探索研究とサイエンス 医薬イノベーションの科学的源泉とその経済効果に関する調査(1)

長岡貞男(東京経済大学教授、元一橋大学イノベーション研究センター教授)
西村淳一(学習院大学経済学部准教授、医薬産業政策研究所客員研究員)
源田浩一(医薬産業政策研究所 前主任研究員)

(No.66:2015年08月発行)

本稿では医薬イノベーションの科学的源泉とその経済効果について、探索研究を対象としたアンケート調査の結果をまとめている。調査対象は新有効成分含有医薬品(New Molecular Entity:NME)の創出を目的とした探索プロジェクトであり、主な調査内容は以下である。第一に、探索研究におけるサイエンスの貢献を、包括的に把握した。第二に、サイエンスの活用メカニズムおよび活用されたサイエンスの所在を調査した。第三に、探索プロジェクトの不確実性の程度とプロジェクト開始時のサイエンスの進展度合いとの関係、不確実性の高いプロジェクトの選択頻度、個人の自由な研究の役割、不確実性へのプロジェクト開始時(事前)の対応について調査した。

本稿の調査から主に、以下の結論を得た。第一に、新有効成分含有医薬品の探索研究においてサイエンスの成果は、非常に重要な貢献をしている。サイエンスは研究開発プロジェクトの着想を促し、その実施を助け、プロダクト・イノベーションの源泉となり、また企業が独自性の強い研究開発に取り組むために重要な手段を提供している。第二に、より独自性が高い探索プロジェクト群において、科学技術文献の相対的な重要性は低下し、人的交流を伴う産学連携の重要性がより高くなる。独自性が高いプロジェクトであるほど、「適応症の疾患メカニズムが不明」、「標的分子が不明」、及び「標的分子と疾患メカニズムとの関係が不明」であるなど、サイエンスは未完である。第三に、登録・上市された医薬品の場合でも約6割で中断に追い込まれそうになった危機を経験しており、この点で中止・保留中のプロジェクトと大きな差はない。創薬プロジェクトは想定外の困難を克服していく過程であり、その困難の解決にサイエンスの進展が貢献することも多い。第四に、独自性が高く同時に不確実性が高い探索研究には、個人のイニシアティブが重要な役割を果たしており、また予期しない困難を解決していくために個人の自主研究(「闇研究」)が重要な役割を果たしている。これらもサイエンスの吸収・活用能力の重要な要素である。

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