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「第3回 コード・コンプライアンス管理責任者/実務担当者会」を開催
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個別化医療へ向かうなかでの創薬(臨床試験)を研究倫理(人格尊重、与益)の視点から眺めると…

研究倫理の立場から個別化医療に向かう創薬の流れを見た場合、被験者にとっての個別化医療のベネフィットは患者(被験者)の望む治療法の開発が進むことです。従来型の創薬には、倫理的非対称という、リスクを負う人と利益を享受する人の乖離という倫理的な課題がありましたが、個別化医療が進むと、こうした倫理的な非対称の課題は解消されていくでしょう。なぜなら、個別化医療での臨床研究では、利益を得るのも被験者本人ですし、負担を負うのも被験者本人になるからです。従来型の創薬では、社会が個を搾取するのをいかに最小限に、許容できる範囲に収めていくかが課題でしたが、個別化医療が進んでいくとこうした倫理的な非対称性は徐々に解消されていきます。また一般にリスクを負う被験者の数が全体として減っていくことも良いことと言えます。
 しかし一方で被験者が、まだ開発途上である臨床試験を「治療」と誤解してしまうという問題が生じます。この誤解は個別化医療が進むと深刻化していくことになります。その1つの表れが倫理的な緊張感の喪失であり、日本の20~30年前の創薬時代の医療者が陥っていた、倫理的緊張感の希薄さに戻っていくことが危惧されます。

個別化医療へ向かうなかでの創薬(臨床試験)を研究倫理(正義)の視点から眺めると…

次に、研究倫理の正義の原則から個別化医療を見ていきます。正義の視点では、1点目として、被験者の負担および利益はフェアに配分されなければなりません。さらに、負担が大きい者よりも負担が小さい者から先に被験者にならなければなりません。より大きな負担を負う被験者にはより大きな利益を与え、より弱い立場にある者には上乗せの保護を与えなければなりません。2点目は、被験者の選出は公正でなければなりません。たとえば、手近である、拒否し難い人といった安易な理由での被験者の選出、逆に安易な理由で除外してはならず、選出はフェアに行わなければなりません。また、潜在的な直接利益(治療的利益)を伴う研究を、特定のお気に入りの集団や、より恵まれた集団に対してのみ提供してはなりません。これらが正義の求めることです。個別化医療において、マジョリティーから外されてきたマイノリティーに治療選択肢が与えられ得るということは評価されるべきことです。今までの創薬において恵まれてこなかった弱者(オーファン)の集団に光があたること、そこに研究資金が投下されること、将来的な治療選択肢がそうした集団の一部に提供され得ること自体は良いことです。
 一方で、オーファン集団の解消を目指して臨床試験において個別化を進めていくと、そのことによって、より細分化された新たなオーファン集団を逆に増加させていくという矛盾もきたします。もともとオーファン集団の解消を目指していたのですが、そのなかにより恵まれないオーファンが無数に広がっていく状況が生まれてしまうわけです。いろいろな薬の選択肢があるわれわれマジョリティーからすると、確かにこれまで非常に恵まれてこなかった人たちにフォーカスがあたることにはなります。しかし、この同じ弱者と言われる集団の中にも、強い弱者、ある意味で恵まれた弱者と、さらに弱い弱者、より恵まれない弱者が生まれて、さらにそれが差別化され、構造化されていくという構造を個別化医療の創薬はもっています。
 個別化医療に対応した臨床試験は、全体の試験コストを抑えられますが、被験者1人あたりの単価は増大しますし、得られるマーケットが限定され、薬剤単価は高騰します。また、お金を払える一部の富裕な患者さんや、たとえばゲノム医療であれば非常に副作用が少なくて有効性が高い新薬の恩恵を受けられる、ある意味で幸運な遺伝的背景をもっているとも言える一部の患者さんに対しては医薬品が創られる可能性はありますが、そうでない患者さんたちには創られる可能性はさらにないということになって、不公正な構造が生じていきます。こうしたことが個別化医療の創薬の問題として挙げられます。

Public goodの希薄化の構図

もともと創薬というのはわれわれの社会全体の利益を上げていくことで、公益に資するものと受け止められてきました。つまり、創薬はPublic good的な性格があったのですが、個別化医療の創薬が進んでいくと、一部の裕福な人たちやラッキーな人たちに医薬品が創られていきます。こうした一部の人のみが恩恵を享受する構造になった場合に、その状態をPublic goodと言って良いのかといった疑念が社会に生じてくるかもしれません。そうすると創薬がもともともっていたPublic good的な性格が後退していく危険性があります。今までマジョリティーに共通する疾患治療のための創薬をしていたため、利益を受ける人も多かったので社会全体としての利益も大であり社会の支持も大でした。しかし、個別化医療になると、集団の中のごく一部、かなりラッキーな人とか、マイノリティーの中のマイノリティーの人たちが対象になって創薬されます。そうなると、確かにその人たち一人ひとりにとっての利益は今までになく非常に大きなものになりますが、パブリック、マジョリティー全体にとってはそうではなくなります。創薬全体での得られる利益自体も小さくなっていくなかで、パブリックの支持がどうなっていくのか、これからの創薬の課題といえます(図3)。

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