費用対効果評価の制度化について

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2019年02月20日
日本製薬工業協会
会長 中山 讓治

今般、中央社会保険医療協議会において「費用対効果評価の制度化」が了承されました。
諸外国においては、我が国のような精緻な薬価制度が存在しないことから、企業が設定した価格の妥当性や保険償還の可否を判断する手段の一つとして費用対効果評価が用いられています。我が国においては、諸外国とは異なり明文化された薬価基準制度が存在するため、費用対効果評価を保険償還の可否の判断に用いるのではなく、保険収載した上で、価格の調整に用いることとなりました。
一方、費用対効果評価は、既存の薬価基準制度との整合性が保持された上で実施されるべきであり、新薬の価値評価のあくまで補足的な手法として、限定的に用いられるべきということを主張して参りました。しかしながら、個別の基準においては、この点が十分に考慮されないまま制度化されており、今後、医薬品の研究開発・安定供給を継続していくうえで厳しい内容と言わざるを得ません。こうした観点から、費用対効果評価の制度化について、以下のとおり所感を申し上げます。

1.対象品目の選定について

費用対効果評価の対象品目の選定については、原価計算方式で算定された品目においても、類似薬効比較方式と同じく、有用性系加算が適用されたもののみを対象とすべきと主張して参りました。しかしながら、原価計算方式で算定された品目については、有用性系加算が適用されていない一部の品目においても、費用対効果評価の対象品目として選定されることとなりました。今後、今般の対象品目の選定基準がイノベーションの阻害に繋がることのないよう、注視していきたいと考えます。

2.価格調整について

価格調整については、引下げ調整を行う場合の下げ止め基準が設定されたものの、有用性系加算の価格調整率の最大90%の引下げは、当該品目の有効性や安全性等の評価に基づいて運用されている薬価算定ルールとの整合性や、薬価制度を補完するという本来の趣旨を踏まえると、過度な引下げであると認識しています。費用対効果評価の結果に基づき、薬価基準制度上の有用性系加算を調整する仕組みが制度化されることを踏まえ、薬価算定時における加算体系のあり方についても見直しが必要と考えます。

3.総合的評価について

制度化された総合的評価はICERによる評価に偏った方法であり、社会における医薬品の真の価値など、考慮されるべき要素の反映については、不充分と言わざるを得ません。たとえば公的介護費や生産性損失などICERの分析結果のみでは評価が困難と考えられる要素に加え、その他医薬品毎の特性に応じた幅広い価値については、制度化以降においても、企業から提出された結果を費用対効果評価専門組織において継続的に評価いただく必要があると考えます。その上で、その結果を集積し、ICER以外の要素の追加及びその評価方法を含めた、より良い費用対効果評価の仕組み等について、引き続き検討を行う必要があると考えます。

製薬協といたしましては、我が国が採用している社会保険方式の下で、国民は給付を受ける権利を有しており、薬事承認された新薬は速やかに保険償還することが原則であるため、費用対効果評価の結果を償還の可否に用いるべきではないと考えます。また、薬価算定にあたっては新薬の価値を適切に評価することが医療費の最適な配分に繋がるため、有効性や安全性といった医療的価値だけではなく、優れた医薬品が持つ多面的価値の評価を可能とする加算体系の再編など、新たな薬価算定方式を含めた検討を進めていく必要があると考えます。こうした考えの下、費用対効果評価の制度運用における改善に加え、薬価基準制度全体の見直しについても、業界として積極的に提言を行っていくとともに、引き続き新薬開発や国民医療の質の向上に努力して参る所存です。

以上

お問い合わせ先

日本製薬工業協会 広報部

電話
03-3241-0374

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