臨床開発とサイエンス 医薬イノベーションの科学的源泉と その経済効果に関する調査(2)
長岡貞男(東京経済大学教授、元一橋大学イノベーション研究センター教授)
西村淳一(学習院大学経済学部准教授、医薬産業政策研究所客員研究員)
源田浩一(医薬産業政策研究所 前主任研究員)
(No.67:2015年08月発行)
本稿では医薬イノベーションの科学的源泉とその経済効果について、臨床開発を対象としたアンケート調査の結果をまとめている。臨床開発の主な調査内容は以下である。第一に、医薬品それ自体の新規性と革新性におけるサイエンスの貢献、臨床開発の実施におけるサイエンスの活用度を測定する。第二に、サイエンスと臨床開発国の選択における関係を分析する。第三に、サイエンスの経済効果への貢献、薬価算定への反映について調べる。第四に、サイエンスと規制当局の関与についてみる。最後に、サイエンスと不確実性について分析する。
本稿の調査から主に、以下の結論を得た。第一に、科学的知識(サイエンス)の成果は、新規性と革新性のある医薬品の探索のみならず、臨床開発の実施においても、重要な貢献をしている。我々の調査の対象となった180医薬プロジェクトのうち71件は、探索かつ臨床開発の両方において、サイエンスの貢献が重要なものであった。第二に、サイエンス集約度が高いH型の臨床開発の実施では、当該国の規制当局のサイエンスに対する評価能力が重要となることがわかった。これは最初の臨床開発を日本以外で行う理由の一つになっている。それに関して、日本は米国の規制当局よりもサイエンスへの理解力で当時劣っていたのかもしれない。第三に、H型は高い不確実性ゆえに、想定外の事態にも遭いやすいが、上市に至る確率はサイエンス集約度が低いL型と比べても必ずしも低くない。それはH型の革新性から、経済効果、既存薬との比較、薬価への反映ではL型と比べて優れていたからだと考えられる。