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日本臨床薬理学会海外研修を終了して
—カナダと日本の仕事の両立は大変でした—
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臨床薬理学部門で行った研究

私は2〜3年間トロントで仕事をする予定で日本を飛び出しました。海外留学者の多くは基礎実験に従事しますが、私は最初から臨床研究一本で勝負する心づもりでした。せんえつながら留学前に私が中心的な立場で遂行した研究は複数ありましたが、既存のエビデンスをまとめる系統的レビューとメタ解析は実施する機会がありませんでした。そのため、トロントでは系統的レビューの方法論を学び、実践できるようになることを1つの目標としました。Motheriskで取り組んでいる数多くの系統的レビューの中で、私が伊藤先生から与えられたテーマの1つがバルプロ酸の催奇形性についてでした。
 バルプロ酸は抗けいれん作用と気分安定作用があり、主にてんかん、双極性障害、片頭痛の治療薬として幅広く使用されています。一方、妊娠中のバルプロ酸内服と児の二分脊椎発症との関連は複数の研究によって明確に示されており、妊婦への投与は極力避けるよう各国の添付文書に明示されています。しかし、2012年時点でのFDAのBox warningには先天奇形(特に二分脊椎)のリスクが高まることは記されているものの、ほかの先天奇形(心疾患、泌尿生殖器奇形、口唇口蓋裂など)についてはわからないと記されていました。
 過去に報告された論文を1つひとつ読み込むと、統計学的有意差を示している研究は少ないものの、バルプロ酸はほかの抗てんかん薬に比べて心疾患や尿道下裂の発症リスクが多くの論文で一定の傾向をもって上昇しているように読み取れました。二分脊椎以外の奇形リスクもバルプロ酸は増加させるのではないか、もし有意なリスク上昇があるとしたらいつからそのシグナルが既存データから検出できたのだろうか、その方法がわかればより適切に安全性に関するフラグを立てることができるのではないだろうか、というのがこの研究をはじめた理由です。時系列での統合リスクの推移を可視化するため、累積メタアナリシスという手法を用いました。ランダム化比較試験では一般に行われている手法ですが、妊婦に対する催奇形性というランダム化比較試験が実施不可能な研究ではかつて一度も行われたことがない手法でしたので、やりがいがあるというよりやって良いのかわからない、まさに手探り状態で研究をはじめました。
 対象患者は妊娠中に単剤の抗てんかん薬を服用した妊婦で、バルプロ酸単剤で治療された患者とバルプロ酸以外の抗てんかん薬(単剤)で治療された群の奇形発生頻度を比較しました。SickKids librarianサポートのもとSystematic searchを行い、1300本を超える論文をスクリーニングし、最終的に約60編のコホート研究をEligible paperとして抽出しました。論文から結果をExtractし、技術的な問題を解決し、統合して得られた結果は驚くべきものでした。調査した5種類すべてでバルプロ酸の奇形リスクが統計学的有意差をもってほかの抗てんかん薬に比べ上昇していたのです(統合リスク比2〜7)。
 しかも2000年代前半にはすでにそのリスク上昇は統計学的な有意差が存在していました。2010年前後に数千例規模のRegistry研究が複数公表されますが、実はRegistry研究が公表される前にエビデンスは確立されていたことになります。仮定の話ですが、2000年代半ばにバルプロ酸と臓器特異的奇形それぞれの関連を検証する系統的レビューが行われていれば、より強いメッセージをより早期に社会に向けて発信できたかもしれません。
 この研究結果は「アメリカ臨床薬理学会誌」に掲載されました。そして現在伊藤先生とともに北アメリカ・ヨーロッパ・日本の研究者が合同して妊婦に対する薬物投与と胎児の奇形との関連を検証した既存データの系統的な整備を行うための多施設共同研究体制整備と、新たなエビデンスや最適な安全性情報の提示法の開発を目指して活動を続けています。
 そのほかにも、ある薬剤の胎内暴露が出生後の精神発達に与える影響を評価する系統的レビュー・メタ解析、ある薬剤の投与量を遺伝薬理学的に判定することが有用か否かを評価する系統的レビュー・メタ解析を実施しました。後者はその解析結果を踏まえた、日本で検証的な前方視的多施設共同観察型研究を開始しました。このようにトロントで行った仕事が、日本に戻って別の形で継続できることに大きな喜びを感じています。

日本のプロジェクト

トロント留学中に私がかかわっていた日本のプロジェクトは、主に2種類の分野がありました。社会的な分野と学問的な分野です。社会的な分野におけるプロジェクトの1つが公知申請によるプレドニゾロンの保険適用取得でした。私が研究事務局代表として実施した重症川崎病患者に対する免疫グロブリン・プレドニゾロン療法の有用性を検証した「RAISE Study」は厚生労働科学研究費の支援のもとに実施され、結果は2012年に「The Lancet」誌上にて公表されました。「RAISE Study」結果は高いエビデンスレベルとの評価を得て、複数のガイドラインで推奨されました。そのため公知申請のFrameworkを利用して保険適用を取得することが可能な状況でした。
 プレドニゾロンは安価なため、製薬会社には多額の費用をかけて保険適用を取得するメリットはほぼありませんが、塩野義製薬の協力を得ることができ、1年ほどPMDAとの折衝を重ね川崎病に対する承認を取得することができました。現在では「RAISE Study」方式の治療が全国に広まりつつあり、Real worldでの再現性の検証がなされています。われわれが提唱した治療戦略が正しいか、判断できる日が近々やってくると緊張する日々です。

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