トピックス 「グローバルヘルス合同大会2023」開催される 「グローバルヘルス課題としての薬剤耐性(AMR)」をテーマに共催シンポジウムを実施

印刷用PDF

「グローバルヘルス合同大会2023」が2023年11月24日~26日、東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)にて開催されました。今回、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会は「グローバルヘルス課題としての薬剤耐性(AMR)をテーマに共催シンポジウムを実施し、参加者のみなさんにAMRの現状と課題について理解を深めていただきました。

■開会挨拶

東京大学医科学研究所 先端医療研究センター感染症分野 教授 四柳 宏 氏                

本共催シンポジウム開催にあたり、「グローバルヘルス合同大会2023」でAMRをテーマに採り上げた理由について、AMR問題の情報をこの場で共有し、議論することを目的に製薬協と共催で企画したことを紹介しました。

日本でも「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が策定される等、グローバルヘルスにおいてAMRは非常に重要な問題であり、ネクストパンデミックとなる可能性が高いといわれています。世界保健機関(WHO)が発表しているグローバルヘルスの脅威の10項目の一つにAMRが挙げられていることや、GAVI(Gavi, The Vaccine Allianceが発表した2022年のデータでは、HIV/AIDSよりも多くの患者さんがAMRによって亡くなると予測されているといった現状を話しました。

四柳 宏 氏

実際に、2022年に医学雑誌『ランセット』に掲載された研究では、肺炎と血流感染症等の問題においてどのような耐性菌による感染症が人々の命を奪っているかが明らかにされています。

SDGsに関連するワンヘルスについては、グローバルヘルス合同大会においても重要なキーワードであり、地上のすべての生物や環境、環境中の微生物を包括的に捉えて総合的に考えることが必要であると述べました。

■講演1

グローバルヘルス課題としてのAMR

特定非営利活動法人 日本医療政策機構 マネージャー 河野 結 氏                    

本講演では、AMRの概要、グローバルヘルス課題として国際社会でAMRが大きく採り上げられている理由、日本国内においてもAMRが拡大しているという現状、抗菌薬市場の構造的な課題や再構築の重要性についてインセンティブ制度を含めて話がありました。

AMRが発生する1つの背景として、抗菌薬と細菌のパワーバランスが逆転してしまうことが挙げられます。AMRが深刻な問題である理由は、抗菌薬が医療のあらゆる場面で使用され、現在の安全で安心な医療の根幹を支えているため、抗菌薬が効かなくなることは、普通の医療が成り立たなくなることにつながるためです。すでに薬剤耐性菌によって多くの命が失われており、AMRによる関連死を含めると2019年には世界中で年間495万人が亡くなったと推計されています。

河野 結 氏

毎年何十億の人が国境を越えた移動をしているため、新型コロナウイルス同様、AMRについても拡大の危険性があります。実際に日本国内でも海外から輸入されたと思われる治療の難しい耐性菌が確実に増えているという事実が調査結果で示されています。

AMR対策の一つとして、抗菌薬と細菌のパワーバランスをもう一度逆転させることが考えられますが、新規抗菌薬は1990年以降開発する企業が激減しており(図1)、限られた薬について国によっては先進国でも入手困難であることが明らかになっています。

図1 新規系統の抗菌薬の発見は90年代以降止まっている
図1 新規系統の抗菌薬の発見は90年代以降止まっている

その理由として、抗菌薬の市場は適正使用が求められることや価格が安く設定されていることが挙げられます。現在、抗菌薬の課題は国を問わず共通するため、国際的な会議体で議論をされています。

特定非営利活動法人日本医療政策機構(HGPI)が海外の団体と提出した政策提言「抗菌薬研究開発のための持続可能なイノベーションエコシステムの構築」では3つの主要なポイント((1)抗菌薬市場の再構築に投資するステークホルダーの拡大、(2)プル型インセンティブの導入、(3)患者・当事者の声も政策形成において反映する)を示しており、特にプル型インセンティブが市場構造改善にとって具体的な要素の一つです(図2)。抗菌薬は長期的に安定的に作り続けていく必要があるため、継続的な支援の実施、施策の評価や改善といったことも期待されています。

図2 政策提言「抗菌薬研究開発のための持続可能なイノベーションエコシステムの構築」
図2 政策提言「抗菌薬研究開発のための持続可能なイノベーションエコシステムの構築」

抗菌薬を創製できる国は極めて限られているという事実があるため、創薬力がある日本が持続可能なイノベーションエコシステムを構築することで地球のどこかで苦しんでいる方々に貢献することが可能になります。

■講演2

日本政府におけるAMR対策について —グローバルヘルスの観点から—

厚生労働省大臣官房 国際保健福祉交渉官 日下 英司 氏                         

本講演では、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」の紹介、G7広島サミット2023における国際機関との連携含めたAMR対策の議論、またWHOのグローバル・アクション・プラン達成のための国際協力の展開や、国際貢献における日本の主導力の発揮、特に2024年に開催予定の国連のAMRハイレベル会合との関連性について話がありました。

2015年のWHO総会で採択されたグローバル・アクション・プランに基づき各国でもアクションプランが作成され、日本では2016年に「AMR対策アクションプラン(2016-2020)」が公表されました。グローバル・アクション・プランにある5つの柱に加え、日本独自の内容として「国際協力」が加えられています。2023年にはこれを更新し、第2版の「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」を公表しています。

日下 英司 氏

G7広島サミット2023では、AMR対策は保健大臣会合、気候・エネルギー・環境大臣会合、農業大臣会合のみならず、首脳会合においても重要課題として採り上げられました。将来のパンデミックへの備えに関する枠組み、特にuniversal health coverage(UHC)の各国における推進、医薬品アクセス確保やイノベーション推進、プル型インセンティブ導入等の重要性について議論され、各国でセクターを超えてワンヘルスを念頭に推進していくべきことが再認識されたと紹介がありました。成果は首脳会合含めたコミュニケに反映され(図3)、2024年の国連のAMRハイレベル会合に向けたモメンタムを高める成果に結び付きました。

図3 2023年G7(日本)の各会合コミュニケにおけるAMRに係る記載(4)
図3 2023年G7(日本)の各会合コミュニケにおけるAMRに係る記載(4)

最近開催された複数のAMRに関する国際会議では、AMRやワンヘルスに関する各領域の専門家が複数国・地域から参加し、日本も現地、あるいはオンラインで参加しました(図4)。予防対策等、各種取り組みの共有や活動報告がなされ、G7ワンヘルス・ハイレベル専門家会合では「ワンヘルス・アプローチに関するG7共通理解」として成果が出されたのに加え、2024年ハイレベル会合に向けて諸会議で盛り上げていくことが再度確認されました。

図4 近年開催・参加したAMR関連の国際会議
図4 近年開催・参加したAMR関連の国際会議

質疑では開発途上国におけるAMR対策の法整備等の遅れが指摘され、特に適正使用の監視において、検査能力や法整備等、UHCとの共通の課題が挙げられました。対策には多くの資金と時間が必要とされ、日本からも継続した支援が行われていることが紹介されました。

■講演3

AMR対策に関する製薬業界の取組み

製薬協 国際委員会 AMRアドボカシータスクフォース 俵木 保典 委員                  

本講演では、AMRに関する課題の共有と感染症領域の創薬に向けた産業界の取り組みに関して、AMR Action Fundの活動等も含め話がありました。

政府の「薬剤耐性(AMR)アクションプラン(2023-2027)」には6つの柱があり、その中から普及啓発・教育、抗微生物薬の適正使用、研究開発・創薬に関する製薬協の取り組みが紹介されました。

国民調査の結果から、4割の親は子どもが「かぜ」のときに抗菌薬を飲ませたいと回答している結果を示し、ウイルスに抗菌薬が効果を発揮しない点に理解が足りていないことが報告されました。併せてドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの問題を75%の国民が知らない点も明らかにされています。これらの課題に関し、製薬協はAMRの国民啓発を目的とした市民公開講座、ポスターや動画によって、正しい理解が浸透することに取り組んでいると述べました。

俵木 保典 委員

次に、抗菌薬の市場メカニズムに課題があるため新規抗菌薬の上市には大きな困難が伴うことが説明されました(図5)。

図5 抗菌薬は市場メカニズムに課題があり、新規抗菌薬の創製が困難
図5 抗菌薬は市場メカニズムに課題があり、新規抗菌薬の創製が困難

新しい抗菌薬を創製しても、新たな耐性菌の発生を抑制するために使用量が制限され、収益性が保てないため、抗菌薬の研究開発に取り組む企業が著しく減っています。この課題解決のために、上市後の利益予見可能性を高めることで研究開発を進める動機付けをするプル型と、研究開発を後押しするプッシュ型のインセンティブの導入が提言されています。製薬業界自らの動きとして、2020年にグローバル製薬企業が20社以上参加して設立されたAMR Action Fundが紹介されました。同ファンドは、新規抗菌薬の研究開発に取り組んでいるバイオベンチャー企業を財政的に支援し、2030年までに新規抗菌薬を2~4個上市することを目標にしています。また、世界各国の政府が導入を検討しているプル型インセンティブに触れ、英国やスウェーデンではすでに制度が導入されていることが紹介されました。日本においても抗菌薬確保支援事業が開始されていますが、抗菌薬の研究開発投資を進めるための課題解決には、まだ規模の点で不十分ではないかと指摘しています。加えて、抗菌薬の研究開発を促進するための産学官の連携や、企業主導のコンソーシアムによる創薬の促進等の連携の取り組みも説明されました。

最後に、来るべきAMRの脅威に産官学民が連携して備えることが重要で、製薬協は今後も一翼を担いこの課題解決に向け取り組むと述べました(図6)。

図6 我々が目指す姿
図6 我々が目指す姿

結び

「グローバルヘルス合同大会2023」における本共催シンポジウムでは、産官民のそれぞれの立場からのAMRに対する取り組みが紹介されました。今後も、サイレントパンデミックともいわれるAMRへの対策の重要性は粘り強く訴えていく必要があります。

製薬協は、AMR対策の普及啓発活動を行い、抗菌薬の研究開発への投資を促進するためにプル型インセンティブの付与等を求めるアドボカシーを継続して行っています。抗菌薬の研究開発は産学官の連携が必要であり、製薬協は新たな知見を取り入れながら、AMRの問題解決に向けて活動を進めていきます。

(国際委員会 グローバルヘルス部会 渡辺 剛史中野 今日子酒井 俊明

このページをシェア

このページをシェア

TOP