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血液臨床検査項目の共用基準範囲設定について
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共用基準範囲が治験に与えるインパクト

医薬品評価委員会 データサイエンス部会 部会長

小宮山 靖

 今回公表された共用基準範囲が、測定前の検体の適切な扱い方、適切な測定方法とともに運用されるようになれば、日本においては施設間差をあまり意識する必要がなくなります。これは病院間のデータ共有はもとより、医師の教育・育成にも良い効果を与えることが期待されます。そればかりか康先生が指摘されているように多施設からのデータを用いる治験、さらに多くの施設からのデータを併合して用いるビッグデータの利用にも大きな恩恵を与えてくれます。このような共用基準範囲が設定され、実際に運用にまで至った国や地域はこれまでありませんでした。臨床検査の質管理が高いレベルで浸透している日本だからこそ可能であった偉業だと思います。共用基準範囲の設定にかかわられたすべての方々のご努力に心から敬意を表します。

 多施設共同で行う治験においては、プロトコルが要求する臨床検査を1つの中央検査機関(セントラルラボ)で測定するという方法が広く用いられてきました。そうすることの最重要の目的は、臨床検査の測定における施設間差を臨床検査値の集計に持ち込まないことでした。

 治験実施上の煩雑さを避けるという目的もありました。紙の症例報告書を用いて治験のデータ収集を行う場合は、各施設の臨床検査伝票を症例報告書に糊付けし、伝票の値を依頼者等のデータ入力担当者が読み取ってCDMS(Clinical Data Management System;いわゆるデータベース)に入力していました。電子的な症例報告書を用いるEDC(Electronic Data Capture)を用いることが主流となった今日においても、臨床検査伝票を医療機関のCRC等が読み取ってEDCに入力している場合が多いようです。つまり、症例報告書が紙であれ電子であれ,データ交換を人が行っているという非効率が存在します。治験で扱うデータ全体の中で臨床検査値のデータ量はかなりの部分を占めるので、これらの手順はヒューマンエラーの原因として看過できないものです。

 異なる基準範囲をもつ医療機関から得られた臨床検査値データを1つの治験において、あるいは複数の治験の結果をまとめる統合解析において、平均値や標準偏差などの統計量を含む1つのまとまった集計表を作成する際にも工夫が必要でした。臨床検査値の各施設の生データを使って平均値などを求めるのではなく、それぞれの臨床検査値をその医療機関の基準範囲の内分点あるいは外分点である(基準範囲を線分と見立てたときの「4:1の外分点」、「1:2の内分点」など)ととらえ、データ解析のために定めた1つの標準的な基準範囲に対しても同じ位置関係にあることを仮定して、標準的な基準範囲に基づく値に変換することはよく用いられてきた方法です3),4)(図2)。
 共用基準範囲が利用できれば、このような煩雑なデータ変換作業は不要になります。

  図2 複数の施設の臨床検査値を標準的な基準範囲に基づく値に変換する方法
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 このように施設間差を集計に持ち込まないため、治験実施上の煩雑さを避けるために、セントラルラボの利用は広がりました。すべての治験参加施設がルーチンでは測定していない特殊な検査項目がある場合もセントラルラボは有用です。しかし、治験において各施設のローカルラボでの測定が必要な場合もあります。抗がん剤などの治験では、臨床検査値の結果次第で次の治療方法(用量、レジメン)を即座に決定する必要がある場合があります。血液像、凝固機能検査、一部の酵素や脂質成分、アンモニア、尿検査のように検体採取から時間をおかずに測定する必要がある検査項目の場合もあります。このような必要性があるときに、すべての検査項目をローカルラボで測定することは効率的かもしれません。
 今日、国際共同治験が多く実施されるようになっています。国際共同治験では他の国の多くの施設が参加するため、日本の施設だけが共用基準範囲を利用可能でもその恩恵は少ないかもしれません。しかし、日本の国内でのみ実施する治験ではローカルラボを積極的に用いたり、ローカルラボ/セントラルラボをシームレスに用いたりすることも現実的な選択肢になってくることでしょう。

 セントラルラボ利用の利点の1つは,臨床検査データを依頼者やデータセンターが電子データとして受け取れるところにあります。前述のヒューマンエラーの混入を最小化するために、施設の臨床検査値データを電子的にEDCあるいはCDMSに流し込む仕組みがあれば、ローカルラボをもっと積極的に用いることの動機付けになるでしょう。CDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)のLAB5)は臨床検査値のデータ標準です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が申請時にCDISC形式の電子データ提出を2016年度から受け入れる予定であることを表明6)したことにより、治験の分野は世界共通のデータ標準であるCDISCの利用が急速に広まることでしょう。現在、2013年度厚生労働科学研究費補助金(医療技術実用化総合研究事業)として「臨床研究・治験のIT化推進のための実施プラン策定に関する研究」が進行中です。この研究の中で、臨床検査値も含めた電子的なデータ交換の検討が行われることを期待します。

mark 〈文献〉
1) 3調査の統合データを用いた基準範囲設定手順と結果の概要. 臨床化学 2012;141( 補刷 1):105-107.
2) 日本臨床検査標準協議会,「共用基準範囲とその利用の手引き:暫定文書」の公開について,
http://www.jccls.org/techreport/05.html
3) Chuang-Stein C. Summarizing laboratory data with different reference ranges in multicenter clinical trials. Drug Inf J. 1992;26:77–84.
4) Chuang-Stein C. Some issues concerning the normalization of laboratory values based on reference ranges. Drug Inf J. 2001;35:153–156.
5) http://www.cdisc.org/lab
6) http://www.pmda.go.jp/operations/shonin/info/iyaku/jisedai.html
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