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アメリカのPrecision Medicine Initiative
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このような医療に近づいていくためには、疾患とオミックスやそのネットワーク情報(網羅的生命分子情報[8])などの関係を解明するための「Data Science」の進展が必要です。また医療現場で患者さんの医療情報や分子情報の統合、活用を行えるインフラ整備も必要ですし、さらに「医療」と「研究」を同時並行して進行できる医療現場の環境が必要となってくると考えられます。つまり、一般の医療で得られた詳細情報が診療で使われるとともに、次のエビデンスを創る研究データとなるという情報活用の環境整備が必要になってくるのです。併せて医療や研究を支えるイノベーティブな技術や製品を供給する製薬や医療機器やITといった多くの健康医療関連産業のビジネス、サービスが革新的に進展することも必要となります。
 今年1月のオバマ大統領の発言に際して、すでにアメリカは準備を進めてきていることがよくわかります。前に記載したNIHの取り組みも先見的ですし、2009年に公布されたThe Health Information Technology for Economic and Clinical Health(HITECH)法などの取り組みにより、電子カルテなど医療ITの普及がすでに進展してきています。
 もちろん、アメリカにおいてもPrecision Medicineがすぐに一般の医療現場で実践される環境ではないでしょうが、いくつかの先進医療を実践している医療機関から、このようなシステム分子医学などに基づくPrecision Medicineを目標とした医学・医療の革新が進められていくことは間違いないでしょう。
 これは医薬品産業の立場からは、バイオ技術が創薬スタンスに与えた以上の影響をもたらす可能性が見えてきます。今後の創薬戦略や先制医療への対応を考える際に、Precision Medicineの普及予測を踏まえることが必要となってくると考えられます。

mark [8]
遺伝情報の総体である「ゲノム」という概念を、トランススクリプトームやプロテオームなどのいわゆる「-ome」情報全体にも広げた概念で、これらのすべての情報に対して『網羅的生命分子情報』という表現がされている。ちなみにオミックス(omics)は『網羅的生命分子情報を系統的に扱う生命科学』が本来の意味であるが、近年は網羅的生命分子そのものを表現していることが多い。

日本での取り組みへの期待

日本においても「ゲノム医療実現推進協議会」や「次世代医療ICT基盤協議会」での議論が始まっています。また日本医療研究開発機構が設立され、医療健康にかかわる研究開発の推進体制が強化されていることはご存じのとおりです。
 「ゲノム医療実現推進協議会」において、ゲノム解析は基礎科学の段階を経て、「医療においても、遺伝子情報を利用した実利用に向けた段階に突入しつつある」という現状認識が述べられています。また、サイエンスに対する研究の進展は世界の先進国と遜色ないものの、ゲノム医療への実利用に向けた取り組みは実用化フェーズの研究、研究環境整備の両面で出遅れているという認識が述べられています。近年の研究開発は希少疾病等の遺伝子関与が大きい疾患に焦点を絞った疾患志向的研究に移行しているという認識の基に、医療現場の実利用については(遺伝子情報を含めたEHRの整備などの課題に対応しつつ)、まず希少疾病・難病、がん、感染症、未診断疾患等をターゲットとしたゲノム医療の実現を目指すと述べられています。
 この日本でのゲノム医療実現に向けた現状認識と目標をアメリカのPrecision Medicine Initiativeと比較したとき、総論としての方向性は類似しているものの、医療と研究を一体で進めていくというスタンスには若干違いを感じます。
 アメリカでは遺伝子関与が大きいがん領域のゲノムドライバ(genomic drivers)[9]特定への取り組みは拡大しつつも、むしろ多くの多因子疾患に対して患者のサブグループを探索するなかで疾患と生体分子などの関与因子との関係を明確にしていくという目標を掲げています。そしてゲノムなど生体分子情報を活用した医療を一般の医療現場へ広げていくための方策や、そこで得られるいわゆる医療ビッグデータの研究活用という点での施策も、eMERGEプロジェクトやBD2K initiativeを通じて、同時に進める体制を構築しつつある状況です。

mark [9]
がん発症や進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子。ファクトシートでは”Cancer knowledge network”を設立してこの領域の新しい科学的発見や治療判断を共有し、医療活用を高めることが目標とされている。

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