くすりの情報Q&A Q53.くすりの素(もと)をみつけるために、どのような工夫がなされていますか。

回答

昔は天然素材から、最近は化合物からくすりの素を探しています。何十万という化合物の効き目の検査を、人の代わりにロボットにさせたり、事前にコンピュータで予測した上で化合物を合成するというような工夫がおこなわれています。

解説

くすりは、くすりの素となる物質をみつけることから始まります。その方法にはさまざまなものがあります。

1つめは、植物・動物・微生物といった天然素材から、くすりの素を抽出(ちゅうしゅつ)する方法です。古くはヤナギの有効成分からアスピリンが生まれました。世界初の抗菌薬・ペニシリンも、アオカビの産生する成分から生まれたものです。現在、多くの人が使うくすりの中にも、天然素材から生まれたものがいくつもあり、これからも天然素材からくすりの素が発見されていくでしょう。

2つめは、現在の主流となっている方法で、膨大(ぼうだい)な数の化合物を集めた「化合物ライブラリー」と「ハイスループットスクリーニング」というコンピュータによる開発システムを組み合わせて、くすりの素を探し出す方法です。

製薬企業は、これまでの研究の積み重ねから、膨大な数の自社オリジナル化合物のライブラリーをもっています。これらの中から、効き目などについて選別・ふるい分けしていきます(これを「スクリーニング」と呼びます)。

昔は人の手で1個1個の効き目を測定する方法しかありませんでしたが、現代はコンピュータ制御によるロボットを利用し、自動的に高速でスクリーニングできるようになりました。このシステムがハイスループットスクリーニングです。

3つめは、膨大な化合物のスクリーニングをコンピュータ上で一気におこなう方法です。まず、数百万もの化合物をコンピュータ上に作製し、シミュレーションによりスクリーニングをおこないます。こうして選別・ふるい分けされた物質だけを実際に化学合成し、スクリーニングをしていきます。この方法なら有力なくすりの素を見つける確率も大きく高まります。

こうしてくすりの素がみつかると、その有効性や安全性をより高めて、より良いくすりをつくるために、化学的に物質の構造を変えていきます。

くすりが効き目を発揮するために標的とするのは、多くの場合、体内にあるたんぱく質です。この標的たんぱく質を鍵穴にたとえると、まず鍵の素となる物質をみつけ、その後、鍵穴にぴったりはまるように改良していきます。近年では、標的たんぱく質の立体構造が解明される例が増え、効率的にくすりが改良されるようになりました。

その代表的な施設が大型放射光施設「SPring-8」です。太陽の1億倍の明るさの放射光で、病気の素であるたんぱく質などの構造を解明することができるようになり、それに基づいて治療に最適な化合物をコンピュータで探索し、新薬の開発につなげます。また、X線自由電子レーザーSACLAも利用されつつあります。

さらに、病気の素であるたんぱく質を、さまざまな大きさのレベルで構造を解析(かいせき)し、総合的(網羅(もうら)的)に判断した上で治療法を考える、という方法も研究されはじめました。これは「オミックス解析」といわれ、近年、対策の重要性が指摘されている心血管疾患やがんなど11の疾患に対する新薬の開発のために、5種類のオミックス解析を使って、全国の主要医療施設で研究が始まりました。

図表・コラム

53|大型放射光施設 SPring‒8

兵庫県播磨科学公園都市にある「SPring−8」。

兵庫県播磨科学公園都市にある「SPring−8」

資料提供:独立行政法人理化学研究所

SPring−8で解明されたウシのロドプシン(網膜の中にある光受容体)のタンパク質の構造。

SPring−8で解明されたウシのロドプシン(網膜の中にある光受容体)のタンパク質の構造

資料提供:独立行政法人理化学研究所

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