日米欧における薬価の構造とダイナミクス:革新性の反映

長岡貞男(医薬産業政策研究所 所長、東京経済大学 教授)
西村淳一(医薬産業政策研究所 客員研究員、学習院大学経済学部 教授)
佐藤一平(医薬産業政策研究所 主任研究員)

(No.74:2019年10月発行)

創薬イノベーションへのインセンティブにおいて、薬価制度は中核的な役割を果たす。本稿では、日本と欧州(独、英、仏)における政府の価格形成への関与が、米国をベンチマークとして、医薬品の革新性と薬価との関係にどのような影響を与えているかを実証的に分析する。特に、規制の閾値効果(一定の革新性が無いと加算を認めないために、比較的小さい革新性は価格に反映されない効果)と、その上限効果(規制価格には上限があるために大きな革新性が価格に十分反映されない効果)がどの程度重要かを実証的に検討する。IQVIA『Pricing Insights』を利用し、日米欧5ヶ国に上市されている新薬の売上上位医薬品について、医薬品の製剤規格(成分、剤形、強度)を各国で揃えて、実際の取引価格に近い価格情報を2011〜2018年の四半期データで収集した。主要な結果として、革新性のレベルによらず、日欧の価格は米国価格より著しく低い傾向にあるが、革新性が高いと考えられる医薬品において、日本でも欧州でも、その程度が小さくなる傾向があることがわかった。これは価格規制の閾値効果の方が、その上限効果よりも相対的に大きいことを示唆している。

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