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臨床薬理学会海外研修を終えて
~ドイツで “お茶” に関する研究~
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お茶と薬物の相互作用に関する研究について

緑茶は現在、日本など東アジア地域に限らず世界的に関心を集めているといっても過言ではないと思います。その理由として、緑茶に豊富に含まれるカテキンと呼ばれるフラボノイド類が健康や疾病予防に有益な効果を有することが報告されていることも関連しているのではないかと考えます。
 ドイツもその例外ではなく、お茶屋さんに行けば大抵は紅茶と並んで緑茶も販売されています。私はこれまで緑茶と薬物の相互作用について研究を行ってきました。その過程で高血圧や狭心症の治療に長年用いられているβ遮断薬のナドロールという薬物を緑茶抽出物または主なカテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)と併用した場合、水と服用した場合と比べてナドロールの血中濃度が大きく低下することを動物実験において見出しました[4]
 では実際にヒトではどうか、ということを調べるために健常者を対象に臨床試験を実施しました。試験の詳細はここでは省きますが、やはりヒトにおいても緑茶を服用した場合においてナドロールの血中濃度は著しく低下することが観察されました[5]
 ナドロールは水溶性が高いため、小腸から吸収された後、生体内では代謝を受けずに尿中へと排泄されます。このことは、薬物相互作用の主要な原因の1つである薬物代謝酵素の阻害または誘導以外のメカニズムが関与していることを示唆します。薬物相互作用が生じるもう1つの要因として、近年広く知られるようになったのが薬物トランスポーターを介したものです。「緑茶とナドロール相互作用に薬物トランスポーターは介しているか?」。私はエアランゲン大学臨床薬理学講座ではさまざまなフラボノイドについて薬物トランスポーターの阻害作用を調べていることを論文で知っていたため、以上のことについてFromm氏に相談したことが今回の留学のきっかけとなりました。

mark [4]
Misaka, S., Miyazaki, N., Fukushima, T., Yamada, S., and Kimura, J.: Effects of green tea extract and (–)-epigallocatechin-3-gallate on pharmacokinetics of nadolol in rats. Phytomedicine, 20: 1247-1250 (2013).
mark [5]
Misaka, S., Yatabe, J., Müller, F., Takano, K., Kawabe, K., Glaeser, H., Yatabe, M. S., Onoue, S., Werba, J. P., Watanabe, H., Yamada, S., Fromm, M. F., and Kimura, J.: Green tea ingestion greatly reduces plasma concentrations of nadolol in healthy subjects. Clin Pharmacol Ther, 95: 432-438 (2014).

エアランゲン大学臨床薬理学講座では薬物動態に関与するものを中心に、薬物トランスポーターを発現させた細胞系とそれらを用いた薬物輸送実験系の構築を精力的に行っていました。今後研究に供されるかはわかりませんが、可能な限り多くのトランスポーターについて発現細胞を作成しデータベース化していつでも使えるようにしよう、という試みに私はどこかドイツ的なものを感じました。
 私は手はじめに小腸に発現し薬物の吸収を担っている有機アニオン輸送ペプチド(OATP)に着目して、ナドロールがその基質となるかどうかを調べました。はじめにこれまでに報告がある小腸OATPサブタイプの中で、現在その発現が確認されているOATP2B1について、ナドロールを取り込むかを調べたところ、残念ながらナドロールはまったく細胞内へと蓄積されませんでした。もう1つのサブタイプであるOATP1A2は現在エアランゲン大学に所属しているHartmut Glaeser博士らが小腸での発現を報告しましたが、結果が追認されずむしろ発現が認められないとした報告のほうが多くなっています。
 ところが、OATP1A2はナドロールを基質として非常に顕著に細胞内へ取り込むという結果が得られました。さらに緑茶やEGCGが存在するとOATP1A2を介したナドロール輸送は有意に阻害されることが明らかとなりました。これにより、臨床試験で観察されたナドロールと緑茶の相互作用は緑茶に含まれるEGCGなどカテキン類がOATP1A2を介した小腸におけるナドロールの吸収を阻害することで生じた可能性がある、という流れができました。OATP1A2の記述には注意を払うように、とFromm氏からアドバイスを受けながら留学中にこれらの知見を論文としてまとめることができました[5]

おわりに

今回は言及できませんでしたが、留学中にはそのほかの薬物トランスポーターに関してもEGCGは阻害作用を示すか、またナドロールは基質になるかについて検討を行いました。それらの結果は現在論文としてまとめています。
 日本に帰国して半年以上経過しましたが、思い返せば2年間はあっという間に過ぎ去ってしまったように感じます。研究についてはやり残したことがないわけではありませんが、Fromm氏をはじめとするエアランゲン大学臨床薬理学講座の先生からの多くの協力を得ておおむね順調に進めることができました。
 また臨床研究に関しては、日本においても2015年4月から新たな倫理指針が施行されることから、大学における臨床試験のあり方も変わってくることと思います。その過渡期にあたり、ドイツでの実情を知ることができたのは意義があったのではないかと思います。
 最後になりましたが、今回の研修をご支援いただきました製薬協ならびに日本臨床薬理学会の先生方に心より感謝申し上げます。

臨床薬理学の皆さんと。筆者の右隣がFromm先生
エアランゲン大学 臨床薬理学講座の皆さんと。
前列中央がFromm氏、右から2人目が筆者

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