日本の希少疾病用医薬品の指定要件の現状に関する研究 製薬企業に対するアンケート調査にもとづく検討

浅田 隆太(岐阜大学医学部付属病院 先端医療・臨床研究推進センター 准教授)
渋川 勝一(医薬産業政策研究所 主任研究員)

(No.70:2017年03月発行)

現在、希少疾病用医薬品の開発を積極的に行う製薬企業は増えてきているものの、未だに開発が行われず、有効な治療薬が存在しない疾患も多く存在する。日本における希少疾病用医薬品の開発を更に促進するためには、希少疾病用医薬品としての指定要件を明確化することで、希少疾病用医薬品としての開発可能性を向上すること、また、早期の開発段階での指定を促すことが必要となると考えている。

そこで、既に希少疾病用医薬品に指定された品目の指定基準に関連する情報を調査するとともに、日本製薬工業協会(以下、製薬協)に加盟し、医薬品評価委員会に参加している73社に協力を要請し、製薬企業が望む指定制度、優遇措置等に関するアンケート調査を行った。

既指定の希少疾病用医薬品における調査結果から、

  1. (ⅰ)
    指定申請における予定効能・効果又は対象疾患の記載について、「疾患名に接頭語、接尾語等」を付す場合には、疾患全体においても、対象者数が5万人を超えないことが一つのポイントであり、5万人を超える場合には、薬理作用等から、疾患を限定する合理的な理由が必要と考えられる。
  2. (ⅱ)
    開発の可能性に関して、現状としては、国内外において、少なくとも指定対象の患者における有効性を示唆させるデータがない場合、指定を受けることが困難である可能性が示唆された。
  3. (ⅲ)
    指定を受けてから承認申請がなされるまでの期間について、指定を受けた品目の55%が1年以内であり、支援措置の一部が有効活用できていない可能性が示唆された。

製薬協を対象としたアンケート実施結果から、希少疾病用医薬品の指定後の支援措置について「製薬企業が有益である」と考えている点、指定基準について「問題である」と考えている点、今後、「実施すべき支援措置」や指定相談の活用の状況等に関して、製薬企業の見解を一定程度把握することができた。それらの中でも、特に、支援措置及び指定基準に対する意見には次のように注目すべき内容が見受けられた。

  • 支援措置においては、メリットがあるものとして、「再審査期間の延長」、「優先審査」、「PMDAによる指導・助言」など、早期承認に直接的に関与する内容や製造販売後の開発コストの回収期間が延びる点を、挙げている企業が多かった、
  • 指定基準においては、「医療上の必要性」について、基準が明確ではない等を問題視している企業も多く、また、指定基準における「医療上の必要性」及び「開発の可能性」により、臨床開発早期における指定を困難にしていると実感している企業も多く見られた。

その他、ウルトラオーファンに対する別途の指定基準の必要性、製造販売後の支援措置の必要性、指定の該当性に関するPMDAの相談枠の創設、薬価の不確実性に関する問題等の指摘が多く見られた。

今後、製造販売承認後に活用できる支援措置の検討(製造販売後調査に対する助成等)、PMDAの対面助言における「新医薬品の希少疾病用医薬品該当性相談」等、指定に関する相談枠の設置を、行政に求めていく必要があると考えられる。

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