製薬協について 製薬協について

政策研のページ

最新号目次へ 既刊号一覧2014年5月以降2014年3月以前 pdf
190号タイトル
政策研のページカテゴリ画像
前へ123次へ
医薬産業政策研究所設立20周年に寄せて
創薬イノベーションの水準と方向:需要とインセンティブの重要性
line03 line03 line03

医薬産業政策研究所 所長、東京経済大学 教授 長岡 貞男

医薬産業政策研究所(政策研)は創設以来、2019年で20周年となります。政策研は、製薬企業各社から派遣された専門家が、大学等との外部連携も進めながら、製薬産業の動向や課題について調査研究を進めるユニークな組織です。イノベーションを中心的テーマとしながら、政策や経営の基礎となるエビデンスベースの研究成果を発信してきています。また、人材交流と育成の場ともなっています。この間、関係者からいただいたご支援に感謝を申し上げるとともに、今後のご支援とご指導をお願い申し上げます。以下は、政策研の中心的な研究調査テーマの一つである創薬イノベーションについて、その水準と方向の駆動力としての、需要とインセンティブの重要性について、私見をまとめたものです。

医薬産業政策研究所 所長 東京経済大学 教授 長岡 貞男
医薬産業政策研究所 所長
東京経済大学 教授
長岡 貞男

創薬イノベーションにおける需要とインセンティブの重要性

経済学の基本的な原理は、需要側要因と供給側要因の両方で供給される財・サービスの水準が決まり、またそれを取引として実現するインセンティブを価格が与えるという考えです。需要側要因と供給側要因の両方が重要であることは、イノベーション一般、特に創薬イノベーションについてもあてはまります。イノベーションは技術革新と翻訳されており、しばしば、科学や創薬技術の進歩がもっぱら創薬を決めているように理解されることもありますが、これは真理の半分であり、科学や技術の自発的な進歩とは別に、需要側の要因が創薬へのインセンティブを通して、創薬イノベーションの水準と方向を決めるうえで、非常に重要な役割を果たしています。大きな差は、創薬の場合には需要は潜在的であり、それを市場に顕在化させるためには研究開発投資が必須である点です。
 創薬対象の疾患分野の変化が、創薬における需要の重要性を良く示唆しています。人が罹患する可能性がある病気の類型自体は歴史的にほぼ不変であったと考えられますが、創薬イノベーションの内容は大きく変化し、各時代に死亡原因として大きな疾患でより集中的に生じています。感染で多くの患者が死亡する時代では、感染症の克服が創薬の中心的な課題でした。感染症による死亡率が大きく低下し、心筋梗塞、脳梗塞等による死亡の割合が相対的により大きくなった時代では、高血圧や高脂血症の克服が創薬の中心的な課題でした。そして現在では腫瘍、認知症等が大きな創薬課題となっています。
 科学の自発的な進歩等、イノベーションの供給面の変化をコントロールしたうえでも、市場の大きさが創薬イノベーションの方向に与える影響が大きいことは、米国のマサチューセッツ工科大学のAcemoglu教授等の研究によって実証されています(2004年)[1]。彼らは米国における人口構成の変化を操作変数として用いて、ベビーブーマーの世代が30歳を超える年代になると、国全体として未成年が主に罹患する分野の創薬は相対的に減少し、中年が罹患する疾患分野の創薬が有意に拡大したことを示しています。彼らの推計によると、ある疾患市場の1%の需要規模の拡大が、4~6%の創薬の拡大をもたらします。ただ、創薬に時間を要することを反映して、市場拡大から創薬の実現に10~20年の時間を要します。

mark [1]
Acemoglu Daron and Joshua Linn,“Market Size in Innovation: Theory and Evidence from the Pharmaceutical Industry” The Quarterly Journal of Economics, Vol. 119, No. 3, pp.1049-1090(2004)


前へ123次へ
最新号目次へ 既刊号一覧2014年5月以降2014年3月以前

このページのトップへ