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くすりは剤形や結晶の形によってどう違う?

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●ニトログリセリンはなぜ舌下錠か
 くすりは、どのような形をしていても、同じ有効成分をふくんでいれば効き目に変わりはないと思われるかもしれません。ところが実際には、飲み薬・注射薬・貼り薬といったタイプの違いによって、また成分の性質や結晶形の違いによって、くすりとしての品質や体のなかでの吸収のされ方、効き目などに大きな違いがあります。
 くすりを開発するときには、成分の安定性が高く、体内でもっとも効率よく効き目を発揮し、かつ安全に作用するための形(剤形や有効成分などの規格)を研究し、決定する必要があります。こうした研究を、「製剤研究」といいます。
 このことで、有名な二つのくすりのエピソードをご紹介しましょう。
 ニトログリセリンは、狭心症の治療や予防のくすりとして知られていますが、最初につくったのはイタリアの化学者アスカーニオ・ソブレロで、1847年のことでした。彼は自分がつくった化合物(のちのニトログリセリン)をなめてみたところ、強い甘味とほのかな香りを感じたあと、しばらくして激しい頭痛におそわれました。
 このソブレロの報告を聞いたアメリカのコンスタンチン・ヘリングは、友人の化学者につくってもらったニトログリセリンを、同じようになめてみたところ、やはり激しい頭痛を引き起こしたのです。ヘリングは、ニトログリセリンには血管を拡張する作用があることに気づき、いろいろな試験を繰り返した結果、狭心症の治療に使えるかもしれないと考えました。
 ところが、実際にニトログリセリンが狭心症のくすりとして認められたのは、それから20年以上ものちのことでした。というもの、ヘリングの報告に対して反論する研究者たちがいて、長いあいだ論争が起こったからです。反対派の研究者たちは、自分たちもニトログリセリンを試した結果、まったく何の効き目もないと結論づけたのです。
 ヘリングと、反対派の研究者たちの実験方法には、実は決定的な違いがありました。ヘリングはニトログリセリンをなめた経験から、実験では砂糖にしみ込ませ、舌の下に入れて吸収させる方法を採ったのですが、反対派の研究者たちはいずれも飲み込んでいたのです。これはのちになって判明したのですが、ニトログリセリンは飲み込んでしまうと、ほとんど効果がなくなってしまうのです。このことからニトログリセリンは、飲み薬ではなく、口のなかの粘膜からしみ込ませる舌下錠の形で開発されました。

●結晶の形によっても効き目が異なる
 もう一つは、解熱鎮痛薬として世界的に有名なアスピリンの例です。
 アスピリンは、ヤナギの枝などにふくまれるサルチル酸から生まれたくすりですが(「くすりの常識Q&A50」→Q4参照)、最初にドイツの製薬会社バイエルによって開発されたあと、ほかの会社でも次々と製造されました。
 ところがしばらくすると、バイエルのアスピリンは他社のものよりよく効くという噂が流れました。のちになって、噂は事実であったことが判明しました。同じ化学構造をもつアスピリンでありながら、バイエルのものは他社とは結晶の形が違っていたのです。そのため実際に、体内での吸収がよく、効き目も強く、胃への副作用も少ないことがわかりました。このことから、たとえ化学構造が同じであっても、結晶形によって、くすりとしては大きな違いが生じることがわかり、製剤研究のもつ重要性が認識されたのです。
 こうした例からもわかるように、くすりは、剤形や結晶形などの違いによって、成分の安定性、体内での吸収のされ方、吸収効率、効き目、安全性(副作用)といった基本的な要素が大きく異なることがあります。そのため、くすりの開発においては、くすりの特質と私たちの体や病気との関係などを考えたうえで、最終的な形を決めることが重要となってきます。
 現在ではDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)といって、「くすりが体内でどのように吸収され、患部まで届くか」を研究し、もっとも効果的に作用するように、さまざまな形態のくすりが開発されています(「くすりの常識Q&A50」→Q10参照)。
 こうしたDDSの考え方もふくめて、品質が安定していて、私たちの体内でもっとも効果的に吸収され、目的にかなった効き目を発揮し、かつ安全性の高いくすりの形を決定する…それが製剤に関する研究開発です。

図65-1
剤形別のくすりの種類 (1)


図65-2
剤形別のくすりの種類 (2)

◆関連頁
[66]
・くすりの常識Q&A50
[Q4][Q10]

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