業協会

 

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