医薬品開発におけるバイオマーカーの役割

林 邦彦(医薬産業政策研究所 主任研究員)

(No.57:2013年03月発行)

社会的な医療財政に対する圧力や、医療の質向上への期待などを背景として、医薬品に求められる安全性、有効性の水準は高まっている。一方、医薬品の研究開発はますます難しくなってきており、研究開発生産性が低下している。そこで研究開発効率改善の手段の一つとしてバイオマーカーの利用が注目されている。>そこで本稿では、臨床研究におけるバイオマーカー利用の現状分析、患者層別マーカーが医薬品開発効率に与える影響の定量的分析、日本の製薬企業におけるファーマコゲノミックス研究に関するアンケート調査により、バイオマーカーが研究開発効率及び研究開発競争力に影響を与えるメカニズムを解明するとともに、コンパニオン診断薬の開発と利用に関する現状分析を踏まえ、日本におけるバイオマーカーの研究開発環境について考察した。

臨床試験におけるバイオマーカー利用の現状分析では、バイオマーカーを利用した臨床試験の試験数、利用割合の増加、がん領域での利用が最も活発であったこと、米国スポンサーによるものが最も多かったことなどが明らかになった。これらのことから臨床試験の実施は地域差や疾患領域等による差があり、このような差が研究開発競争力の差に繋がる可能性が考えられる。患者層別マーカーが医薬品開発効率に与える影響の定量的分析では、抗がん剤の開発品目の相移行確率を患者層別マーカー利用有無で見たところ、患者層別マーカー利用品目の方が、非利用品目と比べ各相で高い相移行確率を示すことが明らかになった。患者層別マーカーの利用の有無は、医薬品開発効率に影響する可能性が考えられる。製薬企業におけるファーマコゲノミックス(PGx)研究に関するアンケート調査では、PGx治験を実施している企業の割合は、企業属性(内資系、外資系、企業規模)により差があり、またPGx治験の障害となっている要因も、企業属性により内的要因、外的要因が影響すると考えられた。PGx治験の差が、今後の研究開発競争力の差に繋がる可能性が考えられる。コンパニオン診断薬の開発と利用に関する現状分析では、開発上の課題として医薬品と診断薬の開発プロセスの違い、コンパニオン診断薬に関する各国規制の違いがあることを示し、また利用に際しては、コンパニオン診断薬の償還価格と保険償還で課題があることを示した。患者層別マーカーによる研究開発生産効率の改善には、これらの課題解決が必要である。

バイオマーカーの利用は研究開発効率向上に作用しており、研究開発競争力の向上に貢献する。バイオマーカーを効果的に利用し、研究開発競争力を向上させるためには、本稿により明らかにされた課題に対し、製薬企業、行政、アカデミア対応していく必要があり、それぞれに対して考えうる提言をまとめた。これらを踏まえ、バイオマーカーの利用を推進する環境を整備し、医薬品の研究開発効率向上に繋げるとともに、医療の質の向上に貢献することに期待したい。

ダウンロード

このページをシェア

TOP